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第130話 公爵令嬢様は、俺が一人で背負おうとする失敗を許してくれないらしい



 翌朝、パウリー公爵邸の廊下には、磨き上げられた窓から柔らかな日差しが差し込んでいた。庭園の木々は少しずつ秋の色を深めており、窓を開ければ、夏の終わりとは明らかに違う冷たい空気が流れ込んでくる。


 俺は朝食の前に、昨日の魔法実習で使ったノートをもう一度開いていた。


 昨日はリビアと一緒に魔導具へ魔力を流し、互いの出力を観察する練習を行った。二人の魔力を混ぜたわけではないけれど、自分の魔力を一定に保ちながら相手の状態を確認するという作業は、思っていた以上に難しかった。


 その経験を忘れないよう、昨夜のうちに気づいたことを書き留めておいたのだが、今朝になって読み返すと、一つだけ気になる部分があった。


(リビアの光が揺れたとき、俺はすぐに気づいた。でも、その瞬間、自分の魔力がどうなっていたかは、はっきり覚えていないんだよな)


 魔導具の光は安定していたはずだし、エレナ先生からも問題は指摘されなかった。それでも、相手の状態に気を取られたとき、自分の制御へ向ける注意が薄くなっていた可能性はある。


 俺はノートの余白に、そのことを小さく書き加えた。


 今まで、自分の魔力を扱うことに大きな苦労を感じた経験は少ない。五属性の魔法を使い分けるときも、魔力の流れを意識すれば、大抵のことは思いどおりにできてしまう。


 けれど、それは一人で魔法を使う場合の話だ。


 誰かと協力するなら、相手が何を見て、何を感じ、どのような判断をしているのかも考えなければならない。


(……そう考えると、まだまだ覚えることがあるな)


 俺はノートを閉じ、机の上へ置いた。


 そのとき、扉の向こうから控えめなノックが聞こえた。


「セス、起きているかしら?」


 聞き慣れた声に、自然と口元が緩む。


「おはよう、リビア。起きているよ」


 俺が返事をすると、扉が開き、シルバーブルーの髪を揺らしたリビアが顔を覗かせた。


「おはよう。食堂へ行く前に、少しだけあなたの顔を見たくなってしまったの」


 そう言って微笑む彼女は、すでに制服へ着替えていた。いつもどおり整った身なりなのに、俺と目が合うと、どこか甘えるような表情になる。


「それなら、ちょうどよかった。俺も今から食堂へ向かうところだったんだ」


「本当? それなら一緒に行きましょう」


 リビアは嬉しそうに答えたあと、机の上のノートへ視線を向けた。


「あら、昨日の実習のノートね。今朝も確認していたの?」


「うん。読み返していたら、昨日は気づかなかったことがあって」


 俺が余白へ書き加えた内容を説明すると、リビアは少し考えるように眉を寄せた。


「確かに、あのときは私の魔力が少し揺れたわ。でも、あなたが自分の魔力を乱したようには見えなかったのよ」


「そうだったんだ。ただ、自分でも意識がそちらへ向いていたのは分かるから、気をつけた方がいいと思って」


「それは大切ね。でも、セス。昨日の練習は、相手の状態を見ながら自分の制御を保つことが目的だったでしょう? 私の方を見ること自体は、間違いではなかったと思うわ」


 俺は思わず彼女の顔を見た。


 リビアは真剣な表情のまま、言葉を続ける。


「大切なのは、相手を見たときに自分の魔力がどう変わるのかを知ることだと思うの。だから、昨日のあなたが何か失敗したと決めつける必要はないんじゃないかしら」


「……そうか。確かに、そのとおりだね」


 俺が頷くと、リビアは満足そうに微笑んだ。


「あなたは、できなかったかもしれないことを見つけるのが上手ね。でも、できていたことまで見失わないでほしいわ」


 その言葉が、妙に胸へ残った。


 俺は昔から、自分の行動に問題がなかったかを考える癖がある。特に誰かの安全が関わることなら、少しでも不安な部分を残しておきたくない。


 けれど、リビアの言うとおり、何も起きていない段階で自分の行動を失敗と決めつける必要はないのかもしれない。


「ありがとう、リビア。今日の授業でも、そのことを意識してみるよ」


「ええ。それに、もし本当に失敗したとしても、私が一緒に考えるわ」


 彼女は当然のことのように言い切った。


 俺が返事をする前に、リビアは少しだけ悪戯っぽく微笑む。


「もちろん、私が失敗したときは、あなたにも付き合ってもらうつもりだけれど」


「それはもちろん。何度でも一緒に考えるよ」


「ふふっ。約束ね」


 俺たちは顔を見合わせて笑い、並んで食堂へ向かった。


     ◇


 学院へ到着すると、教室の前方に置かれた掲示板の周囲へ、数人の生徒が集まっていた。


 いつもなら授業の連絡事項が貼られている場所だが、今朝は新しい紙が一枚増えている。


「お、セス! こっちだ!」


 掲示板の前にいたガレスが俺たちを見つけ、大きく手を振った。


 その隣にはサザリーとエミリアもいる。


「おはよう、ガレス。何か新しい連絡があったの?」


「ああ。昨日の魔法実習について、先生から追加の説明があるらしいんだ」


 俺はリビアと一緒に掲示板へ近づいた。


 そこには、昨日使用した魔導具の確認作業について、授業の始めに説明を行うという連絡が書かれていた。


 ただし、詳しい理由までは記されていない。


「魔導具の確認作業……?」


 俺が小さく呟くと、サザリーが頷いた。


「僕も気になっていたんだ。昨日の実習では、いくつかの組で魔導具の反応が少し不安定だったらしい。ただ、それが生徒の魔力制御によるものなのか、魔導具そのものの反応なのかは、まだ分からないみたいだよ」


「そうなのか。俺のところでは、そこまで大きな変化はなかったと思うけど」


 ガレスはそう言いながら、少し困ったように笑った。


「いや、俺の場合は自分の魔力が安定してなかったからな。魔導具のせいだなんて言えないけど」


「そこは、まだ分けて考えた方がいいと思うよ」


 サザリーが穏やかに答える。


「昨日の光の変化が全部同じ理由だったとは限らないからね。先生も、その点を確かめようとしているんじゃないかな」


 俺は掲示板へ視線を戻した。


 昨日の実習では、魔導具の光を見ながら魔力の状態を確認した。けれど、その光が魔力の変化を正確に示しているという前提がなければ、俺たちの判断も変わってくる。


 魔導具は便利な道具だ。


 ただし、道具が示した結果を、そのまま疑いようのない事実として扱っていいわけではない。


「先生のお話を聞いてみよう。まだ何があったのか分からないし」


 俺がそう言うと、リビアも静かに頷いた。


「ええ。確認が必要だからこそ、先生方が調べてくださっているのでしょう。私たちが先に結論を出すことではないわ」


 その言葉に、エミリアが少し安心したように微笑んだ。


「そうですね。私も昨日、魔力を止めるときに光が少し揺れたので、気になっていたんです。でも、まずは説明を聞いてから考えたいと思います」


 俺たちはそれぞれの席へ向かい、授業の開始を待つことにした。


     ◇


 授業開始の鐘が鳴ると、エレナ先生が教室へ入ってきた。


 先生は教卓へ資料を置き、生徒たちが静かになるのを待ってから、落ち着いた声で話し始めた。


「皆さん、おはようございます。今日は通常の授業に入る前に、昨日の魔法実習で使用した魔導具について説明します」


 教室の空気が、少しだけ引き締まった。


「昨日の授業後、使用した魔導具を点検したところ、一部の器具で、流入する魔力の変化に対して表示がわずかに遅れる場合があることを確認しました」


 その言葉に、生徒たちの間で小さなどよめきが起こった。


 エレナ先生は慌てることなく、説明を続ける。


「現時点で確認されているのは、表示の反応に関する問題です。魔導具が魔力を外部へ放出したり、使用者へ危険な影響を与えたりしたという報告はありません。ただし、昨日の観察結果を評価するうえでは、注意が必要になります」


 一人の生徒が手を挙げた。


「先生、それは昨日の実習で、魔力の制御ができていなかったと思っていた人も、実際には違った可能性があるということでしょうか?」


「可能性としてはあります。ただし、逆の場合も考えられます。魔導具の表示が安定して見えていても、実際の魔力には小さな変化があったかもしれません」


 先生はそこで教室を見渡した。


「大切なのは、昨日の結果をすべて無効にすることでも、すべて正しいと決めつけることでもありません。確認できていることと、まだ分からないことを分けることです」


 俺は思わず、今朝ノートへ書き加えた内容を思い出した。


 自分の魔力がどう変化していたか、はっきり覚えていない部分がある。


 昨日は魔導具の光を頼りに判断していたけれど、その表示にも確認すべき点があるのなら、なおさら断定はできない。


「先生、質問してもよろしいでしょうか」


 気づけば、俺は手を挙げていた。


「はい、シルフィール。どうぞ」


「昨日の実習で、魔導具の光が安定していた場合でも、実際の魔力が完全に一定だったとは限らないということですよね。そうすると、昨日の記録は、どのように扱えばよいのでしょうか」


 先生は少しだけ目を細めた。


「よい質問です。昨日の記録は、そのとき皆さんが観察した事実として残してください。ただし、そこから導いた判断については、再確認が必要な場合があると書き添えておくとよいでしょう」


「分かりました。ありがとうございます」


 俺が礼を言うと、先生は小さく頷いた。


「なお、点検対象となった器具の番号は、担当教員が記録しています。必要な確認は学院側で行いますので、皆さんが独自に魔導具を調べたり、授業外で再使用したりしないようにしてください」


 その説明に、生徒たちはそれぞれ頷いた。


 ガレスが隣で小さく息を吐く。


「……なるほどな。俺の魔力が揺れたのか、道具の表示が遅れたのか、全部は分からないってことか」


「そうだね。でも、ガレスが途中で肩の力を抜いたら、扱いやすくなったって感じたのは覚えているでしょう?」


 俺が小声で尋ねると、ガレスは頷いた。


「ああ。それは確かだ。だったら、そこは次も意識してみればいいんだな」


「うん。昨日の練習が無駄になったわけじゃないと思うよ」


 ガレスは少し安心したように笑った。


「そうだよな。よし、次はもっと上手くやってやる」


 その声が思ったより大きかったらしく、エレナ先生がこちらへ視線を向けた。


「フォルナー。意欲があるのはよいことですが、今は説明を聞く時間ですよ」


「す、すみません!」


 教室のあちこちから控えめな笑い声が上がった。


 先生もわずかに微笑んだが、すぐに授業へ戻った。


「それでは、今日は魔法の安全管理について学びます。昨日の出来事も、その一例として考えてみましょう」


     ◇


 午前の授業では、魔法の使用中に異常が見つかった場合の対応について学んだ。


 エレナ先生が最初に黒板へ書いたのは、魔法の種類でも、魔力量でもなかった。


『異常を見つけた者は、まず何をするべきか』


 その問いを見て、教室のあちこちから考え込むような声が聞こえた。


「魔法を止めることですか?」


 前方の席にいた生徒が答えると、先生は頷いた。


「状況によっては、それが最優先になります。ただし、すべての魔法を急に止めれば安全になるとは限りません。維持している結界を突然解除すれば、その内側にいる人を危険にさらす場合もあります」


 俺はリビアの方へ視線を向けた。


 彼女は真剣な表情で黒板を見つめている。


 リビアの得意とする結界魔法は、何かを守るために使われることが多い。だからこそ、途中で解除することが別の危険につながる場合もあるのだろう。


 先生は説明を続けた。


「重要なのは、異常を見つけたときに、状況を確認し、必要な相手へ知らせ、許可された手順で安全を確保することです。自分だけで解決できると判断してしまうことが、かえって危険を大きくする場合もあります」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に小さな引っかかりを覚えた。


(……自分だけで解決できると判断すること、か)


 俺はこれまで、危険が迫ったときには、自分が動くことを優先してきた。


 ライゼルとの一件でも、リビアや周囲の生徒へ危険が及ばないよう、できる限り早く相手を制圧することを考えた。


 あのときの対応については、正当防衛であったことが確認されている。


 けれど、だからといって、これから起きるすべての問題を俺一人で解決しなければならないわけではない。


 先生は黒板へ、さらにいくつかの言葉を書き加えた。


『確認』『共有』『判断』『対応』


「この順番は、状況によって前後することがあります。危険が差し迫っているなら、確認より先に避難が必要になる場合もあるでしょう。しかし、どのような状況でも、自分が何を知っていて、何を知らないのかを理解することは大切です」


 俺はその説明をノートへ書き留めた。


 そのとき、先生が教室を見渡しながら問いかけた。


「では、皆さんが二人一組で魔法を使っているとします。相手の魔力が突然不安定になったと感じた場合、どのように対応しますか?」


 何人かの生徒が手を挙げた。


 最初に答えたのはエミリアだった。


「まず相手へ声をかけて、本人が異常を感じているか確認します。そのうえで、必要なら先生へ知らせます」


「よいですね。相手が自分の状態を把握しているとは限りませんし、観察した側の判断が正しいとも限りません」


 続いてサザリーが手を挙げた。


「相手が魔法を維持している場合、その魔法が何を支えているかも確認する必要があると思います。急に止めることで、別の危険が生じる可能性がありますから」


「そのとおりです。では、相手が自分より魔法の扱いに優れている場合はどうでしょうか」


 先生の問いに、教室が少し静かになった。


 俺は考えた。


 もしリビアが結界魔法を使っているとき、俺が何か異常を感じたとしたら。


 彼女は俺より結界魔法の扱いに詳しい。


 それなのに、俺が勝手に危険だと判断し、彼女の魔法へ干渉してしまったら、かえって状況を悪くするかもしれない。


「……先生」


 俺はもう一度手を挙げた。


「相手の方が詳しい魔法なら、まず本人へ自分が気づいたことを伝えるべきだと思います。危険が差し迫っていない限り、相手の判断を聞かずに魔法へ干渉するのは避けた方がいいのではないでしょうか」


 先生はゆっくりと頷いた。


「よい考えです。もちろん、緊急時には即座の対応が必要な場合もあります。しかし、協力して魔法を扱うなら、互いの判断を尊重することも欠かせません」


 俺は小さく息を吐いた。


 自分の答えが間違っていなかったことへの安心よりも、その内容を本当に実行できるだろうかという思いの方が強かった。


 リビアに危険が迫ったら、俺はきっと、何より先に彼女を守ろうとする。


 その気持ちは、これからも変わらないと思う。


 けれど、守ることと、相手の判断を奪うことは違う。


(……難しいな。でも、だからこそ覚えておかないと)


 俺はノートの端へ、小さくその言葉を書き添えた。


     ◇


 昼休みになると、俺たちはいつものように食堂へ向かった。


 窓際の席へ座ると、ガレスが早速、午前の授業について話し始めた。


「いやあ、今日は頭を使ったな。魔法を使う授業じゃないのに、妙に疲れた気がするぜ」


「ガレスは、考えるより先に身体が動くことが多いからね」


 サザリーが笑いながら言うと、ガレスは少し不満そうに眉を上げた。


「おい、それじゃ俺が何も考えてないみたいじゃないか」


「そんなことは言っていないよ。ただ、行動する前に一つ確認するだけで、結果が変わることもあるという話さ」


「……まあ、それはそうだな」


 ガレスは素直に頷き、パンを一口食べた。


 エミリアはそのやり取りを微笑ましそうに見守っていたが、やがて俺の方へ顔を向けた。


「セス様、午前の授業で質問されていましたよね。相手の魔法へ勝手に干渉しないというお話、私も大切だと思いました」


「ありがとう。俺も、先生のお話を聞いて初めて気づいたところがあるんだ」


「そうなのですか?」


「うん。俺は誰かが困っていたら、できるだけ早く助けたいと思うことが多いから。でも、相手が何をしているのか確認しないまま動くと、余計な問題を起こすこともあるんだろうなって」


 俺がそう答えると、サザリーは少し考えるように頷いた。


「それは、魔法に限らないかもしれないね。相手のために何かをしようとしても、本人が望んでいることと違っていたら、必ずしも助けになるとは限らない」


 その言葉に、リビアが静かに顔を上げた。


「ええ。もちろん、危険が迫っているときは別ですけれど、普段から相手の考えを聞くことは大切だと思いますわ」


 彼女はそう言ってから、俺へ視線を向けた。


「特に、何でも一人で解決しようとする人には、覚えていてほしいことですわね」


 その声は穏やかだった。


 けれど、誰に向けられた言葉なのかは、考えるまでもなかった。


「……リビア?」


「何かしら、セス?」


 彼女は何事もなかったように微笑んでいる。


 ガレスが俺たちを交互に見て、何かを察したように口元を緩めた。


「なるほどな。セス、お前のことか」


「……否定はできないかな」


 俺が苦笑すると、ガレスは声を上げて笑った。


「まあ、俺も人のことは言えないけどな。困ってる奴がいたら、つい手を出したくなるし」


「それ自体が悪いわけではないと思います」


 エミリアが穏やかに言った。


「助けようとしてくれる人がいるのは、嬉しいことですから。ただ、助けてもらう側にも考えがあるということを、忘れないでいただければ」


 ガレスは少し真剣な表情になった。


「そうだな。俺も気をつけるよ」


 俺はその会話を聞きながら、リビアの方へ視線を向けた。


 彼女は食事を続けていたが、俺と目が合うと、ほんの少しだけ表情を和らげた。


 その微笑みには、責めるような色はない。


 ただ、俺に伝えたいことがあるのだと分かった。


     ◇


 午後の授業が終わるころ、エレナ先生から昨日の魔法実習について、もう一つ連絡があった。


 点検対象となった魔導具の使用記録を確認するため、希望する生徒には、自分が使った器具の番号と点検状況を後日知らせるというものだった。


 ただし、器具の点検はまだ続いており、結果が出るまでは昨日の記録を修正する必要はないらしい。


「必要な生徒は、授業終了後に申し出てください。なお、確認できていない段階で、誰かの魔力制御に問題があったと決めつけることは避けましょう」


 先生はそう言って、教室をあとにした。


 俺はノートを鞄へしまいながら、少し考えた。


 昨日、リビアと一緒に使った魔導具の番号は覚えている。


 自分の記録を正しく整理するためにも、点検結果が分かるなら確認しておきたい。


 けれど、それは今すぐ答えが必要な問題ではなかった。


「セス、どうするの?」


 隣からリビアが尋ねてきた。


「昨日の魔導具のこと?」


「ええ。あなた、今朝もノートを確認していたでしょう。気になるなら、先生へ申し出てもいいと思うわ」


「うん。そうしようかな。ただ、リビアと一緒に使ったものだから、リビアにも確認しておきたくて」


 俺がそう答えると、彼女は少し驚いたように瞬きをした。


 それから、ゆっくりと微笑む。


「……ありがとう、セス。そうね。私も、点検結果が分かるなら知っておきたいわ」


「それなら、一緒に先生へ伝えようか」


「ええ」


 俺たちは教卓の近くへ向かい、エレナ先生へ申し出た。


 先生は手元の記録を確認し、俺たちの名前と器具の番号を書き留めた。


「分かりました。点検結果がまとまり次第、必要な範囲でお知らせします。ただし、いつまでに確認が終わるかは、現時点ではお約束できません」


「承知しました。ありがとうございます」


 俺たちが礼を言うと、先生は小さく頷いた。


「それから、シルフィール、パウリー。昨日の二人の練習については、私自身も観察していました。少なくとも、その場で危険な変化は確認していません」


 俺は少し安心した。


 先生は続けて言った。


「ただし、魔導具の表示に確認すべき点がある以上、細かな評価については保留します。皆さんも、昨日の結果だけで自分の能力を決めつけないようにしてください」


「はい。分かりました」


 俺が答えると、リビアも静かに頷いた。


 教室を出ると、廊下には放課後の賑やかな声が響いていた。


 窓の外では、校庭の木々が風に揺れている。


 俺たちはその景色を眺めながら、ゆっくりと歩き始めた。


「……セス」


 しばらくして、リビアが声をかけてきた。


「今朝、あなたが気にしていたこと、少しは整理できたかしら?」


「うん。昨日の光が安定していたからといって、何も問題がなかったと断定することはできない。でも、だからといって、何か失敗したと決めつける必要もないんだよね」


「ええ。私もそう思うわ」


 リビアは嬉しそうに頷いた。


「それに、先生が確認してくださるのなら、私たちは結果を待ちながら、次にできることを考えればいいのよ」


「そうだね」


 俺は頷きながら、少しだけ笑った。


「……リビア。今朝、俺ができていたことまで見失わないでほしいって言ってくれただろう?」


「ええ。覚えているわ」


「あの言葉、嬉しかったよ。俺はつい、できなかったことばかり探してしまうから」


 リビアは歩みを緩め、俺の顔を見つめた。


 その表情は、いつもの明るい微笑みとは少し違っていた。


「……セス。あなたが真剣に考える人だということは、私もよく知っているわ。だから、反省すること自体をやめてほしいわけではないの」


 彼女は言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。


「でも、あなたが何か失敗したとき、全部自分の責任だと思い込んでしまうのは嫌なの。私たちは婚約者でしょう? それなのに、あなたが一人で苦しんでいるのを、隣で見ているだけなんてできないわ」


 俺は返事を忘れてしまった。


 リビアの瞳は真剣だった。


 彼女は少しだけ頬を染めたが、視線を逸らさなかった。


「私は、あなたに守ってもらうだけの存在になりたいわけではないの。もちろん、あなたが守ってくれることは嬉しいし、とても心強いわ。でも、私だって、あなたの力になりたいのよ」


 その言葉が、胸の奥へ静かに染み込んでいく。


 俺は昔から、誰かに頼ることがあまり得意ではなかった。


 スラムで暮らしていたころは、自分のことを自分で何とかしなければならない場面が多かったし、パウリー公爵家へ迎えられてからも、役に立てる人間でありたいという気持ちが強かった。


 父さんや旦那様、そしてリビアが俺を大切にしてくれていることは、今では分かっている。


 それでも、困ったときに真っ先に誰かを頼るという考え方は、まだ自然には出てこない。


「……ごめん、リビア」


 俺がそう言うと、彼女は少し困ったように微笑んだ。


「ほら、また謝るのね」


「……あ」


 思わず口を閉じると、リビアは小さく笑った。


「責めているわけではないのよ。ただ、あなたが何かを抱え込んでしまう前に、私にも話してほしいの」


 俺は彼女の言葉を、ゆっくりと考えた。


 守ること。


 頼ること。


 一緒に考えること。


 どれも簡単な言葉なのに、実際に行動するのは難しい。


 それでも、リビアが望んでいることを、俺はきちんと受け止めたかった。


「……分かった。これからは、何か気になることがあったら、できるだけ一人で結論を出さずに話すよ」


 俺がそう答えると、リビアは少しだけ目を見開いた。


 そして、心から嬉しそうに微笑んだ。


「ええ。そうしてくれると嬉しいわ」


 彼女は周囲の様子を確かめてから、俺の袖へそっと指先を添えた。


「それに、私もあなたへ相談するわ。私だって、いつも正しい判断ができるわけではないもの」


「うん。俺も、リビアに相談してもらえたら嬉しいよ」


「ふふっ。それなら、お互いさまね」


 俺たちは顔を見合わせて笑い、再び歩き始めた。


     ◇


 公爵邸へ戻ったあと、俺は父さんへ学院での出来事を報告した。


 昨日の魔導具の一部に表示の遅れが確認されたこと、学院側が点検を進めていること、そして俺とリビアが点検結果の確認を希望したこと。


 父さんは途中で口を挟まず、最後まで静かに話を聞いてくれた。


「なるほど。学院側で点検を進めているのですね」


「うん。今のところ、危険な影響があったという報告はないそうだよ。ただ、昨日の結果を細かく評価するには、確認が必要みたいなんだ」


「それなら、まずは学院の判断を待つのがよいでしょう。正式な報告が必要になれば、学院から適切な連絡があるはずです」


 父さんはそう言ってから、俺の表情を確かめるように目を向けた。


「セス。お前自身は、今回のことをどう考えていますか?」


 俺は少し迷った。


 けれど、リビアと話したことを思い出し、できるだけ素直に答えることにした。


「……最初は、昨日の実習で何か見落としていたんじゃないかって気になった。でも、まだ分からないことがあるのに、自分が失敗したと決めつけるのは違うと思ったんだ」


 父さんは静かに頷いた。


「それはよい考えです。問題が起きたとき、責任を持つことは大切ですが、責任の所在が分からない段階で、すべてを背負い込む必要はありません」


「……うん」


「それに、お前は学院の生徒でもあります。学ぶために通っている場所で、分からないことがあるのは当然です」


 その言葉に、俺は少し驚いた。


 父さんは穏やかな表情のまま続けた。


「お前は執事見習いとしても、シルフィール家の一員としても、真面目に努力しています。しかし、何もかも完璧にできなければならないわけではありません。学ぶべきことがあるなら、学べばよいのです」


 俺は思わず、父さんの顔を見つめた。


 昔の俺なら、そんな言葉を素直に受け取ることは難しかったかもしれない。


 役に立たなければ、自分の居場所がなくなる。


 そんな考えが、心のどこかに残っていたからだ。


 けれど、今は違う。


 父さんは俺が失敗しても、きっと話を聞いてくれる。


 旦那様も、必要なことを確認したうえで判断してくださる。


 そしてリビアは、俺が一人で抱え込むことを嫌がってくれる。


「……ありがとう、父さん」


 俺がそう言うと、父さんは少しだけ表情を和らげた。


「礼を言われるようなことではありません。父親として、当然のことを伝えただけです」


 その言葉に、胸の奥が温かくなった。


 俺は深く頭を下げ、執務室をあとにした。


     ◇


 夕食後、俺はリビアと一緒に小さな談話室で過ごしていた。


 窓の外には夜の庭園が広がり、室内には暖炉の柔らかな明かりが揺れている。まだ本格的に寒い季節ではないけれど、夜になると少し冷え込むため、今日は小さな火が入れられていた。


 リビアはソファへ腰掛け、膝の上にノートを広げていた。


 俺も隣へ座り、今日の授業で書き留めた内容を見直している。


「……セス。今日の授業、思っていた以上に大切なことが多かったわね」


 リビアが静かに言った。


「うん。魔法の制御だけじゃなくて、異常があったときにどう判断するかも考えさせられたよ」


「私もよ。特に、相手の魔法へ勝手に干渉しないというお話は、覚えておきたいわ」


 彼女はそう言って、少しだけ考え込むような表情になった。


「結界魔法は、維持している間に外から魔力を加えられると、術式の状態が変わることがあるの。もちろん、すべての場合に危険が生じるわけではないけれど、使っている本人が気づかないまま変化するのは避けたいわね」


「そうなんだ。確かに、リビアが結界を維持しているとき、俺が勝手に魔力を流したら、邪魔になるかもしれないね」


「ええ。だから、もし協力して魔法を使うことがあれば、事前に役割を決めておきたいわ」


 俺は頷いた。


 リビアの結界魔法は、無属性魔法として独自の制御が必要になる。


 俺が五属性の魔法を使えるからといって、その仕組みをすべて理解しているわけではない。


「じゃあ、もし一緒に何かをすることになったら、まずリビアの結界がどういう状態なのかを確認するよ。俺の魔法が必要なら、どのタイミングで使えばいいのかも相談したい」


 俺がそう答えると、リビアは嬉しそうに微笑んだ。


「ええ。それがいいと思うわ。それに、あなたの魔法についても、私が知っておくべきことがあるでしょう?」


「そうだね。俺の方も、魔力の流れや使う属性によって、周囲への影響が変わるから」


 俺たちはノートを開き、互いの魔法について話し始めた。


 火属性なら熱の広がり、水属性なら流れの方向、風属性なら周囲の物を巻き込む可能性がある。土属性は地面の状態に左右されることがあり、雷属性は特に周囲への影響を慎重に考えなければならない。


 俺がそう説明すると、リビアは真剣に耳を傾けてくれた。


「……こうして聞くと、あなたが五属性を扱えることは、選択肢が多いというだけではないのね」


「うん。状況に合わせて選べるのは便利だけど、その分、どの魔法が適切なのかを考える必要があると思う」


「それなら、私もあなたが選んだ魔法の理由を聞いてみたいわ。どうしてその属性を使おうと思ったのか、知ることができれば、私も協力しやすくなるもの」


 その言葉に、俺は少し考えた。


 今まで、魔法を使うときに理由を説明することは、あまり意識してこなかった。


 自分の中では自然に選んでいることでも、他の人には分からない場合がある。


 それなら、リビアの言うとおり、考えを伝えることにも意味があるのだろう。


「……分かった。今度、一緒に練習する機会があったら、どうしてその魔法を選んだのかも説明するよ」


「ええ。楽しみにしているわ」


 リビアはそう言って微笑んだあと、少しだけ声を落とした。


「でも、セス。今日の授業で私が一番嬉しかったのは、魔法のことではないのよ」


「……そうなの?」


 俺が尋ねると、彼女は頷いた。


「ええ。放課後、あなたが魔導具の点検結果を確認する前に、私へ相談してくれたでしょう?」


「ああ、あのこと?」


「そう。あれが、とても嬉しかったの」


 俺は少し驚いた。


 昨日は二人で使った魔導具だったから、リビアにも確認するのが自然だと思っただけだった。


 けれど、彼女にとっては、それ以上の意味があったらしい。


「……どうして?」


 俺が尋ねると、リビアは少し照れたように微笑んだ。


「だって、あなたが私を、一緒に考える相手として見てくれたということでしょう?」


 その言葉に、俺は返事を忘れた。


 リビアは膝の上のノートを閉じ、俺の方へ身体を向けた。


「私、あなたが何かを決めるとき、いつも一番に相談してほしいとまでは言わないわ。あなたにはあなたの考えがあるし、私にだって、知らないことや分からないことはたくさんあるもの」


 彼女はそこで少しだけ微笑んだ。


「でも、私たち二人に関わることなら、できるだけ一緒に考えたいの。あなたが私を守ってくれるように、私もあなたの力になりたいから」


 俺はその言葉を聞きながら、静かに頷いた。


 リビアが望んでいるのは、俺が何もかも彼女に任せることではない。


 俺自身の考えを持ちながら、必要なときには彼女の考えも聞くこと。


 そして、二人に関わることなら、どちらか一人が勝手に決めないこと。


 それは、以前から何度も話してきたことだった。


 けれど、今日の出来事を通して、その意味が少しだけ分かった気がした。


「……リビア。俺、まだ上手くできないこともあると思う」


 俺がそう言うと、彼女は静かに頷いた。


「ええ。私も同じよ」


「でも、これからは、できるだけ一人で抱え込まないようにする。もし何か失敗したとしても、リビアに話して、一緒に考えたい」


 リビアは少し驚いたように目を見開いた。


 それから、ゆっくりと微笑む。


「……嬉しいわ、セス」


 彼女はそっと俺の手へ触れた。


 俺もその手を握り返す。


 暖炉の火が静かに揺れ、室内へ柔らかな明かりを広げていた。


 しばらくの間、俺たちは何も言わずに座っていた。


 けれど、その沈黙は気まずいものではなかった。


 隣にリビアがいる。


 それだけで、胸の奥が落ち着いていく。


     ◇


 やがて、リビアが俺の肩へ少しだけ寄りかかった。


「……ねえ、セス」


「どうしたの?」


「もし来月の実習で、私たちが同じ組にならなかったとしても、今日みたいに一緒に勉強しましょうね」


 俺は小さく笑った。


「もちろん。組み合わせがどうなっても、学んだことを話し合うことはできるから」


「ええ。それに、あなたがどんな魔法を使うのか、やっぱり気になるもの」


 リビアはそう言って、少し悪戯っぽく微笑んだ。


「でも、あまり無茶な魔法は使わないでね。あなたは、ときどき自分がどれだけすごいことをしているのか分かっていないところがあるから」


「……そんなに無茶をしているかな?」


 俺が尋ねると、彼女はじっと俺を見つめた。


 その表情は、少しだけ呆れているようにも見える。


「セス。あなたが自分の魔法を普通だと思っていること自体、私には少し不思議なのよ」


「……そう言われても、昔から使っているからなあ」


 俺が苦笑すると、リビアは小さくため息をついた。


「だからこそ、周囲の人の意見も聞いてほしいの。あなたが簡単だと思うことでも、他の人には難しい場合があるでしょう?」


「うん。それは分かるよ」


「なら、来月の実習でも、先生の指示をよく聞いて、無理のない範囲で取り組んでね」


「分かった。約束する」


 俺がそう答えると、リビアは満足そうに頷いた。


「……よろしい」


 その言い方が少しだけ偉そうで、俺は思わず笑ってしまった。


「なんだか、先生みたいだね」


「あら、そうかしら?」


 リビアは楽しそうに微笑んだ。


「それなら、あなたが無茶をしないように、私がしっかり見ていないといけないわね」


「……それは少し困るかな」


「どうして?」


「リビアに見られていると、格好いいところを見せたくなるから」


 言ってから、自分でも少し驚いた。


 普段なら、こんなことを素直に口にすることはあまりない。


 けれど、リビアの隣にいると、時々、自分でも思っていなかった言葉が自然と出てくる。


 彼女は一瞬、目を丸くした。


 それから、頬を真っ赤に染める。


「……セス」


「……うん?」


「そういうことを、急に言うのはずるいわ」


 リビアはそう言って、少しだけ顔を伏せた。


 俺は思わず苦笑する。


「ごめん。変なことを言ったかな」


「変ではないわ。……むしろ、とても嬉しいの」


 彼女は小さな声で答えた。


 その言葉に、今度は俺の方が照れてしまう。


 リビアはしばらく顔を伏せていたが、やがて俺の手を少しだけ強く握った。


「……でも、セス。格好いいところを見せようとして、無理をするのは駄目よ」


「うん。分かっているよ」


「本当に?」


「本当だよ。リビアに心配をかけたいわけじゃないから」


 俺がそう答えると、彼女はようやく安心したように微笑んだ。


「……それなら、いいわ」


 暖炉の火が小さく音を立てた。


 俺たちは顔を見合わせ、静かに笑った。


     ◇


 部屋へ戻る前、俺はもう一度、今日の授業で書いたノートを開いた。


 そこには、エレナ先生が黒板へ書いた四つの言葉が並んでいる。


『確認』『共有』『判断』『対応』


 俺はその下へ、今日新しく気づいたことを書き加えた。


『一人で決めつけず、必要な相手と考えること』


 書き終えたところで、隣からリビアが覗き込んできた。


「……セス。それ、今日の授業で先生がおっしゃっていたこと?」


「ううん。今日、リビアと話していて思ったことだよ」


 俺が答えると、彼女は少し驚いたように目を見開いた。


 そして、ゆっくりと微笑む。


「……そう。嬉しいわ」


 リビアは自分のノートを開き、同じように何かを書き加えた。


 俺が覗き込もうとすると、彼女は慌ててノートを閉じた。


「……これは、まだ秘密よ」


「え? そうなの?」


「ええ。いつか、あなたに見せてあげるわ」


 彼女は少し悪戯っぽく微笑んだ。


 俺はその表情を見て、思わず笑ってしまった。


「分かった。楽しみにしているよ」


「ふふっ。約束ね」


 俺たちはノートを片づけ、談話室をあとにした。


 廊下には夜の静けさが広がり、壁の灯りが足元を柔らかく照らしている。


 来月の二属性魔法実習については、まだ分からないことが多い。


 昨日使った魔導具の点検結果も、今は待つしかない。


 けれど、分からないことがあるからといって、すべてを自分一人で解決しなければならないわけではない。


 俺には、教えてくれる先生がいる。


 一緒に考えてくれる友人がいる。


 見守ってくれる父さんや旦那様がいる。


 そして、隣にはリビアがいる。


(……俺は、もっと頼ってもいいんだな)


 そんなことを考えながら歩いていると、リビアが俺の手をそっと握った。


「セス。今日は、いい一日だったわね」


「うん。いろいろ考えることはあったけど、勉強になったよ」


「ええ。私もよ」


 彼女はそう言って、嬉しそうに微笑んだ。


「それに、あなたが少しだけ、私を頼ってくれるようになった気がするもの」


 俺はその言葉に、少し照れくさくなった。


「……そうかな」


「ええ。そうよ」


 リビアは迷いなく頷いた。


 そして、俺の手を握ったまま、少しだけ近づいてくる。


「だから、これからも一緒に考えましょうね。魔法のことも、学院のことも……それから、私たちの未来のことも」


 俺は彼女の瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。


「うん。約束するよ、リビア」


 彼女は心から嬉しそうに微笑んだ。


 その笑顔を見ていると、これから先に何が待っていたとしても、一人で抱え込む必要はないのだと思える。


 もちろん、俺が彼女を守りたいという気持ちは変わらない。


 けれど、守ることだけが、隣にいる理由ではない。


 リビアと一緒に学び、考え、ときには失敗しながら、それでも前へ進んでいく。


 そんな時間を重ねていくことも、きっと大切なのだろう。


 夜の廊下を歩きながら、俺は彼女の手をそっと握り返した。


 リビアは何も言わず、ただ嬉しそうに微笑んでいた。


 その温かな手の感触を確かめながら、俺は明日も彼女と一緒に、新しいことを学んでいきたいと思った。

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