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80.出動

訓練生五人が講師陣に連れられ案内された場所で待ち構えていた機体。

定員は5人と普段演習で扱っているマスター機と変わらないが、外見はまるで異なる機体だ。たかが5人を収めるには肉付きの良すぎる寸胴なボディーと、それを浮き上がらせる為の大きな両翼。

この妙なスタイル誇る機体について見地がある訓練生はジークしかいなかった。


「多目的輸送機じゃないか。こいつは本来、二年生になってから選択授業で扱う演習機。これを使って俺たちは何をするんですか?」

「ジーク君のその質問、単刀直入に答えよう。列車の頭上に接近した後、誰か一人が飛び乗りジャック犯と対峙してほしい」

「俺たちは戦闘技術なんか学んでないですよ」

「当局からのオーダーは犯人を銃器で狙撃可能な場所におびき出す。射殺後に機関車に乗り移って列車を制動してほしい」


ようやく任務の詳細が語られたと思ったら、これまた無茶な作戦を提示してきた講師。

走行する列車に空中から飛び乗るなど曲芸の極みである。


「機関車を奪った犯人は二人。いずれも銃器による武装はしていないそうだ。君たちは犯人をおびき出すだけでいいんだ。この中で剣術の選択授業をやっている者はいるか?」


講師の声に手を小さく上げたのはイリスだった。彼女が自由選択の授業で剣術を受けており、それなりの腕前だということはチームメイト達も把握していた。しかし銃器こそ持っていないものの、相手は飛び道具以外の何かで武装していることに違いは無いはず。

軍人のように毎日精進しているわけでも無いのに、いきなり殺意のある奴を相手になどできるのか。


「犯人を引っ張り出す役は私が引き受けます。チームメイト、それから学園外ではだらしない首席さんを危険な目に合わせる訳にはいきませんので」

「おい、イリス! 無理するなって、そういうのは俺たちに相談して」

「レン、私を信じて。私はあなた達の腕を信じて列車に飛び乗る。操縦は任せる、それでいい?」

「――わかった。準備しよう」


皆を信じるから、私のことも信じて任せなさい。彼女の短い言葉は、その場に集まった者達を奮い立たせるのに充分なものであった。

レンが一番先頭の操縦席に、エイルはいつも通り魔力炉監視の最後尾へ。残り三人がかりで魔力炉に力を注ぎ込む。


「レンフォード君、初めて扱う機体だが大丈夫か? ジーク君に任せた方が――」

「心配には及びませんよ。それに、俺魔力炉は扱えないんで必然的にここ(操縦席)に座るしかないんで」

「授業でも扱ってないのに飛ばせるかい?」

「なんとかなります。似たような経験ありますから」


機体内部は外見通り広く、歩いて座席間を移動できるほどの余裕が設けられている。機体やや後ろの底面にはハッチが設けられている。そこから列車に目掛け飛び降りるという事なのだろうか。

持ち位置に就いた彼らは、初めて搭乗した多目的輸送機を隅々まで見たいという衝動を抑えながら安全ベルトを締め、各ポジションにて最終チェックを済ませる。

出発寸前まで機体外で目視の点検をしていた講師たちもゴーサインを出し、その場から駆け足で離れる。


「いつでもいける」


チームメイトにとってはお馴染み、レンの合図を皮切りに後ろの三人が魔力を注ぎ始める。三か所から注がれた力は導管を伝わり一か所に集まった後、左右の炉へ均等に分配される。プロペラの回転が上がるにつれ、寸胴巨体な機体がゆっくりと動き出す。


三人がかり、それもジークという強力な助っ人を要してもなお加速の鈍い機体が大きさゆえの重さを物語る。練習場の端が目前に迫ったところで車輪は接地面を失い、ゆっくりと飛び立っていった。


「よし、大丈夫だ離陸した。で、どこへ向かえばいいんだ? ジーク聞いているか?」

「えっ操縦席にいるお前が知らないのに俺が知るわけないだろ。えっと君、リーダーだよね? 何か聞かされてる?」

「私も聞かされてないわ。あと私はイリス、ちゃんと覚えておきなさい」


なんということだろうか。任務について誰も具体的な指示を受けていないとは。誰かが指示を受けていると思い込み、誰も聞き出そうとしなかったのだ。レンは思わず頭を抱えたくなるが、飛行中につき操縦桿(ステアリング)から手を放すわけにもいかない。

先行きが怪しくなった時だった。


『――君たち聞こえるか? こちらは中央都市当局、緊急対策担当の者だ。聞こえていたら応答しろ』


五人しかいない筈の機内に、聞き覚えのない声が。それも肉声ではない声がどこからか伝わってくる。この声は何だろうか。全員で音の出所を見つけんとばかりに、上下左右に首を振っていると最後尾に座すエイルが何かを手に取って見せた。


「これかな?」

「そうよ、それよ! でもこんな物が搭載されていたなんて」


イリスは一目見ただけでエイルが手にするソレが声の発信源だと見抜いた。

イリス曰くそれは魔伝導通信装置(トランシーバー)と呼ばれる機材だという。軍や当局の重要施設にしか設置されていないような代物で、一般人の目にかかる事は滅多にない。

行き過ぎた技術の塊であるその装置、コアと呼ばれる中枢部には特殊な素材を用いているという。そのコアは恐ろしく高価で寿命が短いうえ、使い捨てだという。

さすが座って学ぶ座学だけなら三本指にも入るイリス、その知識がこういう場面で生きてくる。


「皆手が離せない、それに搭載機材の操作は魔力炉監視のポジションが担当よ。エイルシファー、あなたが応答して」

「わかった。あっ、えっと…… こちらは飛空士科のイリスチームです? あのー」


『応答あり、応答あり。すまない、そちらの声は聞こえている。これよりジャックされた列車の詳細を伝える』


列車は機関車含めて3両編成、州の西方山間部へ間もなく到達。中央都市方面へ向け本線を走行。

悠長に挨拶を交わす暇などなく、魔伝導通信装置の向こうから直ぐに具体的な情報が展開される。手短に伝えられた列車の位置を耳に、レンは直ぐに行先へと機首を定める。実技で何度も飛んでいる都の空。誰に言われるでも無く操縦士の自分が一番よく知っている。対象を見落とさない様に高度を下げ、下方に注意を配る。

重量と空気抵抗(ドラッグ)の大きいこの機体は普段扱っているマスター機に比べれば鈍足も良いところ。しかし、陸路に比べれば俄然早く、程なくして列車を捕捉した。


「エイル、列車を捉えた。向こうに伝えて、指示を受けてくれ」

「んっ、わかった」


エイルが魔伝導通信装置に声を吹き込むと、直ぐに指示が返ってきた。


『先ずは気付かれない様に距離を保ちながら、ギリギリまで高度を下げろ』


いよいよ作戦開始の時である。

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