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第093話 野望は誰にでも

 建設中の冒険者ギルドの地下にある防音室。

 ココでは他者に聞かれては困る話をする為に造られた、今後は隠し部屋にする予定の部屋の一つである。

 今は外からでも丸わかりだが、その部屋に四人が集まり、とんでもない情報を提示したのはトレインである。

 彼は魔王が勇者と戦っている時、他国の兵士や傭兵の混成軍団と戦っていて、その敵は公国に所属する貴族が率いた兵だと分かったのは、アイシャ達が旅立ってから一年後ほどで、彼らはわざわざ船団まで用意して海を渡ってやってきたのだ。

 表向きの目的は勇者の支援であったが、公国に所属する貴族達の一部に好戦的な者が存在し、魔王国内を混乱させ、一部領土の海岸沿いを占拠するまでに至っていた。

 その作戦が成功する寸前にまで進んだのは、現在アイシャ達が居るパテリアの町での事件が理由となっている。

 パテリアの町では勇者達が人々を殺し、町を破壊し、戦える筈もない女子供残らず住人達は全滅した事になっているのだが、そこに一つの疑問もある。


「はたして、勇者達にソコまでやる理由は有ったんですかね?」

「ありませんね。特に無駄な時間ですし、通過さえ出来れば問題なかった筈です。そもそも、魔王国では他国出身の冒険者が自由に入れる状態でしたし……」

「そこで、ボールドのギルド長に確認を取ったのですが、勇者以外が別で魔王国と戦争をしている事を知らなかったそうです」


 説明している途中で、トレインはマリアの差し出すジュースを飲んで咽喉を潤している。それはリンゴジュースで、実は暫く手に入れる事が出来ないが、アイシャやメルスにも話を聞いてもらう必要がある為、マリアは躊躇せずに出したのだ。


「勇者達の行動を知って利用した者が存在すると言うワケですか」

「そうなります。あのコール・マーカーはSランクの冒険者のようですが、そこまで強くは無いですし、人望もなさそうで、貴族との繋がりも殆どありませんでした」


 そこまで信用の無いSランクも珍しい。

 と、メルスは思っただけで口にはしていない。


「なんか、とんでもない話に聞こえるんだけど」

「正しく、とんでもない話です。お嬢様が正式に魔王として君臨する事を邪魔しようとしているのです」

「魔王が、その、復活すると困る事でも……」


 気に成るから質問をしただけだが、メルスは何故か言葉を詰まらせている。

 頬も赤いし、リンゴジュースもすぐに飲み干していた。

 空のコップにリンゴジュースを注ぐと魔王様がじっと見つめてきます。

 ……照れますね。


「魔王は魔を統べる者と勘違いしている人が多い。魔王国の王であるのは間違いないが、実は力で奪い取る事も可能なんです」

「でも、勇者が魔王に成った話って無いよね?」

「過去には力で倒されて簒奪された魔王も存在しますが、貴族の狙いは別でしょうね」

「あー、もしかして、魔素溜まりってヤツ?」

「おじょ……魔王様、その通りです」


 アイシャはトレインに魔王様と呼ばれて身が引き締まった。

 本気で信頼している眼をしているのを感じ取ったからだ。


「魔王城の地下に在るらしいんだけど、もう記憶も消えてしまったから……」


 父親の記憶は綺麗さっぱり消えている。

 あの父の記憶も、あの父との母の記憶も。

 寂しそうな表情になって、瞳に僅かな涙が出るのを奥歯を噛んで止める。

 トレインは暫く待ってから問う。


「では、正式に魔王様に成られたのですか?」

「……職業は魔王だけど、まだなのよね、先生?」

「まだ。という事しか分かりませんが、魔王様が城に戻れば……多分?」


 先生でも分からない魔王の秘密。

 一体なんだろう……。


「ではこんな町に滞在しておらず、すぐに戻られるべきです」


 メルスはただ話を聞いているだけだったが、だからこそ気が付いたのかもしれない。

 話題から外れてしまった事を問う。


「ドラゴンが現れた理由は?」


 メルスは多くのドラゴンを率いて現れたワケだが、率いて来ただけで集めたのは自分ではないし、ブライドが集めたと思っている。

 だから気に成ったのだ。

 トレインは質問者ではなく、先生に向かって答えた。


「それが、召喚魔法によって呼び出されたらしいのです」

「らしい、というのは確証はないのですね?」

「はい。まだ調査中ですが、グリーンカラーが突如にして出現したという情報は得ています。そして、近くに魔法使いのような者達が居たのも。ただ、召喚魔法は膨大な魔力を必要とする筈ですから、聖地を防衛したというだけでもかなりの損害を受けたと思われます」


 メルスにしてみれば間違いなくドラゴン族であった。

 強い者に従うところも間違ってはいない。

 召喚とは、どこから喚び寄せたのか……?


「まあ、全滅させちゃったケドね」

「えっ……お嬢様が、お一人で?」


 トレインですら流石に疑ってしまう話である。


「あの時は先生がいなかったけど、Sランクのオジサンが凄い勢いで倒してたわ」

「ベルディナンドですね。純粋な物理的破壊力なら間違いなくSランク最強かと」

「と、とんでもない奴ですね……」


 確かにとんでもない奴だったが、恐ろしいというより、親戚の頼りになるオジサンらしい感じがしている。あんなモノを見た所為かもしれないが、今のトレインは、少し頼りなく見えてしまう。

 コール・マーカーよりは強いが、四天王候補になるのだから、その程度では話にならないだろう。


「ドラゴンを召喚して聖地を襲わせ、再び魔王国に攻め込む計画もあったようですけど、あっさりと全滅させた事で、計画自体が白紙になり、そのおかげもあって情報が漏れたんですよ」

「その通りの話だとすると、あの黒帝も計画に加担していた事になるのですが?」


 先生がメルスを見たけど、どう見ても何も知らない感じしかない。

 だから部下にする気になったんだけどね。

 ……なんでジュースをそんなに早く飲むのよ。


「あんな計画をするぐらいだったら、他に存在する魔素溜まりを探した方が楽だと思うのですがね」

「そういわれると、なんで他の魔素溜まりを探さないのかな?」

「面倒な上に近付けないからです」

「魔素が濃いと魔獣が湧いてくるからな、あの量はドラゴンでも厄介だ」

「あの量って、場所を知ってるって事?」

「……知っているが、行くのはお勧めしないぞ。何しろ鉄も溶かす灼熱の川が流れる場所だからな」


 灼熱の川ですか。

 溶岩ですね。

 それも火山に近いのかもしれないです。活火山……確かに近づく人はいませんね。

 ドラゴンでしか行けない場所……。


「その計画の首謀者までは分かりませんか?」

「ヘンデニル公国なのは間違いありませんが、あの公爵は戦争を嫌いますので、野心を持った配下の貴族の誰か……候補が多過ぎて分かりません」

「ヘンデニルは昔から責任の押し付け合いが横行してますからね。今でも変わってないのですか」

「国王を選挙で選ぶ貴族連合ですから」


 建国された当時、国王に群がった各地の貴族達が内乱の末に選挙制にした変な国で、責任は嫌いだが、権利は欲しがる。そのなかでヘンデニルは他国との争いを特に嫌った貴族で、見た目だけは平和主義な国にしておきながら、勝手に侵略戦争をする。

 そんな状態でも500年以上続く公国なのだから、マリアからすれば意味が分からない。

 今のところ内乱は無いが、それは魔王国の存在が脅威であるからだ。


「召喚魔法を使うというトコロで警戒は強めておくべきかと思います」

「勇者召喚は何処の国でもやりますからね。たいてい失敗しますが……」

「またあんな化物が召喚されたらたまったもんじゃないわ」

「あの元勇者はマシな方です。酷い行動も見受けられますが、降りかかる火の粉を払ったに過ぎませんから……」


 過去にはもっと極悪な勇者が存在し、魔王討伐を掲げながら、討伐に向かうフリをして各地の財宝や美女を集め、臨時政権を作り、恐怖政治をする。

 そして、別に召喚された者に討伐されるのだから、意味がない。


「あれでマシなんだ?」

「国をいくつか滅ぼしたと聞いているが?」

「……私も利用されていると知れば、国ぐらい滅ぼすかもしれませんよ……うふふ」


 こわい、コワい、恐い、怖い。

 先生、怖いからやめて。

 ホント、ごめんって。


「領地を持たない男爵や子爵が陞爵を狙って武勲をたてる。とは言っても、国王に成りたいのなら根回しするだけで、不正選挙が出来るような国なんですけど……」

「権力以外の何か、魔素溜まりを狙う必要がある何かを得ようとしているという事ですが、その何かがなんなのか、全く分かりませんね」


 先生も困り顔である。

 そもそも、強さを求めるのなら別の方法もある。


「もっと単純に、魔素を得たら世界を征服できると思っているんじゃないか?」


 マリアが瞬きした。


「……その発想は有りませんでしたね。確かに膨大な魔素を制御・支配する事が可能であれば、世界を思い通りに動かせるかもしれません。ですが、その場合ですと邪魔する事の方が楽なんですよ」

「先生の場合、逆に知り過ぎていて届かない答えというモノが有りそう」

「そう言われるとだいたいの伝説級の武具はレプリカ可能ですので欲しいと思いませんから、エクスカリバーなんて手に入れたら世界最強になれると思っている人が居るのも肯けます」

「レプリカなら可能って言っても、先生の場合は性能もそれなりに備わってるから怖いのよ」

「それはレプリカと呼ばないのでは……」


 太陽の剣という伝説の武器のレプリカを作った実績のあるマリアだからの説得力だ。だが、完全なコピー品を作るにはいつも何かが足りなかった。

 そう、足りなかった。


「……なるほど、足りない何かを埋めるのに、魔素を求めていると」

「そのくらい軽い発想で良いんじゃないか」

「メルスもいい事言うじゃん?」

「なんで疑問っぽく言うんだ。素直に褒めろ」


 アイシャとメルスがツマラナイ言い合いをしているのをトレインが温かい目で見ている。お嬢様に良い友達が出来たのを安心しているような、親の感覚に近い。

 マリアはもう一人のお友達のピタンをどうにかして魔王城に呼び寄せたいと考えているが、今回は関係ない。


「それにしても、魔王国はスパイが多過ぎます」

「先生は気付いてらしたんですか」

「城内にも居ましたけど、私が何回か排除しています。その為のスケルトン部隊でしたし」

「あれってそんな重要な任務をしてたんだ?!」

「24時間寝なくても活動できますからね」


 まごう事なきブラック労働者である。

 アイシャが考えを纏めるかのようにリンゴジュースを飲み干した。


「話がややこしくなったけど、とりあえず、ギデオンがこの町を破壊した訳じゃないのは理解したわ。それでも復讐相手ではあるけど……」

「まだ怨んでいますか?」

「当然!」


 アイシャはテーブルを掌で叩いた。

 良い音がする。


「って言いたいところなんだけど、なんだか分からなくなったわ。お父さんの記憶が私の復讐心を制御していた事は理解したけど、今はぽっかり穴が開いている気分なの……」


 悲しい表情をするアイシャに慰める言葉が見つからない。

 しかし、立ち上がってもらわないと困る人も多い。

 ただ、それが、アイシャである必要が有るのかはまだ分からない。


「その穴を埋めるのは私ではないとおもいます。これからは魔王様が自ら埋めるか、仲間や友人が埋めてくれるでしょう」

「そう……そうね。うん……」


 アイシャ魔王としての気力と、大人っぽい雰囲気を出している。

 これは今までの冒険で積んできた経験が現れた初めの一歩だろう。

 それをマリアがとても嬉しそうにしている姿に、メルスが困惑している。

 トレインも内心喜んでいるが表情には出さず、姿勢を正した。


「……ヘンデニル公国が攻めてくる理由は置いといて、公国領ってボールドも含まれてるわよね?セイビアが私達に協力してるのって問題にならないの?」

「ギルドは基本的に無関係です。立場上は中立ですが、要請があれば援助に向かいます。アルファディルも応援要請を出したからセイビアが居たワケです」

「その辺りの事と周辺地域について勉強しないと、私が魔王に成る前に魔王国が無くなっちゃいそうね」

「そこまでの戦力があるとは思いませんでしたが、召喚魔法が使えるとなるとかなり問題です。レッドカラーですら単独で倒せる者は世界でも僅かですし」


 その僅かには先生とメルスが含まれている。

 トレインは2年前よりは強くなっているが鑑定していないので未知数だ。


「レッドカラーなら何とか倒せるんじゃないかな」

「魔王様がお一人で、ですか?」

「うん。リッカーと戦った時に何とかなりそうって思ったのよ」

「アレは身体強化を使っていたからだと思いますよ。素の魔王様ではグリーンカラーが限度と思います」

「それでも十分に強く成られていますよ」


 もっと鍛えないと、いくら弱体化した魔王軍とはいえ四天王として恥ずかしい……。

 トレインは心の中でそう思い、忠誠を誓うからこそ、本気で強く成りたいと思った。

 今までは時間が足りず、他にやらなければならない事が多かったが、魔王様が再び君臨し、治政を安定させてくれれば……。


「そこで、問題がもう一つあるわ」

「何でしょう?」

「お金がない!!」







※おまけ



ホゥディ「トレインさんから食べ物が無いって連絡が来たんだけど

レノア 「だから他の土地の者に救援を求めない方が良いって進言したんですけどね

シェリィ「それでもギルドが無いとお嬢様の情報が入らないですし

ホゥディ「おねーちゃん、いつ帰って来るのかな……

レノア 「私だっておねーちゃんでしょ!

ホゥディ「う、うん。

シェリィ「食料の備蓄がほぼゼロなんですけど……



魔王城で食事をするのは二人だけなので、小さな畑と魔獣の肉で生活していました



 

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-**-*-

 

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