第43話 市場の入口で荷車が止まる理由を調べたら、誰か一人を悪者にする話ではありませんでした
中央市場へ足を踏み入れて間もなく、アマリリアは最初に気になった市場入口の荷車の列から、なかなか視線を外せなくなっていた。
外から眺めていた時にも人が多いとは思っていたが、実際に中へ入ってみると、入口は想像以上に狭く感じる。左右には朝から野菜や果物を並べる露店が軒を連ね、その間を買い物籠を持った人々が絶えず行き交っていた。威勢のよい呼び込みの声に木箱を下ろす音、硬い石畳を踏む馬の蹄、荷車の車輪が軋む音まで重なり、王宮や学園ではまず耳にしない賑やかさが一つの大きなうねりとなって押し寄せてくる。
そんな市場全体の流れの中で、入口付近だけが妙に滞っていた。
地方から野菜を運んできたらしい荷車が一台、簡素な木造の検査所の前で止められている。その後ろにも別の荷車が二台並び、さらに少し離れた位置では、順番を待つ御者が馬の首筋を撫でたり手綱を持ち直したりしながら、何度も前方の様子を窺っていた。
「また検査待ちかよ」
先ほど市場へ入る直前にも聞こえた男の声が、今度はもう少し近くから漏れてくる。
怒鳴るほど苛立っているわけではない。むしろ何度も同じことを経験している者が、またかと諦めた時の声だった。その響きが妙に気になり、アマリリアは反射的に手帳を開きかけたが、途中で指を止める。
「書かないの?」
隣にいたライルが、手元を覗き込むように尋ねた。
「まだです」
「さっきからずっと気にしてただろ?」
「気になっております。ですけれど、先に文字へしてしまいますと、頭の中で問題の形を決めてしまいそうですので」
アマリリアは荷車の列へ視線を戻したまま答えた。
「今の時点で分かっているのは、荷車が止まっているという事実だけです。検査そのものが遅いのか、荷物に問題があるのか、御者側の準備不足なのか、それとも別の理由なのか。まだ何も分かっておりません」
ライルが少しだけ目を見開いた。
「前の君なら?」
「恐らく、最初に検査所の処理能力と平均待ち時間を確認していたと思います」
「今もそれは調べるんだろ?」
「もちろんです。でも、その前に少し見ます」
アマリリアは前方に止まった荷車へ意識を向けた。
荷台には青菜や根菜が幾つもの籠へ詰められている。朝に収穫されたものなのか、葉にはまだ瑞々しさが残っていたが、春とはいえ日差しは少しずつ強くなっていた。荷台には布が掛けられているものの完全に陽光を遮れているわけではなく、このまま長く待たされれば状態へ影響が出ても不思議ではない。
御者は四十代ほどの男だった。日に焼けた肌に使い込まれた帽子を被り、何度も検査所へ顔を向けながら、時折馬を落ち着かせるように首筋を撫でている。その後ろの荷車には果物らしい木箱が積まれ、さらに後方には乾燥豆や麦袋を運んでいる車も見えた。
「生鮮品と保存の利くものが、同じ列へ並んでおりますのね」
「それって変なのか?」
「分かりません」
「分からないんだ」
「だから見に来たのでしょう?」
「確かに」
ライルは少しだけ笑った。
その会話を聞いていたらしいディーンも、少し後ろから入口付近を眺める。
「品目によって検査内容が異なる可能性はございますね」
「私もそう思いました。ですが、それなら列を分けた方が早い場合もありそうです」
「場所があれば、ですが」
今度はゼインが静かに付け加えた。
アマリリアはそこで改めて市場入口の幅を見る。
左右には既に店が並び、奥へ進むほど人通りも増えていく。荷車が複数列を作れるほどの空間はほとんど残っていない。仮に検査窓口だけを増やしても、そこへ並ぶ場所がなければ別の混雑を生む可能性がある。
「なるほど。検査そのものだけではなく、場所の狭さも原因かもしれませんわね」
「最初の仮説?」
「ええ。ただし仮説です。今はまだ、違ったら直せばよいと思っております」
少し前までの自分なら、仮説を立てた瞬間から、その正しさを証明する材料ばかり探してしまっていたかもしれない。
今は、違っていたら直せばいい。それを失敗だと思わずに済むようになってきている。
「リリア」
少し離れた後方から、父ハロルドの低い声が飛んできた。
「何です、お父様?」
「入口で止まりすぎだ。見るのは構わんが、この人数で立っていれば通行の邪魔になる」
言われて初めて、アマリリアは自分たちも入口付近で長く足を止めていたことへ気づいた。
完全に道を塞いでいるわけではない。それでもアマリリアとライルだけではなく、ディーンとゼイン、さらに目立たない距離を保っている護衛たちまでいる。市場を観察するつもりで、逆に市場の流れを邪魔していては本末転倒だった。
「移動しましょう」
「素直だな」
「当然です」
「昔なら『あと少しだけ』と言って動かなかった気がするが」
「お父様。昔の私を便利に使わないでくださいませ」
ハロルドが小さく笑った。
「王妃陛下にも同じことを言われたか?」
「皆様、本当に同じことをなさいますね」
アマリリアは呆れたように息を吐きながらも、荷車の列を見渡せる少し奥の空いた場所へ移動した。
そこには果実水を売る小さな屋台があり、その脇ならば通行を妨げずに入口付近を観察できる。店主らしい老女は、近くへやってきた一行を一度だけ上から下まで眺めた。
服装は目立たないよう整えてあるものの、質まで隠しているわけではない。しかも若い男女だけではなく、どう見ても護衛か使用人らしい男たちまで付いている。普通の買い物客に見えないのは当然だった。
「兄ちゃんたち、何か探してるのかい?」
突然声を掛けられ、一番近くにいたライルが少し目を瞬いた。
「……俺?」
「他に誰がいるんだい。さっきから入口ばっかり見てるじゃないか。荷を待ってる商人には見えないし、買い物客にしちゃ野菜も見てない」
老女は何でもないことのように笑う。
アマリリアは一瞬、ライルと顔を見合わせた。
お忍びである以上、本当の身分を名乗るわけにはいかない。事前に決めていたのは、裕福な商家の若者たちとして不自然ではない程度の設定だけだった。
「市場のことを勉強しに来ました」
結局、ライルはかなり正直に答えた。
「勉強?」
「はい」
「珍しいね。普通は商売を始めてから慌てて覚えるもんだよ」
老女が声を立てて笑う。
その横で、アマリリアは別のところへ感心していた。
今の老女は、目の前の青年を第一王子だとはまったく思っていない。
王宮でも学園でも、ライルが歩けば自然に周囲が彼を意識する。第一王子だからというだけで、人が距離を取ったり姿勢を正したりする。それが今日はなく、老女から見れば、少し身なりのよい普通の青年でしかないらしい。
「アマリリア」
「何です?」
「今また何か変なこと考えただろ」
「考えておりません」
「顔に出てる」
「見ないでくださいませ」
「市場でも分かりやすいんだな」
「殿下」
アマリリアは小声で抗議してから、すぐに老女へ向き直った。
「少し伺ってもよろしいです?」
「何だい?」
「入口の荷車なのですが、ああして止まることはよくあるのでしょうか」
「ああ、朝はね。毎日ってほどじゃないけど、珍しくもないよ」
老女の表情が少しだけ現実的なものへ変わった。
アマリリアは手帳へ触れかけたものの、まだ開かずに質問を続ける。
「原因は何なのでしょう?」
「さあね。検査が遅い時もあるし、持ってきた書類が足りない奴もいる。荷の中身が申告と違うこともあるし、検査する人間が足りない日だってある」
「一つではないのですね」
「何だってそうだろう?」
あまりにも自然に返され、アマリリアは少しだけ目を瞬いた。
「何だい、その顔」
「いえ。私は一つの原因を探そうとしていたようです」
「役所の人みたいな顔してると思ったよ」
「そう見えます?」
「難しい顔で、一個の答えを探してる顔さ」
その言葉は、少しだけ耳に痛かった。
だが、嫌ではなかった。
「市場なんて毎日違うよ。雨が降れば荷が遅れるし、祭りの前なら量が増える。街道で何かあれば値段も変わるし、検査の若いのが風邪を引けば列だって長くなる。昨日うまくいったやり方が、今日も同じようにいくとは限らないさ」
アマリリアは今度こそ手帳を開いた。
けれど最初に書いたのは、細かな数字でも検査所への質問でもなかった。
『原因は一つとは限らない』
それだけを記し、少し離して余白を残す。
「ありがとうございます」
「何が?」
「教えていただきました」
「大したこと言ってないよ」
「私にとっては大事です」
老女は少し不思議そうな顔をしたあと、すぐに商売人らしい笑みへ戻った。
「なら、飲み物くらい買っていきな」
「まあ」
「話を聞いた代金だと思えばいいだろ」
ライルが笑いながら言う。
「別に代金ではございませんでしょう」
「でも喉渇いた」
「殿下、市場見学中です」
「見学中に飲み物も買えないの?」
「そういう意味ではございません」
「じゃあ買おう」
結局、果実水を近くにいる人数分だけ買うことになった。護衛全員分を一度に注文すればかえって目立つため、少し離れている者たちはそれぞれ自然に休憩を取ることになっている。
アマリリアは木製の小さな杯を受け取り、一口飲んだ。
甘みのあとに少し強い酸味が残る。王宮で出される果実水のように香りや甘さが丁寧に整えられているわけではないが、歩き始めた身体にはむしろこちらの方が心地よかった。
「どう?」
ライルが横から尋ねる。
「美味しいです」
「普通に?」
「普通に」
「よかった」
「何がよかったのです?」
「いや、君がこういうところでも普通に楽しめてるから」
さらりと返され、アマリリアは一瞬だけ言葉に詰まった。
「殿下」
「何?」
「市場見学です」
「分かってる」
「念のためです」
「伯爵みたいになってきたな」
ライルの言葉で、アマリリアは少し離れたところにいる父へ視線を向けた。
ハロルドは別の護衛と何か話していたが、その視線は入口へ入ってくる荷車ではなく、市場の奥から戻ってくる空の荷車へ向けられている。
「お父様は何を見ているのでしょう」
「十九個目?」
「ええ。同じ市場でも、立場が違えば何が違って見えるのかという観察項目です」
アマリリアはしばらく父の視線を追い、それから歩み寄った。
「お父様」
「何だ」
「何を見ておりました?」
「荷車だ」
「入ってくる方ではなく?」
「ああ。出ていく方が遅い」
そう言われ、アマリリアも市場の奥へ視線を向ける。
確かに、荷を下ろした空の荷車が出口付近でも少し詰まっていた。入る側だけを見ていた時には気づかなかったが、出る車が滞れば、当然中へ入ってきた荷車が移動する空間も減っていく。
「入口だけの問題ではないかもしれない?」
「まだ分からん。だから見ている」
父の返事に、アマリリアは少しだけ嬉しくなった。
自分だけが何も分からないわけではない。
父も、見てから考えている。
「何だ、その顔」
「いえ」
「また殿下のことでも考えていたのか?」
「なぜです!?」
思わず声が少し大きくなり、近くを通っていた客がこちらを見る。
「お父様!」
「私のせいか!?」
「当然です! 今のどこが市場のお話ですの!」
「普通の質問だろう!」
「普通ではございません!」
少し離れた場所でライルが笑っていることにも気づいた。
「殿下も笑わないでくださいませ!」
「聞こえたから」
「全部?」
「かなり」
「最悪です」
「何で?」
「何でもです!」
市場へお忍びで来て、何をしているのだろう。
アマリリアは一度深く息を吐き、意識を目の前の目的へ戻した。
「お父様。出口側が遅い理由は、もう分かりました?」
「まだ見ただけだ」
「では、聞いてみます」
「誰に?」
アマリリアは市場入口、検査所、荷車、その周囲で働く人々を順に見る。
「まず御者の方から」
「なぜ?」
今度はライルが尋ねた。
「一番長く待っているのは御者だからです。検査官の方は今まさに仕事中ですから、いきなり声をかければ邪魔になりますし、それに先ほどの方も仰ったでしょう?」
「原因は一つじゃない」
「はい。ですから御者側の話を聞いたあとで、できれば検査側の事情も聞きたいです」
ライルは納得したように頷いた。
「いいと思う」
「何です?」
「いや、君、本当に楽しそうだなって」
言われて、アマリリアは一瞬だけ否定しようとした。
けれどすぐにやめた。
「かなり楽しいです」
「少しじゃなく?」
「かなりです」
「やっぱり」
ライルが嬉しそうに笑う。
その顔を見ていると、アマリリアも自然に笑ってしまった。
◇◇◇
最初に声をかけたのは、三台目の荷車で順番を待っていた御者だった。
前方の車が検査を受けている間、男は御者台から降り、馬へ水を飲ませている。今なら仕事の邪魔にもなりにくいだろうと判断し、アマリリアは少し距離を取って声をかけた。
「少しよろしいです?」
「何だい?」
「この検査待ちについて伺いたいのです」
「ああ、これか」
男は列へ目をやっただけで、分かりやすく嫌そうな顔をした。
「長いです?」
「今日はまだマシだな」
「これで?」
「ひどい日は、向こうの通りの角までいく」
アマリリアは思わず振り返った。
今いる場所から通りの角まではかなり距離がある。そこまで荷車が並ぶなら、単なる数分の遅れでは済まないだろう。
「どれくらい待つのです?」
「早けりゃ十五分。遅い時は一時間くらいだ」
「一時間?」
「生もの運んでる時に一時間はきついぞ。野菜もそうだし、夏なら乳なんか特に怖い」
そこは数字として残す必要があると判断し、アマリリアはすぐに手帳へ書き込んだ。
「検査では、品物と書類の両方を?」
「ああ」
「書類の不備は多いのです?」
「あるにはある」
「どのくらい?」
「知らんよ。俺は役人じゃないからな」
「……そうですわね」
少し急ぎすぎた。
目の前の相手が知っていることと、自分が知りたいことは同じではない。
「では、ご自身が止められたことは?」
「そりゃある」
「理由を伺っても?」
「重量の記載違いだ。出発前に一箱傷んでたから降ろしたんだが、書類を直すのを忘れた」
「その時は御者側の不備だった?」
「そうだな。後ろにも迷惑かけた」
「検査側が悪いとは思いませんでした?」
「その時は俺が悪いからな」
男は妙にあっさり認めた。
アマリリアは、その答えを少し意外に感じる。
「では、普段の検査待ちで一番気になることは?」
男は少し考えたあと、検査所を見た。
「人が少ねえことかな」
「検査官?」
「ああ。朝は荷が集中するのに窓口が二つしかねえ。それに一台で何か引っかかると、片方が確認へ行っちまうことがある」
「その間、代わりに入る方はいない?」
「少なくとも俺は見たことないな」
アマリリアは手帳へ『検査官二名。問題発生時、一名が離席することあり』と書いた。
ただし、その横にはすぐ『要確認』と付け加える。
御者一人がそう感じていることと、実際の運用がそうなっていることは別だ。聞いた話をそのまま事実へ変えてしまわないよう、意識して線を引いた。
「他に困ることはあります?」
「馬だな」
「馬?」
「長く止めると落ち着かなくなる。夏は暑いし、冬は冷える。それに、こっちは急いでるのに、予約した荷を待ってる店の奴から『まだか』って怒鳴られることもある」
「遅れれば信用へ影響します?」
「するさ」
「検査で止められた場合でも?」
「客には関係ないだろ」
その一言を聞いた時、アマリリアのペンが止まった。
客には関係ない。
確かにそうなのだろう。
店が欲しいのは、約束された時間に届く商品だ。検査が遅れたのか、荷車が壊れたのか、道が混んでいたのかは、その店から見れば二次的な事情でしかない。
けれど、それでは遅延の責任は誰にあるのだろう。
御者なのか。
検査官なのか。
制度なのか。
それとも、誰か一人へ置けるようなものではないのか。
「嬢ちゃん?」
「失礼。少し考えておりました」
「何か変なこと言ったか?」
「いいえ。むしろ、私が知らなかったことでした。ありがとうございます」
「変な嬢ちゃんだな」
「よく言われます」
「そうなの?」
「最近は少し」
後ろでライルが肩を揺らした。
「殿下、笑わないでくださいませ」
「いや。君、本当に普通に話してるなと思って」
「何です、それ」
「王宮より自然かも」
「……その意味は、後で伺います」
「今じゃない?」
「今は市場です」
「はい」
そんな二人のやり取りを聞いていた御者が、不思議そうに顔を見比べた。
「お前ら夫婦か?」
「違います!」
「婚約者です」
ほとんど同時だった。
アマリリアは自分より早く否定しなかったライルを見た。
「殿下」
「何?」
「ここでは、あまり余計なことを」
「名前は言ってないだろ」
「そうですけれど!」
御者が声を立てて笑う。
「仲いいな」
「ありがとうございます」
ライルはごく自然に返した。
「殿下!」
「何で怒るの?」
「恥ずかしいからです!」
御者の笑い声につられ、近くにいた別の男までこちらを見て口元を緩める。
「若いっていいな」
「市場のお話へ戻してくださいませ!」
アマリリアは頬が熱くなるのを自覚しながらも、どうにか話題を戻した。
◇◇◇
その後、二人目、三人目の御者にも簡単に事情を聞いてみた。
すると、同じ検査待ちについて尋ねているはずなのに、少しずつ違う話が返ってくる。
「検査が遅いっていうより、朝に荷が集中しすぎるんだよ」
「地方から王都へ到着する時間が似るのです?」
「城門が開く時間が決まってるからな。夜に動きたがる御者も少ないし、朝一番で入ろうとすれば似たような時間になる」
別の男は、逆に検査制度そのものが以前より改善したと話した。
「前より検査は早くなったぞ。昔は紙を一枚ずつ細かく確認してた。今は品目によっちゃ簡易印だけで通れる」
「では、改善はされている?」
「まあな。それでも朝は詰まるけど」
さらに別の御者からは、書類についての不満が出た。
「商会ごとに書き方が微妙に違うのを何とかしてほしいな」
「書式が統一されていないのです?」
「大枠は同じだよ。でも荷主の名前の書き方とか、品目の分け方とかが違う。見る側も面倒なんじゃないか?」
「検査する方が読み取りにくい可能性がある、と」
「多分な。俺はそっち側じゃないから断言できんけど」
話を聞くたびに、アマリリアの手帳へ新しい項目が増えていった。
人員。
朝の集中。
書類不備。
書式の差。
城門が開く時間。
生鮮品と保存の利く品の混在。
御者側のミス。
検査側の事情。
どれもあり得る。
けれど、どれか一つへ絞ろうとすると、すぐに別の話が出てくる。
「アマリリア」
少し歩いたところで、ライルが小声で尋ねた。
「何です?」
「今、困ってる?」
「少し」
「何で?」
「想像していたより複雑です」
「嫌?」
「逆です」
「また?」
「ええ」
アマリリアは手帳を閉じ、一度市場入口の方を振り返った。
「面白いです」
「顔で分かる」
「殿下」
「何?」
「今は許します」
「本当?」
「かなり楽しいので」
今度は迷わず認めた。
市場へ来る前は、問題が見つかれば整理して、原因を特定して、そのあと対策を考えるのだと思っていた。
けれど実際の市場は、もっと散らかっていた。
問題同士が絡み合い、一つを見れば別の事情が出てくる。誰かが怠けているから、誰かが悪いから、それだけで説明できるほど単純ではない。
「誰が悪いのでしょう」
思わずアマリリアが呟くと、ライルが少し真面目な顔になる。
「誰かが悪くないと駄目?」
その問いに、アマリリアは足を止めかけた。
「殿下」
「何?」
「それ、とてもよい質問です」
「褒められた」
「今は調子に乗らないでくださいませ。少し考えたいので」
「はい」
ライルは本当にそれ以上何も言わなかった。
アマリリアが考えている間を奪わず、すぐに答えを求めることもしない。
それに少しだけ安心しながら、アマリリアは再び手帳を開いた。
一番上へ『検査待ち』と書き、その下へ幾つもの矢印を伸ばす。
『人員不足?』
『朝の集中』
『書類不備』
『書式差』
『城門時間』
『品目ごとの検査差』
『通路の狭さ』
『出口側の滞留』
少し考えてから、さらに一行加えた。
『誰か一人の責任ではない可能性』
「書けた?」
「はい」
「何て?」
アマリリアが手帳を見せると、ライルはしばらく内容を眺めた。
「これ、大事そうだな」
「私もそう思います」
そこへハロルドも近づいてきた。
「見せろ」
「お父様」
「何だ」
「普通に言ってくださいませ」
「……見せてくれ」
「最初からそうしてください」
手帳を渡すと、ハロルドはしばらく無言で内容を読む。
「まだ検査側の話を聞いていないな」
「はい。ですから決めません」
「そうか」
「お父様は、今の時点で何が一番気になります?」
ハロルドは少し考えた。
「朝に集中する理由だ」
「城門?」
「それだけとは限らん。地方の宿場から荷車が出る時間も似ているかもしれない。街道の安全を考えれば、夜中に走りたがる者は少ない。そうすれば王都へ到着する時間も似る」
アマリリアはすぐに手帳へ書き加えた。
「お父様。それ、先ほど教えてくださいませ」
「自分で見たいと言ったのはお前だろう」
「分からない時は聞く、とも申しました」
「だから今聞いただろ」
「……そうですけれど」
少し悔しい。
でも、同時に嬉しくもあった。
自分とは違う場所を見ている人が、すぐ近くにいる。
「十九個目」
ライルが隣から言う。
「何です?」
「もう出てるな」
「……ええ」
「俺は最初、検査の人が足りないのかなと思った。君は通路の狭さを見て、伯爵は荷車が来る時間を気にした」
「同じ場所を見ても違いますわね」
「うん」
アマリリアは改めて市場を見渡した。
『同じ市場を見た時、立場が違えば何が違って見えるのか』
昨日追加した十九個目の観察項目。
市場へ着いたばかりなのに、もうその意味を実感し始めている。
「面白い?」
「かなり」
「やっぱり」
ライルは嬉しそうに笑った。
◇◇◇
次に向かったのは、市場入口の検査所だった。
もっとも、仕事中の検査官へいきなり話しかければ、本当に仕事を増やしてしまう。アマリリアたちは少し離れた場所へ立ち、まずは実際にどのような作業をしているのか観察することにした。
検査所には職員が二人いる。
一人が御者や荷主から渡された書類を確認し、もう一人が荷台の一部を直接確認する。問題がなければ書類へ印が押され、荷車は市場の奥へ進んでいく。
数台はそれでほとんど止まることなく通過した。
ところが、一台だけ検査の途中で動きが止まった。
「何かあったみたいだな」
ライルが声を落とす。
「見ております」
荷台を確認していた検査官が奥の箱を指し、御者を呼び寄せる。二人はしばらく荷物と書類を見比べていたが、やがて書類担当だった職員まで席を立ち、奥の建物へ早足で向かってしまった。
「一人になりましたわね」
「さっき御者が言ってた通りだ」
「ええ」
残った一人は問題のある荷車をそのまま通すこともできず、次の荷車を先に処理することも難しいらしい。
結果として列全体が止まった。
五分ほど経ち、さらに数分が過ぎた頃、ようやく先ほど離れた職員が書類を手に戻ってきた。何かを御者へ説明し、別の印を押す。そのあとようやく荷車が動き始め、後ろの列も少しずつ進んだ。
「アマリリア」
「はい」
「今度は書く?」
「今書きます」
アマリリアは手帳へ『確認事項発生時、照会のため一名が離れる。その間、列全体が停止する場合あり』と記した。
さらに横へ『照会先との距離』『連絡方法』という確認事項も追加する。
「十八個」
ライルが横から覗き込んだ。
「質問一覧とは別です」
「増えてる」
「現地へ来れば疑問が増えるのは当然でしょう?」
「何個まで増やす気?」
「分かりません」
「怖い」
「殿下」
「冗談だよ」
「半分くらいは?」
「少し」
「最近、皆様本当に正直すぎます」
そんな会話をしているうちに、検査官の一人がこちらへ気づいた。
先ほどから何度も仕事ぶりを見られているのだから、警戒されるのは当然だった。
「何か御用ですか?」
三十代半ばほどの男が、少し硬い声で尋ねる。簡素な制服の胸元には、市場管理局を示す小さな印が付いていた。
「申し訳ございません。お仕事を邪魔するつもりはございません」
アマリリアはすぐに頭を下げた。
「市場について勉強しておりまして、先ほど検査待ちについて御者の方から少しお話を伺いました。もし可能でしたら、こちら側の事情も少し教えていただきたいのです」
「苦情ですか?」
「いいえ。その逆です。御者の方からだけお話を聞いて判断したくありませんので」
検査官はしばらくアマリリアの顔を見た。
次にライル、ディーン、ゼイン、その少し後ろにいるハロルドへも目を向ける。
普通の若者たちだけではない。
それくらいは察したようだった。
「何者です?」
声が少し低くなる。
身分は明かさない予定だ。
とはいえ、このままでは相手が不審に思うのも当然だった。
「王宮から許可を得ております」
そこでディーンが前へ出て、折り畳んでいた簡易許可証を見せた。
そこには第一王子の名前までは書かれていない。市場運営の非公式な状況確認に協力すること、ただし業務へ支障が出ない範囲でよいという内容だけが記されている。
「視察ですか?」
「非公式です。業務を止める必要はございません。可能な範囲で結構です」
ディーンが静かに説明すると、検査官はまだ少し警戒を残しながらも頷いた。
「分かりました。何を知りたいんです?」
アマリリアはまず、先ほど自分たちが実際に見たことから尋ねることにした。
「先ほど、確認のためお一人が奥へ行かれましたね」
「見ていたんですか」
「はい。何があったのです?」
「荷の品目と申告が合っていませんでした。加工済みの野菜と生野菜が同じ箱に入っていたんです」
「検査区分が違う?」
「税区分も少し違います」
「御者側の不備ですか?」
「荷主側ですね。どちらの扱いで通すべきか、管理官の判断が必要だったので確認へ行きました」
「こちらで判断することはできない?」
「規則上、一定の範囲を超えれば管理官へ確認が必要です」
アマリリアは手帳へ短く記録する。
「では、問題が起きるたびに確認へ行くのです?」
「全部じゃありません」
「一日にどの程度あります?」
「日によりますね」
「平均は?」
検査官が少し困ったように眉を寄せた。
「数えてません」
「そうですか」
「申し訳ない」
「なぜ謝るのです?」
「視察なんでしょう?」
「知りたいだけです。分からないものを推測で数字にされるより、分からないと仰ってくださる方が助かります」
アマリリアがそう答えると、検査官の表情から僅かに警戒が薄れた。
「変わった人ですね」
「よく言われます」
後ろでライルがまた小さく笑う。
「殿下」
「何?」
「今は無視します」
「はい」
その返事に、検査官まで少し笑った。
「人員は足りております?」
次の質問へ移ると、今度は相手がすぐに答えなかった。
「足りない?」
「簡単には言えません。朝だけ見れば足りない日もあります。でも昼になると今より空きますから」
「時間帯で人員を変えることは?」
「もうやってます。それでも朝は集中します」
「城門の開門時間が理由です?」
「それもあります。地方の荷は夜明け前後に出発して、できれば昼までに売りたい。生ものほど朝が多いし、市場の店も開店前に受け取りたがります」
「全てが朝へ集中するのですね」
「そういうことです」
「では、単純に検査所だけ増やしても」
「今度は入口が詰まるでしょうね」
「場所が狭い?」
「狭いです。増設案が出たことはあります」
「実現しなかった?」
「店を移動させる必要があるので、補償も掛かります」
アマリリアは手帳へ書きながら、少しだけ眉を寄せた。
一つ解決しようとすると、別の問題が出てくる。
人を増やせばよいわけでもない。
窓口を増やせばよいわけでもない。
場所を広げれば、そこに店を構えている人へ影響が出る。
「簡単ではございませんのね」
「役所の仕事なんて、だいたいそうですよ」
検査官が少し苦笑した。
その一言を聞いた瞬間、隣のライルの表情が僅かに変わった。
今の彼は第一王子として見られていない。
だからこそ、王宮にいれば届きにくい言葉が、普通の青年へ向けて自然に出てくる。
「今の仕組みに不満はあります?」
ライルが初めて直接尋ねた。
検査官は若い青年を少し見つめたあと、静かに頷く。
「ありますよ」
「何です?」
「書類ですね」
アマリリアとライルがほぼ同時に顔を上げた。
「御者の方からも似た話を伺いました」
「でしょうね」
「規定はあるのに統一されていない?」
「大枠は同じです。でも商会ごと、地方ごとに微妙な違いが残ってます。昔の様式をそのまま使ってるところもある」
「変更するよう通知は?」
「出ています。でも地方まで完全には浸透してません」
検査官はそこで一度声を落とした。
「それに、読み書きが得意じゃない御者もいますからね」
「商会側で書類を作るのでは?」
「大きい商会はそうです。でも小さい農家や個人商人は自分で持ってきます」
「そうすると記載間違いも増える?」
「増えます」
「間違っていた場合、直すのは?」
「ここです」
「ここで?」
「そうです」
「では、その間も列が止まる」
「そうなります」
アマリリアはペンを止めた。
思っていた以上に大きな問題かもしれない。
「事前に書類を確認したり、直したりできる場所があれば?」
「それは助かりますね」
「市場の外側?」
「荷車広場へ入る前辺りにあれば便利でしょうけど」
アマリリアは、次に見学する予定の場所を思い出した。
「王妃様が荷車広場も見るよう仰った理由が、少し分かった気がします」
「繋がってる?」
ライルが聞く。
「ええ。市場の中だけ見ても分からないのですわね」
アマリリアは検査官へ丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます。大変参考になりました」
「いや、そんな大したことは」
「最後に一つだけよろしいです?」
「何でしょう」
横でライルが少し笑った。
「十八個のうち?」
「これは三番目です」
「ちゃんと把握してるんだ」
「当然です」
検査官まで小さく笑った。
「どうぞ」
「今の決まりの中で、一番困っていることは何です?」
それは市場へ来る前、ライルが考え、アマリリアが採用した質問だった。
検査官はすぐには答えなかった。
入口へ視線を向け、荷車の列を少し眺める。
「決まりそのものじゃないかもしれません」
「では?」
「決まりが多いのに、誰も全体を見てないことです」
アマリリアの目が僅かに大きくなる。
「全体?」
「城門は城門。市場は市場。検査は検査。倉庫は倉庫。商会は商会。それぞれ、自分の仕事はちゃんとしてるんですよ」
「でも」
ライルが静かに続けた。
「それが全部繋がった時の流れは?」
検査官は少し疲れたように笑った。
「誰の仕事なんでしょうね。俺にも分かりません」
その言葉を聞いた瞬間、アマリリアはすぐに手帳を開いた。
『誰も全体を見ていない』
そう書き、その下へ少し間を置いて、もう一行加える。
『だからこそ、誰か一人を悪者にしても解決しない』
◇◇◇
検査所を離れたあと、アマリリアたちは市場の中央へ向かって歩き始めた。
最初に感じた騒がしさにも、少しずつ耳が慣れている。先ほどまでは一つの大きな喧騒として聞こえていたものが、今は店主の呼び込み、荷運び人の掛け声、客同士の値段交渉、車輪の軋みと、それぞれ別の音として拾えるようになってきた。
「アマリリア」
「何です?」
「今どう?」
「どう、とは?」
「来てよかった?」
「はい。かなり」
答えは迷わず出た。
「殿下は?」
「俺も来てよかった」
「何が一番印象に残りました?」
ライルは少し考え、先ほどの検査所を振り返った。
「検査の人かな。列を見た時、俺は最初に役所の仕事が遅いのかと思った」
「私も少し思いました」
「でも実際は、普通に頑張ってた」
「ええ」
「もちろん改善できることはあるんだろうけど、あの人たちだけのせいじゃない」
「それだけではありませんでしたね」
二人の歩調が自然に揃う。
少し後ろではディーンとゼインが小声で話し、さらに離れた場所ではハロルドも護衛と共に市場全体へ目を向けていた。
「殿下」
「何?」
「一つ増えました」
「質問?」
「違います」
「好きなところ?」
「なぜそちらへ行くのです!?」
アマリリアの声が少し大きくなり、周囲の客がちらりと振り返った。
「殿下!」
「ごめん。でも昨日から増えるって言ってたから」
「違います! 今増えたのは気づいたことです!」
「先にそう言ってくれれば」
「殿下が変なことを仰るからでしょう!」
ライルは笑いながら謝った。
アマリリアは少し頬を膨らませたまま手帳を開く。
「『見る場所を一つで終わらせない』です」
「入口だけを見るんじゃなく?」
「ええ。市場の問題を知りたいから市場へ来ましたけれど、市場の外へ出なければ分からないこともございます」
「じゃあ次は荷車広場?」
「まだです」
「何で?」
「中央市場を見終わっておりません」
「やっぱり簡単に次へ行かないんだな」
「一つずつです。今日は答えを急いで出すために来たのではございませんから」
自分で言ってから、アマリリアは少し不思議な気持ちになった。
以前の自分なら、問題を見つけた瞬間に原因を絞り、できるだけ早く解決策まで辿り着こうとしていたはずだ。
今は、見る。
聞く。
比べる。
そのあとで考える。
ライルが少しずつ覚えた「待つ」というやり方を、自分もいつの間にか影響されるようになっているのかもしれない。
「殿下」
「何?」
「市場見学はまだ始まったばかりですけれど、私、かなり楽しいです」
ライルの表情が柔らかくなった。
「よかった」
「殿下も楽しんでくださいませ」
「俺も?」
「当然です」
「仕事なのに?」
「仕事でも、楽しくてよいでしょう?」
ライルは少し黙ってから笑った。
「君がそれ言うと、すごくいいな」
「何がです?」
「楽しいって普通に言えるようになったところ」
「……」
また、そういうことを言う。
「殿下」
「何?」
「市場です」
「知ってる」
「人が多いです」
「それも知ってる」
「でしたら」
「小声だから大丈夫」
「そういう問題ではございません!」
アマリリアは少しだけ早足になった。
けれどライルはすぐに同じ速度へ合わせてくる。
そのことへ気づけば、胸の奥が少し温かくなる。
今は言わない。
今日は市場を見る日だから。
少し離れた後方では、そんな二人を見ていたハロルドが、また深いため息をついていた。
「旦那様」
ゼインが静かに声をかける。
「何だ」
「市場見学は順調ですね」
「分かっている」
「では、なぜそのようなお顔を?」
「市場見学が順調すぎる」
「よいことでは?」
「娘と殿下の距離まで順調に縮まっている!」
ゼインが一瞬だけ黙った。
「何だ、その顔」
「いえ」
「言え」
「旦那様」
「何だ」
「そろそろお慣れになった方がよろしいかと」
「何に!?」
ハロルドの声が、また少し大きくなった。
当然、前を歩いていたアマリリアにも聞こえる。
「お父様!」
「何だ!」
「お忍びです! 分かっている方の声量ではございません!」
近くの魚屋の主人が、とうとう声を立てて笑った。
「仲のいい家族だな!」
ハロルドとアマリリアが同時に止まり、その横でライルが堪えきれないように口元を緩める。
「殿下」
「何?」
「絶対に笑わないでくださいませ」
「無理かも」
「殿下!」
市場の喧騒の中へ、アマリリアの声も、父の声も、店主の笑いも自然に混ざっていった。
その瞬間、アマリリアは少しだけ思った。
ここでは誰も、自分たちを第一王子とその正式な婚約者として見ていない。
少し身なりのよい若い男女。
その二人へ付き添う、かなり心配性な父親。
周囲からすれば、その程度なのかもしれない。
「……」
「アマリリア?」
「何です?」
「今、笑った?」
「少し」
「何で?」
「秘密です」
「また?」
「便利ですので」
「それ、本当に便利なの?」
「かなり」
ライルが笑う。
アマリリアも今度は隠さず笑い返した。
最初に見つけた荷車の滞り。
それだけでも、もう資料の一行では足りない。
御者がいて、検査官がいて、商人がいる。
城門の時間があり、書類の違いがあり、市場の広さがあり、荷物が傷むまでの時間がある。
それら全部が、少しずつ繋がっている。
まだ答えは出ない。
けれど、それでいい。
今日は答えを出すためではなく、知るために来たのだから。
アマリリアは一度手帳を閉じ、改めて市場の奥へ視線を向けた。
すると今度は、野菜売り場の端に並んだ玉葱が目へ入った。
同じくらいの大きさに見える。
見た目もそれほど変わらない。
なのに、店によって値段がかなり違っていた。
「……殿下」
「何?」
「次に気になるものが見つかりました」
「もう?」
「もう、ではございません。市場へ来ておりますので」
「何?」
アマリリアは少しだけ目を細め、二つの店先を見比べた。
「同じ玉葱なのに、値段が違いすぎます」
「店ごとの利益?」
「最初は私もそう思いました。でも」
そこで言葉を切る。
今日はもう、最初に思いついた理由だけで決めない。
「聞いてみなければ分かりませんわね」
ライルが少し笑う。
「分かった。じゃあ今度は玉葱か」
「笑うところではございません」
「笑ってない」
「少し笑っております」
「顔で分かった?」
「便利ですので」
二人は再び並んで歩き始めた。
そして、その価格差が単なる店主の利益幅だけではなく、荷が届いた時刻、産地、保管場所、さらには先ほど見た検査待ちまで少しずつ影響していると知るのは、もう少し市場の中を歩いてからのことになる。




