第114話 魔王領
城の裏門の先に作られた広場に町を建設し、さらにその奥へと続く細い道の先には兎獣人が住む村を作った。アオコと名付けられたカラーは、ミィと一緒に森の中の細い道路を歩き、安全性を確認している。
そもそも魔王城近くの魔獣はそれほど強くないし、襲ってこないからほとんど放置されている。なのでココの魔獣を狩る事は無い。
魔王としての仕事というより、純粋に統治者としての義務を果たすべく、多忙な毎日を送っている。
暑くて眠れない執務室も
腕を競った釣り大会も
城内で焚火をして怒られた日も
却下した申請書類で作った折り紙の飛行隊も
リンゴジュースの飲み比べをした時も
多忙な毎日は月日をあっという間に流していく……。魔王の誕生日を祝う祭りは開催されなかったが、一番賑やかな一日だったと記憶されている。
「それにしても、思ったより一年って早いわねー」
「まだ私を四天王にしてないわねー」
ピタンは四天王を名乗っていないが、ほぼ当確で、ベルディナンドと夫婦になるのが先か、四天王に成るのが先か、一部で賭けの対象になっている。
なので、未だに四天王は二人しかいない。
「これからの税金と収穫物も期待できますし、マンドラゴラも順調に保管量が増えています」
そう報告したのは四天王のシェリィだ。
「パテリアの住人達から苦情も届いています」
「苦情?なんで?」
苦情の理由は、魔王城の傍に町を作り、移民を住まわせた事にある。
自分達の方が長く魔王領に住んでいるし、町にも国にも尽くして来たのに、何故外から来た者達を傍に置くのか……。
「魔族の子孫って説明してなかったっけ?」
「……それは私も初耳ですね」
あれ、いつも傍にいる先生がいない。
「せんせーい!!」
「はひっ?!」
こんな声を出す先生も珍しいから細目でニヤニヤしてあげよう。
うふふ。
「忘れていた訳ではないのですよ、皆さんでしたら自然と気が付くと思っていまして」
「ふーーーーーん」
眼鏡をかける。
「あ、そのっ、いえ、忘れてませんよ」
「リンゴジュースが飲みたいわね」
スッと出される、キンキンに冷えたリンゴジュース。
これこれ、こういう時に飲むと美味しさが際立つわ。
「先生でも魔王様でもどっちのでも良いのですが、それを説明して頂けませんか?暴動になる訳ではないですが、小さな事でも引っ掛かりますと、求心力が弱まります」
「それでしたら私が行きましょう」
「宜しくお願いします」
一つ解決するとリンゴジュースが美味しい。
んふー。
「それと……」
シェリィが報告を続けようとした時、メルスが箒を持ったまま、窓から執務室に飛び込んで来た。
何故かその肩にはミィが乗っている。
ついでにカラーのアオコも乗っている。
「事件だぞ、魔獣の群れが現れた」
先生でも索敵範囲外なのか、軽く驚いている。
「どの方向からです?」
「あっちだ」
示した方向はパテリアに近い。
「物見部屋であそn……掃除していたら見えたんだ」
ミィは城内のスケルトンと仲が良く、子供達とスケルトンを集めては城内の探検をしていて、危険な所には入らないように言っているのだが、それでも城が広すぎて、今日はたまたま掃除していたメルスを捕まえて一緒に探検していたらしい。
「物見部屋って、最上階にある、あの横に飛び出た部屋よね?」
「そうだが」
「あの部屋の行き方って城内地図にあったかしら……」
スケルトン達でも迷子になる城で、分からない場所は立ち入らないようにしているのがスケルトンだ。なので今この城を一番知っているのはミィという事になる。
「あそこは螺旋階段をぐるぐる上ってかないといけないのー」
先生が無言だ。
「先生?」
「冒険者ギルドに緊急依頼を出してください。メルスは先行して偵察をお願いします」
先生の口調が厳しい。
メルスは偵察に向いている性格ではないし、破壊は得意だが情報収集は苦手だ。
そのメルスに任せるのだから違う危機感がある。
「スケルトン隊を動員しますか?」
「間に合いませんのでいつも通りで構いません、トレインを呼んで……」
そのトレインも血相を変えて窓から飛び込んで来た。
その窓は出入口じゃないんだけど。
「魔王様、緊急事態です」
「魔獣の群れよね?」
「はい。総数1万を越えます」
メルスがワクワクしている。
「それと、森の中に異様な魔素溜まりが発見されました」
先生の私に向ける視線が真剣だ。
「魔王様、魔導船を出して調査に向かいますがよろしいですか?」
「許可するわ。でも、私も同乗するから」
「俺も乗るっ!!」
トレインの影からにょきっと現れたのがホゥディで、トレインとメルスとピタンと、今は不在のベルディナンドにも鍛えられ、メキメキと実力を伸ばしている、将来の四天王候補だ。
魔導船は城内に新設した格納庫に保管されていて、出航は魔王の許可が必要となっている。もちろん、建前だ。
「先生、もしかして原因の予想が?」
「……魔王不在の間に漏れ出た魔素と思われます」
「ちゃんと封印してたんじゃないの?」
「魔王の存在理由でもあるんですよ……詳しい説明は難しいです」
説明するのが大好きな先生が難しいと言うのだから、今は諦めたアイシャが、長い時間をかけて兵員募集し、やっと集めた1026名の正規兵の出動をどうするか……。
「訓練は順調ですが、実戦はまだ経験していません」
「その実力を測る必要もあるわね。出動に必要な物資は問題ない?」
「特に問題ありません」
経理担当ではないシェリィが返答したが、城内の管理を任されているので台所事情に詳しく、財政に関してはマリアから最も信頼されている。
なので、アイシャが決断を下すに十分な返答であった。
「では全軍出動!!」
アイシャが椅子に立って片足をテーブルに乗せ、ポーズを決める。
やりたかったんですね……。
ホゥディが真似しそうです。
ミィが目をキラキラさせています。
カラーはもう真似していました。
あなた鳥ですよね、器用な……。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……お行儀が悪いですよ」
流石シェリィです。
魔王様が顔を赤くして椅子に座りました。
それをどこからか見ていた少女がズカズカと入って来ました……。
「……あんた達何してんの?」
「ぴ、ピタンには関係ないわ」
「ふーん。あんたの釣り竿を強くしてあげたのに?」
魔王様の所持する武器は水属性が付与されている為、ピタンが強化すると言って預けていました。
凄いですね、これ。
でも、この効果は……。
「スコールだって、小さな泉だって、水圧レーザーだって出るわよ」
「へー……」
「ちょっと、感謝しなさいよっ」
「うんうん、ありがとねー。早速これ持って初陣よっ」
「おー!!」
トレインしか返事をしません。
まぁ、他は戦力ではないですから仕方がないです。
なんか寂しいです。
「そうそう、海にも巨大で食べられないタコが出たから退治して置いたわよ」
「ああ、さっき外で何かやってると思いましたけど、ピタンなら大丈夫だと思って放置していました」
「毒塗れだったけど、あんなの雑魚ヨ。ついでに海も綺麗にしておいたわ」
「……水が関わると流石ですね、ピタンは」
「えへへー」
魔王様がムスッとしました。
あの、そろそろ行きませんか?
このままですと、締りの悪い初陣式に成りそうです。
「先生は心配しているのですか、期待しているのですか?」
「両方です」
質問したシェリィが飽きれたような困ったような、複雑な表情をしました。
※おまけ
「凄いトコだったねー
「ああ、もう次に行くことは無いと思うけどな
「それにしても……修ちゃんってやっぱり勇者なんだ?
「違うぞ
「勇者の嫁ってなんか凄そう……
「……(平気で言いやがるから困るっ(照
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