第21話:白銀の狼と真紅の不死鳥〜最強モフモフ&鳥コンビの誕生〜
ゴオオオオオオオオオッ!!
荒野の空を真昼の灼熱で染め上げる、目も眩むような紅蓮と黄金の光の奔流。
火口から噴き上がった光の柱の中から、一羽の巨大な鳥が、力強く翼を羽ばたかせて天高くへと舞い上がった。
「ピロロロロロロロロロロロロッッッ!!」
澄み渡るホルンの三重奏のような、美しくも荘厳な神鳴り。
天空で旋回するその姿は、先ほどまでの煤にまみれて死にかけていた鳥とは、完全に別物であった。
翼開長十メートルを超える見事な翼。
一本一本の羽毛は、磨き抜かれた最高級のルビーのように紅く透き通り、太陽の光を浴びてチラチラと神聖な火の粉を撒き散らしている。
尾羽は天女の羽衣のように七色の光の軌跡を曳き、頭部には王冠のように誇り高い深紅の冠羽。
伝説の霊鳥【緋色の不死鳥】が、千年の時を超えて完全復活を遂げた瞬間であった。
「すごいな……。これが、本物の不死鳥か」
火口の岩棚から見上げるアッシュの瞳に、その神々しい姿が映り込む。
不死鳥は天空を三度旋回すると、アッシュの姿を捉え、滑るように急降下してきた。
そして――。
ポフンッ!
着地する直前、小さな白い煙が立ち上った。
十メートルもあったはずの巨躯が、ギュギュッと縮小し――アッシュの肩に着地した時には、体長三十センチほどの、手のひらにすっぽり収まる愛らしいインコサイズの赤い小鳥になっていたのだ!
「ピピィ♪」
小鳥姿の不死鳥は、パタパタと小さな赤い翼を羽ばたかせると、アッシュの首筋にスリスリと温かい頭を擦り付けてきた。
まるで日向ぼっこをした後の干したての羽毛布団のような、香ばしく優しい温もり。
嘴でアッシュの耳たぶを甘噛みし、喉を「くぴぴ……」と嬉しそうに鳴らしている。
「はは、くすぐったいって! お前もコハクと同じで、普段は魔力を節約して小さくなれるんだな」
「ピィッ!」
小鳥は胸を張り、小さな嘴を上に向けた。
その時――。
「わふん!」
火口の上から駆け下りてきたコハクが、アッシュの膝に前足をかけ、大きな尻尾をブンブンと振り回した。
だが、その瞳はアッシュの肩に乗る赤い新参者をじっと見つめている。
白銀の天狼と、真紅の不死鳥。
かつて太古の神話において、大地と天空の覇権を争ったとされる二大神獣の頂点が、今、アッシュを挟んで至近距離で見つめ合っていた。
「ぐるる……?」
「ピピ……?」
荒野の風が止まり、一瞬の静寂が支配する。
まさか喧嘩になるのか――とアッシュが身構えた、その瞬間。
「ぺろっ」
コハクが大きな舌を伸ばし、不死鳥の小さな頭を優しく毛づくろいしてやった。
濡れた頭をプルプルと振った不死鳥は、怒るどころか嬉しそうに目を細めると、パタパタと飛び立ってコハクの頭の二本の角の間へとすっぽりと収まったのだ。
「ピィ〜♪」
「わふふん!」
白銀のモフモフの頭の上に、深紅のフワフワがちょこんと乗っかり、コハクが誇らしげに胸を張る。
あまりにも尊く、あまりにも愛らしい光景に、アッシュは思わず吹き出してしまった。
「お前たち、すっかり仲良しだな」
アッシュは二匹の頭を同時に撫でてやった。
「お前は、太陽の光を浴びたルビーのように綺麗な目をしているから……今日から『ルビー』だ」
「ピピィッ!」
ルビーは高らかに鳴いて翼を広げ、アッシュの命名を受け入れた。
こうして、アッシュのオアシスには、地上最強の守護獣コハクに加え、天空を統べる神鳥ルビーが、かけがえのない家族として迎え入れられたのである。
――しかし。
アッシュのオアシスが放つ奇跡の輝きと、帝都からの莫大な富の流入は、大陸全土に巣食う貪欲な者たちの目を、いやが上にも引きつけずにはいられなかった。
大陸全土に数十万の信徒と広大な領地を持つ宗教国家――『大聖堂・聖光教会』。
その総本山の大司教執務室に、死の荒野の奇跡の噂が届いたのは、それからわずか数日後のことであった。




