第121話 招待
いつの間にかいつもの服に着替えた先生は、ギデオンとピンスを後回しにし、とりあえずの状況確認と、巨大魔物が現れてしまった理由を考えている。
少なくとも、今のまま魔素溜まりを放置しても数ヶ月は安心の様子で、魔素の噴出は殆ど感じられない。
「封印はしておきましょう。魔獣が寄ってきても困りますし」
「監視用のキャンプ地も設営しておきます」
「それはトレインに任せるとして、今回って実はヤバかったのよね?」
「そうですね、かなりヤバかったと思います」
マリアにしても想定する以前の問題で、ギデオンが現れたのは予測の範疇を越えていた。もし魔王国に来るとしても、早くて一年以上は掛かると思っていたからである。
「それがなー……」
「ねーっ……」
二人してモジモジしている。
ピンスは良いけどギデオンは可愛くないわよ。
「ピタンと魔王様でジワジワと魔素と魔獣を抑制しつつ、時間をかけてじっくり攻略する予定でした。ですけど、どうして二人が?」
「そうです。先代魔王様を倒した奴に助けられるなど、本末転倒ではないですか?」
トレインの言葉は優しい方だが、語気がキツい。
誰の所為で今の魔王国が苦労しているのか、諸悪の根源が目の前に居るのだ。
「まあ、私にとってもギデオンを倒すのが目標みたいなところが確かに有るけど……」
チラッと一瞥しただけの視線を感じて、ギデオンが応じる。
「ああ、さっきの魔法は凄かったぞ。アレなら星銀の鎧でも消滅するんじゃないか」
「そうよねー、すごいよねー、えへへ」
なんで喜んでるんですか……。
「ただ、あの魔法には聖なる力も込められていましたね。誰がやったかは訊くまでも無いですけど」
「あたしすごーい、やったー、えへへ」
なんで喜んでるんだ……。
妙なところで親近感を覚えてしまったが、そういう場合でもない。
魔素溜まりの出現ポイントを特定し、今後数百年は漏れることが無いマリア直伝の封印魔法を施し、町には安全宣言を出して、戦闘の終結を伝えた。
町では怪我人が居なくなったことで暇になったミィとティルがぼーっとしていたが、先生に事情を教えて貰うと、トレインとは違う反応を示した。
「この人が聖女なんですか?」
「ちがうちがーう、ニセモノだよー」
そんなにニセモノを嬉しそうに言う人は見た事が無いんだけど。
「聖女の能力が違う方向で優秀なんです」
聖女は今、三種類存在する。
一人はアルファディルで活動しているハニエル。
もう一人は目の前に居るピンス。
そしてもう一人は……。
マリアは溜息を吐いた。
「この私を聖母にするなんて、井出さんには一泡吹かせないと気が済みませんね」
イデさんって誰?
プンスコしてるけど、怒るとちょっと幼さが見えて可愛いんだよね、先生って。
「そんな事よりさ、用事も終わったしお家に帰りたんだけど」
魔王様のお家といえばお城である。
「じゃー、俺達も帰るか」
「ねーっ」
その無邪気な会話にアイシャが魔王らしい負のオーラを纏わせた。
「あんた達も来るのよ」
「ですよねー」
「知ってた」
修一も魔法袋所持者の一人で、その袋の中から取り出したのはまた別の袋だ。
もちろん、中身は金貨がぎっしり詰まっている。
「ついでに特級のドラゴンの肉も持ってきたぞ」
メルスが居るのに平気で言うが、メルスは気にしていないようで、そもそも二足歩行同士でも食べるような亜人達に言われる筋合いは無い。
ピタンに言わせれば魚が魚を食べて何が悪いのか、という事になるのだ。
「とりあえず謁見の間に来ることね、招待してあげるからゼッタイ来なさいよ」
「てか、ココから城までって結構遠かっただろ……」
「歩いたら半日ぐらいね」
「普通のご招待にならあずかるんだが、なんか出頭命令みたいだな……」
「当たり前でしょ、いろいろとやってくれた責任を、身体とお金でしっかり払って貰うからね」
なんもいえねーっ。
って、俺そんなに色々やったっけかな……?
約半日後。
御者台には仏頂面のトレインが座り、馬車を曳いていて、魔王の嬢ちゃんは壊れた魔導船に乗ってさっさと帰ってしまったが、俺達は荷台に座っている。
ホゥディと名乗った男の子はトレインの横に座っていて、俺の目の前は女ばかりだ。
横にくっついて座るのはピンス。
反対側に座るのはピタンとメルス。
ティルとミィという聖職者の姉妹も乗って、意外と居場所が無い。
ヨシ、ココは寝て過ごそう。
くっつくなよ……。
招かれた城に辿り着いた時はすっかり暗くなっていた。
城門前の広場にはスケルトンが待っていた。
……すんげー美人もいる。
「あら、皆さんお揃いで」
「骨ばーちゃんタダイマーっ」
「はい、おかえりなさい」
え、どこが骨……ばーちゃんなんだ……?
美女なら居るが。
「なんでも良い食材が届けられると聞いて受け取りに来たんですけど」
「それなら修ちゃんが持ってるよ」
「修ちゃん……?」
「ああ、俺です。山本修一といいます」
「あー、町を破壊していった……でも、あの時と人が違う気が……」
袋からドラゴンの肉を取り出すと、スケルトン達が集まって受け取っている。
お、おい、お前の骨崩れてるぞ。
「すぐ直りますので気にしないでください」
「そ、そうなのか」
ピンスが俺の肩をつついてきた。
「なんだ」
「ねぇ、あっちの方に変わった気配が……」
「ん……?」
鑑定してしまった。
暗くて良く分からないが、鑑定結果だと兎獣人の男が居るようだ。
男が居れば女も居るのは当たり前の種族で、女性の方が生まれる率が高く、男性が畑仕事をしているのはかなり珍しい光景になる。
「変わったというか、珍しいな。こんな所に住んでいるのか」
「保護しているだけですよ」
トレインがいつの間にか馬車ごといなくなっていた事にも気が付かず、ピンスと二人で周囲を見渡していた。
俺が仲間と来た時と雰囲気がまるで違う。
畑だけじゃなく、花畑まである。
すげーな、ガーデニングってレベルじゃない。
今は夜だが程よい灯りが幻想的で良いな……。
「後で散歩したいなー」
それも良いかもしれない。
うん?
リンゴの生っている木がある。
本当にリンゴなのか……鑑定したから間違いないが、リンゴって一年中採れるモノだったか?
スーパーならいつでも買えるから何とも疑問に思わなかったな。
「アレは……マンドラゴラの畑……だな」
兎獣人とスケルトンが仲良く畑で収穫している。
って、今は夜なんだが?
街灯のようなモノが有るから問題無く作業をしている。
周りは魔素の漂う森だし、大人しいようだが魔獣もいる。
だがその畑は葉物も根菜類も、種類は豊富だ。
「なんか魔王城っていうよりさ、大きな農園じゃないかなー?」
「それな」
思わずじっくり観察してしまい、待たせるのも悪い気がしてきたから、目の前の美女に……話し掛けようとしたら、魚を運ぶスケルトン達が城の横から現れた。
確かに潮の香りもするから海が近いんだろう。
この辺りの海は蛸とか烏賊の巨大な奴が多くて面倒だったと思うんだが、それを捕まえられるのなら良い食材だろう。
多分、あのピタンとかいう奴の仕業だろうな……。
見た目に反して討伐対象になりそうなぐらい強そうだったし。
強そうな魔物の存在は只の人間にとって存在しているだけで脅威になる。
俺の時代で例えると存在が核兵器。
そりゃー、脅かされるわ。
「そろそろ良いか?」
「はい。では客室にご案内します」
……シェリィという名前の中身がスケルトンだが、見た目はとんでもない美女の案内で城内を歩く。
痛っ……見ていただけで抓るなよ……。
ピンスがキョロキョロとあちこちを見ているが、どこも綺麗で埃が無い。
掃除をしているスケルトンともすれ違ったんだが……。
「城内の方が薄暗いな」
「資金不足で節約中ですので」
俺が悪いのか。
俺が悪いのか?
おれがーわるいのかー?!
「まあ、正確に言いますと、作業員不足です」
「兵士が居たじゃないか」
「常駐する兵士はこれからでしょうか……」
兵士用の宿舎も用意している途中とか言われると、なんだかなあ……。
いや、魔王軍ってちゃんとした軍隊が有った筈だろ。
あれ?
「そっちの階段じゃなくてこっちだろ」
「え、えーっと……そちらですね」
なんで案内が間違えてるんだ。
確かに複雑な通路だけども。
「これ迷子になる呪いが掛けられてるよー」
「呪い?」
「そもそも建物がそういう構造みたいだねー」
「そんな呪い知りませんし、先生もそんな事を仰った事はございませんが」
ピンスが壁にへばりつくように何かを探している。
おい、スケルトン達に注目されているんだが。
「みーっけたっ」
「おい、それって……」
「ココに住み着いている妖精だよ」
「というか、先生は知ってたけど言わなかったって」
綺麗な顔は満面の笑みを浮かべている。
人が減って寂しくて悪戯したらしい。
なるほどな。
「それにしても、妖精ってそんな所に住んでいるのか」
「悪戯好きの妖精は人がビックリするのを見るのが楽しいってのも有るんだけどー、実際はただの寂しがり屋さんなんだよー」
「へーっ」
その妖精はピンスの髪の毛の中に入って隠れてしまった。
「もう悪戯しないって」
「では、改めてご案内しまs……」
「どうした?」
「ココでした」
照れ笑いする姿がやばいくらい可愛い。
大きな扉を開くと、ソコはあの日に戦った謁見の間だった。
「良く来たわね、勇者ギデオン」
※おまけ
スケルトンの料理と妖精の料理のつまみ食い
闘いは始まっていた……?
妖精「全然気が付いてくれないし、すぐ壊れるからツマんない……




