第23話:聖水を自称する泥水を売りつける教会、民衆の怒りで大炎上
「お、の、れ……! 神の代理人たるこの私を愚弄するか、無能なドブネズミが!」
マクシミリアン大司教は激昂し、司教服の懐から一本の装飾ガラス瓶を取り出した。
金色のキャップで封印された小瓶の中には、淡く青白い光を放つ液体が揺らめいている。
「見よ! これこそが我が大聖堂が、敬虔なる信徒たちにのみ下賜している正真正銘の『奇跡の聖水』だ! 神の祝福を受けたこの聖水こそが本物であり、そなたが地べたから吸い上げた泥水など、ただの魔導のイカサマにすぎぬのだ!」
「へえ……それが教会の聖水かい」
アッシュはそのガラス瓶に視線を向け、静かに右手をかざした。
「――《真理の濾過・全成分解析》」
キィィィン……と微かな高周波が走り、ガラス瓶の中の液体の分子構造が、アッシュの脳内に克明に展開された。
その解析結果を見た瞬間、アッシュの口元から冷たい嘲笑が漏れた。
「……なるほどな。呆れたよ。あんたたち、神の名を騙ってこんなものを信徒に飲ませていたのか」
「な、何をデタラメを言っているのだ!?」
「デタラメじゃないさ」
アッシュはスッと右手を伸ばし、大司教の手元にあるガラス瓶へ向けて指先を鳴らした。
「――《真理の濾過・物質強制分離》!」
パチンッ!
澄んだ指鳴りの音が響いた瞬間、大司教の手の中のガラス瓶に異変が起きた。
ボコッ……! ボコボコボコッ!
「ヒッ!? な、何だ、瓶が熱い……!?」
マクシミリアンが悲鳴を上げて瓶を取り落とした。
大理石の地面に落ちて割れたガラス瓶。
そこから飛び散ったのは――先ほどまでの神秘的な青白い光などでは断じてなかった。
ドロリと泡立つ、真っ黒なヘドロ。
そして次の瞬間――鼻が曲がるような強烈なドブの腐敗臭と、ツンと鼻腔を刺す硫黄の刺激臭が、あたり一面に立ち込めたのだ!
「オエッ……!? な、なんだこの耐え難い悪臭は!?」
「く、黒い泥水……!? 聖水の中から、ヘドロが出てきたぞ!?」
護衛の聖騎士たちや御者たちが、耐え難い激臭に顔を歪めて一斉に鼻を押さえた。
アッシュは冷徹な声で、その成分を淡々と暴露した。
「帝都の地下水路に溜まっていた、未処理の生活排水と猛毒の魔毒汚泥。それに、洞窟に自生する発光性の有毒苔の抽出液を混ぜて、それっぽく光らせていただけだ。……これ一杯で、銀貨十枚だったか?」
「な……っ!?」
「これを飲んだ信徒は、一時的に有毒苔の麻痺毒で痛みが引くが、数日後には重金属中毒と細菌感染で内臓がボロボロになって死ぬ。……あんたたち教会は、帝都の水不足に便乗して、信徒たちに猛毒のヘドロを売りつけて暴利を貪っていたんだ」
「な……な、なんですって……!?」
聖騎士隊長の顔から、血の気が一瞬で引いた。
彼らは教会に仕える武官ではあったが、純粋に民を守るために剣を握っていたのだ。
「ま、マクシミリアン猊下! アッシュ殿の言っていることは本当なのですか!? 我らが民に配り、病の信徒たちに飲ませていた聖水は……ただの毒入りの汚泥だったのですか!?」
「だ、黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!」
追い詰められたマクシミリアンは、ついに狂乱して化けの皮をかなぐり捨てた。
しかし――大司教はただ無様に喚くだけの豚ではなかった。
その濁った瞳に、底知れぬ狂気と狡猾な殺意が宿る。
「フ……フフフ……ハハハハハ! バレてしまっては仕方ありませんな! だが……そなたらはここで終わりですよ、アッシュ・ウォーカー!」
マクシミリアンは懐から、禍々しい紫黒色の小瓶を取り出し、地面へと叩き割った!
立ち上る異様な紫の瘴気。
「太古の呪詛毒兵器【腐蝕の黒涙】! この毒煙は風に乗って、そなたらの誇る水源の奥深くへと染み込み、全ての水を死の劇薬へと変える! 泉を教会に寄進せぬというなら、全員泥水を啜って仲良く死になさい!!」
大司教が放った最悪のバイオテロ。
紫黒の毒煙が、オアシスの水源へと向かって津波のように雪崩れ込んだのである!




