第21話 なぜか台本を知らないカルロス様が、一番台本通りに動き始めました
翌日の昼休み。
ルナティック王立学園の食堂は、普段とは比べものにならないほど落ち着かない空気に包まれていた。
昼食の鐘が鳴るよりかなり前から、何か大きな説明が行われるらしいという噂を聞きつけた生徒たちが席を確保し始めている。中央の広い通路を囲むように人の輪ができ、上級生も下級生も、料理を受け取ってからすぐには口をつけず、周囲の様子を気にしながら小声で話していた。
昨夜、学園側から出された通知は非常に簡潔なものだった。
『最近校内で発生している嫌がらせおよび虚偽の噂について、本日の昼休みに関係者から説明を行う』
書かれていたのはそれだけ。
だからこそ、朝から噂はさらに膨らんでいた。
誰が説明するのか。何が真実なのか。アマリリア・ベスターは本当にルシア・メイベルを虐めていたのか。三令嬢は何をしたのか。第一王子ライルはなぜ関係しているのか。そして、カルロス・ムルールはその中でどういう立場なのか。
分からないことが多ければ多いほど、人は自分なりの答えを作りたくなるらしい。
「本当に第一王子殿下も来るの?」
「先生がそう仰っていたわ」
「アマリリア様もでしょう?」
「ルシアさんも来るらしいわよ」
「では、やっぱり直接対決なのでは?」
「何の対決よ」
「恋の」
「だから、その話が本当なのかを説明するのでしょう?」
食堂の扉越しに聞こえてくる会話を耳にして、アマリリアは静かにため息をついた。
「私、随分と恋多き女になっておりますわね」
「少なくとも、学園の噂の中ではな」
隣に立つライルが答える。
「カルロス様へ未練を残しながら、第一王子殿下へ取り入り、そのうえルシアさんを排除しようとしているそうです」
「忙しいな」
「本当ですわ。一人の人間にそこまで同時進行を求めないでいただきたいです」
「そこ?」
「他にも問題がございます?」
「全部だよ」
ライルは呆れたように返しながらも、アマリリアの顔を注意深く見ていた。
昨夜までの疲れは完全には抜けていない。
ルシアの救出、ベルドとハインツの拘束、押収品の確認。そして今日は朝から、学園での公開説明の準備までしている。
アマリリア本人は平気な顔をしているが、朝食ではいつもより紅茶へ手を伸ばす回数が多かった。王宮から学園へ向かう馬車の中でも、珍しく窓の外を黙って見つめる時間が長かった。
「アマリリア」
「何でしょう」
「本当に大丈夫?」
「何がです?」
「今から大勢の前で、自分について好き勝手言われていた噂を全部ひっくり返すんだろう」
「ええ」
「怖くない?」
アマリリアは少しだけ食堂の方へ視線を向けた。
扉の向こうには、既に大勢の生徒がいる。
その中には、数日前まで自分を見ながらひそひそと話していた者もいるだろう。自分がルシアを虐めたと信じている者も、まだ疑いを捨てきれていない者もいるかもしれない。
「少しは」
アマリリアは素直に答えた。
「でも、逃げる方が嫌です」
「うん」
「それに、今日は一人ではありませんもの」
ライルへ顔を向けると、彼の表情が少し柔らかくなった。
「そうだな」
「殿下」
「何だ」
「そこで手を差し出してくださらないのです?」
「え?」
「流れ的に」
「君、こういうときまで要求するのか?」
「期待はいたします」
ライルは少し呆れたあと、本当に手を差し出した。
「これで?」
「満足です」
アマリリアはその手を取った。
廊下の奥ではディーンが見なかったふりをしており、そのさらに後ろには学園側の教師たちと、今日証言する予定のエミリア、マリーネ、ユフィナが待っていた。
三人とも明らかに緊張している。
当然だった。
今日、彼女たちは大勢の生徒の前で、自分たちがルシアへ嫌がらせをした事実を認めることになる。
脅されていたことも説明される。
それでも、自分たちがしたことまで消えるわけではない。
その責任を引き受けた上で、三人はここに立っている。
そして、その近くにはルシアもいた。
昨日までよりは顔色が戻っているものの、食堂から大きなざわめきが聞こえるたび、膝の前で重ねた手へ僅かに力が入っていた。
アマリリアはライルの手を一度離し、ルシアの方へ歩み寄る。
「ルシアさん」
「はい」
「大丈夫です?」
「……少し緊張しています」
「私もです」
「アマリリア様が?」
「もちろん」
ルシアは少し驚いたような顔をした。
「でも、そう見えません」
「見せないのは得意ですので」
「では」
ルシアは少しだけ笑った。
「私も頑張ります」
「頑張りすぎなくてよろしいです」
「え?」
「言いたくないことは言わなくていいのです。途中で怖くなったら、私か殿下へ合図してくださいませ」
「でも、皆さんの前で」
「だからこそです」
アマリリアはルシアを真っ直ぐに見た。
「今日の目的は、誰かに新しい筋書きを押しつけることではありません。事実を話して、これ以上勝手な物語を作らせないことです」
ルシアはその言葉を聞いてしばらく黙ったあと、ゆっくり頷いた。
「はい」
「それに」
アマリリアは三令嬢の方へ視線を向けた。
「三人も同じです」
エミリアたちが少し身体を強張らせる。
「自分がしたことは、自分の言葉で話してください。ですが、ベルド様に言われた台詞をもう一度演じる必要はございません」
「……はい」
エミリアが小さく返す。
「分かりました」
「ちゃんと話します」
マリーネとユフィナも頷いた。
アマリリアは全員の顔を確認してから、食堂の扉へ向き直る。
「では」
「待て」
ライルが止めた。
「何です?」
「一人足りない」
「一人?」
「今日の最大の不確定要素」
アマリリアは数秒考えたあと、ゆっくり答えた。
「……カルロス様」
「そう」
「来ていらっしゃらない?」
「さっきまで公爵と一緒にいたはずなんだけど」
ライルが廊下の反対側へ目を向ける。
グレイアス・ムルール公爵は学園長と何かを話していた。
ただ、その隣にいるはずの息子の姿がない。
「公爵閣下」
ライルが呼ぶと、グレイアスがこちらを向いた。
「殿下」
「カルロスは?」
「……」
グレイアスの表情が一瞬だけ固まる。
「先ほどまで、ここにいたのですが」
「逃げました?」
アマリリアが尋ねる。
「いや」
グレイアスは即座に否定した。
「逃げる性格なら、ここまで苦労していない」
「確かに」
ライルが妙に納得したように頷く。
アマリリアの胸へ、嫌な予感が浮かんだ。
「では、勝手に先に入ったのでは?」
三人が同時に食堂の方を見る。
その瞬間だった。
「アマリリア・ベスター!!」
食堂中央から、よく通る声が響いた。
アマリリアの目がゆっくり細くなる。
ライルは額へ手を当て、グレイアスは静かに天井を仰いだ。
「まさか」
ルシアが小さく呟く。
次の瞬間。
「私は貴様とは結婚しない!!」
廊下まではっきり聞こえた。
しばらく誰も動かなかった。
アマリリアは静かにライルを見る。
「殿下」
「何だ」
「台本」
「ああ」
「知らせておりませんわよね?」
「一文字も」
グレイアスも重く頷いた。
「私も何も言っていない」
それでも食堂の中からは、さらにカルロスの声が聞こえてくる。
「今日こそ、皆の前ではっきりさせる!!」
アマリリアは心の底から思った。
――なぜ、そこだけ台本通りなのです?
◇◇◇
それより少し前。
カルロス・ムルールは食堂の入口で、父グレイアスから「私が合図するまで余計なことを言うな」と念を押されていた。
「分かっています」
「本当に?」
「父上」
「何だ」
「最近、皆そればかり聞きます」
「お前の場合は実績がある」
「アマリリアと同じことを言いますね」
「一緒にするな」
「なぜです?」
「ベスター令嬢は少なくとも、動く前に考えている」
グレイアスはそこで一度言葉を切った。
「最近は」
「今、付け足しましたね?」
「気のせいだ」
カルロスは少し不満そうな顔をしたが、以前のように父の言葉を遮って自分の意見を押し通すことはしなかった。
それだけでも、グレイアスにとっては十分に大きな変化だった。
「今日の説明では、お前がベルドに騙されかけたことも話す」
「はい」
「恥ずかしいと思うかもしれない」
「……はい」
「だが、隠さない」
「分かっています」
「それと、ベスター令嬢へ」
「謝ります」
カルロスが先に答えた。
グレイアスは少しだけ目を見開く。
「何を謝るか分かったのか?」
「父上」
「何だ」
「そこまで馬鹿だと思っているのですか」
「昨日、自分で『何を謝ればいい』と聞いただろう」
「……」
「忘れたか?」
「覚えています」
カルロスは少し顔を赤くした。
「考えました」
「そうか」
「全部です」
グレイアスは一瞬黙ったあと、僅かに口元を緩めた。
「それでいい」
カルロスも少し安心したように息を吐く。
そのとき、食堂の中から何人かの生徒が話している声が聞こえてきた。
「アマリリア様とカルロス様って、本当に婚約していたの?」
「少なくとも両家では話が進んでいたらしいわ」
「でも、アマリリア様は第一王子殿下と」
「じゃあ、カルロス様が振られたの?」
「逆じゃない?」
「どっちなの?」
カルロスの足が止まる。
グレイアスはすぐに嫌な予感を覚えた。
「カルロス」
「父上」
「何だ」
「一つだけ」
「駄目だ」
「まだ何も言っていません」
「顔で分かる」
「皆、最近そればかり」
「お前も顔に出るようになったんだ」
グレイアスは息子の肩を掴んだ。
「待て。説明はこれからする」
「だからこそ、私からはっきり言うべきでは?」
「何を」
「アマリリアとのことです」
グレイアスは少し警戒しながら続きを待つ。
「彼女が私に振られたわけではないと、先にはっきりさせておいた方がいいでしょう」
その言葉だけを聞いて、グレイアスは少しだけ安心した。
少なくとも以前のように、自分がアマリリアを振ってやったと言いたいわけではないらしい。
「それなら、正式な説明の中で」
「でも」
その瞬間、食堂の中から別の声が聞こえた。
「やっぱりカルロス様から婚約破棄したんじゃない?」
カルロスの眉が僅かに動く。
「今のは」
「聞くな」
「事実と違います」
「分かっている」
「アマリリアも困るでしょう」
「それも分かっている」
「なら」
グレイアスが止める前に、カルロスは食堂へ入ってしまった。
「カルロス!」
もう遅かった。
中央まで進めば、周囲の生徒たちはすぐに彼へ気づく。
「カルロス様?」
「ムルール公爵令息だ」
「もう始まるの?」
多くの視線が自分へ向けられていることを確認したカルロスは、自分なりに誤解を解こうとした。
ただし。
彼は致命的なほど、言葉の選び方が悪かった。
「アマリリア・ベスター!!」
食堂全体が静まった。
問題は。
本人がまだ食堂へ入ってすらいないことである。
「私は貴様とは結婚しない!!」
言ってから、カルロス自身も違和感を覚えたらしい。
「……いや」
首を傾げる。
「これは違うな」
周囲から戸惑った声が上がり始めた。
「違うの?」
「何が?」
「今のは何?」
カルロスは自分なりに言い直そうとした。
「正確には、私はアマリリアと結婚する立場ではない!」
さらに分かりにくくなった。
「え?」
「どういうこと?」
「やっぱり振ったの?」
「いや、違うらしいわ」
「何が違うの?」
そこへようやく、食堂の入口からアマリリアたちが姿を現した。
アマリリアは中央に立つカルロスを見て、周囲の混乱した様子を見回し、それから静かにため息をついた。
「カルロス様」
呼ばれた本人が振り返る。
「アマリリア!」
「まず、私が入ってきてから始めていただけます?」
アマリリアが優雅な笑みを浮かべながら中央へ歩いていくと、周囲の何人かが堪えきれず吹き出した。
カルロスの頬が僅かに赤くなる。
「すまない」
「まあ」
素直に謝った。
以前なら、ここで言い訳をしていたかもしれない。
それだけでもアマリリアには十分な変化に見えた。
「では」
カルロスが姿勢を整える。
「アマリリア。私は」
「待て」
今度はライルが止めた。
「殿下?」
「何を言おうとしている?」
「彼女との婚約についてです」
「なら、今から正式に説明する。勝手に一人で始めるな」
「……はい」
カルロスは素直に一歩下がった。
その反応に、アマリリアも少し驚いた。
「殿下」
「何だ」
「本当にカルロス様です?」
「失礼だぞ」
「殿下も先ほど、偽物ではないかと」
「今は言うな」
後ろでルシアが小さく笑った。
カルロスはその声に反応して何かを言いかける。
けれど。
一度口を閉じた。
今は話しかける場面ではないと、自分で判断したらしい。
アマリリアはその変化も見逃さなかった。
本当に少しずつだが。
カルロスは変わり始めている。
◇◇◇
食堂中央には、学園側が用意した簡易の壇が置かれていた。
高さはそれほどないが、食堂全体から話す人物の姿が見える程度には目立つ。後方には学園長と学年主任、数名の教師が立ち、その脇にはムルール公爵グレイアスとディーンの姿もあった。
アマリリアとライルが前へ出た瞬間、それまで残っていた話し声が少しずつ消えていく。
何十、あるいは百を超えるほどの視線が一斉に集まった。
アマリリアは一度だけ静かに息を吸った。
怖くないわけではない。
自分がこの数日、どんな目で見られていたかも知っている。
けれど、隣にはライルがいる。
少し後ろにはルシアがいる。
三令嬢もいる。
今日は、自分一人が釈明する場ではない。
「皆様」
最初に口を開いたのはライルだった。
「昼食の時間を使わせてしまい、申し訳ない」
大声ではない。
それでも第一王子らしい落ち着いた声は、食堂の奥までよく通った。
「ここ数日、この学園で一人の生徒に対する嫌がらせが続いていた。同時に、その嫌がらせを巡って、根拠のない噂もかなり広がっている」
何人かの生徒が気まずそうに視線を交わした。
自分で噂を広げた者。
聞いただけの者。
本気で信じた者。
疑っていた者。
反応はそれぞれ違う。
「今日は、関係者本人の了承を得た上で、学園と王家が確認している事実を説明する」
ライルはそこでアマリリアを見る。
「アマリリア」
「はい」
「お願い」
アマリリアは一歩前へ出た。
「最初に、皆様が最も気になっていらっしゃるであろうことからお話しいたしましょう」
食堂中の視線を受けながら、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「私は、ルシア・メイベルさんへの嫌がらせを命じておりません。私物を隠すよう言ったことも、課題を破らせたことも、廊下で転ばせるよう指示したことも、脅迫状を送らせたこともございません」
小さなどよめきが広がった。
アマリリアはそこでカルロスへ視線を向ける。
「そして、カルロス・ムルール様への未練もございません」
先ほどとは少し違う種類のざわめきが起きた。
カルロスは微妙な顔をしたが、以前のように反射的な反論を口にすることはなかった。
「そもそも、私とカルロス様の婚約話は、私たち本人が望んで始めたものではありません」
そこでグレイアスが一歩前へ出た。
「そこは私から説明しよう」
現宰相でもあるムルール公爵本人が前へ出たことで、生徒たちの表情が一気に緊張する。
「ベスター家へ婚約を申し込んだのは私だ」
グレイアスの声には迷いがなかった。
「息子カルロスに自覚を持たせるためには、優秀な婚約者が必要だと考えた。そして、ベスター令嬢本人の意思を十分に確認せず、その能力だけを見て話を進めた」
カルロスが僅かに目を伏せる。
「これは私の判断ミスだ」
食堂が静まり返った。
宰相が大勢の生徒の前で、自分の過ちを認める。
簡単にできることではない。
「アマリリア・ベスターから、我が息子との婚約を求めた事実は一度もない」
その言葉に、何人かの令嬢が驚いて口元へ手を当てた。
「では」
誰かが小声で呟く。
「アマリリア様がカルロス様を追いかけていたという話は」
「嘘だったの?」
「じゃあ、あの噂はどこから」
アマリリアはその反応を見ながら続けた。
「恐らくですが、カルロス様ご本人の認識がかなり広まったのではないかと思います」
「アマリリア」
カルロスが苦しそうな顔をする。
「事実ですので」
「……はい」
また素直に引いた。
「カルロス様は長らく、私がご自分へ恋愛感情を抱いていると思っていらっしゃいました」
食堂の何人かがカルロスを見る。
彼の顔が少し赤くなる。
「違った」
カルロスは自分から口を開いた。
周囲の視線が一斉に集まる。
「私は勘違いしていた。アマリリアは、私を好きではなかった」
「一度も」
アマリリアが補足した。
「そこまで即答しなくても!」
「誤解防止です」
食堂のあちらこちらから笑いが漏れた。
カルロスは顔を赤くしたものの、今度も怒らなかった。
「それから」
彼は一度アマリリアを見たあと、少しだけ声を低くした。
「ルシアへの嫌がらせも、私は勝手にアマリリアがしたと思った。証拠はなかった」
笑いが消えた。
ルシアも静かにカルロスを見る。
「何度もルシアから違うと言われた。それでも、私は聞かなかった」
自分の失敗を、大勢の生徒の前で自分の口から認める。
顔は赤い。
恥ずかしいのだろう。
それでもカルロスは逃げなかった。
「だから」
アマリリアへ向き直る。
「すまなかった」
今度こそ、食堂全体が完全に静まり返った。
アマリリアも僅かに目を見開く。
「私が勝手に、君は私を好きだと思っていたこと。ルシアに嫉妬していると決めつけたこと。何を言われても聞かなかったこと。それから、王子殿下との関係まで勝手に変なふうに考えたこと」
「かなりございましたわね」
「アマリリア」
「事実です」
周囲へ小さな笑いが戻る。
カルロスは一度深く息を吸った。
「全部、謝る」
アマリリアはしばらく彼の顔を見つめた。
父の書斎で婚約話を聞かされたあの日。
まさかこの男が、大勢の前で自分の勘違いを認めて謝る日が来るとは思わなかった。
成長したと呼ぶには、まだ早いかもしれない。
けれど。
前進ではある。
「分かりました」
アマリリアは静かに答えた。
「謝罪は受け取ります」
カルロスの肩から少しだけ力が抜ける。
「ただし」
「まだあるのか」
「あります」
「……はい」
「今後、私が貴方を愛しているという前提でお話しするのは禁止です」
「分かった」
「私がルシアさんへ嫉妬しているという前提も」
「分かった」
「殿下との婚約を、失恋の反動扱いするのも」
「……分かった」
「最後だけ間がございましたわね」
「気のせいだ」
アマリリアは横のライルを見る。
「殿下」
「何だ」
「今のは聞きました?」
「聞いた」
「次があれば」
「俺も怒る」
カルロスが少し顔を引きつらせた。
「分かりました」
食堂のあちらこちらから、再び笑いが起こった。
重かった空気が、ほんの少しだけ和らいでいく。
◇◇◇
「続いて、実際にルシアさんへの嫌がらせを行った方々からお話しいただきます」
アマリリアがそう告げると、食堂の空気がもう一度変わった。
エミリア、マリーネ、ユフィナの三人がゆっくり前へ出てくる。
どの顔にも強い緊張が浮かんでいた。
足取りも軽くはない。
ルシアも、その姿を見た瞬間に少しだけ身体を強張らせた。
アマリリアは三人だけでなく、ルシアの表情も確認する。
これは。
単純に。
「被害者が加害者を許す場」
ではない。
「エミリア・ローデンです」
最初にエミリアが口を開いた。
「私たちは、ルシア・メイベルさんへ嫌がらせをしました」
食堂にざわめきが走る。
「ルシアさんの私物を別の教室へ隠しました。課題の控えを破りました。廊下で転ばせるために、小さな木の玉を転がしました」
声は震えていた。
それでも途中で逃げずに続ける。
「それから、ベスター家の家紋に似せた印が押された脅迫状を、ルシアさんの机へ入れました」
次にマリーネが口を開いた。
「食堂でルシアさんへスープがかかった件は、私たちがやったことではありません」
ユフィナも続く。
「ですが、その事故を利用して、アマリリア様が関係しているような話を広げました」
三人へ集まる視線の中には、驚きだけでなく軽蔑や怒りもあった。
当然だろう。
「どうして」
誰かの声がした。
「なぜそんなことをしたの?」
エミリアは一度目を閉じ、ゆっくり息を吸った。
「最初は、私たちの家とムルール公爵家との取引がなくなると脅されました」
グレイアスの表情が硬くなる。
「その後、家が不正取引へ関わった証拠を王家へ送るとも言われました」
生徒たちが一斉にざわつく。
「誰に?」
「匿名なの?」
「本当の話?」
「その件については」
ライルが一歩前へ出た。
「王家が現在捜査中だ。三家それぞれの疑惑については、まだ事実が確定していないため、今日ここでは詳しく説明しない」
ざわめきが少しずつ収まっていく。
「ただし、三人が脅迫を受けていたこと自体は確認されている」
学年主任も続けて頷いた。
「学園側でも証拠を確認しております」
エミリアは泣きそうな顔をしながらも、もう一度口を開いた。
「でも、脅されたからといって、私たちがしたことがなくなるわけではありません」
ルシアの表情が少し揺れる。
「私物を隠したのも、紙を破いたのも、転ばせようとしたのも私たちです」
マリーネも続けた。
「怖かったから、自分の家を守りたかったから。それでも、ルシアさんを怖がらせていい理由にはなりませんでした」
ユフィナも涙を浮かべながら頷く。
「本当に申し訳ありません」
三人は揃ってルシアへ深く頭を下げた。
食堂が静かになる。
誰もすぐには声を出さなかった。
ルシアも三人を見つめたまま、すぐには答えなかった。
怖かった。
今だって全部平気になったわけではない。
机の中を見るとき。
廊下を歩くとき。
階段を下りるとき。
きっと。
まだ。
思い出す。
「私は」
ルシアがようやく口を開いた。
「まだ、全部許せるか分かりません」
三人の肩が僅かに下がる。
「怖かったです。机を見るのも、廊下を歩くのも、階段を降りるのも。今も少し怖いです」
食堂の生徒たちは静かに聞いていた。
「だから、今すぐ『もう大丈夫です』とは言えません」
「……はい」
エミリアが小さく答える。
「でも」
ルシアは三人を見た。
「脅されていたことまで、嘘にしたくありません」
アマリリアの目が少し柔らかくなる。
「皆さんがしたことは本当です。でも、誰かに利用されていたことも本当です」
ルシアは唇を僅かに噛み、一度呼吸を整えた。
「だから、謝ってくれたことは受け取ります」
三人の目に涙が溜まる。
「ありがとうございます」
「でも」
ルシアはもう一度、はっきり言った。
「すぐに仲良くできるかは分かりません」
「はい」
エミリアは泣きながら頷いた。
「それでいいです」
そのやり取りを、多くの生徒が黙って見ていた。
悪い人。
良い人。
簡単にどちらかへ分けられる話ではない。
三人がしたことには責任がある。
同時に、彼女たち自身が脅迫されていたことも事実だった。
そして。
ルシアには。
その両方を理解したからといって、今すぐ許す義務などない。
◇◇◇
「そして、もう一つ皆様へお見せしたいものがございます」
アマリリアが再び前へ出ると、ディーンが後方から一冊の冊子を持ってきた。
原本ではない。
証拠保全のため王宮で作成した写しである。
「これは、旧採石場から押収されたものです」
何人かの生徒が興味深そうに身を乗り出した。
「この中には、今日、この場所で起こるはずだった騒動の筋書きが書かれております」
食堂のざわめきが一気に大きくなった。
「筋書き?」
「今日?」
「どういうこと?」
アマリリアは最初の頁を開いた。
「最初の項目です。『学園食堂。昼休み。カルロス・ムルールがルシアを伴い中央へ』」
カルロスの顔が少し固まる。
「続いて、『アマリリア・ベスターへ公開婚約破棄を宣言』」
食堂が一瞬静まり返った。
次の瞬間。
多くの生徒が。
ほぼ同時に。
カルロスを見る。
アマリリアも見る。
ライルも見る。
グレイアスは静かに目を閉じた。
「……」
カルロスの顔が見る見る赤くなる。
「カルロス様」
アマリリアがにこやかに呼びかける。
「何だ」
「先ほど」
「言うな」
「私、まだ何も」
「絶対言うつもりだった」
「まあ」
周囲から笑いが漏れた。
「では続きを」
アマリリアは頁をめくる。
「『三令嬢が順番に前へ出て、アマリリアに命じられたと証言』」
三令嬢の表情が苦くなる。
「『ルシアを被害者としてカルロスが庇う』」
ルシアがカルロスを見ると、彼は気まずそうに視線を逸らした。
「『周囲の生徒はアマリリアを非難』」
今度は何人かの生徒が気まずそうに目を伏せる。
噂を信じた者も。
広げた者も。
ここにいる。
「そして」
アマリリアの声が少しだけ低くなる。
「最終目的です」
一度頁へ視線を落としたあと、はっきり読み上げる。
「『アマリリア・ベスターの王家婚約者としての信用を失墜させる』」
食堂の空気が変わった。
恋愛。
嫉妬。
嫌がらせ。
そこまでの話だと思っていた者も多かったのだろう。
けれど。
実際には。
王家の婚約者としての信用を意図的に失わせるところまで考えられていた。
「これは」
学園長が補足した。
「王家と学園双方で原本を確認済みです」
「では」
どこかから声が上がる。
「全部仕組まれていたのですか?」
アマリリアはゆっくり首を振った。
「全部ではございません」
そして、カルロスを見る。
「カルロス様の思い込みは、ご本人のものです」
「アマリリア!」
食堂へ笑いが広がる。
「重要な点ですので」
「もう分かった!」
「本当に?」
「分かった!」
ライルまで少し笑っている。
アマリリアは満足そうに頷いたあと、再び真面目な声へ戻った。
「ただ、その思い込みを利用されたのです。私がカルロス様を愛していると思い込ませる必要はありませんでした。既にご本人がそう信じていらしたからです」
カルロスは何も言えない。
「ルシアさんへ嫉妬していると思わせることも難しくありませんでした。カルロス様が、その可能性を最初から信じていたから」
アマリリアは一度言葉を切った。
「そして誰かが、私を悪役へ仕立てるための情報を与えれば、それを信じて大勢の前で私を責める。そういう計画だったようです」
カルロスは静かに目を伏せた。
アマリリアは冊子を閉じる。
「実際には、この台本の通りにはなりませんでした」
「最初以外は」
ライルが小さく付け足した。
食堂の前方にいた生徒が吹き出す。
「殿下」
「事実だろう」
「確かに」
アマリリアはカルロスを見る。
「なぜ台本をご存じないのに、冒頭だけ完璧に再現なさったのです?」
「私は誤解を解こうとしただけで」
「結果として増えました」
「……すまない」
「謝罪が早くなりましたわね」
「そこは褒めてくれ」
「まあ」
アマリリアは少し笑った。
「成長ですわね」
カルロスは少し照れたように視線を逸らした。
その後ろでグレイアスは息子を見ながら、ほんの僅かに目を細めていた。
ほんの少し。
ようやく。
前へ進み始めている。
◇◇◇
説明はそこで終わりではなかった。
学年主任からは、三令嬢について学園として正式な処分を検討すること、同時に彼女たちが受けた脅迫については別の問題として王家と連携し調査を進めることが説明された。
ベルド・カシアンとハインツ・ローマンが拘束されていることも、生徒へ話せる範囲で伝えられた。ただしルシアとの血縁関係、三家の不正疑惑、捜査中の詳細などは一切伏せられている。
それでも十分だった。
少なくとも。
「アマリリアがルシアを嫉妬から虐めている」
その噂の根は、大きく折れた。
「では、アマリリア様は本当に何もしていなかったの?」
「少なくとも嫌がらせには関わってないって」
「三人も、本人から命じられたわけじゃないんでしょう?」
「カルロス様も謝ったし」
「それより」
別の声が上がる。
「第一王子殿下との婚約は?」
今度は違う意味でざわめきが広がった。
アマリリアの表情が少し変わる。
ライルもすぐに気づいた。
「殿下」
「何だ」
「来ましたわ」
「何が」
「本日の第二部」
「聞いてない」
ライルが少し嫌そうな顔をした。
そのとき、食堂の一角から一人の令嬢が勇気を振り絞るように手を上げる。
「質問してもよろしいでしょうか!」
学年主任がライルを見る。
ライルは僅かにため息をついたあと、頷いた。
「どうぞ」
「アマリリア様と第一王子殿下は、本当に婚約されるのですか?」
食堂が静まり返った。
どうやらほぼ全員が。
これも。
かなり。
気になるらしい。
アマリリアはライルを見る。
ライルもアマリリアを見る。
「どうします?」
「君に任せる」
「逃げました?」
「違う」
「では」
アマリリアは生徒たちへ向き直った。
「正式な発表は王家から行われますので、私の口から詳細を先に申し上げることは控えます」
何人かの生徒が露骨に残念そうな顔をした。
「ですが」
アマリリアは少しだけ笑った。
「殿下との婚約を望んでいるかと聞かれれば」
ライルの表情が少し固まる。
「ええ。私は望んでおります」
食堂が一気にざわついた。
「やっぱり!」
「本当に!?」
「では!」
ライルの耳が赤くなる。
「アマリリア」
「何です?」
「もう少しぼかすとか」
「嘘はついておりません」
「そうだけど」
「殿下は嫌です?」
「嫌なわけないだろ」
即答だった。
今度は食堂全体から声が上がる。
「きゃっ!」
「今!」
「殿下!」
「聞いた!?」
令嬢たちは完全に色めき立ち、男子生徒まで面白そうに笑っている。
ライルは言ってから自分の失言に気づいた。
「……」
アマリリアの口元がゆっくり上がる。
「殿下」
「何も言うな」
「私はまだ」
「絶対言う」
「では一言だけ」
「駄目」
「可愛いですわ」
「やっぱり!」
食堂へ笑いが広がった。
数日前まで。
この場所は。
アマリリアにとって。
自分を見ながら誰かが噂をする。
少し息苦しい場所になりかけていた。
けれど、今は少し違う。
もちろん全員が一度の説明だけで完全に考えを変えるわけではないだろう。
噂というものは、一度広がればすぐには消えない。
それでも。
本人のいない場所で好き勝手に作られた話しか知らなかった者たちが、ようやく本人たちの言葉を聞いた。
それだけでも。
十分に。
意味がある。
◇◇◇
説明が終わり、生徒たちが少しずつ昼食へ戻り始めても、食堂のざわめきはなかなか収まらなかった。
けれど。
内容は。
明らかに。
変わっている。
「アマリリア様がルシアさんを虐めたっていうのは違ったのね」
「台本まで用意されていたなんて」
「カルロス様も利用されていたのか」
「でも、自分の勘違いもあったって認めていたわよ」
「三人も脅されていたけど、処分は受けるのね」
「ルシアさん、ちゃんと『まだ許せない』って言っていたね」
そして。
「第一王子殿下、本当にアマリリア様のことがお好きなのね」
「そこが一番はっきりした気がする」
「本人が『嫌なわけない』って」
「聞いたわ」
ライルはそれを耳にして顔を覆った。
「最悪だ」
「何がです?」
アマリリアは楽しそうだった。
「一番広めたくないところが一番広がってる」
「私は嬉しいですわ」
「君はそうだろうな!」
その近くではルシアまで笑っている。
「殿下」
「ルシア嬢まで笑う?」
「すみません」
「絶対あまり悪いと思ってない」
「少しだけ」
「アマリリアに似てきた」
「まあ」
アマリリアは嬉しそうにルシアを見る。
「光栄ですわね」
「そこは否定して!」
少し離れた場所では、グレイアスとカルロスが並んで立っていた。
「父上」
「何だ」
「私はかなり恥ずかしいです」
「だろうな」
「皆の前で自分の勘違いを全部」
「自分で認めた」
「はい」
「だが」
グレイアスは息子を見る。
「逃げなかった」
カルロスが少し驚いた。
「それは」
「数日前のお前なら、自分が騙されたことすら誰かのせいにしたかもしれない」
カルロスは何も言えなかった。
否定できない。
「今日は、自分の失敗を自分で言った」
グレイアスの声がほんの少し柔らかくなる。
「少しだけ前進だ」
カルロスは目を伏せた。
「父上」
「何だ」
「褒めました?」
「少しだけ」
カルロスの口元が僅かに緩んだ。
「ありがとうございます」
「調子に乗るな」
「はい」
そこへルシアが歩いてきた。
「カルロス様」
カルロスの顔へ緊張が戻る。
「ルシア」
「先ほどは、ありがとうございました」
「何が?」
「皆さんの前で、アマリリア様へ謝ったことです」
カルロスは少し顔を赤くした。
「言った方がいいと思った」
「はい」
「君に言われたから」
「私が言わなかったら?」
「……」
カルロスは少し考えた。
「父上に言われたと思う」
ルシアが笑う。
「そこは、自分からと言ってください」
「次から努力する」
「また努力」
「……自分からやる」
「はい」
ルシアの表情が少し柔らかくなった。
けれど。
二人の距離は。
まだ。
少し空いている。
カルロスも今は、それを無理に詰めようとはしなかった。
「ルシア」
「何です?」
「距離を置く話」
「はい」
「覚えてる」
カルロスの顔に、少しだけ寂しさが滲んだ。
「だから、今日はもう話しかけない方がいい?」
ルシアは少し驚いた。
以前のカルロスなら。
自分が話したければ。
話していた。
相手がどう思うか。
後から。
考えていた。
「いえ」
ルシアは少しだけ考える。
「今くらいなら」
「今くらい?」
「必要なことを、普通にお話しするくらいなら」
「分かった」
カルロスは少し嬉しそうにした。
でも。
近づかない。
「では」
「はい」
「また」
「また」
それくらい。
今の二人には。
ちょうどいい。
◇◇◇
昼休みの終わりを告げる鐘が近づき、生徒たちが少しずつ食堂から教室へ戻り始める。
アマリリアは最後まで残っていた学年主任へ挨拶を済ませ、ライルと並んで出口へ向かった。
「終わりましたわね」
「ああ」
「思ったより穏やかでした」
「冒頭以外は」
「殿下」
「何だ」
「カルロス様のあれ」
「ああ」
「本当に何も教えていなかったのですよね?」
「何回確認するんだ」
「不思議すぎまして」
「俺も不思議だ」
後ろからグレイアスの重いため息が聞こえた。
「私もです」
三人は一瞬顔を見合わせ、思わず笑った。
食堂の扉を出たところで、ライルが足を止める。
「アマリリア」
「何でしょう」
「怖かった?」
朝と同じ質問だった。
アマリリアは少しだけ食堂を振り返った。
大勢の人間が自分を見る。
自分に関する噂を。
自分の口で。
否定する。
怖くないわけがない。
「少し」
「うん」
「でも、終わりました」
「ああ」
「殿下が隣にいてくださいましたので」
ライルの表情が柔らかくなる。
「役に立った?」
「かなり」
「ならよかった」
「それから」
「何だ」
「皆様の前で『嫌なわけない』と」
「忘れろ」
「嫌です」
「だと思った!」
アマリリアは笑った。
「一生覚えておきます」
「やめてくれ」
「婚約後も?」
「特に婚約後は!」
「では結婚後も」
「話を飛ばすな!」
ライルの声が廊下へ響いた。
近くを歩いていた生徒たちが思わず振り返る。
けれど今度は。
誰も。
アマリリアを。
ルシアへ嫉妬して嫌がらせをする悪役令嬢として見るような顔はしていない。
少なくとも。
先ほどまでとは。
確かに。
違う。
アマリリアはその変化を感じながら、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。
もちろん。
これで全部終わったわけではない。
ベルドとの対面を望んでいるルシアのこと。
三令嬢と、その家への処分。
ベルドとハインツの罪。
カルロスの更生。
そして。
自分とライルの正式婚約。
まだ、やることはいくらでも残っている。
「殿下」
「何だ」
「次は」
アマリリアが言いかけたところで、廊下の向こうから王宮の侍女が急ぎ足で近づいてきた。
セレーネ付きの侍女である。
「第一王子殿下! アマリリア様!」
「何?」
侍女は二人の前で足を止め、一度呼吸を整えてから一通の封書を差し出した。
「王妃陛下より至急です」
ライルの表情に、明らかな嫌な予感が浮かぶ。
「母上?」
「はい」
封書を開く。
そこには。
『学園の件が終わったら、すぐ戻ってきなさい』
そして、その下。
『婚約披露の日取りを決めます』
ライルはしばらく黙った。
アマリリアは横から内容を読み、すぐに笑う。
「殿下」
「何だ」
「次は逃げられませんわね」
「君は何で嬉しそうなんだ」
「婚約ですもの」
「君の話でもあるんだぞ」
「ですから嬉しいのです」
ライルは封書とアマリリアを交互に見たあと、深くため息をついた。
「学園の騒ぎが終わったと思ったら、今度は母上か」
「平和ですわね」
「これを平和と言える君が怖い」
「失礼です」
それでも。
二人は。
自然に。
並んで歩き出した。
食堂で悪役令嬢として断罪されるはずだった日。
実際に失われたのは、アマリリアの評判ではない。
誰かが勝手に作った筋書きの方だった。
押し付けられた婚約から逃げるため。
第一王子を脅して。
無理やり婚約者にして。
最初は。
用が済めば。
婚約破棄する。
そういう話だった。
けれど。
次に待っているのは。
誰かに決められた婚約ではない。
アマリリアが自分で選び。
ライルも自分で選んだ。
本当の婚約だった。




