第082話 その理由
戦いを優位に進めている5人。
その驚くべき戦果は、まだ誰にも褒められていない。
しかし、彼らには大きな壁ともいえるシルバーカラー戦を残していて、その前に苦戦する訳にはいかなかった。
ただ、レッドカラーの火球が爆発するのは街からでも見えるので、一部の冒険者が驚きの声を上げていた。
「あんなところで戦ってるやつらが居るみたいだ……」
「なんかすげーぞ、ドラゴンがこっちに来ない」
「あの土煙は何なんだ?」
そんな声が聞こえるくらい余裕が有るのは、空がだいぶ明るくなって周囲を見渡せるようになったからである。
そんな彼らの目の前で家が一軒潰れた。
「おーい、何か落ちたか?」
「わかんね、見て来てくれ」
「おうっ」
音を立てて崩れたが、既に避難済みであり、それほど心配はしていなかった。
念の為、近寄って確認しようとする冒険者を横目に、黒いローブを纏った何者かが大聖堂に入っていきました。隠蔽魔法で隠れているつもりのようです。
私には丸見えなんですけど。
そして出てくるの早過ぎませんかね。
周囲を見渡し……。
困惑しています。
えーっと……。
地面を叩いて悔しがっています。
違いました、結界を壊そうとしています。
脳みそ、筋にくんですかね?
「くそっ、情報と違うぞ。アレだけ用意したのに。これでは、またアイツらに馬鹿にされる……」
どうやら、位置を探っていたようです。
先程まで丁寧に自分の存在を隠していたのに、見付けられなかった所為でしょうか。
「おかしい、聖女の結界が強くなっているだと……」
「おかしかったら笑いましょう」
「誰が笑うかっ……あっ?!」
コイツは本当におバカさんのようです。
返事をしなければ姿を隠蔽できていたのですが。
「何故、我が見える?」
「返事をしたからです」
「そもそも話し掛けてきたのはお前だろ……うん……いや……お前何者だ?」
「あなたを倒しに……ぃぇ、ちょっと無理そうなのでお帰り頂こうかと」
姿が見えるようになったことで周囲からも見られるようになりました。
魔力は隠蔽していないので、禍々しいオーラが立ち昇っています。
なんで皆さん平気なんですか……もしかして、強すぎる聖女の力の所為ですかね?
「ここは無駄に結界が多くて息苦しいからな、少し魔物に暴れさせたんだが」
「魔物が多く狩れて皆さん喜んでますけど」
周囲を見ると忙しそうに素材を運ぶ人達が居ました。
ブローとイエローも倒してますね。
「それにしても……黒帝が何の用です?」
「お前、なんで俺を知っている……」
「えーっと、魔王にボコボコにされて逃げた事ぐらいなら知っています」
凄く吃驚していますが、顔どころか耳まで真っ赤になりました。
なんで恥ずかしがってるんですかね?
「お前、そこまで知っていて俺に話しかけたのか」
「当然です。あなたの最終目的は魔王を殺す事でしょう?」
「フン、魔王は死んだ。そして勇者は消えた。これからは俺が支配するのに必要な魔素を得るだけだ……」
「結構重要な事だと思いますが、そんなにペラペラ喋って良いんですか?」
少なくとも私より以前から生きている筈なんですが、あまり賢そうな感じがしません。広範囲を地獄の炎で焼き尽くす程のブレスを吐けるような凶悪な魔物なんですけど。
「……何か有りましたね?」
「どうせ知ったところで意味は無いが、知りたいか、ん?」
なんでかドヤ顔されましたけど、時間を稼ぎたいところなので付き合いますか。
お嬢様達の方に加勢されても困りますし。
「そうですね、是非ご教授願います」
「ベルディナンドを知っているか」
「あー……悪魔の故郷を襲った犯人ってあなただったんですね」
「えっ?」
「あなたが街を破壊するから、天使の街に逃げ込んで、保護してもらうどころか敵襲と勘違いして大惨事になって、そこから説得してサンタヘルに避難するまですっごく苦労したんですけど?」
なんだコイツ、俺より禍々しいオーラが見えるんだが?
「まぁ、突然暴れだしてめちゃくちゃにされるよりはマシですので付き合いましたけど、これなら急ぐ理由なかったですね。大誤算です」
「お前、まさか俺に勝ったつもりでいるのか?」
「勝てませんが何か?」
「お前は俺を足止めしたくて……なんか変だな、お前と話すと調子が狂う」
「それは良かったです」
会話を聞かれていて、笑い声が聞こえました。
負傷者だって居るんですからあなた達はあっち行ってください。
ほら、しっしっ。
「冗談ではないですよ、今の身体では肉体の限界が近いので無理は出来ないんです」
「なんの話だ……」
「ともかく、あなたの計画は失敗させないと困るので邪魔はします」
「……そうか、お前魔王の手下だな?!」
今頃気が付いたようです。
お嬢様達はシルバーカラーと戦えてますかね。ちょっと心配ですが、この黒帝は放置できません。勝手に動き回られても困りますし……。
「本当に諦めて帰って頂けませんかね?」
「それは無理だ。魔素を手に入れて俺が支配するんだからなっ!!」
黒帝の姿が消えました。
拳がクリーンヒットして私の身体が吹き飛び、家に激突しました。
痛くは無いですが、困ったものです。
あーあ、服がボロボロの埃塗れ……。
「ちょっと、なんだ、お前、喰らったよな?」
言葉の区切り方おかしくないですか?
「ええ、おかげさまで服がボロボロです。下着を付けていないので見えちゃい、ま、す、ねっ!!」
マリアは一歩毎に身体強化しつつ、動きを加速させ、相手を翻弄させてから拳を叩き込んだ。回避させずに中てたのだが……。
クリーンヒットしましたが、やはり吹き飛びません。
私の指と腕が曲がっちゃいました。
「お前は恐怖心が無いのか」
「昔は有りましたね」
ふるふる。
よし、戻りました。
「なるほど、亜人か……だが、おかしい、何か、いろいろとおかしい」
「可笑しかったら?」
「笑わないっ!!」
あぶなっ。
今度はちゃんと避けましたが、その余波で後ろに居た人達が吹き飛びました。
たったの一撃で大惨事直前です。
受けなければいけないのを、つい、うっかり忘れていました。
倒壊と轟音が響けば、流石にコール・マーカーでも気が付くようで、調子よく飛び出してきました。
……こっちくんな。
「おぃ、大丈夫k……
声を掛けられた直後に吹き飛んで行きました。
今の鼻息ですよね?
黒帝の速さに対応できるのは私だけ。
その黒帝が、攻撃の意思を見せつけるようにゆっくりと歩みを始める……。
もう、仕方が無いですねっ。
「皆さん、ココから離れてっ、くっ、だっ、さっ、いっ……」
黒帝の一発一発の攻撃を全て回り込んで受けたマリアの服は無くなったが、周囲への被害は何とか食い止めた。
しかし、肉も削げ落ちて骨が露出した。
血は一滴も落ちない。
「うげぇ……」
「なんだ、今何があった?!」
彼らには二人の動きが見えず、衝撃音と衝撃波の余波を受けて、異常な事が有ったのだと肌で感じた後に、マリアの姿を見たのである。
「やべぇ、やべぇぞ」
「人があっという間に骨に成っちまった」
黒帝も驚いている。
「避けられたのを受けるとは意味がますます分からん。しかし、何故動ける?」
ああ、半分ほど欠けちゃいましたか。
魔法袋もストレージに隠したので……あれ?
肉体が戻りません。
パリーンって、何か音が。
「ああああああああああああああああああああああああああああっ?!?!?」
魔力核が、大事な大事な、お嬢様から頂いた呪いが……消滅しま……した……。
なんてコトをしてくれたのでしょう。
なんてことを……。
ナンテコトヲ……。
「な、なんだ。今度は地震か?」
黒帝が私を無視しました。
良い度胸ですね……。
「身体強化、身体硬化、一点傾注、粉砕の一撃!!」
マリアの動きは骨に成った所為もあって、速さが圧倒的に不足していた。だが黒帝の油断もあり、その一撃が直撃し、突き出した骨の拳が、黒帝の身体を覆う鱗を破壊した。
後ろに数歩よろめくと、ダメージを受けた事に驚きが隠せなかった。しかし、それはたった一枚の鱗を破壊したに過ぎない。
剥がれ落ちた鱗を自らの手で拾うと、高強度の剣でも斬れない自慢の鱗が崩れたのを確認して、今度は怒りが込み上げる。
「な、何をした……?!」
「教えると、で、も!」
足音を鳴らして姿を消したマリアの攻撃を視認できないまま、黒帝の身体が真横に吹き飛ばされる。マリアは身体強化を強め、更に加速した……。
「限界突破、限界強度、魔力集約、崩壊の一撃!!」
「させるかっ……?!」
その一撃を脅威の身体能力で回避した。
……筈だった。
拳が避けた方向に曲がり、致命傷を狙った一撃を避けるのが精一杯だった。
鱗で覆われた右肩が破壊されると、内部まで浸透し、骨まで粉砕した。
それが遠い昔の記憶でしかなかった痛みを感じる事で、敗北の記憶も蘇る。
黒帝は目の前の骨に恐怖を覚えたのだった……。
※おまけ
「いけるいける
「アイシャ強いわー
「リッカーだって強いじゃない
「いゃぃゃ、ステータス見てるんだよ、圧倒的な差がある筈なんだよ
「ステータスの差が、戦力の決定的な差ではない事を……
「普通は決定的なんだけどね
「それは先生も言ってた
「でも、ちょっとアレは無いわ
「アレはねー……
「(なんでこんなところに来ちゃったんだろう……黒帝のぱかーっ)
「何か言いたそうな顔ね?
「ね
「(なんで分かるのよ……)
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