● 終点と一線 【1】
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せいてんのへきれき。
僕はもちろん漢字では書けない。『青天』が精いっぱいである。
やたらめったら画数の多い『霹靂』なんて字、ほいほいと書ける方が異次元の脳細胞をお持ちの方な訳で、威風堂々と凡人たる僕にはどだい無理な話である。ではなぜいま書けているかといえば、つまりは機械任せだからである。まるで書けない難解な漢字すらたちまち変換してしまう、この驚異の有能さにして過剰なお節介。いやはや圧巻である。でも礼は言う。ありがとう。感謝している。
だからパソコンなりガラケーなりを使えば、誰でも彼でもネコでもシャクシでも、容易に安易にショーセツなんかも執筆できたりする。加えてネット回線関係が爆発的に浸透、敷居はさらに下がり間口は拡がり、門戸は堂々と開かれた。そんな背景に支えられてケータイ小説サイトは栄華を極めたのである。異論は認める。
雨後のタケノコのごとく続々と発生する同様のサイトたち。一時期業界は繁華街のいかがわしいネオンサインのようにギラギラの活気にみなぎっていた。が、そこは人の世のはかなさ、やがて現象は鎮静化へと舵を切り、気付けばケータイ小説サイト界隈にしずしずと淘汰が始まっていた。
そして、僕は青天の霹靂を浴びることとなる。意味は『心的に結構な衝撃を伴う不意打ち』である(※諸説あります)。
【運営より重要なお知らせ】
ケータイ小説サイト【魔導の図書館】は、本年度三月末日二十四時をもってして、全てのサービスを終了とさせていただきます。以降の御利用は叶いませんので、各作者様におかれましては作品のコピーをよろしくお願い致します。
永らくの御愛顧、スタッフ一同心より厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました………………
閉じゆく魔導の図書館。
そこは、僕が彼ら彼女らと出逢った場所であった。
顔は知らないし、本名も知らない。わかっているのは偽名とざっくりとした所在地、そして肩書きくらいである。中高大学生・院生・社会人・浪人・暇人・世捨て人・サイコパス・テロリストなどなど多種多様の千差万別、雑多なヒトたちがただただネット上での承認欲求を満たすべく、日々ショーセツという名の文字の羅列を精力的に生産していたのである。僕もであるが。
宮田美代彦……と、僕は名乗っていた。我ながら実に嘘臭いハンドルネームであるが、結構気に入っていて、愛着はあった。
とにかく宮田はつたなくて愚かだった。曖昧で暴走気味で支離滅裂。でも、その不器用さをみんなは愛してくれた。だから僕も応えたのである。熱量だけは豊富で、それは若くて青臭い狂気ですらあった。日夜繰り広げられる、読みつ読まれつの丁々発止。あの時、僕らはみんなおかしかった。
しかし、それがとてつとなく心地良かったのである。こちらの異論も認める。感じ方はヒトそれぞれである。
そんな魔導の図書館が終焉の時を迎えると言う。
「……各サクシャさま……か……」
実に感慨深い。胸の奥にやんわりと熱いものが染みる。
あの場にいた者は、みなサクシャだったのだ。
サクシャ。作る者。
僕の灰色の脳細胞は、そして静かに激しく活性化を始めた。
ありがとう、魔導の図書館。
さようなら、魔導の図書館。
僕の魔導の図書館への手向けはひとつしかあるまいて。いま、万感の想いを込めて。
これに対する異議申し立ては却下である。あしからず。
大丈夫、何も問題はない。心配しなくていい。
どうせ誰も読んでいない。




