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79.緊急司令

「なんとか力を貸してくれないか。頼めるのは君たちしかいないんだ」

「あの…… 話は分かったんですけど。そんな大役、というか危ないこと俺たちには……」

「ではこの状況下で他に誰ができるというのだ? 事態は急を要する」


イリス率いるチーム一同は困惑していた。

高慢な講師たちが落ちこぼれの彼らに、頭を下げたのはおそらくこれが初めてだろう。普段であれば講師からは『お前らに教えても無駄だろ』といった扱いを受けている彼らが、低姿勢の講師陣を前に困惑するのも無理はない。


――遡る事少し前。

中央都市近隣で名を馳せる大貴族の一家は、私有地に佇むプラットフォームから客車へと乗り込んでいた。一家の為だけに用意された列車で優雅な家族旅行をといったところだろうか。


彼らを乗せた列車は屋敷の敷地内に引かれた専用線から走り出し、程なくして本線への合流地点へとやってきた。列車を停止させ、専属乗務員がポイントを切り替える為に機関車から降りた時、事件は起きた。

待ち構えていた武装集団が乗務員を殺傷し、ほどなくして機関車を乗っ取った。幸いにも客車は用人向けの改造が施されており、鉄の弾すら受け付けない牙城となっていた。

機関車を乗っ取った奴らは行先を告げる事無く、列車を動かし始め貴族一家を地獄の旅へと誘う。要するに列車ジャックということだ。


「私は隊長、いえリーダーとしてチームを危険な目に遭わせる訳にはいきません。そもそもなんで飛空士、いえ私たちの様な訓練生にそんな話が回って来るのですか? そういうのは州の当局なり、軍が対応するのではないんですか?」

「それなんだがな…… 空から奇襲をかけるしか手立てがない。そう当局から要請を受けているんだ――」


講師陣の事情を聞きつつ、リーダーとして仲間の安全を第一に念頭に置くイリス。

武装した犯人から列車を取り戻してほしいなど、無理難題にも程がある。

引き下がらない講師にカティアも口を挟む。


「それこそ軍がやるべき事なんじゃないっすか」

「残念ながら軍は民間の事件解決の為に加勢することは認められていない」

「じゃあ当局が空から奇襲すればいいじゃないっすか」

「当局は航空機など持ち合わせいない。とにかく今回はイレギュラーな事態なんだ」


イリスもカティアも冷静さを失わずに、無茶苦茶な依頼を突き返そうとする。しかし、気が気でない講師たちはなんとかして頼まれてはくれないかと頭を下げ続ける。

学園としても大貴族を救ったともあらば名を馳せることになり、これ以上においしい話は無いのだろう。

故に、二つ返事で当局からの要請を受けてしまった…… といった具合だろうか。

ところが困ったことに今空へと上がれるのは学年、いや学園でも彼らしかいない。当校において最低の実力と揶揄されている彼らだけなのだ。決定権を持ちつつ後先考えない大人ほど厄介な生き物はそう多くはない。本来であればもっと適役はいるのだろうが、他チームはどうやら上空へ出払っているようである。


「――あっそうだ。人質の救出に成功した日には褒賞金が与えられるのは間違いないだろう。学園生活を終えるまで、いやそれこそ一生遊んで暮らせるような額になるかもしれない」

「えっ」

「当然、学業の成績にも有利なように図らう」

「あっ」


さっきまで反発していたイリスとカティアが声を合わせ、同時に互いの顔を見合った。分かりやすい、大金と成績への加点を前にしては心も揺らぐ。

そんな折、来客。


「レン手が空いていたら―― あれっ、お取り込み中かな?」

「いいところに来てくれたジーク君。君がいれば間違いなく遂行できるだろう。さぁみんな着いてきなさい」


絶妙なタイミングで講師陣の前に姿を表したのは、期待のエースこと一年首席のジークだ。他の訓練生は課題を消化するため挙って地上を離れている最中、なぜジークが地上にいるのか。彼曰く、与えられている課題は文句なしの成績で済ませ暇を持て余していたらしい。

講師たちはシメたとばかりに彼を取り囲むと、手短に事情を伝え少々強引に連れていこうとする。ジークにばかりおいしいところを持っていかれるのは杓だ。こうしてはいられない、レンの内に競争心のような物が芽生えたのか。レンも覚悟を決めジークを追う。


やがて講師陣に連れられ練習場に着くと、今までに見たことのない機体が待ち構えていた。


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