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空のほうへ


 お茶を飲み終えると、私も二人のいる暖炉に向かった。


 パキッパキッ……


 真っ赤に燃える木材。

 やがて朽ちて、灰になる。


 燃えて、崩れゆくそれを眺めていた。


「ねえ、レイン……」


「まずは降ろしてくれないか?」


 逆さ向きのレインが言った。


「そうだね。もう、乾いているだろうし」


 干されていたレインを肩の上に乗せた。

 ほどよく暖炉の熱を含んでいて、温かかった。


「それで、なんだ?」


「……私、ミオと、おじいちゃんのために何かしたい」


「……」


 レインは暖炉の火に目をやる。


 本当は、わかってた。


「でも、自分がやっていいのか、だろ?」


 レインは私の肩から降りると、ナナシの肩に飛び移った。


「……うん」


「もう、お前は自分で考えれるだろ?」


 距離を置いた位置。

 私の目を見た。

 そこには、暖炉の火みたいに揺れる私の瞳が覗いて見えた。


「なあ、ナナシ」


「うん。その通りだよ。もう、シラちゃんは自分で選択できるはずだよ」


 暖炉の中、真っ赤に光る粉が宙に舞っては消えていく。

 それでも、暖炉は燃えている。


「私。ミオとおじいちゃんが約束した望遠鏡をもう一度、夜空へ向けたい」


 悩むことをやめた。


 言い切った。


「……ちゃんと、自分と対話したんだね」


 ナナシの手が頭に触れる。


「大きくなったね」


 ナナシはレインに向かって、燃える木のように小さな声で囁いた。


「ああ。なんか、少し寂しいがな」


 レインの声は、消えゆく灰のようだった。


 ガチャン……。


 扉が開く音がした。

 ミオの父親が帰って来た。


「妻から聞いたよ。僕はハイド。今日は寒い中ご苦労様。ゆっくりしてね」


 ゆったりした顔に似合う穏やかな口調で淡々と告げた。

 少し不愛想ではあるものの、この人からは、静かな優しさを感じた。


「ありがとうございます」


「それで、あなた……」


 ハイドは新聞を取ると、顔を覆うくらいに、大きく広げた。

 広げた新聞がくしゃりと乾いた音を立てた。


「あのね、ミオのことなんだけど……」


 ロザリオの声は、擦れていく。

 ちょうど、あの花瓶のしおれた花のように首を落としていた。


「おじいちゃんのお葬式をどうしてもやりたくないみたいなの。地面に埋めたくないみたい……。『もし、おじいちゃんが土に埋められたら一生、私とおじいちゃんが大好きなお星さまが見れなくなる』って泣き出して……」


 ロザリオは、寒さに喉元を痛めたように、苦しそうに告げた。


 新聞にくしゃりと皺が入る。


「突然で申し訳ないね。僕から君たちに、一つお願いしたいんだ……」


 ハイドは、読んでいた白黒の新聞を閉じる。

 さっきまで、まっさらだった新聞は、しわくちゃになっていた。


 ハイドは一呼吸すると、私を見た。


「シラちゃん、君に……」


 そう言いかけてもう一呼吸置いた。

 目は、私から逸れていく。


「その、本来なら僕たち親がしなくちゃいけないことなんだけど」


 また、言い淀む。

 逸れていく目を戻すように、また、私を見た。

 ハイドの目の下には、感情が詰まったような黒い隈ができていた。


「……ミオを説得してもらえないだろうか?」


 視線の先にあった花瓶の花びらは落ちそうで落ちなかった。


 まるで、決断できない私みたいに。

 私はすぐに答えられなかった。


「先にお風呂に入っておいで、寒かったでしょう?」


 ロザリオが、さっきまでの話を無かったことにするように、明るい口調で言った。


「ああ、そうだね……。はは。ごめんね。僕、なんで急にこんなこと言ったんだろう」


 ハイドは、乾いた灰を吸い込んだように、苦しそうな声で笑っている。


「……」


 私は、答えられなかった。


「君とミオの今の表情……って言えばいいかな。少し似てる気がしてつい……。本当にごめんね」


 ハイドは頭を深く下げた。

 そのまま、眠ってしまいそうだった。


 私はこれまでの旅でみんなに優しくされてきた。

 ずっと、レインがしてくれたように、今度は、私の番。


「私にやらせてほしい」


 

 ナナシの上で、レインはゆっくりと暖炉の火を見ている。


 窓際に咲く花から落ちた花びらが、茎から自立したように、ひらひらと、どこかへ向かっていく。


 やがて、それは壁を向いた望遠鏡に当たった。


 望遠鏡を空へ向けようとしているみたいだった。

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