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第122話 器の大きさ

「よく来たわね、勇者ギデオン」


 子供とはいえ、相手は魔王。

 そして、ここは俺が仲間と戦った決戦の場。


「……ココってこんなに綺麗だったのか」


 謁見の間なのだから当たり前だとも思うのだが、あの時はもっと汚れていた気がする。俺達が来る前から汚れていたから、そんなモノだと受け入れていたが……。


「今後の為ってのも有るから、別にあんたの為って訳じゃないのよ」

「そりゃそーだよな」


 大きな長方形のテーブルに、小奇麗な椅子がたった四つ。

 俺とピンスと魔王と、もう一人はトレインか。


「料理も有るから先ずは寛いでもらうわ」

「なんか王様みたいだねー」

「魔王なんですけどー」


 ピンスの感想にいちいち反応しなくても良いんだが、負けず嫌いなんだろう。

 俺と戦った時、自分を囮にしてでも勝ちに拘る戦いをする奴だったもんな。

 ピンスが遠慮なく話し掛けているところへトレインが現れ、椅子の横に立つと、スケルトンが次々と料理を運んで来る。

 ドラゴンの肉は見事にカットされてステーキに成っていた。

 匂いがたまらん。

 ヤバい、腹が減る。


「リンゴジュースで良いわよね」

「あ、あぁ、酒は呑まないから」

「へー、珍しいわね」

「俺の住んでいた世界じゃ別に珍しくも無いと思うぞ」

「そうなの、先生?」


 マリアは魔王の座る椅子の後ろに隠れるように立っていて、修一からは見えないが声は聞こえる。


「転生してきた人によって転生時の時代が違うようで、把握は出来ないのですよ」

「俺は平成生まれだって言えばわかるか?」

「ヘイセイ……私とはだいぶズレているようですね」

「班目なんて俺が知っている芸能人じゃなかったからなあ」

「有名人なんですか?」

「時の人と呼ばれるくらいは有名だな」


 マリアは時の人と呼ばれるような班目という名の有名人の事を知らない。

 知らないという事は少なくとも同じ時間軸ではない事が分かる。

 だが、それが分かったトコロで何も変わらない。

 

「二人で会話しないでよぉ……」


 魔王様が拗ねちゃいました。

 スケルトン達が部屋から出て行くのを待ち、トレインはまだ椅子には座らず、その横に立って待っていた。


「良いわ、みんな座りなさい」


 予想通り、座ったのはトレインと俺達だ。

 給仕をするのがメルスで、ずいぶん手馴れているようだ。

 カットされた肉をさらに薄くカットして皿にのせると、最初にピンスの目の前に。

 続いて俺、トレイン。

 魔王が最後で良いのか?


「さて、面倒な挨拶は要らないわよね、食事を楽しんでちょうだい」


 言われるがままにナイフと……箸が用意されている。

 ちらっと見ると、にやっと笑った。

 流石先生だ。

 俺にそういう作法が無い事は承知しているんだろう。


「美味いな」

「ねー、美味しい。このリンゴジュースもちょっとシュワシュワしてて不思議ー」

「おー、炭酸のリンゴジュースか」

「先生が作ってくれたのよ」


 魔王がそう言っただけでモグモグと食べている。

 主催なんだから問題無いし、こちらも作法とは無縁のようだ。

 タスカル!!

 というか、ピンスって殆どを城の中で過ごしていたらしいから、何でも興味を示すんだよな……。


「おかわりー」


 今は食べ物に興味津々だ。

 主食は終わり、デザートやサラダを摘まみながら、袋を出す。


「これが金貨一万枚だ」


 スケルトンでは持てないので、メルスが受け取って魔王の横に置く。

 中身は確認しても数えはしない。


「あと、宝物庫は最初から殆ど空だったぞ。確かに持って帰ったが、ちょっと古い調度品だったな」

「返してくれても良いのよ」 

「返すと言うほど無いぞ。だから全部持ち帰ったんだ。売れそうなものはあげちまったしなあ」

「あげちゃったの?」

「ああ。ちゃんと鑑定したから困るようなものは持って帰ってない」


 トレインは静かに怒りを膨らませていてる。

 少し離れた所に設置してあるテーブルで、シェリィ、ホゥディ、レノア、ピタンが同じ食事をしていて、その会話も聞こえていた。

 だから、気に成る事も有る。


「そんなこと言って、誰が信じるのよ」

「そー言われてもなぁ……当時の俺は浮かれていたが、それでも邪魔をしてこない奴らを追いかけ回して殺すような事はしていない。金は欲しかったから宝物庫には入ったが、既に殆ど無かったからな」

「そもそも、私も宝物庫の中の事は知りませんでしたが……そうだとしても四天王はあなた達が倒したのでしょう?」

「ああ」


 修一の返事は短いが、確かなものを感じさせる。


「下っ端の兵士なんて俺達が近付くだけで逃げたしなぁ……町だって通ったところ以外は壊していない」


 魔王が怪訝そうに追及する。


「でも、他の国の兵士を陽動に使ってまで攻めて来たんじゃないの」

「……知らんぞ、その話」

「なんだと……?!」


 その対応に追われ、魔王城に行く事の出来なかった当事者が怒りの声をあげた。


「勇者が魔王城に攻め込むという話と侵攻が同時に行われた所為で、俺は助けに行く事も出来ず……」

「忠義にアツいのは良いが優先順位がお前には有るんだろ。そもそも魔王が負けると思わなければ自分のするべき事をするのが普通だ。俺なんかとは違う……」

「お前が……」


 まだ続けようとするので強く否定する。


「だから、そんな話は知らん。そもそも大規模な侵攻があって、それを陽動とするのなら……あ……陽動か、そうか、そうだったのか……」


 修一が突然怒りだしたかのように見えたが、マリアもその理由に気が付いたのでアイシャの肩に手を乗せて伝える。


「勇者として利用されていたんですよ。魔王討伐を理由にして、です」


 ヘンデニル公国が攻め込んだのは勇者の大義名分を理由にしている。

 勇者に手を貸し、あわよくば一部占領し、魔王国に対し高く売りつける事も出来る。


「スケルトン1万体じゃ足りなかったかしら」

「……それは十分だと思います」


 ペロリとデザートを食べ終えたピンスは、リンゴジュースも飲み干していて、お代わりを要求している。


「少々よろしいですか?」


 シェリィがトレインの席の後ろから現れる。

 アイシャがマリアを一瞥してからシェリィに視線を向ける。


「シェリィも勇者の被害者だったわよね?」

「はい。あの当時は勇者達にやられたと思っていましたが……」


 現在のシェリィは四天王に名を連ねているが、名前だけの存在で、実際は四天王らしい振る舞いをしていない。

 そもそも書類上そうさせて仕事を手伝わせたかったのがアイシャの本音である。

 なのでこのテーブルにシェリィの席が無い理由でもあるし、本人も断っている。


「今思えばギルドを通じての挟撃作戦も有り得たと思います」

「当時のビーズの街を橋頭保として侵攻をパテリアと連携出来たら魔王城はもっと悲惨な事になったでしょう……」


 シェリィの分析にマリアが小さく頷いている。

 それだけにトレインの功績が大きい事の証明にもなるのだ。


「そうだとしても、それに俺は関与していないぞ」

「だとしたら、セイビアを締め上げる必要が有りそうね」


 お、ちょっと魔王っぽいセリフだ。

 ドヤ顔しているのがちょっと違う気もするんだが……。

 先生がニコニコしているのは何故だ?


「要するにギルドがその作戦に乗っていたと」


 トレインの質問にはマリアが応じる。


「断れませんからね。大義名分を提示されてしまうと、ギルドに拒否する理由がありません。運営資金の供給元を断たれてしまうのも困りますから」

「結局は金か」

「そういう事です」


 金貨の詰まった袋が主張しているように見えた。

 もちろん気の所為だ。


「冒険者達の中にも魔族と魔物を混同する人は多いですし、人族至上主義からすれば亜人は全て敵です。魔王という立場は実に危険なのです」

「俺の居た国は人族ばかりだったからな、遠くに在る魔王と魔族は敵だと教えられている。まぁ、今は存在しない国だけどな」

「あんた、勇者の癖にあっさりと国を潰し過ぎなのよ」


 スライムを踏み潰す感覚に似た感情で国を潰しているように聞こえるアイシャである。それだけに勇者という存在は恐ろしい。


「何度も言うが俺は勇者じゃないぞ。今は班目が勇者だ」

「その班目という男はどんな男でした?」

「なんだろうな……俺が思っていたより暗い感じがしたかな」

「そうかなー、楽しそうだったけど」


 どっちなのよ。


「召喚されてすぐにその力を発揮しているようでしたらかなりの強敵です」

「逃がしたが、殺した方が良かったか?」


 アイシャが俺をじっと見つめてくる。


「殺しても生き返るので無駄でしょう。先代魔王様があなたを倒せない理由です」

「死んだ事が無かったから分からんが……」


 班目にもそういう効果が有るんだろう。

 ただ、異常なほどの回復能力が有る。

 一度見たが気持ち悪い早さだった……。


「えー、じゃあ私の復讐はどうなるのよっ?!」

「え?」

「えぇ?」

「えー?」

「えっ?」

「…………なんでそんな目で見るの?」

「……とりあえず、敵討ちでしたらここに居るギデオンで問題はありませんが、実行しますか?」


 トレインが物凄い笑顔で私を見詰めてきたの。

 なんでー?


「修ちゃんと戦っちゃダメだよー!」

「私の親が殺されてるんだけど」

「修ちゃん、そんな事しちゃダメなんだからねっ!」

「え、あ、いゃ、というか。もう殺した後なんだが……」


 ピンスの顔が真っ青になっている。

 堪える顔が歪みを増していくのをスローモーションで見ているようで、涙が流れ落ちると大声で泣いた。


「なんでお前が泣くんだ。今は先生が全部を知っているだろうし、変なコト言わないでくれないかな」

「まぁ、予想通りの結果としか」

「そこまで知ってたのかよっ」

「そりゃ、私が戻れていないのですから、元の世界に戻れる訳が有りませんよ」


 今度は修一が元気を無くした。


「万に一つも無いって事か……」

「別の世界には行けるでしょうけど、その世界はこの世界にとっての異世界であって、元の世界ではありません。また、異世界から召喚されて別世界に飛ばされる可能性も低いですし」

「俺みたいに召喚されたのなら、この世界の奴で他の世界に召喚された奴が居ても不思議じゃないのか」

「不思議ではありませんが、その痕跡を辿る事も探す事も不可能です。それこそ神に会って話を聞くか、世界樹に居るあの青年の話を聞くぐらいしか」

「その話なら聞いたが、可能性は否定しなかったぞ」

「それはそうでしょう。ですが異世界に根を張れば戻れなくなります。元の世界にも今の世界にも根無し草のままではいられない筈です……もちろん、私もその可能性は探っていましたから」


 ムムム……。

 先生とギデオンが難しい話をしている……。

 ほら、あんたの彼女も目を回してるわよ。


「最も重要なのは、召喚する側が同じ条件で行ったとしても別の時間軸から対象が現れるというところです。我々の世界に存在した神隠しというモノの正体がこの召喚術式だとしたら……」

「全く同じ条件でも俺が呼ばれる事は二度と無いって訳だな」

「そうなりますね。その所為もあって召喚が頻繁に行われているようですし、成功するとは限らないですし、ましてや、召喚された者が必ず生き残れるとは限らないのが一番の問題です」


 召喚された者がその世界に適合し、生きる力を得て、特殊能力に目覚め、人々の為に戦ってくれる……。そんなご都合主義的な発想で行われている。


「そもそも、失敗の方が遥かに多いです。だいたいは同じ世界の謎生物を喚び出す事が一番多い失敗です。そして召喚した者は召喚された者に殺され、その痕跡も存在すらあやふやになるのです」

「俺みたいなのは運が良いってか」

「その運の良い者が他にも存在している今の時代はかなり危険でしょうけど」

「……そうなると、この世界に俺が存在していなかった場合はどうなるんだ?」

「この世界は何も変わりませんよ」


 この時、修一はあの男との会話の一部を思い出した。



 ---この世界は何度も壊れてはやり直しているんだ---



 否定する要素は無いが、現実だと思うにはあまりにも長過ぎる時間が必要だ。

 この世界のこの時代に、俺は適合してしまった。

 そして、多くの人に影響を与えた。

 多くの生物を殺した。

 俺が俺である為に必要だと思った事で、俺は……。


「まぁ、諦める事です。考えるだけ無駄ですから」

「そうだな……」


 二人しか分からなんい事で、二人は結論を出している。

 それがアイシャとピンスは許せないし、すごく悔しい。

 少しの時間だけ気持ちを共有していたが、大変な事を思い出す。


「復讐は……」

「復讐なんて……」


 そこから二人は何も言えなくなった。

 アイシャはマリアの手によって、ピンスは修一の手によって、止められたからである。この世界に与えた影響を止める事は出来ない。だからこそ、続けるしかない。


「あー、解散、解散。もう、終わり」


 ピタンの言葉によって止められていた時間と空気が再び動き出した……。








※おまけ



「世界樹に行こうとしているのになぜか邪魔が入るな……

「どうしてでしょうかね?

「どうしてもなにも、食糧が不足するのはなんともなあ……

「魔法袋が有れば良いんですけど

「……魔法袋?

「噂ではどんなものでも入れられる袋です

「そんなものが有ったら世界の流通や商人が……いや、そういう世界かココは

「もう食糧も足りませんし戻りますか?

「あぁ、そうすr……いや、行った先々に家を作って……面倒過ぎるな

「ギンギールに戻りますか?

「あそこは住みやすいが、ちょっと誘惑が多過ぎるんだよな

「…………



 兎獣人を知っているニールは少し複雑で、結局、二人は別の街へ向かったのだった




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