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第87話 最初の一歩をそろえるために


 交流演習の合同説明が行われた翌朝、学院へ向かう馬車の中で、俺は鞄から一枚の紙を取り出していた。


 昨日配布された基本資料の写しだ。実施場所となる第二総合演習区画の配置図と、安全規則、そして演習の基本課題が記されている。昨夜も一度目を通したが、改めて確認してみると、説明を聞いていたときには気づかなかった細かな注意書きがいくつかあった。


「セス、また資料を読んでるの?」


 隣に座るリビアが、少しだけ身を乗り出して紙を覗き込んだ。


「うん。昨日の説明を思い出してたんだ。通行可能区域は当日の資料が優先されるって書いてあるけど、施設の基本配置そのものは変わらないんだよな」


「そうだね。ただ、どこを通れるか分からないなら、今から道順を決めても仕方ないと思うよ」


「俺もそう思う。だから道順じゃなくて、説明の中で分からなかったことを確認してた」


 俺が指差したのは、物資の受け渡しについて書かれた項目だった。


 基本課題では、指定された物資を出発地点から目的地点へ運ぶことになっている。しかし、物資の数量や内容は演習開始前に知らされるため、現時点では誰が何を持つのか決められない。


 それ自体は理解できるのだが、受け渡しの記録をどの程度残す必要があるのかは、資料を読んでもはっきりしなかった。


「エミリアに確認した方がいいかな」


「まずは先生に聞いてみたら? エミリアさんも、まだ知らないことかもしれないし」


「そうだな。決められている規則なら、先に確認しておいた方がいいか」


 俺は資料を折りたたみ、鞄へ戻した。


 リビアはその様子を見て、少しだけ笑った。


「セス、楽しそうだね」


「そう見える?」


「うん。昨日からずっと、何ができるか考えてるみたい」


「まあ、楽しみではあるかな。でも、今回は俺だけで何とかする課題じゃないから、いつもとは少し違う感じがする」


「それがいいんじゃない?」


 彼女はそう言って、俺の手へそっと触れた。


「六人で考えて、六人で進むんでしょう?」


「うん」


 俺はその手を握り返した。


 窓の外では、王都の朝の通りを行き交う人々が、それぞれの目的地へ向かっている。荷車を押す商人、店先を掃く店員、通学途中の生徒たち。誰もが自分の仕事や予定を持ち、互いに関わりながら一日を始めていた。


 昨日の説明で聞いた役割分担という言葉が、ふと頭に浮かぶ。


 何もかも一人でできる必要はない。


 それぞれが自分の役割を果たし、必要なときに助け合えばいい。


 そんな当たり前のことを、俺は少しずつ実感できるようになっていた。


     ◇


 教室へ入ると、サザリーが窓際の席で資料を読んでいた。


 机の上には昨日配布されたものと同じ紙が広げられている。端には小さなメモが置かれており、何かを書き込んでいたらしい。


「おはよう、サザリー」


 俺が声をかけると、彼は顔を上げた。


「おはよう、クルセス。オリビア様も、おはようございます」


「おはよう。サザリー君も資料を確認してたの?」


「うん。昨日の説明で気になったところを少しだけね」


 彼はメモを持ち上げ、俺たちへ見せた。


 そこには、確認済み情報と未確認情報を区別するための簡単な表が描かれていた。


「情報整理の役割だから、当日どうやって記録するか考えてたんだ。ただ、まだ実際の情報量が分からないから、形式を決めるところまでは進めてないけど」


「それでいいと思うよ」


 俺が答えると、サザリーは少し意外そうに目を瞬いた。


「クルセスなら、もっと具体的に考えてるかと思った」


「俺も少し考えたけど、今は分からないことが多いからな。それより、資料に書いてある規則で確認したいことがあるんだ」


 俺は鞄から紙を取り出し、物資の受け渡しに関する項目を指差した。


 サザリーは説明を聞きながら、しばらく資料へ目を落としていた。


「なるほど。確かに、受け渡しの記録が必須なのか、班の判断に任されているのかは書いてないね」


「そうなんだよ。エミリアにも関係することだから、先に先生へ聞いておこうと思って」


「それなら、僕も一緒に聞いていいかな? 情報整理の記録と重なる部分があるかもしれないし」


「もちろん」


 俺たちは休み時間に担当教師へ確認することにした。


 そのとき、教室の後方からイザークの声が聞こえてきた。


「お前ら、朝から真面目だな!」


 振り返ると、彼が鞄を肩へ掛けたまま近づいてきていた。


「イザークも今日の授業の準備くらいはした方がいいんじゃない?」


 リビアが笑いながら言うと、イザークは少しだけ眉を上げた。


「してるって。俺だって忘れ物はしてねえぞ」


「昨日は筆記具を一本借りてたよね」


 近くにいたディーンが穏やかに指摘する。


「あれは忘れたんじゃなくて、たまたま使えなくなっただけだ」


「インクが切れてたんでしょう?」


「そうとも言う」


 イザークが堂々と答えたため、俺たちは思わず笑ってしまった。


 彼は少しだけ不満そうな顔をしたものの、すぐに俺の手元の資料へ目を向けた。


「それで、何を話してたんだ?」


「演習の物資管理について、先生に確認したいことがあってさ」


「なるほどな。第五班も昨日、荷物をどう運ぶかって話になったんだけど、まだ何が配られるか分からねえから決められなかったんだよ」


「やっぱり、ほかの班も同じなんだね」


 サザリーが頷いた。


「まあな。でも、こういうのは始まってから考えるのも面白そうだろ?」


 イザークは楽しそうに笑う。


 その表情を見ていると、俺まで少し気持ちが軽くなった。


 準備は大切だ。


 けれど、分からないことをすべて不安に思う必要はないのだろう。


     ◇


 午前中の授業が終わったあと、俺とサザリーはエレナ先生を訪ねた。


 先生は職員室の隣にある小さな準備室で、演習に使う資料を整理していた。机の上には班ごとに分けられた書類が積まれており、壁際には模擬演習用の道具がいくつか置かれている。


「クルセス、サザリー。どうしましたか?」


 先生は俺たちを見ると、手元の書類を置いた。


「交流演習の資料について、確認したいことがあります」


 俺が説明すると、先生は頷き、話を聞く姿勢になった。


 俺は物資の受け渡しに関する項目を示しながら、記録が必須なのか、それとも班の判断に任されているのかを尋ねた。


 エレナ先生は少しだけ考えてから答えた。


「基本課題として求められているのは、指定された物資を必要な数量だけ目的地点へ届けることです。受け渡しの方法や記録の取り方は、原則として班の判断に任されています」


「では、記録を残さなくても規則違反にはならないんですね?」


「そうです。ただし、途中で数量の確認が必要になった場合、どのように把握していたかは問われるかもしれません。記録を残すこと自体が目的ではありませんが、必要な情報を説明できる状態にしておくことは大切ですよ」


 なるほど。


 記録の形式は自由だが、数量を把握していることは必要になる。


 俺は頷き、サザリーと顔を見合わせた。


「ありがとうございます。班のみんなにも伝えます」


「ええ。ただし、今の説明だけで具体的な手順を決める必要はありません。実際の物資を確認してから判断してください」


「分かりました」


 俺たちは礼を言い、準備室を出た。


 廊下へ戻ると、サザリーが小さく息を吐いた。


「聞いてよかったね。記録が必須かどうか分からないままだと、余計な準備をしていたかもしれない」


「うん。でも、記録が不要ってわけでもないんだよな」


「そうだね。必要に応じて使えばいいってことだと思う」


 俺たちはその内容を昼休みに第三班へ共有することにした。


     ◇


 昼休み、俺たちは第二演習準備室へ集まった。


 昨日の合同説明を受けて、短い情報共有をしたいとレオル先輩が提案していたのだ。特別な訓練をするわけではなく、確認した内容を伝え合い、疑問が残っていないか確かめるだけの集まりだった。


 部屋へ入ると、すでにガレスとエミリアが席に着いていた。


「お、来たな!」


 ガレスが手を上げる。


「待たせた?」


「いや、俺たちも今来たところだ。レオル先輩はまだだな」


「上級学年の教室からだと少し距離があるからね」


 エミリアが答える。


 俺たちは席へ座り、資料を広げた。


 ほどなくしてレオル先輩も到着し、六人がそろったところで話し合いを始める。


「今日は長くならないようにしよう」


 レオル先輩が穏やかに言った。


「昨日の説明で確認できたことと、まだ分からないことを整理するだけで十分だと思う」


「はい」


 サザリーが頷き、メモを取り出した。


 最初に俺がエレナ先生へ確認した内容を伝えると、エミリアが真剣な表情で聞いていた。


「なるほど。受け渡しの記録は必須じゃないけど、数量を説明できる状態にはしておく必要があるんだね」


「そういうことみたい」


「それなら、当日の物資を見てから決めればいいかな。数が少なければ簡単に確認できるし、種類が多ければ記録があった方が安心だと思う」


「僕もそう思う」


 サザリーが頷く。


「情報整理の記録と重なるなら、一つにまとめてもいいかもしれないね。ただ、そこも当日の内容次第かな」


 エミリアは少しだけ考えてから、手元の紙へ何かを書き込んだ。


「じゃあ、今は『数量確認の方法は当日決める』でいい?」


「うん」


 俺たちが頷くと、彼女は安心したように微笑んだ。


 次にガレスが口を開いた。


「俺は、前衛対応って何をするのかが少し気になってる。敵と戦う演習じゃないなら、前衛って言っても剣を使う場面は少ないだろ?」


「そうだね」


 レオル先輩が答える。


「昨日の説明だと、前衛対応は通路の安全確認や障害への対応も含まれるらしい。必ず戦闘する役割ではないと思うよ」


「それなら分かる。俺、地面の状態を見るのはそこそこ得意だし、足場が悪い場所なら役に立てるかもしれない」


「ガレスは土属性も使えるんだったね」


 リビアが確認する。


「ああ。ただ、細かい制御はあんまり得意じゃないから、魔術で何とかするより先に普通に確認した方がいいと思う」


「それは大事だね」


 俺が言うと、ガレスは少しだけ照れくさそうに笑った。


「まあ、無理に魔術を使って失敗するよりはいいだろ」


 その言葉に、俺は自然に頷いた。


 自分の得意なことだけでなく、苦手なことも理解している。


 それは、班で動くうえでとても大切なことだと思った。


 続いてリビアが術式対応について話した。


「私は、結界を使う場面があるかどうかを確認したいかな。昨日の説明だと、施設を壊すような魔術は禁止されていたけど、防御や補助の術式については許可範囲があるみたいだったから」


「そこは当日の指示を確認する必要があるね」


 レオル先輩が答える。


「使える術式の種類や出力が指定される可能性もあるし、今の段階では決められないと思う」


「うん。だから、使えると決めつけないようにしたい」


 リビアはそう言って、資料へ目を落とした。


 彼女の結界魔術はとても優秀だ。


 けれど、今回の演習では、その力をどのように使うかが重要になる。


 俺は彼女の横顔を見ながら、少しだけ誇らしく思った。


 リビアは自分の力を過信せず、必要な場面で使おうとしている。


 その姿勢は、俺も見習いたいところだった。


     ◇


 話し合いが一段落したところで、レオル先輩が俺へ視線を向けた。


「クルセス、連絡・誘導については何かあるかな?」


「そうですね。俺は、情報を誰に伝えるべきかを考えることが大事だと思ってます。ただ、実際にどんな情報が出るか分からないので、今は具体的な手順までは決められないかなと」


「僕も同じ考えだよ」


 レオル先輩が頷く。


「連絡・誘導が二人いるからといって、必ず別々に動く必要はないと思う。状況によっては一緒に動いた方がいいかもしれないし、片方が班内の連絡を担当することもあるだろうね」


「はい」


「ただ、一つだけ確認しておきたいことがある」


 先輩は少しだけ真剣な表情になった。


「もし途中で班が分かれる必要が出た場合、誰がどの情報を持っているか分からなくなるのは避けたい。だから、分かれる前には必ず共有すべき情報を確認することにしないか?」


 俺はその提案を聞き、すぐに頷いた。


「いいと思います。分かれたあとに、片方だけが重要な情報を知ってる状態になるのは困りますから」


「そうだね」


 サザリーも賛成した。


「情報整理としても、その方が助かる。もちろん、分かれる必要があるかどうかは当日の判断だけど」


 レオル先輩は微笑んだ。


「うん。今はそこだけ意識しておけば十分だと思う」


 俺たちはその内容をメモへ残した。


 話し合いは思っていたより短く終わった。


 けれど、必要な確認はできたように思う。


 誰か一人がすべてを決めるのではなく、それぞれが気になったことを出し合い、必要な部分だけを共有する。


 第三班としての話し合い方も、少しずつ自然になってきていた。


「じゃあ、今日はここまでにしようか」


 レオル先輩が言うと、ガレスが大きく伸びをした。


「よし。これなら午後の授業にも間に合うな」


「最初から間に合う予定だったでしょう?」


 エミリアが笑う。


「そうだけどさ。話し始めると長くなることもあるだろ?」


「今日はちゃんと短く終わったね」


「だろ?」


 ガレスが得意そうに笑うと、俺たちもつられて笑った。


 資料を片づけ、部屋を出る。


 廊下には昼休みの生徒たちの声が響いており、窓から入る光が床へ長い帯を作っていた。


 俺は歩きながら、少しだけ考えた。


 今日の話し合いで、特別な作戦が決まったわけではない。


 新しい魔術を覚えたわけでもない。


 それでも、第三班の六人が同じ方向を向き始めているような気がした。


(こういう積み重ねが大事なんだろうな)


 俺はそう思いながら、午後の教室へ向かった。


     ◇


 放課後、俺とリビアは学院の図書室へ立ち寄った。


 交流演習の資料を調べるためではなく、昨日返却した本の代わりに新しいものを借りるためだ。


 図書室へ入ると、いつもの静かな空気が迎えてくれた。


 高い書架にはさまざまな分野の本が並び、窓際の机では数人の生徒が勉強している。紙をめくる音と、遠くから聞こえる小さな足音だけが、室内に穏やかに響いていた。


「セス、今日は何を借りるの?」


 リビアが小声で尋ねる。


「まだ決めてない。旅行記の続きを探そうかなって思ってるけど」


「北方の本はまだ読み終わってないんでしょう?」


「うん。でも、別の地域の話も気になるんだ」


「ふふっ。セスらしいね」


 リビアは楽しそうに笑い、俺と一緒に旅行記の棚へ向かった。


 書架には王都周辺の街道を紹介する本や、遠方の港町を訪れた旅人の記録、山岳地帯の生活についてまとめられたものなどが並んでいる。


 俺は背表紙を眺めながら、一冊の本へ手を伸ばした。


 それは、南方の河川都市について書かれた旅行記だった。


「これ、面白そうだな」


「どんな本?」


「大きな川の周りに町がいくつもあって、船で行き来する地域の話みたい」


 リビアが隣から表紙を覗き込む。


「へえ。水路が多い町なんだね」


「うん。橋もたくさんあるらしい」


「それなら、結界魔術の使い方も少し違うのかな」


「どうだろう。生活の中で使われてる術式とか、載ってるかもしれないな」


 俺たちはしばらく本を眺め、結局その旅行記を借りることにした。


 リビアも庭園と水路の設計について書かれた本を選び、二人で貸出手続きを済ませる。


 図書室を出るころには、夕方の光が少し柔らかくなっていた。


「セス、今日はもう帰る?」


「うん。ほかに予定もないし」


「じゃあ、帰ったら少しだけ一緒に読もうね」


「もちろん」


 俺たちは並んで廊下を歩いた。


 途中、窓の外に見える第二総合演習区画の方へ目を向けると、遠くに低い建物と囲いの一部が見えた。


 あそこで、もうすぐ交流演習が行われる。


 どんな物資が配られるのか。


 どんな通路を進むことになるのか。


 どんな条件変更が待っているのか。


 まだ分からないことは多い。


 けれど、今はそれを楽しみに思える。


「セス?」


 リビアが俺の顔を覗き込んだ。


「また演習のこと考えてた?」


「ちょっとだけ」


「ふふっ。楽しみなんだね」


「うん。でも、今は帰って本を読む方が楽しみかな」


「それなら早く帰ろう」


 彼女が嬉しそうに笑い、俺の手を取った。


 俺もその手を握り返し、正門へ向かって歩き始めた。


     ◇


 その日の夜、俺たちは小さな居間で並んで本を読んでいた。


 窓の外には夜の庭が広がり、室内には魔導灯の柔らかな光が落ちている。卓上には温かい茶が用意され、時折リビアがカップへ手を伸ばす音が聞こえた。


 俺が借りてきた旅行記には、南方の河川都市で暮らす人々の生活が詳しく書かれていた。


 川沿いには市場が並び、船で運ばれてきた物資が倉庫へ移される。水路が多いため、橋の位置や船着き場の混雑によって、同じ町の中でも移動にかかる時間が大きく変わるらしい。


 俺はその一節を読み、少しだけ興味を引かれた。


「リビア、これ見て」


 声をかけると、彼女が顔を上げる。


「どうしたの?」


「この町、荷物を運ぶときに水路と陸路を使い分けてるんだって。橋が混んでるときは船を使う方が早いこともあるらしい」


「へえ。面白いね」


 リビアは本を覗き込み、しばらく文章を読んでいた。


「でも、船を使うなら水位や天候も確認しないといけないんじゃない?」


「そうみたい。だから、船着き場ごとに情報を伝える人がいるらしい」


「それって、今日話してた連絡・誘導に少し似てるね」


「俺もそう思った」


 二人で顔を見合わせ、笑う。


 演習のために選んだ本ではないのに、読んでいると似た考え方に出会う。


 それが少し面白かった。


「セスって、こういうところに気づくのが好きだよね」


 リビアが言う。


「そうかな」


「うん。魔術でも剣術でも、何か一つ覚えると別のことにつなげて考えるでしょう?」


「言われてみれば、そうかもしれない」


「私はそういうところ、好きだよ」


 彼女は何でもないことのように言った。


 俺は思わず顔が熱くなるのを感じた。


「……リビア、急にそういうこと言うよな」


「本当のことだもの」


 彼女は楽しそうに笑い、俺の肩へそっと寄りかかった。


 俺は少しだけ照れながら、その髪へ軽く頬を寄せる。


 しばらく二人で静かに本を読んでいると、リビアが小さな声で言った。


「ねえ、セス」


「ん?」


「演習が終わったら、またどこかへ行きたいね」


「どこかって?」


「遠くじゃなくてもいいの。王都の中でも、まだ一緒に行ったことがない場所があるでしょう?」


「確かに。職人街とか、港に近い市場とか、行ってみたいところはあるな」


「じゃあ、今度のお休みにでも考えようか」


「うん。予定が合えば行こう」


 リビアは嬉しそうに頷いた。


 俺たちはそのまま、次の休日に行ってみたい場所の話をしながら本を読み進めた。


 交流演習の本番は、まだ少し先だ。


 けれど、今日の話し合いで、第三班として大切にしたいことが少し見えてきた。


 必要な情報を確認すること。


 分からないことを分からないまま扱うこと。


 そして、誰か一人に任せきりにせず、六人で判断すること。


 それができれば、きっとどんな課題でも落ち着いて向き合えるはずだ。


 俺は隣で本を読むリビアの手をそっと握り、静かな夜の時間を楽しんだ。


 次に第二総合演習区画へ向かうとき、俺たちは第三班として最初の一歩を踏み出すことになる。


 その一歩を、六人でそろえられるように。


 今は焦らず、目の前の時間を大切にしておこうと思った。

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