第117話 根源
街外れとは言っても、整備された街道は有るし、これから開墾する予定の畑の予定地もある。だが、今は魔獣との戦いの後で、魔獣の亡骸がそこら辺に放置されていた。
乾いているようで、あちこちに水溜まりがあり、魔力で生成された水なので時間経過で消滅するが、消滅したら困る穴が二つある。
一つ目は、叩き付けられて地面に埋まったメルス。
完全に気を失っていて、アイシャを心配させていたが、鱗はボロボロになっていないし、触ると僅かに動く。
うん。
意外に柔らかいお尻だ。
うん。
引き抜いて確認する。
うん。
死んで無いから大丈夫。
ピタンは表情を変えず、視線も動かさず、言葉で確認する。
「生きてるようね?」
「まーね。でも、もう、私がヘトヘトよ……」
「それなら、戻ったら?」
そう言いながらも、逃げれないように渦の中に沈めたベヒモス達が、水に溶けるように消滅するのをピタンは鋭過ぎる眼で見詰めていた。
それが二つ目の穴だ。
アイシャとピタン、気を失っているメルス以外は土埃の外に居たから、土埃の後に発生した霧で視界を奪われていて、近づきたくとも近づけず、全てが収まるのを待つしかなかった。
消えるまで凝視したまま待っていると、霞よりも薄く、視界が開けた時に見えた光景は魔獣の殆どが倒されたあとで、ベヒモスの姿が一体もない。
あの巨大な魔獣が一匹残らず消えたのだ。
兵士も冒険者も、トレインもホゥディも、状況を理解するのに時間が掛かった。
捜し求めていた3人の姿が確認されると、ホゥディが全力で走りだし、トレインが追いかける。
「おねーちゃーん!」
疲れた顔でも笑顔で返事をする。
「あら、大丈夫だった?」
「あんたたち、そんな事より……」
メルスの事を言おうとしたが魔王の方を心配するのは当然かもしれない。
「魔王様はご無事ですか?」
「ちょっとケガしたけどね、この服とピタンのおかげで助かったわ」
トレインは、仲間ではあるが同僚ではないピタンに深い感謝を示し、水魔法で作った簡易ベッドのようなモノに寝かされているメルスを回収してギルドに連れて行く。
冒険者達は残った魔獣の亡骸を回収しに走り回っているが、アイシャが何も言わないのだからトレインも何も言わない。
「この服が無かったらヤバかったわ」
「あんたねー、地面に叩き付けられる前に気を失ってたでしょ」
「そりゃ、あんな衝撃……」
あれ?
「あの威力で叩き付けられたら穴がもう一個増えてたはずたけど?」
水玉に包まれた時に衝撃を吸収していて、地面ではなく、実は水玉に叩き付けられていたのだ。
ピタンは魔王城の近くにある海を棲家としてはいるが、まだ魔王の部下ではない。だから戦いにも参加しないと思っていたのだ。しかし結果として助けられているし、あの魔獣の群れをすべて倒したのがピタンなのだから、ピタンが居なかったら……。
「もしかして、先生はこうなるの知ってたって事?」
「どうだろー……」
ピタンも悩んでいる理由は何だろう?
「確かに魔獣を倒したけど、アレは倒したというより勝手にアイツらが消滅しただけだから、また現れるわ」
「そうだ、魔素溜まりを探さないと……」
「とりあえず、あんたが開けた穴は利用させてもらうわよ」
消えずに残ったのは土を掘削したのと同じだったからで、逆に言うと埋め戻す方が大変な作業になるのだった。
騒がしくも忙しいギルドでは、次々と魔獣の素材が運び込まれていて、魔素から生まれたのだから、魔素が途切れたらベヒモスのように消えると思ったのだが、そのままの姿を残している。価値が下がるとか、貴重品とか、そんな事は言っていられない。素材を整理したり加工するのは商人ギルドに任せても良いが、まだ対応できる人が少ない。
傷付いた兵士や冒険者は、軽傷者を姉のティルが担当し、重傷者は妹のミィが請け負っている。
衝撃が強すぎて動けなくなったメルスの治療も終わり、ピタンに助けられたことを知ると悔しさを滲ませた表情ではあったが、お礼の言葉はちゃんと言っている。
「もー、無理しちゃーダメなんだからねー」
今回の戦いの功労者の一人は、アイシャよりも年下の少女だ。
治癒魔法の使い手で、姉よりもその回復効果が高く、四肢欠損も治療していたから、助けられた者達はそのままミィの手伝いをしていて、新しい宗教でも始まりそうな勢いで感謝と感激の声に埋もれていた。
「私より人気あるじゃないの?」
「おねーちゃんもそこ座って、ちりょーするよっ」
「ア、ハイ」
魔王様でもこれなのだから、ミィの価値と立場がグングンと昇っているのは疑う余地も無い。ちなみに、これはマリアの予想にも無かった出来事の一つである。
「決着した訳じゃないからね、またあのベヒモスが出てくると思うと頭痛が激痛なのよね」
トレインが苦渋に満ちた報告をする。
「監視と捜索はしていますが、魔素溜まりが発見できません」
「先生の結界は完成しないの?」
ピタンは他人事のように教えてくれた。
「畑や街道も壊されないようにしてるみたいだから、時間が掛かるんじゃないかな?」
「凄い結界よね、私達には無害で、それ以外から守るんだから、どんだけ精密な魔法陣を作ってるんだろう」
「先生だから不可能じゃないけど流石に時間が……って事ね」
「だーかーらー、先生はアンタに期待したんじゃないのっ」
現魔王をアンタ呼ばわり出来るのはピタンだけである。
「水魔法の武器をちゃんと使ってればもう少し巧く立ち回れたハズよ。それなのにー、先生と私の期待を裏切っちゃってー」
「ぐぬぬぅー」
ピタンがアイシャの頭を拳でグリグリする。
なんともほほえましい光景だと、そう思って見ているのはメルスとトレインだ。
お嬢様の時から友達が少なく、魔王ともなれば対等の友達など作る方が難しい。
だから、ピタンやホゥディのような存在は貴重で、今日はその友達候補が一人増えた。。
「あの先生はどこまで先が見えているのか分からないな」
「安心しろ、メルス。俺も分からん」
トレインも降参している。
そして、今回の戦いで最も重要な事がもう一つある。
魔素溜まりを封印する事の他には、魔王としての成長を求められている事だ。
今回は偶然の事件で、魔素溜まりの発生を予期していたとしても、正確な時期までは分からないから、マリアとしては、可能な限り国としてのダメージを抑えつつ、魔王としての成長をして貰う為の機会として利用したかった。
だが少し困難の方が大き過ぎる。
ミィとピタン。
今回は二人の存在が無ければ、もっと多くの人が死んでいても不思議は無かった。
ベヒモスが現れるほどの規模も予想を超える。
だから、マリアが戦いに参加すれば勝てたとしても、被害は大きく、魔王としての権威も失われかねない。
それでは勝つ意味が無いのだ。
国内に対しても、政治的に十分な力を見せなければ信用は失墜する。
マリアは先生として生徒のアイシャに、ただ単純に、勝てば良いというモノではない事を理解してもらいたかった。
「とりあえず一段落したし、考えても分からない事は先生に相談しましょ」
「それなら私も」
「ぼくもー!」
アイシャもピタンも自力での飛行能力は無い。
だが、ピタンは水魔法で無理やり自分の身体を弾き飛ばし、宙に浮く魔導船まで飛んで行った。
「あんな使い方があったなんて」
「すっげー」
ホゥディが目を丸くして見上げているけど、水飛沫も凄いんだけど……。
「おねーちゃんもやってー!」
凄くキラキラした目で見られたわ。
確かに出来ると思うけど……。
「ちゃんと背中にしがみ付いてね」
「はーい」
後ろから抱きしめられた様な感じ。
良し。
「いくわよっ!!」
ピタンの真似をするように足元に魔力を集中て水魔法を放った。
「あれ?」
「おねーちゃん、曲がってるぅぅぅぅぅ」
方向を制御出来ずに、そのまま明後日の方向へ。
メルスが回り込んで受け止めてくれたけど、そうじゃなかったら地面にダイブしてたわ。意外とコントロールって難しいのよね……。
「こ、こわかったぁ……」
「二人とも私にしがみ付け、運んでやる」
メルスはふわりと浮かび、ゆっくりと上昇、魔導船に到着した。
※追加情報
魔素溜まり
魔素が噴き出る魔素濃度が極端に高くなった場所
発生理由は不明だが、一度発生すると今後も発生しやすくなると言われている
一定の魔物を掃討するか、魔素が自然消滅すればそのまま消える
封印する事によって魔物の出現を防げるが、維持する為に別の魔素が必要になる
魔獣
魔素より産まれし魔物
元が魔素なので固定化しないと魔物も消滅する
小さい魔物は固定化が早く残りやすい
ベヒモス
地上である限り最強の魔物
Sランク冒険者でも苦戦するが、水を極端に嫌う
雨も苦手
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-**-*-
ブクマ いいね 感想 レビュー お待ちしております
宜しくお願いしますm(_"_)m




