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第123話 復讐の先に

 その日の深夜。

 二人は客室で休憩しているが、寝られる気分ではなかった。

 ベッドはふかふかだし、ちゃんと二つに分かれていた事に安心している。

 安心できないのは今後の勇者の動向であった。


「復讐は終わらない悲劇を続ける。だが始めちまったのは俺だからなあ……」

「勇者の勘かなー?」

「そうじゃないが、勇者だった時と比べればだいぶ頭はスッキリしているぞ」

「もしそれが勇者のインガやアクエンというんなら聖女も似たようなもんかもー」

「お前にしては難しい言葉を使ったな」

「だってさー、聖女としてお城に閉じ込められてた時にいっぱい聞いたもん」

「お前もそういう悲しい境遇だったな」


 ピンスは服を全部脱いでから勝手にベッドに入っていく。

 いつからかは忘れたが、二人だけで安心して寝られる場所だと分かった時、ピンスは服を脱いで寝るようになった。

 聖女としての能力なのかは知らないが、森の中で野宿している時でもそんな事が有ったから、修一もピンスを信用している。

 アッチについては信用していないが。


「嫌な事は忘れちゃおー」


 そう言って物凄い笑顔で手招きしてくるから俺はいつも誘惑に負けている。

 勝てるワケないだろ。

 なのでベッドは一つしか使用しなかった。

 もう説明は必要ない。





 その頃、別の部屋では、先生と魔王が夜更かしをしていた。

 リンゴジュースをチビチビ飲みながら、似た質問を繰り返している。


「お父さんが勝ってたらどうなったんだろう?」

「新たな勇者がどこかで現れ、どういう理由かは不明ですが魔王討伐を目指すと思いますよ。ただ、全ての勇者が必ず魔王の討伐に城までやってくることは有りません。多くの勇者候補が自分の能力に気が付かないまま別の道を目指したり、気が付いたとしても前途多難な旅路に諦める事も有りますし、多くの仲間を失ってまで目指す価値は無いと思う事も有るでしょう。勇者の仲間が何人も倒れるようでは自分の責任感が別の方向に向く事も有ります」

「責任感が別の……?」

「自分が成し遂げたいダケの目的に、知合った仲間が倒れていくんですよ。彼らは生き返る事は有りませんし、勇者のような不屈の精神でもありません。裏切りもあるでしょうし、ついて行けずに別れる事も有るでしょう」

「そういう事なら、私は先生で良かった」


 アイシャはリンゴジュースを飲み干すと、ベッドに座っているマリアに飛び付いた。

 そして必要以上に抱きしめる。


「力が強くなりましたね……」


 アイシャは暫く目を閉じていたが、眠気は無い。


「ねぇ、先生……」


 その問い掛けに返事はない。


「先生はさ、私が復讐したい気持ちが完全に消えてないの、解ってくれるよね?」


 瞬く間も無く返ってきた。


「もちろんです」

「でもさ、そんな事をしても無意味なのは知っている」


 返答はない。


「私は復讐したとしても、しなかったとしても、どちらも間違っているし、どちらも正解だと思ってるの」


 今度は返答を待つ。


「……魔王様がお嬢様だった時の立場だとしても、お嬢様が魔王様に成られた今でも、復讐という行動は正解です。もちろん、何もせずに背を見送っても……」


 静かな時がゆったりと流れた。


「今に限ってですが、魔王という立場は特別なモノではありません。お嬢様であった時から魔王様はアイシャという一人の人生を送っているキャラクターなんです」


 聞き覚えの無い言葉に少し戸惑ったが、抱きしめたまま動かない。


「もしも、私が初代魔王様に勝ったとしたら、この世界はどうなっていたと思いますか?」


 突然の質問と、その内容に更に戸惑う。


「世界の歯車に変化は無いんです。私の人生と魔王の人生に変更が加えられるだけで、世界はいつも通りの時を刻みます……」


 マリアがアイシャを抱きしめる。


「当時の私なら……いえ、お嬢様が魔王に成る前でしたら、答えはそこまででした。ですが、少なからず世界に影響を持つ重大な存在であることが解りましたので」

「魔素溜まりの事?」

「そうです。そして、それは私も知っていますし、今はギデon……修一も知っているでしょう。世界の崩壊に繋がる重要な立場であることが確定いたしましたので」

「それって、勇者も関係するの?」

「事情についてで言うのでしたら、勇者は関係ありません。今回はこの魔王城の地下にも存在する魔素溜まり、そしてこれから発生するであろう、高濃度の魔素溜まりが世界を少しずつ悪い方向へ変えていくでしょう」


 言葉を咀嚼し、理解するまでに時間が掛かった。

 そして、理解しきる前にマリアが言った。


「その為にも世界樹へ行きましょう」

「世界樹へ?」

「そうです。あの土地に住む二人は管理者ではなく、監視者。つまり、見ているだけなのです。その代わり世界の事情に詳しく、この世界に悪意ある影響が広がった時に手助けをしてくれると思っていますが、悪意無く滅びれば二人は何もしないでしょう」


 新しい情報が増えると、アイシャは更に混乱した。


「つまり、私には説明出来ない事を教えて貰える日が来たという事になります」

「なんか、余計に難しくなったん……」

「表面だけを見て静観を決め込む事が出来ない時代に突入しました。この時代の始まりを知っている二人なら、少なくもない情報を開示してくれる筈です」


 話を聞く為に世界樹へ向かう。

 そこにどんな困難が待ち受けたとしても。

 これは覚悟を決めるべきかなーっ……。


「魔導船が有るので数日で到着しますけど」

「えっ?!……それってズルじゃないんだ?」

「世界樹に近付く事さえ出来ればスグに到着しますよ。魔導船は拒絶対象に成らなかったそうです……ですけど、狡いという発想は有りませんでしたね」

「お伽噺で読んだ試練の塔というのはズルをすると塔から落とされるって……」


 【試練の塔】という本は子供向けの勧善懲悪で、囚われたお姫様を助けに行く物語ですが……内容は千尋の谷に突き落とすのではなく塔を登らせることで子供を鍛えるという国王の指示で、お姫様は主人公の妹、犯人は騎士副団長という、ツマラナイ内容でした。

 でも、このお姫様は主人公と結婚してるんですよね……。


「別に歩いて行っても良いですけど、数年は掛かりますよ」


 魔王様が固まりました。

 カチコチです。


「まっ、魔導船最高っ!!」


 抱き付いて甘えないでください。

 可愛いから許してしまうではありませんか。

 ……ああ、甘やかしても良いですよね。

 うふふ。





 翌朝、身も心もすっきりした俺達は朝食に呼ばれた席で思い出した事を伝える事にした。

 それは封印とは別の封印。

 宝物庫でもない。

 ハニエルも気が付かなかった対勇者用のなにかが有ったとおもわれる。

 思うだけで、調べてもいないし、その部屋がどんなことに使われていたのかは知らない。何しろ悪戯妖精の所為で難易度の上がった魔王城のダンジョンの様な中を歩きまわされたのだけは覚えている。

 原因について、当時は知らなかったが。


「そんなワケでソコがこの城の何処に有るのかは知らないが、地下とは別だし、上階の方でもなかった。中庭にも続いていた気がするし、どこかバルコニーを通った気もする」


 思い出しながら説明をするが、ここに居るメンバーで城内の事に一番詳しいホゥディでも知らないのだから、後はもっと詳しいミィに訊く必要があるかもしれない。


「そーいえば、ミィって今どこに居るの?」

「ティルねーちゃんと一緒にパテリアに居ると思うよ」

「じゃあ呼ぶのに時間が掛かるわね……」

「私のスケルトン達に探させます」

「宜しく頼むわね」


 とは言ったが、結局は魔王も巻き込んでの大捜索になった。

 今は妖精の悪戯は無いが、それでも敵の侵入を防ぐ目的でややこしくしてある上に、城内の見取り図も無い。

 作成はさせているが、妖精の所為で間違っているところが多く、結局は作り直す羽目になっていた。


「で、なんで俺まで……」

「私のおとーさんを殺しておいてその態度は無いわー」

「ぐぅっ……」


 ナイスな使い方ですよ魔王様。

 その調子です。


「スケルトンが迷子になってます……」

「情けないわねぇ……」

「それにしても誰も見付けられなかったのに修一だけが見付けるって何なのよっ」


 さらっとギデオン呼びをやめたが、気が付かなかったのは本人だけかもしれない。


「先生だって気が付かなかったって言うのに……」

「特殊な封印の形式でしょうけど、勇者にしか反応しないとなると罠の可能性は低いですね」

「そうなの?」

「俺は罠だと思って入るのをやめたけどな」

「だとしたら、勇者にしか反応しないような分かりやすいモノは設置しませんよ」

「そりゃそーだ。でも、今は勇者じゃないからなー……」


 ピンスが立ち止まった。


「なんか……上から気配がする……」

「なんでピンスが?」

「……私も感じませんから、聖女の能力でしょうか?」


 無理矢理聖母にされているのに何も感じません。

 全く、井出さんは何の為に私を……。


「ですが、存在が解ればなんとかなりそうです……上に行く通路は何処ですかね」

「なんともなってないじゃん!」


 魔王様の見事なツッコミに何も言い返せませんでした。

 その後はスケルトンによる人海戦術で通路を発見し、扉の前まで来ると違和感が凄かった。

 それは先生だけじゃなくピンスも修一も感じていた。

 もちろん私も。


「この扉の先の空間……何処に繋がっているんですかね?」

「スケルトンで試しますか?」

「お願いします」


 シェリィの指示でスケルトンが扉を簡単に開き、入って行く……。

 そのスケルトンが真上から降ってきてシェリィとぶつかっていた。

 なんで?


「ねぇ、修ちゃん、これってさ……」

「ああ、招かれざる扉だ……」


 その会話を聞いた先生の目が怪しく光った。






※おまけ



「弱いくせになんでこいつらは……しつこい!

「周辺を縄張りにする盗賊団だそうです

「潰すか

「聖人様がそう思うのでしたらそれで良いと思います

「なんかあるのか?

「いえ……(聖人様は人を殺す事に躊躇いが無くなっている気がする……でも言えない)


 こうして盗賊団と、それに関わる街の自警団が壊滅しました。

 ちなみに商品として捕まっていた女性3人とお遊びになられ、ついでに食糧と宝を手に入れましたが、持ちきれないので一部をお金に変えて、あとは地元の王国兵に引き渡しました……。

 私は……ぃぇ……聖人様の為に……。



  

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