第15話:世界一清潔で美味い理想郷で、今日も気ままに乾杯を
騒がしい侵入者どもが去った日の夜。
オアシス都市『アクア・リゾート』の中央広場では、これまでで最も盛大な祝宴が開かれていた。
「みんな、乾杯だぁぁぁっ!」
「「「かんぱぁぁぁぁぁいっ!!」」」
無数のガラスジョッキが打ち鳴らされる。
広場の中央には、ドワーフたちが爆速で組み上げた石造りの巨大な露天風呂が湯気を上げ、神聖水で満たされた水路が街中をキラキラと青白く照らし出している。
テーブルの上に並ぶのは、猫人族が収穫したばかりの瑞々しい極上野菜のサラダ、香ばしく焼き上げられた巨大魔獣のロースト、そしてエレナが腕によりをかけて仕込んだ出来立ての【神聖黄金エール】。
「ぷはぁっ……! やっぱり旦那の水で作ったビールは宇宙一だぜ!」
「野菜も甘くてシャキシャキですにゃ! こんな美味いご飯、生まれて初めて食べましたにゃ!」
「わふっ! はむはむ!」
コハクも特大の骨付き肉を器用に前足で押さえながら、夢中でかぶりついている。
ジョッキを手にしたエレナが、嬉しそうにアッシュの隣へと腰を下ろした。
「ふふ、最高の夜ですわね、アッシュさん」
「ああ。本当に……賑やかになったな」
アッシュは広場を満たす仲間たちの笑顔を見つめた。
ほんの十日前まで、自分は地下百五十メートルの冷たいヘドロの中で、ただ一人孤独に耐えていたのだ。
それが今では、こんなにも信頼できる仲間たちと、世界一美味い飯と酒を囲んでいる。
「アッシュさん、帝国は……きっとまた使者を送ってきますわよ。あの様子では、帝都の崩壊はもう誰にも止められませんもの」
「そうだな。だが、次に誰が来ようと同じことだ」
アッシュは夜空を見上げた。満天の星々が、清らかな泉の水面に映り込んでいる。
「俺はもう、誰かの都合で使い捨てられるドブ掃除じゃない。この街の仲間を守り、この豊かな水を育てる領主だ。……もしどうしても水が欲しいというなら、皇帝自らが泥水に頭を擦り付け、完全な降伏と同盟を結ぶ覚悟を持ってくることだな」
「ふふっ、頼もしいですわ! どこまでもついていきますわよ、私たちの領主様!」
エレナが眩しい笑顔でジョッキを掲げた。
――その頃。
帝都アルカディア皇宮。
逃げ帰ったバルトロメオと勇者レオンを待っていたのは、皇帝アレクサンダー三世の冷酷極まりない宣告であった。
「余の勅命に背き、アッシュ殿を連れ戻すどころか侮辱して追い返した罪……万死に値する」
「へ、陛下!? お慈悲を! どうかお慈悲をぉぉぉっ!」
「衛兵! バルトロメオの爵位を剥奪し、全財産を没収の上、最深部の地下汚水牢へ叩き込め! 死ぬまで泥水を啜って反省するがいい!」
「ヒギャァァァァァァァァッ!!」
引きずられていく元伯爵の絶叫が響く。
そして皇帝は、恐怖で失禁したまま震える勇者レオンを見下ろし、吐き捨てるように言った。
「レオン、貴様も勇者の称号を剥奪だ。……全軍に通達せよ。余自らが白旗を掲げ、アッシュ殿の元へ赴く。……国が滅びる前に、余自らが土下座をしてでも、神聖なる水を分けていただくのだ……!」
帝国の完全な敗北と没落。
そして、最果ての荒野から始まる、新たな『世界最強の魔導水路帝国』の伝説――。
その幕開けを祝うかのように、オアシスの空には、美しく清らかな朝の陽光が差し込み始めていた。
(第1章・完)
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