表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/45

レイン

冒頭部分、本編に不要なメモを消し忘れていたため、削除いたしました。


 ハイドは眉間に皺を寄せながら笑った。

 

「……ありがとう。その、お礼になるかはわからないけれど、夕飯、食べていってほしいんだ」


 ハイドはその不自然な笑顔のまま提案した。


「うん。食べたい」


「うん。よかったよ。美味しいものを作るから、先にお風呂に入っておいで」


 両親の気遣いは、優しくて、懐かしい気がした。


 早速、お風呂に入った。

 鏡に写る自分を初めて意識した。


 腹部には、銃で撃たれたような跡があった。

 その傷に触れる。

 ぶるっと、身体が震えた。


 はやく湯船に浸かろう。


 お風呂から上がり、用意されたパジャマを借り、ドライヤーで髪を乾かす。


「お風呂、ありがとう」


「いいのよ。これくらいは」


 ロザリオはハイドの作った料理をせっせと机に運んでいた。


「遠慮せずに食べなよ」


 食卓につくと、ハイドは嬉しそうに私たちを見ていた。


 ナナシとレインはミオの両親と話していた。


「……」


 私は、ただ、食卓に座って皿に盛られた料理を眺めていた。


 私が、こんなにも美味しそうなものを食べてもいいのだろうか。


「シラちゃんも、遠慮しないでね!私たちは甘えてくれる方が嬉しいんだから」


 皿を見ていた私に向かってロザリオが私微笑んだ。



 まるで、親といるみたいだった。


「うん。やっぱり、私も食べたい」


 そう言った後も、手を尽くしてもらった。

 ミオの両親は、そうして満たされているようだった。


 夕食後は、レインとナナシの三人で空き部屋に入った。


「シラちゃん。明日はお願いするね……」


 ナナシは寒さに晒された疲労が蓄積したようだった。

 やがて、まぶたを落としていくと、早々に眠ってしまった。


「ああ。シラ。明日はよろしくな」


 レインは瞬きをすることもなく、窓から見える吹雪を見ていた。


「……寝れないの?」


「いいや。寝ないだけだ……。何があるかわからないからな」


 いいからさっさと寝ろ、と言われるので、私も布団で目を閉じた。

 

 だが、一人で起きているレインを考えると、また、いなくなってしまいそうで、なかなか寝付けなかった。


 それでも、レインをじっと見ていると、抗えない眠気がやってくる。

 次第に、視界はぼやけ、眠りに落ちた。


 鉄のにおいがする。

 建物が倒壊していた。


 夢だ。


「う……うう……」


 砂埃の舞う、崩壊した建物に、少女がいた。


 今ならはっきりとわかる。

 その少女は昔の私だ。


「無事か……?」


「う、うん……」


「ああ……よかった。運よく隙間ができたな……」


 暗くてよくは見えないが、男は私を庇うように覆っていた。


「悪い……ナイフ、貸してくれ」


「うん」


「目、閉じとけよ……あと、耳も……」


 言われるがままに目と耳を塞いでいた。


「もういいぞ……。ここの瓦礫の、隙間から出れそうだな……」


 今は、視界が真っ暗で見えないけれど、その瓦礫の隙間から逃げられるみたいだった。

 男は暗い瓦礫をゆっくりと進んでいた。


「もう出れるぞ」


「う、うん」


 事態を飲み込めないまま瓦礫から脱出した。

 そこは見通しの悪い路地だった。


「え……あ」


 言葉を発せなくなっていた。


 なぜなら。


 男の片足がなくなっていたからだ。


「今はいい……。路地に隠れながら行くぞ」


 事態が飲み込めない。


ーードンッ!


 更に追い打ちをかけるように発砲する音がする。


 音に遅れ、鈍い痛みがやってきた。

 私の服から血が滲んでくる。


 男は焦ったように、崩れる私を掴もうとしていた。

 

「現場。たった今、連続殺人犯を……」


 無線の声が、耳に刺さる。

 それが誰のことかは私がよく知っている。


 男は私の手を掴み、路地裏に駆け込んだ。


 痛みに気を失いそうになる。


 視界が黒くなった。


ーー再び視界が色を取り戻した時、そこは、武装した警察が蠢く、雪景色を見下ろせる時計台の上だった。


 そこに、死にそうな男と私はいた。


 ここで、私がこの世界に来て、初めて見た夢につながった。


「もう……いい……だろ、行け……」

 

「いや、だよ……」


 私の目から溶けた雪がこぼれ落ちていた。


「いやだ……。いやだっ」


――嫌だよッ!レインッ!


 確かに、私はそう言っていた。


 夢で見た男の顔が見えた。


 黒い髪の男だった。


 いつも、面倒くさそうに言うのに、よく私をみてくれていた。


 間違えない。


 ずっと一緒にいてくれたレインだ。


 ここから先は、最初に見た夢の続きだった。


 私は走っていた。


 レインを置いて行った景色は、真っ白で、冷たい色をしていた。

 振り返りそうになっても、前を向いた。


 レインなら、後からでも来てくれると、思い込んだ。


 それから後のこと。

 私は言われた通り、走った。

 走り切った。

 レインの言っていた屋敷に到着すると意識を失った。


ーー目を覚ますと、ベッドの上にいた。


「……」


 ベッドには、カーテンが吊るされ、外から見えないようになっていた。


「……お目覚めになられましたか?」


 見知らぬメイドがそこにいた。

 メイドは俯いていた。


「貴女のことはレイン様から伺っております」


「……」


 私はメイドの話を黙って聞くと、向かおうとした。


「どちらに行かれるのですか?」


 メイドは静かにお茶を注ぎながら言った。

 よく見ると、メイドの手は震えていた。


「レイン、のところへ……」


「……その傷で、ですか?」


「うん……」


「そうで御座いますか……」


 似ていますわね……、と亡き人を憂うようにメイドは言った。


「ですが……わたくしもメイドで御座います。貴女の命はお守りせねばなりません……それに……」


 お茶を注ぐ手が止まった。


 沈黙の後、メイドは告げた。


ーーレイン様はもういません……。


 鋭く、重たく、拒絶したくなるようなその言葉が広い空間に広がった。


「……」


 私は、わかっていた。

 わかっていたけれど、いざ、口にされるとどうしようもない絶望に心が壊れた。


 レインはもういない。


 綺麗な山や大きな都市、海という場所を一緒に見たかった。


 色んな人と会って、知りたかった。


 もっと、レインと一緒にいたかった。


 でも、もう叶わない。


 屋敷のベッドの横には、車掌の帽子を被った猫の人形がいた。


 私はその人形に触れていた。


 ふわふわとしていた。

 

 気がつけば、人形を抱きしめていた。


ーーもう、これしかなかった。


 呼びかけても、レインみたいに返事はしてくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ