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破産寸前の魔王城  作者: 小日向ひより
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4、魔王城のメイドさん1

「ん〜、なるほど」

 ゴブリンにやられた経緯を説明すると、セバスは顔を曇らせた。

「つまりユリウス様は、魔王の癖にあの程度のゴブリンに負けたってことですね」

「セバス、お前、時々言動が不敬になるのはどうにかならないのか?」

「明日から特訓しましょう。魔王がゴブリンに負けたなんて、末代までの恥ですから」

「そこまで言うか?」

 まぁ、俺は体術や剣術はからっきしだから、この機会にやってみるのも悪くないな。

「それはそうと魔王様。ローブ、返り血ががベッタリ付いてますよ」

「ゴブリンとの戦闘で付いたやつだ。短剣で戦ったから」

「慣れないことするから……。綺麗にしときますね。《クリーン》」

 セバスの声と同時に、血に汚れたローブが淡く光る。光が四散すると、汚れは跡形もなく消え去っていた。

「精霊術って便利だよな」

「魔人の特権です」

「…………ん」

「魔王様、人間の女の子が目を覚ましたみたいですよ」

 目を覚ましたと言われても、俺、女の子と喋ったことないんだが。

 セバスに促され、彼女の居るベッドへ近づいていく。

「えと……起きたか」

「あの……えと……」

「もう、大丈夫だぞ」

「ふぇっ……」

 少女は何故か、驚いたように目を丸くする。

「……魔王様ってタラシですよね」

「はぁっ⁉︎」

「魔王……?」

「あぁ、第33代目魔王、ユリウスだ」

「魔王様の執事、セバスでございます。以後、お見知り置きを」

「……」

 彼女は黙り込み、困惑しているようだ。まぁ、当然といえば当然か……。

 まずは警戒を解かなければ。

「君、名前は?」

「……アイリス……です。……あの、」

「ん?」

「私、食べられちゃうんですか?」

「「は?」」

「えっ…魔王は人間を食べるって村の大人が言ってたので」

「食べないし、食べようと思ったこともないからな⁈俺、生粋のベジタリアンだから!」

「なら、私は……どうなるんですか?」

「……詳しい話はまたあとで。まず、服を着替えたほうが良いんじゃないか?」

「ヒッ……私……血だらけ……気づかなかった」

 血だらけの服をみて、少女は短い悲鳴を上げた。

「ゴブリンの返り血だ。血を落とすことはできるが、服がボロボロなのは、魔法や精霊術じゃどうしようもないからな。セバス」

「はい。女物の洋服はあちらにございます。昔ここで働いていた使用人の物ですが、宜しければ」

「洋服⁈そんな高価なもの、使えませんっ」

「ご遠慮なさらず。隣の部屋のクローゼットにありますので、着替えて来てください」

「……ありがとうございます」

 勢いよくお辞儀をして、部屋を飛び出して行ったのを見届けると、俺はセバスに問いただす。

「お古の服で、あんなに喜ぶものなのか?」

「普通はあり得ません。彼女は奴隷のようなものだったのでしょう」

「……奴隷」

「ユリウス様は、あの子をどうするおつもりですか?」

「体力が回復したら、故郷に返すつもりだったんだが……。どうしたいのか、アイリスに聞くことにするよ」

「それが宜しいかと」

「……着替え終わりましたっ」

 扉を開け、入って来たアイリスは、何故かメイド服を着ていた。

 黒を基調としたワンピース型の服で、胸元にある藍色のリボンが強調されている。膝上のスカートの裾には真っ白のフリルが付いていて可愛らしい。肩までの銀髪に、フリルのカチューシャを付けていた。左目には相変わらず眼帯をしている。

「なんでメイド服?」

「これしかサイズが合わなかったので……」

 アイリスの背丈は8歳程。サイズが合わなくて当然だった。

「失礼だけど……アイリスって何歳?」

「12です……」

 12歳……俺よりひとつ年上でこの身長。やはり、十分な栄養を取れていなかったんだろう。まぁ、きちんと栄養を取れていないのは俺もだが。

「あのっ魔王さん、色々とありがとうございましたっ」

 明るい彼女の笑顔には、少し違和感があった。なんだか無理して明るく振る舞っているようで。笑顔も、本当に笑って良いのかわからないような、遠慮がちな笑顔に見える。

 彼女は、何か抱えているのだろうか。

 


ーーーーーーーーーー



【アイリス】

「…………ん」

 うっすらと目を開けます。……視界がぼんやりして何も見えません。

 たしか私は、金色の魔物みたいな狼に襲われて……。

 なら、ここは天国でしょうか。

 段々と視界がはっきりしてきたので、顔だけを動かして周りを見渡します。

 まず、私はベッドの上にいました。それに、ここは天国のような所ではありませんでした。

 どちらかと言えば、地獄に近いような気がします。

 カーテンやテーブル、私が寝ているベッドなど、この部屋は、全て黒で統一されていました。椅子に座り、ワイングラスで水(?)を飲んでいる男の子も例外ではありません。

 整った顔のその人は、真っ黒のローブを身につけていました。黒よりも濃い漆黒の髪と瞳をしています。それに反して、肌は雪のように白いです。

 男の子の隣に立ったいたのは、黒い執事服を着た男の人。

 茶髪に緑色の瞳をした男の人は、親しげに男の子と会話をしています。

「えと……起きたか」

 男の子は不安そうにこちらへ歩いてきます。

「あの……えと……」

「もう、大丈夫だぞ」

「ふぇっ……」

 何故でしょう、なんだか胸がざわつきます……。

「……魔王様ってタラシですよね」

「はぁっ⁉︎」

「魔王……?」

 この男の子が、あの最凶最悪と有名な魔王?

「あぁ、第33代目魔王、ユリウスだ」

「魔王様の執事、セバスでございます。以後、お見知り置きを」

「……」

 魔王が、私と同じ……子供⁉︎

 私には、この子がごく普通の人間の子供にしか見えません。

「君、名前は?」

「……アイリス……です。……あの、」

「ん?」

「私、食べられちゃうんですか?」

「「は?」」

 すっとんきょうな声を上げる魔王さん達。

 魔王の好物は、人なんじゃないんですか?

「えっ……魔王は人間を食べるって村の大人が言ってたので」

「食べないし、食べようと思ったこともないからな⁈俺、生粋のベジタリアンだから!」

「なら、私は……どうなるんですか?」

「……詳しい話はまたあとで。まず、服を着替えたほうが良いんじゃないか?」

「ヒッ……私……血だらけ……気づかなかった」

 私の服は、どす黒い紅色に染まっていました。服……といっても、麻袋に穴を開けただけのボロ切れですが。

「ゴブリンの返り血だ。血を落とすことはできるが、服がボロボロなのは魔法や精霊術じゃどうしようもないからな。セバス」

「はい。女物の洋服はあちらにございます。昔ここで働いていた使用人のものですが、宜しければ」

「洋服⁈そんな高価なもの、使えませんっ」

 お断りしたのですが、結局押し切られ、服を貸して頂くことになりました。


「うわぁ……」

 服があるらしい隣の部屋は、以前使っていたままになっているようで、雑誌や日用品が辺りに転がっています。最近は誰も立ち入っていないのか、埃が積もっていて、一歩進むごとに舞い上がりました。

 天井の隅には蜘蛛の巣、至るところにネズミ穴。

 部屋は大きく、ベッドやお風呂などの必要なものは揃っているのに、残念です。

「えっと……」

 クローゼットを開けると、中には沢山の服が入っていました。

 ドレスにワンピース、スカート、メイド服

 派手すぎず、サイズの合うものがいいですね……。

 私は迷わずメイド服を手に取りました。


 鏡の前に立って、回ってみます。

 膝上のスカートがフワリと広がりました。

 こんな可愛いお洋服を着れるなんて、本当に幸せです。

 ……ふと、鏡に映った眼帯が目に留まりました。

 ……そう、でした……忘れてました。

 ……私……は、

「私は、幸せになっちゃいけないんでした」


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