第101話 机上の会戦
魔王の宣言が各地に広がったその日、新魔王は書類整理に追われていた。
何しろ申請と許可を求める書類が山積みで、スケルトン達が次から次へと執務室に運び込んでくるのだ。
「終わらないよー」
「それも魔王様のお仕事ですので」
「……見ても理解していないなら手伝っても良いのでは?」
「サスメル!!」
「名前を勝手に略すな」
「理解できないのですか……?」
先生、なんで急にメガネかけたの。
「えっ、あー、うん。解かる分かる、ワカルヨー」
「ですよね」
先生の笑顔が怖い。
理解していないって言ったら分かるまでずっと見張ってそうなんだもの。
まぁ、大体が建築許可と新設部署の申請書なんだけど、人員不足なのよね。
……これは不許可!!
「どうしました?」
「これさ、お金の申請だから今は許可してもお金出せないでしょ」
「……そうですね。税金もまだ徴収できませんし」
「これ以上先生のお金を使う訳にも行かないから、お城の中で売れる物が有ればいいんだけど……」
ギデオンが金目の物の殆どを持って行ってしまったので、売れる物が有りません。
……なるほど。
「では正式に商業ギルドからギデオン宛に通達してもらいましょう。魔王様の名で被害金額の請求をするのです」
「いくらぐらいがいいかな?」
その間にもスケルトンが書類を魔王様のデスクに置いている。
遠慮は無い。
「まあ、金貨一万枚ぐらいが妥当ですね」
「凄い金額だな」
「確かに価値が無い物も有りますが、それを知る者は今の城に居ませんし、単純にそれでも不足しています。召還令状も発行しましょう。そもそも窃盗や強盗に該当しますので問題ないです」
メルスが腕を組んで天井を見詰める。
私も同じ行動をしてしまった。
流石先生、抜け目がない。
って、価値を知ってるのって先生だけじゃないかしらん?
「どういたしましたか?」
「あ、な、なんでもないわ。そ、それよりっ」
「リッカー達からの報告とか手紙は無いのか?」
「そう、それっ」
スケルトンが手紙を持ってきました。
たった今、届いたようです……。
シェリィが隠していたのですか。
まったく、優秀で困ります。
「どれどれ……」
ふんふん。
ふんふん。
「えーっ?!」
「おや、陥落しましたか?」
マリアの口調が軽い。
「早いって、まだみたいだけど、この手紙が届いた頃には結果がわかるって」
「勇者が勝ち名乗りを上げますでしょうし、そうなれば即日ギルドが通達しますし」
「……まだ届いてないよね?」
「届いているのでしたらこの手紙とほぼ同時に来る筈です。ですが、そうでないとなると、最前線の戦況が変わったのでしょう」
「やっぱり死霊軍団を送り込むって宣言したのが良かったのかな?」
「効果は有ったかと思います。そちらは着々と準備を進めておりますし、不眠不休で作業が出来ますので明後日には出港できるかと」
やはり食糧を運ぶ必要が無いのは大きい。
しかも1万体のスケルトンだ。
「進軍速度が遅くても、休む必要も食糧を与える必要もありませんからね」
「港は何処に有るんだっけ?」
やばっ、先生がメガネを装着しちゃった。
「新設されたニュービーズの港町ですが、まだ港とは呼べません。船が接岸できるだけです」
「あーあー、資料にあったわ。ハイ許可!!」
魔王様がスケルトンから書類を受け取って、ハンコを押しました。
これで後付けですが認可された事になります。
問題は住民ですね。
あ、このメガネは度が入っていませんので見た目だけです。
「移民希望者を募るのもアリなのですが、出来れば魔族が増えるのが望ましいので」
「それは同意するわ。ピタンのトコロから家族を呼べると良いんだけど」
「あの町はギルドが有りませんから難しいですね……」
疲れたので勝手に休憩している魔王様はリンゴジュースを飲んでいます。
リッカー達の救援に行きたいのですが、流石に優先すべき事をして貰わないとなりません。今は魔王様の魔王としての基礎的な立場を固める為に必要です。
「はぁー、もう一仕事しちゃうかなー」
先生の笑顔が眩しい。
今夜も川の字だからねっ。
ブリード伯爵家領地最後の城門前の荒野では激しい攻防が繰り広げられている。
攻めて来る兵士と守る兵士。
元々は同じヘンデニル公国に所属しているのだが、公国の名は有名無実化しているに等しい。
その公爵様はブリード伯によって守られているが、実質的に最前線で戦い、武名を挙げているのはSランクのリッカーである。
彼女が居るから戦線は崩壊しないし、彼女が撃退するから何とか守られている。
だが、その日戦う相手は、いつもと同じ男なのに、何かが違っていた。
「民間人は既に聖地へ向かって移動を完了しています」
ハニエルが来た時に難民の受け入れを頼んだのだが、そっちはあっさりと受け入れてもらえている。武力としての援軍は期待できない。
「わかった、じゃあちょっと本気で行ってくる」
そうは言って飛び出したが、既に本気でやっているのに、手応えが凄い。
数日前は手も足も出す前に殴り飛ばせたのに……。
とどめを刺そうとするといつも居ない。
誰かがアイツを助けていて、かなり優秀な治癒魔法使いが居るとしか思えない。
治癒魔法はハニエルも凄いが、もしかすると匹敵するかもしれない。
「なんでっ、無名のっ、こんな男になんかにっ」
逆転した立場に余裕を見せて応じる。
「無名とは知らないだけ、有名とは知られただけ。実力に関係は無いな」
対峙して分かるこの男の強さ。
とんでもない程に成長が早い。
その言葉にも自信が溢れている。
「殺しはしないからな、お前ほどの美人なら完膚なきほどに痛めつけて俺のモノにしてやる……」
「あんたは班目じゃないわ、でたらめよっ!!」
虚勢を張るのが精一杯だったリッカーは、自己強化を施して戦線を維持する。
他の仲間達は優位に戦っていて、ココだけが止められないなんて言い訳はできない。
「お前さえ手に入れられれば退いても良いんだぜ?」
身体中にのいたるところに傷は有るが、鉱石リザードの胸当てのおかげで致命傷はなかった。しかし、その言葉はリッカーの矜持を深く傷つける。
このままだと数に圧されて退くしかない。
「さて、もう魔力も尽きたか。見た目も良いが、綺麗な身体を傷つけるのは楽しくないんでな」
いやらしいほどにニヤ付いた顔で見詰めてくる。
そして、その男の言う通り、魔力が尽きて身体強化が出来なくなった。
「暴れられんように腕を折るか、逃げられんように足を折るか……」
振り下ろされた剣をギリギリで回避し、それでも戦意が衰えないのはリッカーだからである。一般兵なら降伏する暇もなく命を落としているだろう。
それでも立ち上がり剣を構えた。
剣は欠け、鉱石リザードの胸当て以外の防具はボロボロで、靴も片方が脱げている。
「ふん」
「んべっ」
リッカーはものの見事に転んだ。
それは最初の頃にリッカーが班目に掛けた転がす魔法で、力の差がはっきりするのを見せつける為だったのだが、それを自分が体験している。
無様に転び、剣を落とし、だらしがなく仰向けになっている自分が悔しくて仕方がない。
「トドメだっ……っ?!」
剣を振り下ろした先のリッカーが視界から消えた。
動ける筈の無い姿で、目からは涙が流れ出していたというのに。
「どういうことだ……魔法か?」
班目はこの世界に来てからの期間が短く、経験も浅いし知識も少ない。
ニールから夜な夜な教わっているが、そのニールも詳しい訳ではない。
「へー、コイツが新しい勇者か」
「今助けますからねーっ」
班目は初めて見る男女に驚いている。
何しろ、どこから現れたのか。
周囲には何も無かった筈だ。
「はらほろひれはれーっ」
不思議な掛け声とともにリッカーの傷が癒える。
「……なあ、それ、やめてくれないか」
「修ちゃんが教えてくれた楽しそうな掛け声で良いじゃん」
何故、自分でもうろ覚えの言葉を教えてしまったのか……。
気の抜けるような言葉とは裏腹に、女は周囲に向かって何度も歌うように言葉を繰り返すと、敵味方関係なく、傷付き倒れたハズの兵士達がムクリと起き上がる。
「……治癒魔法か」
「リッカー、少し休んでろ」
その男から小さくて柔らかい布を手渡され、泣いている自分に気が付いた。
視界が滲んでいてその男の姿が良く見えない。
だが、声は、聞き覚えがある。
しかし、こんな優しい口調は知らない。
「修ちゃん頑張れーっ」
「おぅっ」
※おまけ
「ベルディナンドって無くなったと聞いていたが
「ああ、ココは始まりの街では無いがサンタヘルも人が増えたんでな
「それで新しく作って昔の名前を?
「天使族も悪い奴らでは無いがあくまで悪魔だけの街をだな……
「あくまで?
「あくまでな?
「……なんでそっちの嬢ちゃんは笑ってるんだ
「ただの笑い上戸だ
※追加情報
■:ニュービーズの港町
公国軍に壊された港町で、元はビーズの町と呼ばれていた
現在復興中で、護岸工事と桟橋を修理中
海に近いので食糧は何とか自給自足が可能な状態
100人程度が住んでいる
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