第88話 六人の判断が試される日
第二総合演習区画へ向かう朝、俺はいつもより少し早く目を覚ました。
窓の外には薄い雲が広がっていたが、雨が降る気配はない。庭の木々は穏やかな風に揺れており、遠くから聞こえる鳥の声も、普段の朝と変わらなかった。
今日は交流演習の実施日だ。
数日前に合同説明を受けてから、第三班では必要な情報を確認し、分からないことを無理に決めつけないようにしてきた。特別な訓練を重ねたわけではないが、六人で話し合ううちに、それぞれが何を得意とし、どこに不安を感じているのかは以前より分かるようになっている。
(さて、どんな課題になるんだろうな)
俺は寝台から起き上がり、身支度を整えた。
制服に袖を通しながら、ふと以前の自分ならどうしていただろうと考える。おそらく、演習で起こりそうな問題をできる限り想像し、一人で対処する方法を考えていたはずだ。
今も準備を大切にする気持ちは変わらない。
けれど、今日は俺だけで何とかする日ではない。
第三班の六人で課題へ取り組む日なのだ。
朝食の席へ向かうと、リビアがすでに待っていた。
「おはよう、セス。今日は早いね」
「おはよう。少し早く目が覚めたんだ」
「緊張してる?」
「少しは。でも、それより楽しみかな」
俺が答えると、リビアは嬉しそうに笑った。
「私も同じ。昨日は結局、何をするのか想像しちゃったけど、考えても分からないことばかりだったから」
「そうだな。今日は実際に見てから考えればいいと思う」
リビアは頷き、俺の隣へ座った。
食卓には焼きたてのパンと温かいスープ、卵料理、それに果物が用意されている。普段と変わらない朝食だったが、今日は少しだけ気持ちが落ち着かないせいか、食器の触れ合う音がいつもよりはっきり聞こえた。
やがてアルセス様も席へ着き、俺たちの様子を見て穏やかに微笑んだ。
「今日が交流演習だったな」
「はい、お父様」
リビアが答える。
「六人で協力する課題だと聞いています。具体的な条件は、開始前に知らされるそうです」
「なるほど。では、今から考えすぎても仕方がないな」
アルセス様はそう言って、俺へ視線を向けた。
「セス、今日は執事としてではなく、生徒として参加するのだろう?」
「はい。第三班の連絡・誘導を担当します」
「ならば、自分の役割を果たしなさい。ただし、役割を果たすことと、すべてを自分で背負うことは違う」
「……はい」
俺は自然に頷いた。
アルセス様はそれ以上説教めいたことを言わず、いつものように朝食を進めた。リビアも俺の隣で楽しそうに話し、昨日読んでいた本の続きをいつ読むかなど、演習とは関係のない話題も交えながら食事を終えた。
屋敷を出るころには、朝の雲が少し薄くなっていた。
馬車へ乗り込むと、リビアが俺の手を取る。
「セス、今日は一緒に頑張ろうね」
「うん。六人でな」
「もちろん」
彼女は笑い、俺の肩へ軽く寄りかかった。
俺もその手を握り返し、学院へ向かう道を眺めた。
◇
学院へ到着すると、普段より早い時間にもかかわらず、第二総合演習区画へ向かう生徒たちの姿が見えた。
交流演習は班ごとに開始時刻が指定されており、第三班は午前中の早い時間に集合することになっている。ほかの班も同じ日に実施されるが、開始地点や使用する区域が重ならないよう調整されているらしい。
俺とリビアは教室へ寄らず、そのまま指定された集合場所へ向かった。
演習区画の入口には、低い石造りの建物と広い待機場所があった。周囲には安全確認のための教師が配置され、区画内へ入る生徒たちの人数を確認している。
「おはよう、クルセス!」
待機場所の端から声が聞こえた。
振り返ると、ガレスが大きく手を振っていた。その隣にはエミリアとサザリーがいて、少し離れた場所でレオル先輩が資料を確認している。
「おはよう。みんな早いね」
俺が近づくと、ガレスが笑った。
「遅れるのが嫌だったからな。早めに来たんだ」
「ガレス君、昨日も何度も集合時刻を確認してたんだよ」
エミリアが言うと、ガレスは少しだけ顔をしかめた。
「だって、こういう日に遅れたら困るだろ」
「それはそうだけど、心配しすぎなくても大丈夫だったと思うよ」
エミリアは笑いながら答えた。
俺たちが加わると、レオル先輩が資料を閉じてこちらへ歩いてきた。
「これで六人そろったね。集合時刻までは少し余裕があるから、まずは落ち着いて待とう」
「はい」
俺たちは頷き、待機場所の端へ移動した。
周囲ではほかの班も集まり始めていたが、第三班の近くには十分な空間がある。石畳の上には班ごとの待機位置を示す印が描かれており、教師たちが生徒の移動を確認していた。
しばらくすると、エレナ先生が第三班の前へ現れた。
「第三班、全員そろっていますね」
「はい」
レオル先輩が代表して答える。
「では、これから開始前の説明を行います。まず、こちらの資料を確認してください」
先生が差し出したのは、昨日まで見ていた基本資料とは別の紙だった。
そこには、第二総合演習区画の一部を拡大した図面と、出発地点、目的地点、最終確認地点が記されている。
さらに、通行可能な通路と通行禁止区域が色分けされていた。
「今回、第三班が使用するのは北東側の区画です。出発地点は第一待機室、物資の目的地点は第四保管室、最終確認地点は中央確認所となります」
俺は図面へ目を向けた。
第一待機室から第四保管室までは、いくつかの通路を経由する必要がある。途中には分岐があり、最短距離と思われる通路の一部は通行禁止になっていた。
「通行可能区域は、この資料に示された範囲です。演習中に変更される場合がありますが、その際は教師から正式な指示が出ます。班の判断で通行禁止区域へ入ることは認めません」
エレナ先生は続けて、安全規則を確認した。
高出力魔術の使用は禁止。
施設の破壊や無許可の障害物除去は禁止。
実際の体調不良や怪我が発生した場合は直ちに申告。
教師から中止指示が出た場合は、理由を問わず従う。
どれも合同説明で聞いた内容だったが、実際に演習区画の入口で確認すると、少しだけ重みが違って感じられた。
「質問はありますか?」
先生が尋ねると、サザリーが手を挙げた。
「通行可能区域の変更があった場合、指示は班全体へ伝えられるのでしょうか。それとも、特定の場所にいる生徒へ伝えられる場合もありますか?」
「変更の伝達方法は、状況によって異なります。ただし、正式な指示には必ず担当教師の確認印が付いています。口頭で伝えられる場合も、担当教師が直接伝えるか、確認印のある文書を使用します」
「分かりました。ありがとうございます」
サザリーが頷く。
俺もその説明を聞き、少し安心した。
正式な指示と、ほかの生徒から聞いた話を区別できるようになっているらしい。
「では、第一待機室へ移動してください。そこで物資の確認を行います」
エレナ先生の指示に従い、俺たちは区画内へ入った。
◇
第一待機室は、石造りの小さな部屋だった。
壁際には木製の棚が並び、中央には大きな机が置かれている。窓は高い位置にあり、外からの光が室内へ差し込んでいた。
机の上には、いくつかの木箱と布袋、それに封筒が置かれている。
「これが今回の物資か」
ガレスが小さく呟いた。
俺たちは机の周囲へ集まり、まず封筒を確認した。
表面には第三班の印が押されており、開封してよいことが記されている。
「では、開けるよ」
レオル先輩が全員の顔を見回してから封筒を開いた。
中には物資一覧と、最初の指示書が入っていた。
物資一覧には、保存食の包みが六つ、飲料水の小瓶が四本、応急処置用の布包みが二つ、記録用の紙束が一つと書かれている。
さらに、木箱が二つあり、それぞれに番号が付いていた。
「まず数量確認だね」
エミリアが言う。
「一覧と実物が合っているか、一つずつ確認しよう」
俺たちは頷き、机の上の物資を順番に確認した。
保存食の包みは六つ。
飲料水の小瓶は四本。
応急処置用の布包みは二つ。
記録用の紙束は一つ。
木箱は一番と二番の二つ。
数量は一覧と一致していた。
「全部そろってるね」
エミリアが確認すると、サザリーが記録用の紙へ書き込んだ。
「初期数量は確認済み、と」
「木箱の中身は確認する?」
ガレスが尋ねる。
エミリアは指示書を読み直し、首を横へ振った。
「木箱は封印を開けずに運ぶように書いてあるよ。番号と封印の状態だけ確認すればいいみたい」
「なるほど」
俺は木箱へ目を向けた。
どちらも大きさはそれほど変わらないが、持ち上げてみると重さに違いがあった。一番の木箱は比較的軽く、二番は少し重い。
「二番の方が重いな」
俺が言うと、ガレスが手を伸ばした。
「どれ、俺も持ってみる」
彼は二番の木箱を持ち上げ、少しだけ眉を上げた。
「確かに。でも、これくらいなら問題ないぞ」
「重い物を持つのは得意?」
エミリアが尋ねる。
「まあな。ただ、長い距離を運ぶなら途中で交代した方がいいかもしれない」
「それなら、最初から交代できるように考えておこう」
俺が言うと、レオル先輩も頷いた。
「そうだね。木箱を運ぶ人だけに負担が集中しないようにしよう」
俺たちは物資の持ち方を相談した。
一番の木箱は俺が持ち、二番はガレスが担当する。
保存食と飲料水はエミリアが数量を管理しながら、必要に応じてほかの人へ分担する。応急処置用の布包みはリビアが持ち、記録用の紙束はサザリーが管理することになった。
レオル先輩は連絡・誘導として周囲の確認を担当し、必要に応じて荷物を交代する。
もちろん、これは出発時の配置だ。
途中で状況が変われば、持ち方も変えるつもりだった。
「じゃあ、最初の指示を確認しよう」
レオル先輩が言い、指示書を机の中央へ置いた。
そこには、第四保管室へ物資を運ぶ前に、第二確認室で通行情報を受け取るよう記されていた。
「第二確認室か」
サザリーが図面を確認する。
「ここだね。第一待機室からだと、東側の通路を通るのが一番近い」
「でも、途中に分岐があるな」
ガレスが指差す。
「こっちは通行可能だけど、こっちは禁止区域になってる」
「間違えないようにしないとね」
リビアが頷いた。
俺たちは図面を囲み、最初の移動経路を確認した。
最短距離だけを考えるのではなく、通行可能区域を守り、全員が安全に移動できる道を選ぶ。
その結果、第一待機室から東側の通路を進み、二つ目の分岐を北へ曲がる経路を使うことになった。
「よし。じゃあ、出発しようか」
レオル先輩が言う。
俺たちは荷物を持ち、第一待機室の扉へ向かった。
◇
演習区画の通路は、思っていたより広かった。
石造りの壁には魔導灯が設置され、足元も整えられている。ただし、ところどころに低い段差や曲がり角があり、荷物を持って歩く場合は注意が必要だった。
俺たちは無理に急がず、全員が同じ速度で進むことにした。
先頭にはレオル先輩とガレスが立ち、中央にエミリアとサザリー、後方に俺とリビアが位置する。
俺は一番の木箱を持ちながら、前方の様子を確認していた。
「足元、少し段差があるぞ」
ガレスが声をかける。
「分かった。ありがとう」
俺たちは順番に段差を越えた。
通路の壁には、区画番号を示す札が取り付けられている。第一待機室から少し進んだところで、最初の分岐が現れた。
「ここは直進だね」
サザリーが図面を確認する。
「うん。北へ曲がるのは次の分岐」
俺も確認し、レオル先輩へ伝えた。
先輩は頷き、全員へ声をかける。
「次の分岐までは直進。足元に注意して進もう」
俺たちはそのまま歩き始めた。
途中、通路の一部に木製の障害物が置かれていた。
高さは膝ほどで、通路の片側を塞いでいる。残された幅は十分にあったが、木箱を持ったまま通るには少し注意が必要だった。
「これ、どうする?」
ガレスが立ち止まる。
「通れるけど、荷物をぶつけるかもしれないな」
俺は障害物と通路の幅を確認した。
魔術で動かすこともできそうだったが、無許可の障害物除去は禁止されている。
「そのまま通れるなら、無理に動かさなくていいと思う」
リビアが言う。
「ただ、木箱を持ったままだと少し狭いね」
「じゃあ、先に荷物を持ってない人が通って、向こう側で受け取るのはどう?」
エミリアが提案した。
俺たちはその方法を試すことにした。
まずレオル先輩が障害物の横を通り、反対側へ移動する。
次に俺が一番の木箱を慎重に差し出し、先輩が受け取った。
そのあと俺が通り、再び木箱を受け取る。
ガレスの二番の木箱も同じように受け渡し、全員が無事に通過した。
「思ったより簡単だったな」
ガレスが笑う。
「でも、最初から無理に通ろうとしなくてよかったね」
エミリアが答える。
「うん。荷物をぶつけて封印が壊れたら困るし」
俺は木箱の封印を確認し、問題がないことを伝えた。
サザリーも記録へ簡単に書き込む。
小さな障害物だったが、六人で相談したことで安全に通れた。
そのことが、少し嬉しかった。
◇
二つ目の分岐へ到着したところで、俺たちは足を止めた。
図面では北へ曲がる予定だったが、実際の通路には新しい札が設置されていた。
そこには「通行確認中」と書かれている。
「……これ、どういうことだ?」
ガレスが首を傾げる。
「昨日の資料にはなかったよね」
リビアが言う。
俺は札を確認した。
確かに、図面にはこの通路が通行可能と記されている。
けれど、目の前には通行確認中の札がある。
「正式な変更指示かな?」
エミリアが尋ねる。
サザリーが札へ近づき、確認印を探した。
「……確認印はないね」
「じゃあ、正式な通行禁止とは限らないのか」
俺が言うと、レオル先輩が頷いた。
「ただし、通行確認中と書かれている以上、勝手に進むのも避けたい。担当教師へ確認する必要があると思う」
「そうですね」
俺は周囲を見回した。
少し離れた場所に、演習を監督している教師の姿が見える。
「俺が確認してきます」
そう言うと、レオル先輩が頷いた。
「頼む。ただし、ここから見える範囲で。何かあればすぐ戻ってきてくれ」
「はい」
俺は木箱をガレスへ預け、教師のところへ向かった。
近づいて礼をし、通路の札について尋ねる。
教師は俺の質問を聞き、手元の資料を確認した。
「その札は、現在の通行状態を示すものです。正式な通行禁止指示ではありませんが、確認が終わるまでは進入しないでください」
「分かりました。では、別の経路を使う必要がありますか?」
「それは班で判断してください。ただし、通行確認中の区域へ入ることは認めません」
「ありがとうございます」
俺は礼を言い、班のみんなのところへ戻った。
確認した内容を伝えると、サザリーがすぐに記録へ書き込んだ。
「つまり、北側の通路は今は使えない。正式な禁止区域ではないけど、確認が終わるまでは進めないってことだね」
「そういうこと」
「じゃあ、別の経路を探そう」
レオル先輩が図面を広げる。
俺たちは再び六人で集まり、通行可能な道を確認した。
第二確認室へ向かうには、少し遠回りになるが、西側の通路を経由する方法があった。
ただし、その道には狭い曲がり角があり、荷物を持って通るには注意が必要そうだった。
「どうする?」
ガレスが尋ねる。
俺は図面を見ながら考えた。
北側の通路が使えるようになるまで待つ方法もある。
けれど、いつ確認が終わるか分からない。
西側の通路なら、少し遠回りでも進める可能性が高い。
「俺は西側の通路を使う方がいいと思う。待ってても、いつ通れるようになるか分からないし」
「私も賛成」
リビアが頷く。
「ただ、狭い曲がり角があるなら、荷物の持ち方を変えた方がいいかもしれないね」
「そうだな」
ガレスも頷いた。
「二番の木箱は俺が持つけど、曲がり角では一度下ろして向きを変えた方が安全かもしれない」
「じゃあ、そのときはみんなで確認しよう」
エミリアが言う。
レオル先輩は全員の意見を聞き、最後に頷いた。
「では、西側の通路を使おう。無理に急がず、曲がり角では一度止まって確認する」
俺たちは経路を変更し、再び歩き始めた。
予定していた道は使えなかった。
けれど、六人で情報を確認し、別の道を選ぶことができた。
その判断が正しかったかどうかは、まだ分からない。
それでも、少なくとも今の俺たちは、分からないことを分からないまま進めようとはしていなかった。
◇
西側の通路へ入ると、空気が少しひんやりしていた。
壁の石材が厚いのか、外の音はほとんど聞こえない。魔導灯の光が一定の間隔で続いており、足元は見やすかったが、通路の先にはいくつかの曲がり角がある。
俺たちは予定通り、狭い場所では一度止まり、荷物の向きを確認しながら進んだ。
途中で二番の木箱をガレスから俺へ交代し、ガレスには周囲の安全確認を担当してもらう。
エミリアは物資の数量を確認し、サザリーは経路変更の理由を記録していた。
レオル先輩は先頭で通路を確認し、リビアは必要に応じて周囲の術式反応を確かめている。
それぞれが自分の役割を意識しながら動いていた。
やがて、通路の先に第二確認室の扉が見えてきた。
「着いたね」
リビアが小さく言う。
「うん。まずはここで通行情報を受け取るんだったな」
俺たちは扉の前で立ち止まり、全員がそろっていることを確認した。
レオル先輩が扉を叩く。
「第三班です。通行情報の確認に来ました」
少し間を置いて、室内から声が返ってきた。
「入ってください」
俺たちは扉を開け、第二確認室へ入った。
室内には机が一つ置かれ、その向こうに担当教師が座っていた。
教師は俺たちの人数を確認し、手元の書類へ目を落とす。
「第三班ですね。第一待機室からここまで、全員そろって到着していますか?」
「はい。六人全員そろっています」
レオル先輩が答える。
「では、現在の通行情報を渡します」
教師は一枚の封筒を差し出した。
表面には正式な確認印が押されている。
俺たちはそれを受け取り、全員が見えるように机の上へ置いた。
「開封して確認してください」
教師の指示に従い、レオル先輩が封筒を開ける。
中には、通行可能区域の更新図面と、新しい注意事項が記されていた。
サザリーが最初に内容を読み、少しだけ眉を寄せた。
「……なるほど」
「どうした?」
ガレスが尋ねる。
サザリーは図面を指差した。
「第四保管室へ向かう途中の中央通路が、今は通行禁止になってる」
「えっ?」
エミリアが驚いたように声を上げる。
俺も図面を覗き込んだ。
確かに、最初の資料では通行可能だった中央通路が、赤い線で塞がれている。
さらに、注意事項にはこう書かれていた。
『第三班は、第四保管室へ到達する前に、第三観測室で追加情報を確認すること』
俺はその一文を読み、少しだけ息を吐いた。
最初の予定から、また条件が変わったらしい。
けれど、今度は正式な指示だ。
「第三観測室か」
レオル先輩が図面を確認する。
「ここからだと、南側の通路を通る必要があるね」
「でも、その道って……」
リビアが少しだけ考えるような表情を浮かべた。
俺も図面へ目を向ける。
南側の通路には、いくつかの小さな区画が連なっていた。
そのうち一つには、術式確認区域を示す印が付いている。
「……術式対応が必要になるかもしれないな」
俺が言うと、リビアは静かに頷いた。
「うん。でも、何をする場所なのかはまだ分からないから、実際に行って確認しないとね」
その言葉に、俺は頷き返した。
第三班の最初の課題は、まだ始まったばかりだ。
予定していた道が使えなくなり、新しい確認場所が追加された。
それでも、俺たちは落ち着いて情報を整理し、次の行動を考えられている。
俺は六人の顔を順番に見た。
ガレスは図面を真剣に見つめ、エミリアは物資一覧を確認している。サザリーは新しい情報を記録し、レオル先輩は次の経路を考えていた。
そしてリビアは、俺の隣で静かに微笑んでいる。
「セス、行こうか」
「うん」
俺は頷き、手元の木箱を持ち直した。
まだ何が待っているかは分からない。
けれど、六人ならきっと進める。
そう思いながら、俺たちは次の目的地へ向かう準備を始めた。




