ターミナル。
ミオのおじいちゃんのお葬式が終わった。
私たちは、ハイドの運転する車に乗せてもらい、家まで戻った。
到着する頃には、もう夜だった。
ミオの両親が晩御飯も作ってくれた。
「さて、行くか……」
レインは、窓から見える夜空を見上げていた。
「……もう行っちゃうの?」
ミオが、私たちを見た。
「うん」
「……そっか。でも、きっと、また会えるよね」
ミオは囁いた。
「きっと、会えるよ。またね」
「うん。またね!」
ミオは、おじいちゃんから貰った望遠鏡を抱きしめていた。
ミオたちに見送られ、私たちは家を出た。
夕食の香りが外にも広がっていた。
ミオと別れた後、レインに導かれ、どこかに向かっていた。
汽車に乗る前に、別に行くところがあるらしい。
「すごく、短い旅だったね……」
ナナシは、ぼんやりと灯る街灯を見上げていた。
「うん。でも、たのしかった」
「そうだね。私も、すごく、いいものを見せてもらったなあ……。お兄さんの気持ちが分かった気がする……」
街を出ると、白銀の大地に出た。
針葉樹の森に入って、静かな暗闇を登っていく。
「いやぁ、しんどいなあ……」
ナナシが弱音を吐くように零す。
その息は真っ白だった。
レインが、道を間違えていたせいで何度か同じ場所を行き来していた。
段々、冷たい外気が身体を冷やしていく。
誰もいない針葉樹を登っていく。
空を見上げると、生い茂る真っ暗な葉と葉の隙間から光が漏れ出していた。
深い森を抜けた。
「着いたぞ……」
視界が開けた。
月陰に照らされた雲海が広がっていた。
「もうすぐだ……」
それだけでも、十分なのに、レインには、まだ何か別に見せたいものがあるらしい。
レインがじっと、黒い瞳で空を眺めている。
やがて、その瞳に緑の絵の具を垂らしたような光が写る。
空を見上げた。
オーロラだった。
カーテンみたいな形を広げ、真っ黒な空を、緑色に染めていく。
見下ろす薄い雲にも、その色がかかる。
「……にしても、レイン、よくわかったね」
ナナシが、寒さを忘れるように、空を見上げながら言った。
「たまたまだな……」
「えっ?たまたまって、もし見れなかったらどうしてたの?」
「また見にこればいい」
「うん。私もそう思うよ」
私たちは、神様が空に落書きしたみたいな夜空を見上げた。
長いようで、短い時間だった。
白い息に、冷えた身体のことなんて、みんな忘れていた。
オーロラが薄れ、その余韻に世界が照らされている時だった。
空から、流れ星みたいに、二両の汽車が降ってきた。
「それじゃあ、お迎えだ……」
一つは、私たちが乗ってきたもの。
もう一つは、なんだか目新しい汽車だった。
私たちが乗っていた汽車は、路線がはるか上空の夜空に続き、もう一つは、山の麓まで伸びていた。
「あれ?二両?」
寂しい予感がした。
「……悲しいな、もっと一緒にいたかったんだけど」
ナナシが言った。
「でもでもっ、私たちはまた、きっと、きっといつか会えるから……。適当に言ってるんじゃないよ……。勿論、ここで言う適当はいい加減って意味じゃなくて、適切って意味だから、注意してね」
ナナシの瞳が輝いて見えた。
「二人と冒険出来て、楽しかった。ありがとう、レイン、シラちゃん」
「うん。私も。ナナシと一緒にいれて、楽しかったよ」
「ああ」
それぞれが、乗るべき汽車に乗った。
汽車に乗ると、レインと私しかいない。
まるで、初めてレインと会った時みたいな静けさだった。
「わかれるのは、辛いよな……」
レインが静かに言った。
「うん……寂しい」
汽車は汽笛を鳴らす。
空を超え果てしなく進んでいく。
「ターミナルだ……」
レインの声は、月明かりみたいだった。
もう、ここにいないみたいだ。
ぽつぽつ。
頬から、涙が流れ落ちた。
「ねぇ、レイン……。私、レインとこの汽車で会えたね」
「ああ」
「フレンダに会って、シラって名前、つけてもらった……」
「……」
「それから、海でアリスとイグに会った。海がきれいだった……」
「……」
「都会でナナシに会った」
「……」
「カインとルナに会って、本当の、お母さんと、お父さんを思い出した」
「ミオに会った。夜空を教えてくれた……」
「私、みんなに会えて、旅が出来て、楽しかった」
レインの人形を見て、笑った。
汽車の線路を踏む音が聞こえる。
汽笛を鳴らすと、速度を上げる。
遥か上空を抜け、大気圏をも超え、宇宙へと向かう勢いだった。
これでもう、本当に最後だ。
薄っすらとあたりが白みがかる。
きっと、旅も終わりだ。
「私、わたしっ、もっと、レインと一緒にいたいよっ」
涙が零れ落ち、窓から夜空に落ちていく。
私みたいな、罪人には幸せすぎる望みなのはわかっていた。
それでも、やっぱり、いたかった。
私の頬に、ふわふわの手が、触れた。
「最後なんだから、泣くな……」
レインが、そう言った気がした。
やがて、汽車は暖かな光の中へ突入する。
視界が、だんだん光に包まれ、ぼんやりとしてくる。
眩しい光の中で、最後まで、レインとつないだ手の感覚が残っていた。
温かい座席には、レインの人形だけが置いてあった。
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あと少し、旅にお付き合いいただけると幸いです。




