第12話:噂を聞きつけたドワーフと獣人たち〜神聖水で鍛えるオリハルコンと爆速領地開拓〜
奇跡の噂が広がるのは、風よりも速かった。
「お、おい……! あそこに見えるのは、幻覚じゃねえよな……!?」
翌朝、アッシュのオアシスの境界線に現れたのは、頑強な肉体と立派な髭を蓄えた十数名のドワーフたちと、飢えと渇きで倒れかけていた数十名の猫人族の開拓民たちであった。
先頭に立つのは、大陸でも指折りの名工として知られながら、帝都の腐敗に嫌気がさして出奔したドワーフの鍛冶頭・ガンツである。
「死の荒野のど真ん中に……透き通る泉と、湯気を上げる温泉だと……!?」
「ガンツの旦那、見てください! あそこの畑、赤土のはずなのにエメラルド色に輝く作物が実ってますにゃ!」
アッシュは驚いて立ち止まっている彼らに気づくと、木桶に神聖水を汲んで歩み寄った。
「旅の人たちかい? ずいぶん疲れているようだ。まずはこの水を飲んで、喉を潤すといい」
「あ、ありがてえ……! 水が尽きて死ぬところだったんだ……!」
ガンツが木桶に顔を突っ込むようにして水を一口飲んだ。
――その瞬間。
「ブフォッ!? な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!?」
ガンツの筋骨隆々の肉体がバチバチと青い火花を散らした。
連日の旅でボロボロだった筋肉が一瞬で超回復し、かすんでいた老眼が若者のように澄み渡る。
猫人族の子供たちも、水を飲んだ途端に「元気百倍ですにゃー!」と飛び跳ね始めた。
「こ、小僧……いや、お方様! この水は一体何なんだ!? ただの水じゃねえ、神の血か何かなのか!?」
「俺のスキル《真理の濾過》で、地下水脈の毒を抜いて極限まで純度を高めただけの水だよ」
「だけの水だとぉぉぉっ!?」
ガンツは腰を抜かさんばかりに叫んだ。
そして、アッシュが工房の脇に転がしていた鉱石のクズ――《真理の濾過》で不純物を取り除いて精錬した青白いインゴットに目を留めた瞬間、鍛冶師としての魂が爆発した。
「ヒッ、ヒイィィィッ!? こ、これは……オリハルコン!? しかも傷一つ、不純物一ミリすら存在しねえ、神話時代の純度百パーセントの神鋼じゃねえか!! こんなもんがなんで犬の足元に転がってんだぁぁぁっ!?」
「ああ、コハクのオモチャにちょうどいい硬さだったからな」
「わふん!」
コハクが前足でオリハルコンの塊を小突いて転がす。ガンツは泡を吹いて卒倒しかけた。
「頼む! 俺たちをここに住まわせてくれ!」
ガンツは泥土に頭を擦り付けて懇願した。
「この水と、この神鋼があれば、世界最強の武具も、絶対に壊れねえ水道管も、どんな建物だって爆速で作ってみせる! 飯と水と温泉さえ恵んでくれりゃあ、死ぬまであんたのために働かせてくれ!」
「私たちもですにゃ!」猫人族の代表の少女が手を挙げる。「私たち、農業が得意なんですにゃ! この豊かな土と水があれば、帝都全部を養えるくらいの超極上野菜を育ててみせますにゃ!」
「……いいよ」
アッシュは快く頷き、笑顔で手を差し伸べた。
「ここには威張り散らす貴族も、手柄を奪う無能もいない。働いた分だけ美味い飯を食って、温泉に入って、笑って暮らせる街を作ろう」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
歓声が荒野に轟いた。
ドワーフたちの超絶技巧の土木建築と、猫人たちの驚異的な農耕技術、エレナの酒造り、そしてアッシュの無尽蔵の神聖水。
これらが完璧に噛み合った時――荒野の片隅に、帝国の首都を遥かに凌駕する超高度魔導オアシス都市『アクア・リゾート』が、驚異的なスピードで誕生しようとしていた。
そして――。
オアシスの境界線の地平線に、土煙を上げて迫る百騎の帝国特務騎士団の姿が現れたのは、その日の午後のことであった。




