流れ星
お葬式は、雪山の頂上で行うらしい。
そこは、ミオのおじいちゃんの故郷でもあるそうだ。
頂上まではハイドが車で連れて行ってくれる。
望遠鏡を後部の荷物スペースに置き、私たちは車に乗り込んだ。
助手席にはロザリオが座っている。
後部座席は、私を真ん中に、脇にミオとナナシが乗っていた。
レインを私の膝元に抱えた。
「ナナシ……大丈夫?」
「どうかしたかい?」
ハイドはナナシが映るよう、ルームミラーを動かした。
そこには、顔色が真っ青なナナシがいた。
「目が、回ってるだけ……です。だから、大丈夫……」
「じゃ、じゃあ、私、熱いから窓、開けるよ」
まだ幼いはずのミオが気を利かせるようにして窓を開けた。
雪山の空気が、車内に籠った熱をさらっていった。
その風にレインがさらわれてしまわないように、私は両手で抱えた。
「悪いな……」
「いいよ。それに……こうしてると、あったかいから」
外はすでに太陽が沈み、ヘッドライトなしでは前が見えなくなっていた。
気がつけば、ミオとナナシは眠っていた。
ちらちらと雪が降ってきた。
腕を伸ばし、少しだけ空いていた窓を閉める。
窓を閉めると、車内があったかくなってきた。
眠たくなってきた。
レインを離さないように握っていたが、その手が緩まり、ほどけた。
ロザリオが、羽毛布団を後部座席にかぶせた。
眠りの向こうで、ハイドとロザリオが話した気がする。
でも、それはもしかしたら、夢かもしれない。
「ねぇ、ハイド……。あの子にお姉ちゃんがいたら、あんな感じなのかしらね?」
「そうかもね……。みんな、死んだら何になるんだろうね」
「そうね、きっと、あの子も、お父さんも、流れ星になってるんじゃないかしら」
「それ、いいね……」
夜。
月光に触れて目が覚めた。
「あ……おはよう。ごめんね、道に雪が積もってしまっていて、遅くなってしまったよ」
ハイドの声は掠れていて、目が細くなっていた。
「ううん」
ハイドに向かって、ありがとうございます、と深くお辞儀した。
「おはようシラお姉ちゃん」
「うん、おはよう」
「もう着いてるんだ。じゃあ、行こう!ほら、ナナシも起きて!」
「う~ん……、分かったよぉ……」
「アハハ……。ごめんね、ナナシちゃん」
ロザリオが、申し訳なさそうに言う。
「いいですよ……。しっかり、してていいじゃ、ないですか」
舌足らずになりながらナナシは起き上がった。
だいぶん、車酔いが良くなったように見えて、安心した。
「全く、誰に似たことやら……」
ロザリオは、困ったように呟いた。
白銀の大地に足を下ろした。
山の頂上は空気が薄く感じる。
けれど、その空気は澄んでいた。
そんな雪の大地には小さな三角屋根の民家があった。
少し離れた所には厳かな教会があった。
全体を白く塗り、どことなく人を寄せ付けないような神聖な雰囲気がしていた。
私はミオと一緒に望遠鏡を取り出す。
「よし、あの教会まで行くよ!」
ミオは白い息を吐きながらも、足取りは軽かった。
ザクザクと降り積もった雪を解すようにして歩く。
靴越しに、ひんやりとした感触がする。
ミオは歩く先に見える教会を見つめた。
足元の雪は、古風なガス灯に触れて薄明るいオレンジ色に照る。
「……わたしね」
ミオは静かに言った。
「みんなの前では泣かずに、しっかりしなくちゃって思ってるんだ……。私はひとりっ子だから」
ガス灯の柔らかな光の外には、静かな陰がちらついている。
ミオは自分の感情を飲み込むように空を仰いだ。
夜空を切るようにして、一筋の光が流れた。
「本当なら、私にはお姉ちゃんがいたの……。でも、いなくて流れ星になっちゃったんだって……」
「そっか。だから、ミオちゃんはしっかりしてるんだね」
ナナシがそう言うと、ミオは黙って頷いた。
「お姉ちゃんが流れ星になったのは、誰から教えてもらったの?」
ナナシはミオに聞く。
「おじいちゃんだよ」
「優しいおじいちゃんだね。その考え方、私も取り入れるよ」
「おじいちゃんが褒められると、なんだか、私、嬉しいな」
ミオは嬉しそうに囁いた。
「……私にも、そんな家族が欲しかったな」
家族が褒められて喜ぶミオを前に、ナナシは視線を逸らした。
ただ、何も言わずに星空を眺めていた。
私はナナシの手を握った。
その手は、細くて、冷たかった。




