第083話 阻止
太陽の光がサンサンと降り注ぐ街の中での戦いは、異常過ぎて冒険者達は逃げる足を止めて見ている。
見たいのではなく、身体が震えて動けないのだ。
恐怖と好奇心が鬩ぎ合っていて、決着がつきそうもない。
何しろ、真横で倒れている仲間を助ける事も出来ないのだが、その仲間も、戦況を見守っている有様である。
吹き飛ばされたコール・マーカーは街の外で気絶していて、戦力外となっている。予想外の活躍を見せたので十分ではあるが、ココまで戦ったのなら最後まで残って欲しかった。僅かな期待を向けた頃にはいないのだから、Sランクとしての評価は下がるだろう。
その戦いの当事者である黒帝は、右肩を手で抑え、驚きと恐怖で震える。
「嘘だ……魔王以外で、勇者以外で、俺と戦える者が存在するだと……」
怯える黒帝と対峙する骨は、限界を超えて無理矢理能力を引き出した所為で、魔力がかなり減っていた。
次の攻撃を仕掛けたいが、怯えているとはいえ能力は魔王クラスに近い相手を、一気に倒すには何もかもが足りない。
骨の身体が美しい輝きを持っている事に、自分でも驚いている。
「身体硬化で骨がオリハルコン並みに硬くなりましたね……」
「だ、だが所詮は魔力で作られたモノだ、魔力が尽きればお前は終わりだぞ」
全く、その通りなので反論はしない。
回復薬が有っても飲んでいる暇など無い。
というか、骨の時に成って使った事が無いから、飲めるか分からない。
そうやって冷静に考える事が出来るようになったマリアは、自分がどれだけ絶体絶命なのか、理解も出来ていた。
そして、気が付かれた。
「どうやら、お前はそこまでのようだな……」
ダメージを受けていた右肩が動くようになるまで回復してしまった。
もう一度攻撃をしたかったが、どう見てもカウンターを狙っているのが分かりやす過ぎる。
震えが消えて落ち着きを取り戻す前に、もう一度……。
……魔力が足りない。
「そうでした、聖女の結界魔法が使えるんでしたね」
自分で呟いて自分の言葉を確認する。
聖女では無いが聖母にされた事で、聖属性の魔法が今まで以上に巧く扱える。
もちろん自分にもダメージは有るが、死にはしない。
「人化の魔法は確かに俺達を強くする事が出来るが、今は必要ないな」
「させませんっ……聖域結界っ!!」
魔法陣が黒帝の足元に出現し、眩しすぎる光が包み込む。
眩い光が広がると、黒帝の姿が見えなくなったが、マリアの姿も見えなくなった。
マリアは身体が崩れて、黒帝は光の中に閉じ込められたからだ。
「……弱いな。そうか、もう限界か」
光が黒くなっていく……。
見ていただけの者達が自分の危険度を再認識した時、叫び声をあげた。
「に、にげろ、にげろにげろにげろ!」
遅すぎた行動だが、まだ守るだけならこの身体だけでも出来る。
闇魔法が光を侵食し、魔法陣が効力を失って消えた時を狙う為に魔力を絞った。
「身体硬化、一点集中、魔力集約、乱れ魔弾!!」
それは自分の指を直接放つ、骨でしか出来ない捨て身の攻撃だった。
指が関節ごとに分離し、その一つ一つが黒帝に襲い掛かる。
視界が開けたと同時に、黒帝の目には無数の魔弾が捕らえられた。
威力は不明だが、速度が遅すぎる。
「その程度で中てようなどとはなっ」
手の指が無くなると、足の指も飛ばしたが、するすると回避しながら骨に迫っていく姿を、マリアはくぼみしかない目で確認した時、成功を確信した。
「あばら骨も喰らいなさいっ!!」
胴体の骨がそのまま飛んできた。
流石に予想できなかった攻撃は、左右に飛び散った骨がホーミングするように向かってきた。
回避は出来る。
「うがっ……?!」
避けた筈の魔弾が背中に当たった。
魔弾ではあるが魔力だけではなく、その中には骨が詰められていて、石を詰めた雪玉をぶつけられた時と似ている。
ただの魔弾だと思ってしまった事は油断ではない。
そもそも、自分の身体の一部を弾にして放つ魔法など見た事が無いし、実行する奴も居ない。
最初に放った魔弾をも制御し、向きを変えて何度も襲い掛かってくる。
避けられなくなった黒帝に全ての骨が解き放たれ、最後に頭蓋骨がそのまま飛び込んできた。
「な、なにをっ……」
「自爆っ!!」
大爆発が起き、周囲を巻き込むほどの爆風が渦を起こして広がった。
マリアは魔力の暴走を制御し、広がって行く筈の破壊の渦が一点に絞られ、一筋に空高く伸びる。その中心に居る黒帝が苦しみもだえた。
「うがあああ……」
確かな苦痛。
剥がれる鱗。
飛び散る肉片。
そして、消滅した骨。
そこには人の姿のまま倒れた黒帝だけが残った。
シルバーカラー以外のカラーを全て撃ち墜としたアイシャとリッカーは、地上でもあの数のグリーンカラーを叩き潰したのを見て合流している。
悠然と見下ろしているシルバーに対して、見上げるだけのアイシャ達がその異常に気が付いたのは、爆発が起きた時だった。
「な、なに。今のは……」
「先生の魔力が暴走してるわ」
(ブライド様が……圧されている?!)
「お前らが驚くって、そっちの聖女様はどうなんだ?」
「先生が負けるとは思わないけど……」
「そもそも先生の本当の強さって誰も見た事ないんじゃないかしら……」
一番知って良そうな少女に視線が集中する。
「私も知らないけど、先生の事を一番知ってるのって……?」
空に浮かんでいるだけのシルバーカラーも遠くに見える街を眺めていて、眼下にはやられた他のドラゴン達が動かなくなっているという、これも異常な光景だ。
たった5人に1000体近いドラゴンが襲い掛かって負けている。
(信じられない、なによこれは……たかが人にこんな力が有るなんて……)
それ以上に異常な光景が見える。
あの街に封印された魔素を解放し、魔素を取り込む事によって力を得る。その後に魔王が不在の城を手に入れ、根城とし、各地のドラゴンを集め、従わせ、悪魔と天使に復讐し、勇者の復活を阻止させる……。
魔王を恐れ、勇者に怯えたからこそ、この計画を考えたのだが、その第一段階でこんな事になるとは思っても居いなかった。
シルバーカラーは5人を睨み付けた。
自分の力でも負けるような相手には見えない。
しかし、あの少女からは危険な香りがする。
(あの娘は……危険。アイツだけでも……)
「おい、あっちも気になるが、俺達はこっちが本命だ。忘れんなっ」
「凄い殺気、だけど……」
「アイシャを守って!!」
シルバーカラーが急降下しつつ、周囲に出現した火球がアイシャ達に向かって来る。ハニエルの防御魔法で火球は防げても、シルバーカラーの直撃は防げない。
「リッカー、止めるぞ!!」
「おぅっ!!」
アイシャの前に立ち、武器を構える。
火球が魔防壁に衝突して爆発し、視界を遮ったのは一瞬で、風圧が爆風を吹き飛ばすと、シルバーカラーの体当りが襲ってくる。
「喰らえっ!!」
ベルディナンドも風圧を帯びた拳で迎え撃ち、シルバーカラーの顔面に叩き込んだ事で、勢いが止まる。
しかし、ベルディナンドの身体が浮き上がり、突き上げられそうになったところでリッカーが横から顔を斬りつける。
躱そうと横に姿勢をズラしたところに、もう一度ベルディナンドが拳を叩きこむ。
「ぐっ、止まらん……」
それを冷静に見詰めていたアイシャが飛び込んで来た。
「筋力増強、電光石火、一点集中、全力の一撃!!」
アイシャの持つレプリカの太陽の剣がシルバーカラーの眉間に叩き込まれると、彼らの誰よりも大きな身体が地面に沈んだ。
「俺達が守るまでも無かったか」
「先生の生徒だからねっ!!」
立ち上がろうとするシルバーカラーへセイビアの追撃が飛び込んで翼を斬り、飛行能力を失わせた。
「意外と戦えるな、俺達」
「ブーストかけまくってこっちは魔力制御が大変なんですけどっ?!」
ハニエルは自分だけではなく他の4人、合計5人に身体強化の魔法を掛けた上で、アイシャは更に自分を強化し、先生から貰った身体強化用の腕輪も身に付けている。
速すぎるスピードをしっかりと制御し、剣で無防備になった背中を斬りつけていく。
「あぎゃぎゃぎゃーーー」
激痛が襲う。
有り得ない。
そんな剣で、自慢の鱗がぱっくりと切れ、切り裂かれた肉からは血が噴き出る。
「あーーーっ、もう、やりたくなかったのにっ」
「ドラゴンが喋ったの……?」
「シルバーって喋れたのか……」
爪が襲い、アイシャの身体を斬りつけた。
避ける事を考えていなかった所為で直撃し、今度はアイシャが地面に叩き付けられる。追撃をされる前にリッカーがアイシャを抱えて回避した。
「私の爪で斬られたならあんたも血だらだr……」
「残念、平気でしたー」
実は叩き付けられた時に頭を打っていて、後頭部が痛いのを我慢している所為で、引き攣り過ぎた笑顔に狂気を感じる。
「なんなのよ、あんた達。人化までして負けたらいい笑い者だわっ」
銀色のショートヘアで不思議な模様のぴっちりなワンピース。
そこには美人と言っても過言ではない女性が立っている。
背はアイシャよりも少し高いぐらいだが……。
「あら、ぺちゃパイ」
「むっきー!!」
ちょっと、コイツ口で言ったわ。
ああ、言ったな。
子供かしら?
でも、ぺちゃパイは酷いよ?
えっ、えっ、あー。
「ごめんなさい?」
「謝らないでーーー!!」
「お嬢ちゃんに成っちまったが、さっきよりやべー感じがする」
「そんな事より、斬ったわよね、斬ったわよねぇ?!」
斬られたはずの少女は無傷では無いが、血を流していない。
「鉱石リザードの服なんだから、あんたなんかに斬れるワケないじゃん」
「……対策済みって訳ね。良いわ本気で戦ってあげる……」
じわじわと立ち昇り始める魔力のオーラ。
それが時間稼ぎだったとは気が付かず、魔力を集約したところで……。
「ハイ確保」
「は……?」
「良かったな相手がバカで助かった」
「ねーっ」
「このまま戦ってたら力負けしてたぞ」
銀色のワンピースが光で輝く。
そして、自分の周りに魔力の壁が見えた。
ハニエルは聖女の封印結界の魔法でシルバーカラーを包んだのだ。
「これってこのまま持って帰れる?」
「可能よ」
結界の壁を全力で叩くがビクともしない。
何も言えず、怒れず、せっかく人化までしたのに、無力化されてしまった。
悔しさと敗北感に包まれ、ただの女の子になってしまっ事実を突き付けられると、大声で泣き叫ぶことしかできなかった。
「ぶ……ブライド様ぁー、助けてぇぇぇぇぇ!」
その言葉に反応したのはベルディナンドで、無駄な力が籠るのに気が付いたハニエルに肩を叩かれた事で、一応の落ち着きを取り戻す。
しかし、シルバーカラーが怯えるほどの鋭角な眼光には、怨恨の輝きを含んでいた。
「ブライドか……アイツが、破壊の殺戮者か」
※追加情報
■:メルス
シルバードラゴンの雌
ブラックエンペラーの手下
黒帝の事が好き
■:ブライドJr
ブラックエンペラーの名前
名乗った事が無いのでマリアも知らない
鑑定すれば分かるが鑑定した事が無い
悪魔と天使からは破壊の殺戮者と呼ばれている
初代魔王に負けた後に死んでいて、実は二代目
能力を親から継承している
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