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第11話:神聖温泉と極上クラフトビールで乾杯!〜辺境に生まれる奇跡のオアシス〜

 その日の夕暮れ。

 最果ての荒野に建てられたアッシュの石造りの工房からは、言葉にできないほど芳醇で香ばしい、甘美な香りが漂っていた。


「ふふふ……できましたわ! 奇跡のファーストバッチが!」


 エレナが興奮で頬を紅潮させ、大きなオーク樽の前に立っていた。

 手には、磨き抜かれたガラスのジョッキ。

 樽の注ぎ口の真鍮コックをキュッと捻ると――。


 トポトポトポ……シュワァァァァァッ!


 黄金色に透き通る美しい液体が、きめ細やかな純白の泡をたたえながら注ぎ込まれていく。

 夕日に透かすと、まるで溶かしたトパーズのように神々しい輝きを放っていた。


「これが……アッシュさんの【神聖水】と、我がフォレスト家に伝わる古代麦酵母が融合した究極のエール……【神聖黄金麦酒(ディバイン・ラガー)】ですわ!」

「すごいな……。普通、醸造には数ヶ月かかるんじゃないのか?」

「ええ! 本来なら三ヶ月は寝かせる必要があります! ですが、アッシュさんの神聖水に含まれる高純度エーテルが酵母の活動を極限まで活性化させ、不純なアルコール臭や雑味を完全にゼロにして、わずか一日で十年熟成させたような完璧な発酵を成し遂げてしまったのです!」


「わふっ! くぅ〜ん!」


 足元でコハクが尻尾をブンブンと振り、期待に満ちた目でジョッキを見上げている。

 もちろん、コハクにはアルコールは厳禁なので、神聖水でじっくり煮込んだ特製ローストビーフが別皿で用意されていた。


「よし、それじゃあ……今日も一日、お疲れ様でした」

「お疲れ様でしたわ、アッシュさん!」


 カチンッ! と心地よい乾杯の音が星空の下に響く。

 アッシュはジョッキに口をつけ、一気に喉へと流し込んだ。


「ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 瞬間、全身を雷のような衝撃が駆け抜けた。


「う……美味い……!! なんだこれは……!?」


 キリッと冷えた極上の喉越し。

 舌の上に広がるのは、豊かな大麦の深いコクと、柑橘類を思わせる爽やかなホップの苦味。

 そして何より――神聖水の超純度のおかげで、アルコール特有のトゲトゲしさが一切なく、シルクのように滑らかに喉を通っていく。

 一口飲むごとに、昼間の開拓作業の疲れが雲散霧消し、身体の奥底から温かい幸福感がじわじわと湧き上がってくる。


「んん〜〜〜っ! 美味しいですわぁぁぁ!」


 エレナもジョッキを半分ほど飲み干し、口元に白い泡の口髭をつけたまま、蕩けたような笑顔を浮かべていた。

 すぐ隣の岩風呂からは、心地よい温泉の湯気が立ち上っている。

 熱々の温泉に浸かり、火照った身体に冷え冷えの神聖ビールを流し込み、焚き火で炙った極上の肉と魚を頬張る。


「はは……帝都の地下で、冷たい泥水を啜っていたのがまるで前世の出来事みたいだな」

「当たり前ですわ! あんな無能な連中の下で働くなんて、世界一の損失でしたのよ! アッシュさんの技術は、世界を救う宝ですもの!」


 エレナはジョッキを掲げて誇らしげに胸を張った。

 コハクも「わふん!」と力強く同意するように吠え、アッシュの足元に体をすり寄せてくる。

 最果ての死の荒野は、もはや帝都のどんな貴族街よりも豊かで、幸福なオアシスへと変わり始めていた。


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