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第17話 五属性を順番に測るだけなのに、どうして先生たちの顔がだんだん怖くなるんですか



 朝食を終えて屋敷を出る頃には、空に残っていた薄い雲もほとんど消え、王都には穏やかな朝の日差しが広がっていた。


 迎えの馬車へ乗り込んでからも、俺は昨日のように測定内容を頭の中で何度も組み立てることはしなかった。もちろん気にならないわけではないし、第二魔術訓練場にどんな測定器が用意されているのか考え始めれば、いくらでも想像は出来る。それでも今日は実際に先生たちへ聞けばいいのだから、分からないことを今から勝手に決めつける必要はない。


「セス、今日は静かね」


 向かいに座るリビアが、流れていく街並みから俺へ視線を移した。昨日なら測定について考え込んでいたことをすぐ見抜かれたので、今日は何を言われるのだろうと思ったが、彼女の表情には心配よりも穏やかな笑みが浮かんでいる。


「そう?」


「昨日の帰りなら、測定器がどうとか切り替え速度がどうとか、顔に全部出ていたもの」


「顔にそんなに出るかな」


「少なくとも私には分かるわ」


「じゃあ今日は?」


「楽しみにはしてる。でも、先に答えを出そうとはしてない感じ」


 そこまで分かるものなのかと思いながら、自分でも少し考えてみる。確かに昨日とは違っていた。測定を受けることそのものは楽しみだが、知らない状態で行くことまで含めて楽しめばいいのだと思えるようになっている。


「昨日、リビアが言ったからだと思う。楽しみは今日に取っておくって」


「本当に効いたのね、あれ」


「うん。我慢するって考えるより楽だった」


「じゃあ、これからセスが勝手に何か試しそうになったら、全部『楽しみは後に取っておきましょう』って言えば止められるかしら」


「全部は無理じゃない?」


「そこは全部って言ってほしかったわ」


 少し残念そうな顔をされたので笑ってしまう。何でも後回しにすればいいわけではないし、危険が迫っている時まで待つつもりはないけれど、少なくとも急ぐ必要のないことを自分から急がないという考え方は覚えておいてもいい気がした。


 学園へ到着すると、正門付近はいつも通り多くの生徒で賑わっていた。馬車から降りるために先に外へ出て、続いて降りてくるリビアへ手を差し出す。


「どうぞ、リビア」


「ありがとう、セス」


 彼女の手を取って地面へ降ろし、そのまま自然に手を離す。昨日までは、こういう一つ一つの動作に執事としてなのか婚約者としてなのかと考えていた気がするが、今はどちらでも構わないと思える時が増えていた。


 俺がリビアへ手を差し出したかったから差し出した。


 それだけでいいこともあるのだろう。


 校舎へ向かう途中、何人かの生徒から挨拶をされ、こちらも返す。まだ俺を見て小声で何か話す生徒はいるものの、初日のように一斉に視線が集まることはなくなり、少しずつ学園の景色の一部になれているような気がした。


 教室へ入ると、すでに来ていたイザークがこちらを見るなり片手を上げた。


「おはよう。今日は測定の日だったな」


「おはよう。そうだよ」


「昨日の夜、絶対何か試しただろ」


「試してない」


「嘘だ」


「何で即答なんだよ」


 鞄を置きながら抗議すると、近くにいたナナリーまでこちらを見た。ミリアナも会話を聞いていたらしく、二人とも微妙に疑っている顔をしている。


「本当に何もしてませんよ。剣も振ってないし、魔術も使ってない」


「剣まで?」


 イザークの方が驚いた。


「測定に余計な影響を出したくなかったから」


「お前が自分から休んだのか?」


「何だよ、その反応」


「いや……」


 イザークは腕を組み、本気で珍しいものを見るように俺を眺めた。


「明日は槍でも降るんじゃないか?」


「失礼だな」


「でも、昨日のクルセス様なら少し試していたかもしれないって、ご自分でも言っていましたよね?」


 ナナリーに言われてしまうと弱い。俺が返事に困っていると、隣でリビアが誇らしそうに胸を張った。


「昨日はちゃんと休んだのよ。帰ってからも訓練してないし、今朝も何もしてないわ」


「なぜオリビアが自慢するんだ」


 いつの間にか近くまで来ていたアルフォルド殿下が、不満そうに口を挟んだ。


「私が休み方を教えたからです」


「休み方?」


「セス、自由時間を与えると仕事か訓練か勉強を始めるんです」


 教室の空気が一瞬だけ止まり、それから近くにいた何人かが俺を見る。そんなに変なことだろうかと思っていると、カイゼル殿下が肩を揺らして笑い始めた。


「セス、それは自由時間じゃなくて、自分で仕事を追加しているだけじゃないかな」


「昨日初めて知りました」


「十五歳で?」


「仕方ないでしょう。今まで困らなかったんですから」


「むしろ今まで誰も止めなかったのかい?」


「グレイヴには昔から止められてた気がします」


「それを聞かなかったのでは?」


 サザリー様の静かな指摘に、俺は返事を止めた。思い返せば、今日はもう休めと言われても、身体は平気だとか、少し手伝うだけだとか、似たようなことを何度も言っていた気がする。


「……そうかもしれません」


「少しずつ改善しているなら、それでよいのではありませんか」


 サザリー様はそれ以上追及せず、手にしていた教科書を机へ置いた。その横ではアルフォルド殿下がまだ何か納得していない顔をしている。


「それより、今日の測定だ。結局、私は見学出来ないのか?」


「俺に聞かれても」


「昨日、申請について確認した」


「したんですか?」


「当然だ」


 行動が早い。


「結果は?」


「却下された」


 殿下はものすごく不満そうだった。


「学園長から、『今回は見世物ではない』と言われた」


「それは……まあ、そうですよね」


「オリビアは入れるのに」


「私は婚約者ですから」


 リビアがすぐに答える。アルフォルド殿下が何か言い返そうとしたが、その前にカイゼル殿下が楽しそうに肩を叩いた。


「諦めなよ。今回は完全に婚約者特権らしい」


「お前は悔しくないのか」


「興味はあるけど、教師が制限する理由も分かるからね。それに結果が公表出来る内容なら、後で聞けばいい」


「私も同意見です」


 サザリー様まで頷き、アルフォルド殿下だけが取り残されたような顔になる。俺は少し気の毒になったが、測定中に人が増えれば集中しづらくなるかもしれないし、先生たちが決めたことなら従うしかない。


「終わったら、話していい範囲なら話しますよ」


「本当か?」


「先生に確認してからですけど」


「なら約束だ」


「分かりました」


 それだけでアルフォルド殿下の機嫌が少し直ったので、案外単純なのかもしれない。


 午前中の授業は、昨日までと同じように穏やかに進んだ。


 魔術の測定があるからといって通常授業を休むわけではなく、俺も出来るだけ普段通りに過ごす。途中で測定のことを思い出すことはあったが、教科書を開けば目の前の内容へ意識を戻せたし、先生から質問されれば普通に答えられた。


 昨日までなら、放課後に何か予定があるだけで事前の準備を頭の中で繰り返していたかもしれない。それが悪いことだとは思わないが、準備しようのないことまで考え続ける必要はないのだろう。


 昼休みの鐘が鳴ると、俺より先にリビアが立ち上がった。


「セス」


「分かってるよ。今日は二人」


「まだ何も言ってないわ」


「昨日から何回も確認されたからな」


 俺が笑いながら鞄から昼食を取り出すと、リビアは少しだけ頬を膨らませた。それでも嬉しいらしく、すぐに自分の昼食を持って俺の隣へ来る。


「今日は邪魔しないぞ」


 アルフォルド殿下が妙に真面目な顔で言った。


「昨日は邪魔しようとしたじゃないですか」


「昨日の反省を生かしている」


「殿下も成長してるんですね」


「なぜ上からなんだ!」


 教室に笑いが起こる。俺も笑いながらリビアと一緒に廊下へ出ると、後ろからナナリーが「ごゆっくり」と声をかけてきた。


 東棟の裏庭は、今日も空いていた。


 昨日と同じ木陰へ向かい、自然と隣同士で腰を下ろす。昼前から少し風が強くなったらしく、頭上では枝葉が擦れ合い、ところどころから細い光が揺れながら地面へ落ちていた。


「本当に二日続けて来られたわね」


「昨日約束しただろ」


「そうだけど、セスの方から『今日も二人』って覚えていてくれたのが嬉しいの」


「忘れないよ、それくらい」


「前のセスなら、誰かに誘われたら『一緒に食べればいいだろ』って言いそうだったもの」


「……言いそうだな」


 否定出来なかった。みんなで食べるのも楽しいのだから、人数が増えて何が悪いのかと本気で思っていただろう。


 今もみんなで食べるのは好きだ。


 でも、二人で食べる時間はそれとは違う。


 どちらかを選ばなければならないわけではなく、どちらも欲しいと思える。


「今日は何持ってきた?」


 俺が尋ねると、リビアは待っていましたと言わんばかりに包みを開いた。中には小さな焼き菓子が二つ入っている。


「昨日話してたやつ」


「本当に増やしたんだ」


「セスが果物も欲しいって言ったから、そっちはそっちに入ってるわ」


 俺の昼食の包みを確認すると、確かに切り分けられた果物が入っていた。厨房の人たちに二人で相談した内容が伝わっていたらしい。


「じゃあ半分ずつ?」


「ええ」


 昨日のように食べさせてほしいと言われるのではないかと少し身構えたが、今日はリビアも普通に自分で食べ始めた。なぜか少し安心すると同時に、ほんの少しだけ物足りない気もする。


 その感覚に気づいてしまい、俺は手にしていた果物を見る。


「セス?」


「何?」


「今、何か考えた?」


「別に」


「昨日から誤魔化すの下手になってない?」


「元々そんなに上手くないよ」


「そうね」


 即答された。


 少し悔しい。


 それでも昼食の時間は穏やかに過ぎた。測定の話も少しはしたが、細かい予想をするのではなく、終わったら何が分かったか教えてほしいとリビアに言われた程度だった。


「私も見てるけど、先生たちにしか分からないこともあるでしょう?」


「たぶんね」


「セス自身がどう感じたかも聞きたいわ」


「俺が?」


「数字だけじゃなくて。やりやすかったとか、いつもと違ったとか、疲れたとか」


 最後の言葉だけ少し強調された気がする。


「疲れたら言うよ」


「本当に?」


「昨日約束しただろ」


 俺がそう返すと、リビアは一瞬黙ったあと、柔らかく笑った。


「そうだったわね」


 その笑顔を見ていると、約束を覚えていたことだけでこんなに喜ぶのかと思う。それと同時に、これまで俺がどれだけ約束することすら避けていたのかも少し分かった。


 絶対に怪我をしないとは言えない。


 絶対に危険へ飛び込まないとも言えない。


 だから何も約束出来ないと思っていた。


 でも、疲れたら言うとか、止められたら止まるとか、出来る約束もある。


「リビア」


「何?」


「ちゃんと言うから」


「……うん」


「だからそんなに心配しなくても――」


 そこまで言って、止めた。


 心配するなと言うのは違う。


「いや。心配しててもいいけど、隠さないから」


 言い直すと、リビアが少し驚いたように俺を見る。それから何も言わず、肩を俺の腕へ軽く触れさせた。


「それなら、見てる」


「うん」


 木陰を抜ける風が心地よかった。


 昨日と同じ場所で、昨日より少しだけ違う話をしている。それだけなのに、こういう時間が積み重なっていくこと自体が嬉しいのだと、俺はまだ名前の分からない感覚のまま受け止めていた。


 午後の授業も大きな問題なく終わった。


 最後の鐘が鳴ると、教室の空気が一気に緩み、生徒たちが帰り支度を始める。俺も教科書を鞄へしまったが、今日はそのまま正門へ向かうわけではない。


「いよいよだな」


 イザークが声をかけてくる。


「うん」


「何か緊張してる?」


「少し楽しみ」


「お前らしいな」


「でも、無茶はしませんよね?」


 ナナリーが念を押してくる。俺が「しない」と答えるより先に、リビアが胸を張った。


「私がいるから大丈夫よ」


「先生も五人いますけどね」


 ミリアナが小さく笑う。


「六人で止めるの」


「俺、一人に六人必要なの?」


「必要にならないようにしてください」


 ナナリーの返しが妙に的確で、俺は何も言えなくなった。


 アルフォルド殿下たちは教室の外まで一緒に来たが、第二魔術訓練場へ続く廊下の分かれ道で止まった。昨日正式に見学を断られた以上、さすがに勝手についてくるつもりはないらしい。


「結果は忘れるなよ」


「話していいか確認してからです」


「分かっている」


「セス」


 カイゼル殿下がいつもの軽い調子で片手を上げた。


「先生たちを困らせすぎないようにね」


「俺、測るだけですよ?」


「その『測るだけ』で何か起こりそうだから言ってるんだよ」


「カイゼル殿下まで……」


「では、また明日」


 サザリー様が静かに締め、三人は別の廊下へ向かっていく。ナナリーたちともそこで別れ、俺とリビアは二人で第二魔術訓練場へ向かった。


 西側の校舎を抜け、屋外へ出る。


 午後の日差しはまだ明るかったが、風には朝より少し冷たさが混じっていた。石畳の先には複数の訓練施設が並んでいて、その中でも第二魔術訓練場は、以前使った第三訓練場より一回り大きな建物だった。


「ここか」


「入ったことある?」


「ない。リビアは?」


「見学で一度だけ。大きな術式を扱う授業や、測定に使うことが多い場所よ」


 入口にはすでにレイモンド先生が立っていた。俺たちを見ると手元の書類から顔を上げ、まず俺、次にリビアへ視線を向ける。


「時間通りだな」


「はい」


「余計なことはしていないか?」


「してません」


「昨夜は?」


「何も」


「今朝は?」


「剣も魔術もなしです」


 先生は一瞬だけ意外そうな顔をした。


「……そうか」


「先生までその反応なんですか?」


「いや。成長は喜ばしいと思っている」


「言い方がグレイヴと同じなんですけど」


「保護者と教師の意見が一致するのは良いことだ」


 反論出来ない。


「オリビア嬢も予定通り見学を許可している。ただし、測定区域の内側には入らないこと。異常を感じた場合は教師へ伝えてくれ」


「はい」


「クルセス」


「はい」


「今日の目的は限界を測ることではない」


 レイモンド先生の声が少し真面目になる。


「現在の状態で、どの属性をどの程度安定して扱えるのか。その特性を確認し、今後の授業や訓練で何をさせてよいか判断するための測定だ。最大値を競う試験ではないし、記録を作る必要もない」


「分かりました」


「本当に分かっている顔だな、今日は」


「普段はどんな顔してるんですか」


「『どこまでやればいいんだろう』という顔だ」


 否定しづらい。


 レイモンド先生に案内されて訓練場へ入ると、最初に目へ入ったのは床一面へ刻まれた巨大な魔法陣だった。第三訓練場にも防護術式はあったが、こちらは中央の測定区域を何重もの円が囲み、その外側に複数の石柱が等間隔で配置されている。


 壁際には見たことのない器具が並んでいた。


 人の背丈ほどある透明な結晶柱。


 金属の輪が何重にも重なった装置。


 細かな目盛りの刻まれた板。


 属性ごとに色の違う小さな魔石。


 さらに中央から少し離れた場所には机が三つ置かれ、大量の紙と筆記具が準備されている。


「……結構あるな」


「だから昨日試さなくてよかったでしょう?」


 隣のリビアが小声で言う。


「うん。これは自分じゃ出来ない」


「そこ?」


「いや、安全の話も分かってるよ」


 訓練場の奥には、すでに学園長オズワルド先生、エレナ先生、ベルナルト先生がいた。そのほかに見覚えのない男女二人の教師がおり、俺たちが近づくとエレナ先生が手を上げる。


「来たわね、クルセス。体調は?」


「問題ありません」


「痛み、疲労、違和感は?」


「全部ないです」


「昨日から高負荷の魔術は?」


「使ってません。剣も振ってません」


「……剣も?」


「何でみんなそこに驚くんですか」


 ベルナルト先生が吹き出した。


「君の普段の行動がよく共有されているということだろうね」


「嬉しくない共有です」


「私は非常に参考になるよ。理論上興味深い対象ほど、勝手に条件を変えられると困るからね」


「対象って言われると、ちょっと嫌なんですけど」


「では興味深い生徒」


「それならまだ」


 軽いやり取りの間に緊張が少し抜ける。学園長もそれを止めず、全員が揃ったところで俺たちを中央近くの机へ呼んだ。


「始める前に説明しておこう」


 学園長が机の上の用紙を一枚持ち上げる。


「今日の測定は大きく分けて四段階だ。第一に各属性の基礎出力と安定性。第二に精度。第三に属性切り替え。そして最後に、そこまで問題がなければ限定的な複合魔術を確認する」


「持続安定性は?」


「第一段階の中でも簡単には見るが、長時間維持は後で改めて行う。今日中に全て終える必要もない」


 その言葉に少し驚く。


「今日で終わらないかもしれないんですか?」


「当然だ」


 答えたのはエレナ先生だった。


「五属性全部を一人で測ること自体が珍しいのよ。しかもあなたの場合、単に使えるかどうかを見るだけじゃない。疲労や属性間の影響まで確認する必要があるんだから、途中で切る可能性は最初から考えてるわ」


「なるほど」


「残念そうな顔をしない」


「してました?」


「してたわ」


 隣を見ると、見学用の椅子へ座ったリビアまで頷いている。


「セス。続きがあるなら、楽しみを次に取っておけばいいでしょう?」


「……それ言われると納得するしかないな」


 先生たちが揃ってリビアを見る。


「昨日これで自主練習を止めたんです」


 リビアが説明すると、数秒の沈黙のあと、エレナ先生が真剣な顔で頷いた。


「オリビア嬢。今日もそれでお願い」


「はい」


「俺よりリビアの方が信用されてません?」


「適材適所だ」


 学園長にまで言われてしまった。


 その後、初対面の二人の教師を紹介された。


 一人は測定術式を専門にしている中年の男性教師、ハロルド先生。もう一人は魔力器具の管理を担当している女性教師、セレナ先生だった。二人とも今日は俺の能力を評価するためというより、測定値と器具の状態を監視する役割らしい。


「では、最初は火属性から始める」


 エレナ先生に促され、俺は中央の測定区域へ入った。


 足元には直径五メートルほどの円があり、その正面に透明な結晶柱が置かれている。近くで見ると内部には細い銀色の線が何十本も走っていて、台座部分から床の術式へ接続されていた。


「この測定器へ魔術を撃つんですか?」


「撃たないわ」


「違うんですか?」


「今日は戦闘じゃないのよ」


 エレナ先生が呆れたように言い、ハロルド先生が代わって説明してくれる。


「結晶へ向けて、指定された属性の魔力を一定量流してください。術式へ組み込む必要はありません。魔力を属性変換し、その状態を維持するだけです」


「魔術にしないんですね」


「その方が純粋な変換効率と安定性を見やすい。君の場合は特に、ベルナルト先生から興味深い報告を受けている」


 ベルナルト先生を見ると、楽しそうに笑っていた。


「変換点の話ですか?」


「そうだよ。君が普段どこで属性を与えているのか、それが本当に私の推測通りなのか、今日は少し数字で見られるかもしれない」


 俺としても興味がある。


「では、火から。出力は三割程度を意識して」


「俺の三割ですか?」


 聞いた瞬間、先生たちの動きが止まった。


「……良い質問だ」


 学園長が静かに言う。


「今日はそこを曖昧にしない。まず測定器側の基準で低出力から始める。君自身の感覚で三割という指定はしない」


「分かりました」


「以前なら確認せずに三割出していたか?」


「たぶん」


「聞けるようになったのは進歩だな」


 何だか今日は魔術より俺の行動を測られている気がする。


 ハロルド先生が装置を調整し、最初の目盛りを指定する。俺は右手を結晶柱へ向け、いつものように身体の内側から魔力を流した。


 ただし、魔術式は組まない。


 流れていく魔力へ火の性質だけを与える。


 赤い光が手のひらから細く伸び、結晶へ触れた。


 直後、透明だった柱の内部へ淡い赤色が広がっていく。銀色の線が一本ずつ光り始め、台座に刻まれた目盛りがゆっくり上昇した。


「そのまま」


 エレナ先生の声に従い、一定の感覚を維持する。


 難しくはない。


 普段なら、この先に術式を組み、火球や火矢の形へ変える。今回はその手前で止めているだけなので、むしろいつもより簡単に感じた。


「十秒」


 ハロルド先生が記録する。


「変動、ほぼなし」


 セレナ先生が別の器具を見る。


「変換効率も安定しています。もう一段階上げます」


 指定された量へ少しだけ魔力を増やす。


 結晶柱の赤が濃くなった。


「問題なし」


「さらに一段」


 また上げる。


 それでも特に難しさはない。


「クルセス、身体に違和感は?」


「ないです」


「疲労は?」


「ないです」


「では、火はここまで」


 思ったより早く止められた。


「もう終わりですか?」


「今日は最大出力を測らないと言ったでしょう」


「そうでした」


「その顔を見る限り、まだかなり余裕があるわね」


「あります」


 エレナ先生は記録用紙へ何かを書き込んだあと、ハロルド先生と数値を確認する。俺には細かな意味までは分からないが、二人とも特に驚いた様子はなかった。


 少し安心する。


「次、水属性」


 同じ方法で水へ切り替える。


 一度魔力を完全に止め、数呼吸置いてから再開した。今度は青い光が結晶柱へ流れ込み、内部の色が赤から青へ変わっていく。


 低出力。


 次の段階。


 さらに一段。


 火とほぼ同じところまで進み、また止められる。


「安定」


「変換効率も大差なし」


 先生たちが記録する。


「次、風」


 風も同じだった。


 薄い緑色の光が柱へ広がり、指定された出力まで問題なく維持する。特別なことをしている感覚はなく、先生たちの指示に合わせて魔力を増減させるだけだ。


 ただ、三属性目が終わったところで、ベルナルト先生の表情が少し変わっていることに気づいた。


「先生?」


「気にしないで続けて」


「気になるんですけど」


「まだ三つだからね。先に全部見たい」


 そう言われると余計に気になるが、勝手に聞き続けるわけにもいかない。


「次は土」


 土属性へ変える。


 茶褐色の光。


 低出力から段階的に上げ、指定されたところで維持する。


「……安定」


 セレナ先生の声が、少しだけ遅れた。


「何か変ですか?」


「あなた自身には?」


「何も」


「なら続けてください」


 先生たちがまた何かを書き込む。


 見学席のリビアへ目を向けると、彼女も先生たちの変化に気づいているらしく、少しだけ眉を寄せていた。それでも俺が見ると、すぐに小さく頷いてくれる。


 見てる。


 昨日言われた言葉を思い出した。


 俺も頷き返し、最後の属性へ向き直る。


「雷属性。先に言っておくが、迅雷撃破は使わない」


「分かってます」


「身体強化もなし。純粋な属性変換だけだ」


「はい」


 今度は雷。


 魔力へ性質を与えると、紫がかった白い光が手のひらから結晶柱へ伸びた。内部の銀線が細かく瞬き、他の属性よりわずかに鋭い音を立てる。


「低出力、安定」


「次」


 少し上げる。


「安定」


「次」


 もう一段。


 結晶の内部で光が強くなる。


 それでも俺の感覚は変わらない。


「そこで維持」


 十秒。


 二十秒。


 三十秒。


「終了」


 魔力を止めると、結晶柱の光がゆっくり消えていった。


 俺は息を吐き、先生たちを見る。


「終わりました」


 誰もすぐに返事をしなかった。


 ハロルド先生は五枚に分けた記録用紙を並べ、セレナ先生は別の測定器から数値を書き写している。エレナ先生は腕を組み、ベルナルト先生は顎へ手を当てていた。


 学園長だけがいつもとあまり変わらない顔をしている。


「……何ですか?」


 さすがに気になって尋ねる。


「俺、何か変でした?」


「変という言葉をどう定義するかによるな」


 ベルナルト先生が答えた。


「それ絶対普通じゃない時の言い方ですよね」


「安心しなさい。危険な異常ではないわ」


 エレナ先生が言う。


「じゃあ何ですか?」


「まず休憩」


「疲れてませんけど」


「疲れているかどうかに関係なく休憩」


「はい」


 昨日までなら、まだ出来ると食い下がっていたかもしれない。


 今日は素直に測定区域から出る。


 見学席の近くには水が用意されていて、リビアがすぐにカップを取ろうとした。俺も反射的に自分で取ろうとして、途中で手が重なる。


「あ」


「セス」


「……どうぞ」


 俺が手を引くと、リビアが嬉しそうに水を注いでくれた。


「はい」


「ありがとう」


 受け取って飲む。


 別に喉が渇いていたわけではないが、冷たい水が思った以上に心地よかった。


「疲れてない?」


「本当に大丈夫。魔術にする前の魔力を流してただけだから、普段より楽なくらい」


「手は?」


「平気」


「胸とか頭は?」


「何もないよ」


 リビアが俺の顔をじっと確認する。


「本当に?」


「本当に。これは隠してない」


「なら信じる」


 すぐにそう言ってくれた。


 その短いやり取りが、妙に嬉しかった。


 以前なら何度大丈夫だと言っても疑われることに少し不満を感じていたと思う。でも今は、俺がきちんと伝えるならリビアも信じてくれるのだと分かる。


「それで、先生たちは何を見てるんだろうな」


「私も気になってる」


 二人で机の方を見る。


 五人の先生たちはまだ記録を確認していた。何か深刻な問題が起きた様子ではないものの、火、水、風と進むうちに少しずつ会話が減っていったのは間違いない。


 やがてベルナルト先生が五枚の紙を持ってこちらへ来た。


「クルセス。休みながらでいいから、一つ確認したい」


「はい」


「君は五属性を使う時、それぞれに得意不得意を感じるかい?」


「得意不得意?」


「火は扱いやすいが水は少し難しい、といった感覚だ」


 考えてみる。


 火。


 水。


 風。


 土。


 雷。


 戦う時には状況によって使いやすさが変わる。狭い室内で火を大きく使うのは避けるし、水が近くにあれば水属性は扱いやすい。迅雷撃破がある分、雷は戦闘でよく使う。


 でも、それは属性そのものの得意不得意とは違う。


「特にないです」


「本当に?」


「はい。使う場所によって選びますけど、火だから難しいとか、土だから疲れるとかはないです」


「そうか」


 ベルナルト先生が紙へ視線を落とす。


「先生、何だったんですか?」


「今の基礎測定だけで結論は出せない。だから、これはまだ途中経過として聞いてほしい」


「はい」


「五属性すべてで、変換効率と安定性にほとんど差がない」


「……それって変なんですか?」


 俺が尋ねると、ベルナルト先生ではなくエレナ先生が近づいてきた。


「五属性全部に適性がある時点で十分珍しいけれど、適性があることと、全部を同じように扱えることは別なのよ」


「そうなんですか?」


「普通は同じ適性持ちでも得意不得意が出るわ。魔力量だけじゃなく、変換効率や維持のしやすさにも個人差がある。二属性持ちでも、一方を主属性として使う人は多いの」


「アルフォルド殿下も、光属性は強いけど魔力を使いすぎるって言われてましたね」


「そういうこと。強いことと効率がいいことも同じではないわ」


 そこまでは分かる。


「でも俺は差がない?」


「少なくとも、今測った範囲ではね」


 ハロルド先生が記録を持ってくる。


「数値が完全に同一という意味ではありません。ただ、測定誤差やその時々の微細な揺らぎを考慮すれば、五属性の変換効率はほぼ同水準です。持続中の変動幅も非常に小さい」


「それは……いいことですよね?」


「悪いことではない」


 学園長が答える。


「ただし、珍しい」


「やっぱり」


「君は珍しいと言われることに慣れた方がいいかもしれんな」


「嫌です」


「そこは即答か」


 少しだけ空気が緩む。


 俺はもう一度五枚の記録を見る。


「でも、グレイヴに習ったからじゃないですか?」


「可能性の一つではある」


 ベルナルト先生が頷いた。


「優れた指導者が、幼い頃から五属性を偏りなく訓練させた。その結果として差が小さくなった可能性は否定出来ない。ただね、私は昨日の理論授業で君の魔力操作を見て、別の可能性も考えている」


「変換点?」


「そう」


 先生の指先が、五枚の記録用紙を順番に叩く。


「君は火を使う時も、水を使う時も、風を使う時も、魔力そのものの流し方を大きく変えていないのかもしれない。流すところまでは同じで、最後の変換だけを入れ替えている」


「俺としては、いつもそんな感じです」


「だから次が重要になる」


 ベルナルト先生が笑った。


 少し楽しそうすぎる。


「次?」


「属性切り替えだよ」


 俺も思わず記録用紙へ目を落とした。


 今日、一番気になっていた測定だ。


「休憩は?」


「もう少し取る」


 エレナ先生が即座に言う。


「まだ全然疲れてませんけど」


「疲労だけのための休憩じゃないの。最初の測定結果を整理して、次の条件を決める時間でもあるわ」


「ああ、なるほど」


「それに、さっき素直に休憩へ入ったんだから、ここで元に戻らない」


「分かりました」


 俺は椅子へ座り直した。


 その隣で、リビアが小さく笑っている。


「何?」


「ちゃんと止まれたなって」


「先生に止められたら止まるって約束したから」


「うん」


 それだけ言って、リビアは俺の手元へ視線を落とした。


 俺もつられて見る。


 いつの間にか、俺の右手は膝の上で指先をわずかに動かしていた。火、水、風、土、雷と、実際には魔力を流していないのに、さっきの感覚を順番になぞろうとしていたらしい。


「セス」


「使ってないよ」


「分かってるわ」


「本当に動かしてるだけ」


「それも分かってる。でも、やりたくて仕方ない顔してる」


「……そんなに?」


「すごく」


 自覚すると、余計に気になってきた。


 五属性に差がない。


 先生たちはそれを珍しいと言った。


 そして次は、その五つをどれだけ速く切り替えられるのか調べる。


 普段は考えずにやっている。


 火が必要なら火。


 水が必要なら水。


 次に風が必要なら風。


 戦いの最中に、いちいち一度止まって考えることはない。


 では、実際にはどのくらいの時間がかかっているのだろう。


「楽しそうね」


「うん」


 俺は素直に頷いた。


「すごく楽しみ」


「なら、もう少し待ちましょう」


「分かってる」


 今度は手も止める。


 目の前では先生たちが測定器の配置を変え始めていた。


 先ほど使った一本の結晶柱が下げられ、代わりに五つの小さな結晶が半円状に並べられていく。それぞれの台座には火、水、風、土、雷を示す紋章が刻まれ、中央には見覚えのない銀色の輪が置かれた。


 ハロルド先生とセレナ先生が床の術式を確認し、エレナ先生が一つずつ防護結界を重ねていく。ベルナルト先生はその横で何度も記録用紙を見直し、学園長は少し離れた位置から全体を確認していた。


 さっきまでとは明らかに準備の量が違う。


「……あれ、切り替えを測るだけですよね?」


「たぶん」


 リビアも少し不安そうに装置を見る。


「何で結界増やしてるんだろう」


「セス」


「何?」


「絶対、先生の指示より先にやらないでね」


「やらないよ」


「あと、速く出来ても勝手にもっと速くしない」


「……やらない」


「今、間があった」


「ちゃんとやらないって言っただろ」


 俺が苦笑すると、リビアは俺の袖を軽く摘んだ。


「見てるからね」


「うん」


 その手を見てから、俺はもう一度測定区域へ視線を戻した。


 不思議だった。


 以前なら、止められることを窮屈だと思ったかもしれない。


 今は違う。


 先生たちが測る。


 リビアが見ている。


 危険なら誰かが止めてくれる。


 だからこそ、俺は自分の魔術がどうなっているのかを安心して知ることが出来る。


 やがて最後の結晶が設置され、ハロルド先生が術式から顔を上げた。セレナ先生も確認を終え、エレナ先生が結界の外へ下がる。


「準備出来ました」


 その声を受け、ベルナルト先生が俺を見る。


「クルセス。休憩は十分かい?」


「はい。疲労も違和感もありません」


「よし」


 俺は立ち上がった。


 隣ではリビアも一緒に立ちかけたが、見学区域から出ないことを思い出したらしく、その場で止まる。それでも俺を見る目は真剣だった。


「セス」


「何?」


「楽しんでいいけど、無茶は駄目よ」


「分かってる」


「先生の指示を聞く」


「うん」


「変だと思ったら言う」


「約束しただろ」


 俺が笑うと、リビアもようやく少しだけ笑った。


「行ってらっしゃい」


「行ってくる」


 ほんの数歩先の測定区域へ向かうだけなのに、そんな言葉を交わしたことが妙におかしくて、それでも嫌ではなかった。


 五つの結晶の前へ立つ。


 火。


 水。


 風。


 土。


 雷。


 俺にとっては、どれも昔から使ってきた魔術の一部だ。


 けれど今日初めて、それらを使えるということではなく、どう使っているのかを調べる。


「最初は速度を求めない」


 ベルナルト先生の声が訓練場へ響く。


「こちらが属性を指定する。その順番に、一つずつ変換して各結晶へ流すんだ。まずは五秒間隔。その後、問題がなければ少しずつ間隔を縮める」


「分かりました」


「もう一度言うが、勝手に先へ行かないこと」


「はい」


「指定された属性だけだ」


「はい」


「速く出来ると思っても待つ」


「……はい」


「今の間は何だい?」


「何でもないです」


 ベルナルト先生が笑い、エレナ先生は額へ手を当てた。見学席からリビアの笑い声まで聞こえてくる。


 少しだけ肩の力が抜けた。


 俺は右手を上げる。


「では始める」


 ハロルド先生が計測器へ手を置いた。


「第一段階。五秒間隔」


 訓練場の空気が静まる。


「火」


 魔力を流す。


 赤い結晶が光る。


「水」


 青。


「風」


 緑。


「土」


 茶。


「雷」


 紫白。


 五秒。


 五秒。


 五秒。


 何も難しくない。


「もう一巡。順番を変える。雷」


 紫白。


「火」


 赤。


「土」


 茶。


「水」


 青。


「風」


 緑。


 俺は指定された通りに変える。


 魔力の流れそのものは止めていない。


 ただ、出口の直前で性質だけを変える。


 普段と同じだ。


「……やはり」


 ベルナルト先生が小さく何かを呟いた。


 聞き返したかったが、今は測定中なので黙って待つ。


「次。三秒間隔」


 ハロルド先生が告げる。


 先生たちの視線が集まる。


「水」


 青。


「雷」


 紫白。


「風」


 緑。


「火」


 赤。


「土」


 茶。


 まだ余裕がある。


 というより、五秒と三秒の違いをほとんど感じない。


「二秒」


 同じように切り替える。


 問題ない。


「一秒」


 火、水、雷、土、風。


 指定されるたびに変える。


 結晶の光が次々と入れ替わる。


 俺自身には、いつも通りだった。


 だが、四つ目まで切り替えたところで、訓練場の空気が少し変わっていることに気づいた。


 先生たちが誰も話していない。


 見学席のリビアも、目を大きくしてこちらを見ている。


「……止める」


 学園長の声が響いた。


 俺は即座に魔力を止めた。


「はい」


 言われた通り、そこで終える。


 結晶の光が順番に消えていく。


 俺は手を下ろし、先生たちを見る。


「何か問題ありました?」


 返事はすぐにはなかった。


 ハロルド先生が計測器を見つめ、セレナ先生は記録板へ顔を近づけている。エレナ先生は五つの結晶を順番に確認し、ベルナルト先生だけが、なぜかものすごく楽しそうな顔をしていた。


「ベルナルト先生」


「何だい?」


「その顔、絶対何かありましたよね」


「いやあ」


 先生は記録用紙を持ち上げ、隠す気もなく笑った。


「予想していたより、ずっと面白い」


「俺としては全然安心出来ない言い方なんですけど」


 見学席からリビアが立ち上がる。


「セス、身体は?」


「大丈夫。何も変じゃない」


「本当に?」


「うん。今度も隠してない」


 俺がそう答えると、リビアは少しだけ安心したように息を吐いた。それでも先生たちの様子が気になるらしく、すぐに視線を測定器へ戻す。


 俺も同じだった。


 一秒間隔でも、難しいとは感じなかった。


 むしろ先生たちに止められなければ、もっと速く出来る気がしている。


 でも、今日は勝手に先へ行かないと約束した。


「次は?」


 俺が尋ねると、学園長が少しだけ眉を上げた。


「続けたいか?」


「はい」


「もっと速く出来そうか?」


 俺は一瞬だけ考えた。


 出来る。


 たぶん。


 でも、ここで「出来ます」とだけ答えるのは、昨日までと同じ気がした。


「出来ると思います。でも、先生たちが大丈夫だと判断したらやります」


 口にすると、自分でも少し不思議だった。


 学園長は何も言わず俺を見たあと、ゆっくり頷いた。


「それでいい」


 ベルナルト先生が記録用紙を机へ置く。


「では、ここからが本番になりそうだね」


 その言葉と同時に、ハロルド先生たちが再び測定器の確認を始めた。


 五つの結晶。


 その中央に置かれた銀色の輪。


 まだ一度も使われていない装置へ、先生たちの視線が集まっている。


 どうやら、さっきまでの一秒間隔ですら準備段階だったらしい。


 俺は測定区域の中で一度ゆっくり息を吐いた。


 怖くはない。


 疲れてもいない。


 ただ、知りたい。


 自分が今まで当たり前だと思っていた魔力の使い方が、実際にはどういうものなのか。


 そして今度は、それを一人で確かめる必要もない。


 少し離れた場所では先生たちが安全を確認し、その向こうではリビアが俺を見ている。


 俺は勝手に次の属性へ魔力を変えることなく、先生から次の指示が出るのを待った。

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