雪
「うん。だからお葬式の日は、一緒に星空を見に行こう」
私は天井の天体模型を指した。
ミオは頷いた。
「私ね、おじいちゃんと一緒に、望遠鏡で星空を見る約束をしてたんだ」
泣き止んだミオは、星のように輝く瞳を私に向けた。
「よかったらだけどね、一緒に見てほしいな。すっごく綺麗に見えるから」
「うん。ありがとう。楽しみにしてる」
私がそう言うと、ミオは嬉しそうな表情を見せた。
ミオは朝食を食べ終えると、リビングへ降りて行った。
「お父さん、お母さん、私、やっぱり行くよ」
「あら。急にどうしたの?」
ロザリオはミオの潤った瞳を見つめた。
「やっぱり、最後に会いたいって思ったんだ」
ミオがそう言うとロザリオはミオを抱きしめた。
「……ありがとう。来るって、言ってくれて」
「うん。ごめんなさい。お父さんも心配かけて」
ハイドは整理していた書類を置いて、ミオの元へ寄った。
「よかった。その方が、きっと、おじいちゃんも嬉しいはずだよ。ありがとう、ミオ」
空いた手で、ミオの頭を撫でた。
両親の愛を受けるミオを見て、胸が温かくなる気がした。
レインとナナシにも、ミオのことを話したかったが、どこにも見当たらなかった。
両親に、どこにいるのか聞いてみたら、二人で外に出ていることがわかった。
どうして二人が外に出たのか。
今のミオたちの様子を見ているとわかる気がした。
だから、そっと外へ出た。
昨日の降り積もった雪が、白銀の大地を深くしていた。
乾いた風が、雪の寒さを含んで吹いてくる。
深く息を吸ってみると、肺まで冷やされるようだった。
「やっぱり、寒い……」
目の前には、壮大な白化粧をした山が見えていた。
ずっと、変わらずにあるその山をもう少し近くで見上げたいと思った。
ザクザクと音が響く。
歩いた足跡が残る。
針葉樹が見えてきた。
そこに入って、少し歩くと、大きな山がよく見えるところへ出た。
「ん、なんだ?シラも来てたのか」
そこにいた。
「レイン?」
「ああ」
「ナナシに頼んでな。まあ、ナナシは『郷愁を誘う人じゃない。場は弁える』って言って帰ったが……」
あとは『寒いの嫌いだから』と言っていたらしい。
ここには誰もいないと思っていた。
少し驚いたが、嬉しかった。
一人だと、寒かったから。
「考えていることはあまり変わらないかもな」
「そうかもしれないね……」
レインの座っていた切り株に腰を下ろし、山を見上げる。
「……レイン」
「どうかしたか?」
「レインは何が心残りだったの?」
雄大な山を一緒に見上げているとわかる。
もっと長くいたかった。
そして。
レインの隣にいられるような人になりたかった。
「……俺は」
言いかけたところで雪風が吹き付けた。
針葉樹にたまった粉雪が降ってくる。
レインの言葉は、粉雪のように消えてしまった。
レインはふわふわの手で、雪をはらった。
その柔らかい手が触れると、もう聞かなくていい気がした。
「……ありがとう」
「まだ、雪は嫌いか?」
「どうして?」
「俺は嫌いじゃない」
レインは、雪が降り注ぐように静かに呟いた。
「わ、たしは」
白い息がこぼれた。
思い出すと、寒くなる。
雪の日に家族を失った。
レインを失った。
寒いのは嫌いだった。
「雪が降ってたから、お前に気がつけた。だから、悪い気はしない」
でも、雪の日に、レインと出会えた。
「私も、嫌いじゃなくなった」
「そうか。よかったよ」
レインの隣で、過ぎ去る時間のなか、様々な記憶を辿っていた。
過去に始まり、この旅で出会えた人や景色を思い出す。
またみんなに会いたいと思った。
まだ行ったことない景色や、人に会いに行きたい。
勿論、ナナシとレインも一緒に。
「そろそろ行くか」
「うん……」
肩の上にレインを乗せ、来た道を戻った。
肩に乗せたレインが、ほんの少し、軽く感じられた。




