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第098話 力こそ

 魔王国領パテリアでの食糧問題が、一時的ではあるが解決した。

しかし、魔法袋という容量無制限の道具袋を使えば経済だってどうにかなるという証明はしたくないとの事で、先生はひっそりと行動する事になった。

だが、食糧を大量に買うという行為はとても目立つ。

それは戦争の準備を疑わせるからだ。


「誰があんなに大量に買っているんだ?」

「商業ギルドではトップシークレットにされているぞ」

「冒険者ギルドの方でも口がカチカチに堅くてなぁ……」


 一ヶ所で買うにしても限度はある。

 そして腐りやすい物は買えない。

 食糧問題がある程度解決すれば、魔物を狩って肉を得られる。

 漁船が有れば漁に出れる。

 人は無駄に多いが、それでも毎日が多忙であった。

 次期魔王と言われても、働く時は働く。


「なんで私が皿洗いなのー」

「頑張ってくだせー、魔王様」

「やっちまってください、魔王様」

「あんた達、正式に魔王に成ったら覚えてなさいよー」


 アイシャは狩りを終えたゴツイ男達に囲まれていた。

 この町ではアイシャが魔王に成るのは受け入れられていて、既に知らない者はいないが、それでも子供という事も有って良い意味で可愛がられている。

 しかし、本当の問題はこれからだった。

 パテリアの町だけが助かれば解決ではなく、他にも困窮している町は有るのだ。

 マリアとメルスが運ぶと目立つ為に、わざわざ輸送用の馬車を用意して各町に運ぶのはトレインの仕事である。

 ちなみに馬車はセイビアが食糧を運んできた時のモノをそのまま流用している。


「先ずはクーフーリンを復興しましょう。畑や家畜を殖やすだけでも落ち着きは取り戻せます」

「1万人近くが住んでいた頃と比べ減ると1割しか残ってませんが、無理にでも広げるべきですかね?」

「農地は用意するだけで良いです。鼠兎を大量に育てましょうか。餌は生草で済みますし」


 鼠兎(そうさぎ)とは、その名の通り鼠と兎のハーフで繁殖能力が高く、餌となる飼料はそこら辺の雑草でも問題なく育ち、その肉は柔らかくて美味しい。

 野生の鼠兎は少し凶暴で、逃げ足が速く、捕まえるには罠が必要になる。


「逃げた連中が戻ってきてくれると良いんだけどなあ……」

「愚痴は終わってから言いましょう」

「す、すみません……」


 そして、これらの事は他国のスパイから雇い主へ伝わって行く事が分かっていても、止めるだけの人員はいない。

 少しでも食糧問題を解決させる方向に傾いているからだ。

 多忙を極める最近は先生やメルスと会う時間も少なく、アイシャは一日の半分くらい皿を洗っている。


「魔王様スゲー……」

「水魔法と身体強化を駆使して、皿洗いするなんてなあ……」

「おおー、皿が割れてない」


 ちゃんと魔法の訓練もしているアイシャだった。





 それから約30日後。

 セイビアとマリアによって正式に冒険者ギルドが設立される。

 セイビアの推薦状と、冒険者としてSランクであった事で初代ギルド長はマリアにすんなりと決まって、ボールドからヘンデニル公国とその他の国にはギルド協会を経由して各地にあるギルドへ伝達された。

 その情報が手に入って一番喜んだのがリッカーである。

 設立した翌日にセイビアはボールドに帰り、その翌々日にパテリアのギルドにマリア宛の連絡が届いた。

 トレインも各地を巡っているので、マリアの傍に居るのはアイシャとメルス。

 他は通常業務用のギルド員が3名だ。


「城の方にも働いてくれる人が欲しいんだけど」

「魔族の人達も少しずつ戻っていると連絡が来ていますから、城に帰るのも、もう少しですね」

「アイシャは良く我慢が出来るな」

「ふふん」


 ドヤ顔していますが、寝る時に甘えてくるようになりました。

 秘密ですよ、秘密。

 そこに雇ったばかりのギルド員が現れてギルド長に手渡した。


「緊急連絡の印が押されています」

「私宛にですか……?」


 渡すだけで部屋から退室するギルド員が扉を閉じるのを確認してから手紙を読む。

 たっぷり溜息を吐く。


「どしたの?」

「リッカーはものの見事に勇者一派と公国軍との戦いに巻き込まれているそうです」

「助けに行くのか?」

「余裕がありません……」


 また、たっぷりの溜息を吐いた。

 そこにはヘンデニル公爵の名前まで出ていたので、リッカーが戦っている相手が勇者なのは間違いない。ハニエルにも救援要請を出しているが、断られている事も書かれていた。


「ハニエルが断ったの?」

「当然です。そもそも聖地の聖職者が戦いに参加すると、他の国からの救援も断れなくなりますし、中立的立場が危うくなります」

「助けてもらったのに?」

「リッカーとハニエルに友人関係が有ると広まれば、リッカーの命も危なくなりますよ。聖女を自分のモノにしたいという不埒な者は何処にでも居るのです」

「じゃあ、セイビアはどうするんだろう?」

「セイビアは動くでしょうね。ただし、秘密裏に……」


 頑張っても冒険者に依頼を出すのが限度で、ほぼ戦争に近い戦地に行くと分かれば冒険者は断るだろう。魔物退治ではなく、人と人との争いを避けているから冒険者になっているのだから。


「オジサンがいたら力になってくれそうなんだけど」

「ああ、ベルディナンドですか。魔王様の事を気に入っているようですので、ゴリ押しでお願いしたら動くと思いますが、彼が何処に居るのかは分かりません。故郷に帰っている筈なので、今回は協力を得られないでしょう」


 力が有る者は頼りにされるのは仕方がないにしても、リッカーがマリア宛に緊急連絡している事を考慮すると、かなりヤバい状況なのは想像に易い。

 その上で公爵が連名なのだから、最悪の場合亡命してくる可能性もある。

 その亡命先を魔王国という事にしたいのなら、魔王様には早く魔王の復活を宣言してもらう必要が出てくるのだが……。


「戦況を知りたかったですね」


 そう呟くとまたギルド員がノックの後、入室してくる。

 マリア宛の手紙が二通。


「こちらは、ヘンデニル公爵様から直接との事です」


 受け取っただけで内容を見ずにマリアが断言した。


「陥落してましたか」

「……まだ読んでませんが、分かるんですか?」

「そうでなければ辺境のギルド長宛に公爵の名を使う理由が有りません。もう一つはリッカーですよね?」

「いえ……聖女様から直接です。先生ってなんか凄いですね」

「とても嬉しくないですけど、ありがとうございます」


 二通を受け取ると、ギルド員は退室していく。


「なんで私宛に来ないのよ」


 拗ねる魔王様も可愛いです。


「ギルド長の私の方が何かと都合が良いのです。ちゃんとリッカーの手紙の中に魔王様宛の事も書かれていますが、何ですかね、生意気な妹が出来たそうですよ」

「えっ、どれどれ、見せてー」


 自分宛の手紙など初めてだからワクワクして読み始めたが、妹自慢を見た気がして気分が滅入る。


「甘えられて困るって、なにこれ……」


 ムスー。


「ですがこちらは深刻です。私達が食糧を買い漁った所為で戦意を削がれ、戦線を維持出来ていないとの事です」

「食べ物が無いだけで負けちゃうの?」

「個人でなら食べ物を我慢するのもアリですが、多くの兵を抱えて飲まず食わずで戦う馬鹿は居ません。兵の士気は食事で変わりますから」

「そんなに重要なんだ」

「魔王様はリンゴジュース無しで1ヶ月間戦い続けますか?」

「嫌よ。そんなんだったら逃げても飲みに行くわ……あ、そっかー」

「逃げた兵士の先が食べ物をたくさん食べさせてくれる所だったら……」

「戦いに正義なんて無いもんね」

「ご飯を食べさせてくれるところが彼らの正義なんですよ」


 一日で終わるような局地の戦闘ではなく、既に数ヶ月戦い続けている。

 リッカーが参戦したのは陥落後で、趨勢は決していると言っても過言ではない状況だった。それでも尚、戦い続けていられるのは、聖地から経由してセイビアがこっそりと食糧を輸送しているかららしいのだが、それも限界を迎えている。

 現在リッカー達が戦っているのはブリード伯爵家の領地内で、ココを陥とされたら次は聖地アルファディルが標的になるだろう……。


「デニル陥落後に小さな村と町を転戦しつつミグルスまで後退。なんとも、敗戦コースまっしぐらです」

「助けに行く余裕なんてあるかなあ……」

「行くのでしたらミグルスを占領される前になんとかしませんと、また聖地が戦場になりそうです」

「ん……デキれば魔王に成って欲しいって書かれてるんだけど」


 マリアはその言葉を聞いて少し怒っているように見えた。

 ただ、僅か過ぎて気が付かない。


「魔王軍が復活し、先の侵攻の恨みを晴らすと宣言するだけで、リッカー達に有利になります」

「……なんで?」

「魔王国は2年前にヘンデニル公国の兵士に攻め込まれていて、かなりの被害を出しています。なので魔王国としては反撃をする権利を有している事になります」

「そんな余力無いけど」

「それは分かっていますが、相手国が何処まで知っているかに寄ります。何しろスパイに寄って魔王国内の内情は筒抜けですが、それでも攻め込まれると分かって無視する事は出来ません。無視してリッカーと戦うか、魔王国と戦う為に兵力を分散するか」

「私達の兵力って用意できるの?」

「出来ませんのでちょっと協力を仰ぐ事になります。軍船を用意しないとなりませんので少し面倒です。まぁ、ハッキリ言いますと無理なので宣言するだけで良いです。あとはじわじわと軍備を整えて行くだけで脅威になりますから」

「ふ~ん……」


 これは理解していない表情です。

 無理も有りません。

 政治目的としての軍事行動を12歳に理解させる方が大変なのです。


「なら、私の出番だな」


 今まで無言を貫いていたのはこの時の為でした。


「力こそが雌雄を決する。私の力が必要なのだろう?」

「それは分かるけど、ドヤ顔なのがムカつくわ」

「いいんだぞ、先生。私にお願いしても」


 マウントを取られてしまいましたが、事実としてメルスの力はかなりの戦力です。

 一応シルバーカラーですし。

 ですが、カッコイイつもりのポーズをしているのがムカつきます。

 ただ人化させただけなのになんでこんなに残念美人になったんでしょうか……?

 本当に不思議です。


 ……と、その影響力の根源は、それが自分である事に気が付いていませんでした。







※おまけ



「イテテ……なんであいつ、何度撃退してもやって来るのよっ

「優秀な治癒魔法使いでも居るんスかね……もうポーションも無いっス

「ハニエルより優秀な奴なんて知らないけど……ポーションはあんたが使いなさい

「ありがとうっス、それにしても聖女様を呼び捨てにするのも凄いっス

「良いのよ、あんな、助けた恩も忘れるようなやつ

「…………(回復魔法やめようかな)


 

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-**-*-

 

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宜しくお願いしますm(_"_)m

 

 

 

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