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◎ひどいやつら【一】


【 おことわり 】


 この作品は過去に二人の友人とリレー小説の形で連載(未完)していたもののリブートとなります。


今回の再構築に際し、快く了承していただいた両氏にはあらためて感謝の意を捧げます。ありがとうございました。



◎設定・キャラクター原案協力


◯ モジョンさん

◯ アルパカさん





※



そちらではどうなのかは存じ上げない。


あくまでもこちら側での、とある事象についての話である。


わたしの世界の月には、ぐ(・)ね(・)ぐ(・)ね(・)さ(・)ん(・)が住んでいる。


いや、貴方のその表情よくはわかるし、頭上に浮かんだ疑問符も当然至極、しかし文字通りなのである。


月面をぐねぐね這っている謎の巨大生物。地球の地表から肉眼で確認出来るその存在は、現実を疑ってしまうほどにド級に長大なのである。見た目としてはムカデが一番伝わるかと思う。左右で対になっている無数の脚をわしわしと動かし、月面をぐねぐねと動く巨大ムカデ。そのイメージで構わない。月の直系は三千四百Km(キロメートル)という話だが、そこから考えれば五千Kmは楽に超えている。ヤマグチ県のシモノセキ市からアオモリ県のオオマ市まで、行って帰ってまた行っての走行距離をさらに上回る全長という、問答無用の非現実ぶりである。


後世に『アルテミスの出来心』と称されるその存在は、いきなり月面に姿を現した。未曾有の事態に人類は圧倒され、全世界はたちまち絵に描いたような驚天動地に飲み込まれた。それでも当初、動画で配信されたそれを鼻で笑っていた一部の人たちもいるにはいたのである。悪意ある編集であり、児戯に等しいいたずらだと。


対する配信者たちの見解は単純明快にして共通していた。『お前の目で見てみろ』と。


さらには超弩級プロジェクションマッピングであるとか、ドローン編隊による曲芸飛行から成る演出であるうんぬんと、疑念を呈する者が続出したが、それらもまた一笑に付された。『だから、まず、お前の目で見てみろ』と。


結論として捏造を主張する人はやがていなくなった。月を見上げれば済むだけの話だったからである。あれは実在している。得体のしれない未知の何かが、月面を我が物顔で徘徊している。人類はおしなべて認識を新たにするしかなかった。


やがて世界の指導者を標榜する某合衆国大統領が、数ヶ月以内に有人での宇宙船を用いての調査を表明。それを受けて某人民共和国、続いて北の某連邦が参画を申し出た。麗(うるわ)しの月の主権を奪還すべく、人類の叡智が結集されようとしていたのである。しかしその数日後、国際的非合法ハッカー集団によって内部事情が暴露、それは瞬く間にネット上にて拡散された。




『調査船には核兵器が搭載される模様』




某合衆国大統領は即座に『フェイクニュースである』旨の否定コメントを出すものの、やがて世界各地で反対運動が暴風さながらに吹き荒れた。


『月を被爆させるな』


『宇宙条約を批准せよ』


『大国の傲慢を大気圏外にまで持ち出すな』


『月の彼にも生存の権利はある』


口角泡を飛ばす専門家や御意見番、街角にて旗振りをする運動家たち。喧々諤々、全世界を巻き込んでの大論争は昼夜も日付変更線も問わず、饒舌に過激に怒涛と繰り広げられた。急遽国連総会が召集されたが、そもそもが常任理事三国の主導による調査計画なのである。のれんに腕押しなのは最初から明白であった。ちなみに我が国はもちろん採決を棄権、後日に計画への賛同を表明、資金提供をすんなりと閣議決定した。某民放ワイドショーの名物毒舌コメンテーターは、その一連の流れを一言で切って捨てたという。「想定内ですよね」


さて、そんな具合いに何かとお騒がせなぐねぐねさんだが、もちろん穏健派の人々も相当数いて、彼らは事態を冷静に、もしくはのん気に受け止めていた。月面をウロウロしているだけで、まぁ特別な実害は何もない。人類への脅威と言われても、月と地球という明確な棲み分けの境界線が存在している。目くじらを立てる方がおかしい。彼らの大半はぐねぐねさんを鑑賞、愛(め)でる付き合い方を選んだのである。


『スーパームーン、ぐねぐねさんで台無しで草(・)』


『悲報 女さん、ぐねぐねさんキショい定(・)期(・)』


……などなど、動画配信者の中には好んで取り扱う連中もいて、楽しむ人は楽しんでいたのであり過剰な拒絶派との温度差は開く一方であった。


そんな折、件の列強三国による共同月面調査計画に、唐突にして凍結が発表された。某合衆国大統領は記者会見にて、正々堂々と真っ向から彼の存在を否定したという。『そんなものはいない』と。


真意を問う記者へ、大統領は吐き捨てるように答えた。


『わたしには見えなくなったからだ。見えるヒトたちが対処すればいい』





ぐねぐねさんが姿を現して五週間、事態は次の段階へ進もうとしていた。











【魔導の図書館閉鎖まで、あと十四日】


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