76.時代遅れの剣術
昼前の学園。屋内施設としては最も広い床面積を誇る多目的空間にて、生徒達の目を集める二人がいた。
一人は剣を構えた男子生徒。相対するもう一人も同じく剣を構えているが、ブロンドの髪を一本に結った女子生徒だ。互いの呼吸が合ったところで、二人は距離を詰め剣を振りかざす。
二本の剣が幾度となく重なり合い、心地よい音色を響かせる。
「君、良い腕してるな。女の子だから手加減しようかと思ってたけど、余計な気遣いだったな」
「女子だからって遠慮なんかいらない。私はいつだって真剣、手を抜くつもりはないから」
二人の生徒による一騎打ち。ただし、争い事の為に剣を握っているわけでは無い。これもれっきとした授業である。
「君、すごいな。剣術、どこかで習ってたの?」
剣を握る彼は飛空士科一年の首席と名高いジークだ。名実ともに最優秀な成績を収め、将来を期待しされている人気者。
「剣を握ったのは、この選択授業が初めて」
対峙している彼女は同じく飛空士科一年のイリス。ただしジークとは似ても似つかない、成績である。
飛空士を目指す生徒の本分では振るわない彼女。しかし、本分と全く関係の無い選択授業では思わぬ才能を発揮している。
「良いセンスしてる――」
「ほら余計な口開いてるから隙だらけよ」
一瞬の隙をついて、イリスの剣先がジークの首元を捉えた。目を合わせ、視線を逸らそうとしない両者。
程なくしてジークは微笑み、剣を降ろす。同時にイリスも彼の喉元から剣を引いた。
勝負あり。
二人が一礼すると、決着を見届けた生徒達から惜しみない拍手が送られた。
「俺の負けだ。お見事」
敗者が勝者を称える。しかしイリスはジークの言葉を気にも留めず、背を向け歩み出す。どうやら彼女は彼の事をあまり良く思ってはいないようだ。
彼は酔いが回っていたこともあり覚えていないかも知れないが、先日は数多くの失言を漏らしていた。
それこそ、女子からは距離を置かれても仕方のないような卑猥な発言もあった。
それはさておき、選択授業内で行われた剣術トーナメントにてイリスは優勝を手にした。
しかし彼女にしてみれば、たかが選択授業の中で催されたトーナメントの優勝など嬉しくもないようだ。訓練生の成績に大きく加味されることもなければ、賞金の一つだって出ないのだから。
唯一得られたものといえば、時代遅れの剣術と少しばかりの自信だろうか。
トーナメントを終え、授業の残り時間は各自、自由練習となった。
「もう一回組んでくれるか?」
「……いいけど」
先程勝負に敗れたジークがイリスに練習相手を申し出た。
「どうして剣術なんて選択したんだ? チームメイトもいない選択授業を――」
「別にいいじゃない」
相変わらずジークに対して素っ気無い態度を見せるイリス。
「それに今の時代剣術なんて、大して役に立たないだろ」
「それはそうだけど」
剣が兵器としての役割を終えてから久しい。既に戦場の歩兵は剣に替わって銃器を握る。
未だに剣を振るっているのは物好きと、下級の犯罪者ぐらいなものだろう。
「どうしてレンと同じ授業を取らなかったんだ?」
「彼は関係無いでしょ!」
ジークがレンの名を口にした瞬間、急にイリスの声に力がこもる。
「あいつは何の授業にしたんだっけ」
「調理実習よ……」
「あっそうだった。そんな事言ってたな。君たち、いつも四人で行動してるんだからレンについて行けば――」
「だから彼は関係無いでしょ!」
再びレンの名を耳に、より一層イリスが荒ぶる。
「いや、君もレンも男女の仲になってるんだと思ってたからさ」
「はぁ?」
心の乱れは言葉と顔だけでは無く、剣裁きにも表れた。
イリスの剣先が明後日の方向を向いているうちに、ジークの剣が彼女の腹部に達する。もちろん、寸止めだ。
練習用に細工が施された剣とはいえ、まともに受ければ流血沙汰は避けられない。
「よし! 今度は俺の勝ちだな。まったく、隙だらけじゃないか」
「あなた、やり口が汚いわよ」
「そうか?」
「そうよ!」
選択授業。
それは飛空士科のみならず、他の科の生徒も混在で行われる授業である。飛空士になる為の課程とは関係なく、全校生徒に対して履修が義務付けられている。
となれば、イリスだけではなく彼女のチームメイトたちも、時を同じくして他の選択授業を受けている筈だが……




