第25話:隣国のガルド軍事帝国、水欲しさに十万の大軍を進軍させる
聖光教会の陰謀が瓦解した直後、オアシス都市の北方国境に設置された魔導警報器が、甲高い警告音を鳴り響かせた。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「旦那! 北の砂漠地帯から、ただならぬ軍勢が突っ込んできてるぜ!」
見張り塔から駆け込んできたガンツが、額に太い青筋を浮かべて報告した。
中央作戦室のモニターには、荒野を猛烈なスピードで直進してくる黒い影の群れが映し出されていた。
「敵は、北方の覇権国家『ガルド軍事帝国』の精鋭……【砂漠機甲重装強襲連隊】五千騎! 全車両が魔導装甲を施されたキャタピラ戦車で、率いているのはあの冷酷無比な名将、グスタフ元帥だ!」
エレナが地図を広げ、緊張した面持ちで続けた。
「ガルド帝国は、数万、数十万の無駄な大軍を砂漠に送り込むような愚か者ではありませんわ。補給が困難な死の荒野に対し、あえて少数精鋭の機動部隊五千を選抜し、電撃戦で我がオアシスの心臓部を急襲する腹積もりです!」
「なるほどな……」
アッシュは腕を組み、モニターに映る敵の進軍ルートを凝視した。
敵の先頭を進む魔導戦車の砲身は重厚で、兵士たちは砂漠専用の防砂マントを纏い、規律正しく隊列を維持している。
無能な貴族たちとはわけが違う。勝つための合理的な軍事行動だ。
「敵の狙いは、オアシスの水源を奪うことだけじゃないな」
アッシュの指先が、砂漠の中央に位置する一点を示した。
「帝都へ水を送っている【地下パイプライン第三中継ステーション】……あそこを占拠する気だ。あそこを押さえられれば、帝都への送水が人質に取られ、帝国と我が街の両方がガルド軍の要求に屈せざるを得なくなる」
「な、なんて卑劣で狡猾な作戦だ……!」
ガンツが奥歯をギリリと噛み締めた。
相手は歴戦の軍隊。いくら神獣コハクやルビーが強力であろうと、散開した機動部隊に広大な砂漠のインフラをゲリラ的に破壊されれば、被害は免れない。
しかし――アッシュの唇に、不敵な職人の笑みが浮かんだ。
「相手が水利インフラを人質に取る気なら、受けて立つまでだ。……配管の構造を知り尽くしているのは、軍人ではなく、この俺だ」
アッシュは作業着の袖をまくり、作業机の上に広げられた地底配管図を指でなぞった。
「ガンツ、工房のオリハルコン製ツールをすべて出せ。エレナ、高圧濃縮シロップの準備を頼む。……砂漠の戦場で、本当の『水圧の恐怖』を教えてやる」
五千の精鋭機甲連隊と、最果てのオアシス都市の職人たちによる、知略と技術の激突が幕を開けたのである。




