↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
108/145

第108話 公爵令嬢様は、俺の失敗まで独り占めしたいらしい


 パウリー公爵邸の朝は、使用人たちが廊下を行き交う足音と、厨房から漂う焼きたてのパンの香りから始まる。


 俺が自室の窓を開けると、夜の間に降ったらしい雨の名残が庭園の石畳を濡らしていた。雲の切れ間から差し込む朝日が水たまりを照らし、植え込みの葉先では小さな雫が光っている。


 いつもと変わらない朝だった。


 ただ、俺の気持ちは昨日までと少し違っていた。


 リビアと将来のことを話したとき、俺は初めて、自分が何を望んでいるのかを彼女に相談できた気がした。執事として働き続けたいことも、彼女との暮らしを大切にしたいことも、まだ具体的な答えが出ていないことも、隠さず伝えられた。


 その結果、リビアは困るどころか、とても嬉しそうに笑ってくれた。


(頼ってくれたら嬉しい、か……)


 俺は窓を閉めながら、昨日の彼女の言葉を思い出した。


 誰かを守りたいと思うことには慣れている。困っている人がいれば手を貸したいし、自分にできる仕事なら引き受けたい。


 けれど、逆の立場になると、どうしても遠慮してしまう。


 助けてもらう必要があるときでさえ、まず自分で何とかできないか考えてしまうのだ。


 そんな俺に、父さんは「相手の気持ちを受け取ることも大切だ」と教えてくれた。


 今日は、その言葉を忘れないようにしよう。


 そう考えて制服に袖を通したところで、廊下から控えめな足音が聞こえてきた。


「セス、起きてる?」


 扉の向こうから聞こえた声に、俺は思わず笑みを浮かべた。


「起きてるよ、リビア。もう準備も終わるところ」


「よかった。朝食の前に、少しだけお話ししたいことがあるの」


 俺は襟元を整え、扉を開けた。


 そこには、すでに学院の制服へ着替えたリビアが立っていた。銀青色の髪は丁寧に整えられ、いつもの上品な微笑みを浮かべている。


 ただ、俺と目が合うと、その表情が少しだけ柔らかくなった。


「おはよう、セス」


「おはよう、リビア。何かあった?」


 俺が尋ねると、彼女は少し嬉しそうに手元の紙を持ち上げた。


「昨日の夜、考えてみたの。私たちがこれから一緒に勉強できそうなこと」


 紙には、いくつかの項目が丁寧な文字で書かれていた。


 領地の地理。


 街道と物流。


 魔術の基礎理論。


 古い資料の読み方。


 それから、日々の仕事の記録方法。


「ずいぶんたくさんあるね」


「うん。でも、全部を一度にやろうとは思ってないよ。セスが興味を持っていることと、私が学びたいことを並べてみただけなの」


 リビアは少し照れくさそうに笑った。


「一緒に勉強できたら、楽しそうでしょう?」


 俺は紙へ目を落とし、静かに頷いた。


「うん。すごく楽しそうだと思う」


 そう答えると、リビアは満足そうに微笑んだ。


「よかった。じゃあ、今日の授業が終わったら、少しだけ相談しようね」


「分かった。でも、無理はしないでね。リビアにも自分の勉強があるんだから」


 俺がそう言うと、彼女は一瞬きょとんとしたあと、頬を膨らませた。


「セス、それは私の台詞だよ?」


「え?」


「セスこそ、何でも一人で頑張ろうとするんだから」


 彼女はそう言って、俺の袖を軽くつまんだ。


「昨日、約束したでしょう? これからは一緒に考えるって」


 俺は少しだけ照れくさくなった。


「……うん。そうだったね」


「だから、今日もちゃんと頼ってね」


 リビアは嬉しそうに微笑んだ。


 俺も頷き、二人で食堂へ向かった。


     ◇


 学院へ到着すると、教室ではすでに何人かの生徒が集まっていた。


 窓際ではガレスが剣術の教本を広げ、何かを熱心に確認している。その隣ではサザリーがノートを整理しており、少し離れた席ではエミリアが魔術の基礎理論に関する資料を読んでいた。


「おはよう、みんな」


 俺が声をかけると、ガレスが顔を上げた。


「おう、クルセス! おはよう!」


「おはようございます、クルセス君。パウリー様も」


 エミリアが穏やかに微笑み、サザリーも軽く会釈した。


「おはよう。今日は少し早いね」


「うん。朝の準備が早く終わったから」


 俺が答えると、ガレスは手元の教本を閉じた。


「ちょうどよかった。なあ、クルセス。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」


「何?」


「剣を構えたとき、どうしても肩に力が入っちまうんだよ。昨日も父上に指摘されてさ」


 ガレスは少し困ったように笑った。


「自分じゃ力を抜いてるつもりなんだけど、気づくとまた力んでるんだ」


 俺は少し考えた。


 ガレスは剣術に熱心で、身体能力も高い。


 ただ、真剣に取り組むほど、動きに力が入りすぎることがある。


「実際に構えを見てみないと分からないけど、肩だけじゃなくて、握り方や足の位置も関係しているかもしれないね」


「そうなのか?」


「うん。もしよかったら、放課後に少し確認してみる?」


 俺がそう提案すると、ガレスは嬉しそうに顔を輝かせた。


「本当か!? 助かる!」


 その隣で、サザリーが静かに口を開いた。


「ただ、放課後は訓練場の使用予定を確認した方がいいね。勝手に使うわけにはいかないから」


「そうだな。じゃあ、昼休みに先生へ聞いてみるか」


 ガレスはすぐに頷いた。


 そのやり取りを聞いていたリビアが、少しだけ俺へ視線を向けた。


「セス、今日は図書室にも行く予定だったよね?」


「あ、そうだった」


 俺は思わず声を上げた。


 朝、リビアと一緒に勉強する話をしていたことを思い出したのだ。


 ガレスはすぐに申し訳なさそうな顔になった。


「悪い! 先に予定があるなら、別の日でもいいぞ」


「いや、大丈夫だよ。訓練場が使えるかもまだ分からないし、時間を確認してから決めよう」


 俺がそう答えると、リビアは穏やかに微笑んだ。


「うん。私も、今日は少しだけ資料を確認できれば大丈夫だから」


 サザリーはその様子を見て、小さく頷いた。


「それなら、昼休みに予定を整理してみるといいかもしれないね」


 俺は彼の言葉に頷いた。


 以前なら、誰かに頼まれたことを優先し、自分の予定を後回しにしていたかもしれない。


 けれど、今日は違う。


 ガレスの相談も大切だし、リビアとの約束も大切だ。


 どちらかを勝手に諦めるのではなく、きちんと相談して決めればいい。


 そう考えると、少しだけ気持ちが軽くなった。


     ◇


 午前の授業では、魔術の制御理論について、昨日よりも少し踏み込んだ内容を学んだ。


 エレナ先生は黒板に複数の図を描き、魔力の出力が安定しない場合に起こり得る問題を説明していた。


「魔力の制御では、出力を増やすことよりも、必要な範囲に収めることが重要になる場合があります」


 先生は教室を見渡した。


「特に、複数の属性に適性がある生徒は、扱える種類が多いからといって、すべてを同時に使おうとしないようにしてください」


 俺はその言葉を聞き、静かに頷いた。


 俺には火、水、風、土、雷の五属性への適性がある。


 けれど、来月予定されている個別実技では、先生が指定する二属性を、決められた順番で扱うことになっている。


 自分の得意な方法を使えばいいわけではない。


 求められた条件を守り、正確に制御することが必要なのだ。


 授業の途中、先生は生徒たちへ簡単な問題を出した。


 一定の魔力量を維持している途中で、意図しない変化が起きた場合、どう対応すべきか。


 何人かの生徒が意見を述べたあと、エミリアが静かに手を上げた。


「まず、無理に出力を維持しようとせず、安全に停止できる状態か確認することが大切だと思います」


 先生は頷いた。


「よい考えですね。状況によっては、続行より停止を優先する必要があります」


 俺はノートへその言葉を書き留めた。


 続けることだけが正しいわけではない。


 必要なら止まることも、大切な判断なのだ。


 授業が終わる頃には、教室の空気も少しだけ和らいでいた。


 ガレスはノートを閉じながら、隣のサザリーへ話しかけている。


「魔術って、考えることが多いよな」


「剣術でも、状況判断は必要だろう?」


「そうなんだけどさ。魔術だと、目に見えない部分まで考えなきゃいけないから難しいんだよ」


 サザリーは少し笑った。


「それなら、目に見える結果と、操作した感覚を分けて記録するといいかもしれないね」


 ガレスは感心したように頷いた。


 俺はそのやり取りを聞きながら、ノートを鞄へしまった。


     ◇


 昼休みになると、俺たちは食堂の一角に集まった。


 ガレスは先ほど先生へ確認してきたらしく、少し嬉しそうな顔をしている。


「訓練場、今日は短い時間なら使えるってさ。ただし、木剣での基礎練習だけだって」


「それなら、無理のない範囲で確認できそうだね」


 俺が答えると、ガレスは大きく頷いた。


「頼む! 少しでも肩の力を抜く感覚をつかみたいんだ」


 サザリーは静かに口を開いた。


「ただ、時間は限られているから、確認する内容を絞った方がいいと思う」


「そうだな。まずは構えを見てもらうだけでも十分だ」


 ガレスはそう答えた。


 その隣で、リビアが俺へ微笑みかけた。


「セス、図書室はそのあとでも大丈夫だよ」


「ありがとう。でも、リビアを待たせすぎるのも悪いから、時間を決めておこう」


 俺がそう言うと、彼女は少し嬉しそうに目を細めた。


「うん。じゃあ、私も訓練場まで一緒に行っていい?」


「もちろん」


 ガレスは少し驚いたように顔を上げた。


「パウリー様もいらっしゃるんですか?」


「ええ。見学するだけだけれど、邪魔にならない場所で見ていてもいいかしら?」


「もちろんです!」


 ガレスは慌てて姿勢を正した。


 その様子を見て、エミリアが小さく笑った。


「ガレス君、そんなに緊張しなくても大丈夫だと思いますよ」


「いや、だって、公爵令嬢様に見られるとなると……」


 ガレスが言葉を濁すと、リビアは少し困ったように微笑んだ。


「普段どおりでいいのよ。私も、みんなと一緒に勉強したいだけだから」


 サザリーは穏やかに頷いた。


「それなら、僕も少し見学してみようかな。動きの違いを記録するのも勉強になりそうだ」


 エミリアも興味深そうに顔を上げた。


「私も、時間が合えば見てみたいです」


 こうして、放課後はみんなで訓練場へ向かうことになった。


     ◇


 放課後の訓練場には、まだ昼間の熱が少し残っていた。


 屋根のある練習区画には木剣が並べられ、床には足運びの確認に使う目印が設けられている。窓から差し込む光が床を照らし、遠くでは別の生徒たちが教師の指導を受けていた。


 俺たちは許可された区画へ移動し、担当の先生へ挨拶を済ませた。


 ガレスは木剣を手に取り、少し緊張した様子で構えた。


「こんな感じなんだけど、どうだ?」


 俺は正面と横から、彼の姿勢を確認した。


 足の位置は悪くない。


 重心も大きく崩れていない。


 ただ、剣を握る手に力が入りすぎているように見えた。


「ガレス、少しだけ握りを緩めてみて」


「こうか?」


「うん。でも、完全に力を抜くんじゃなくて、必要なところだけ残す感じかな」


 ガレスは何度か握り直した。


 そのたびに、肩の位置が少しずつ変わっていく。


 俺は彼の動きを見ながら、無理のない範囲で助言した。


「今の方が自然だと思う。あと、剣を構えるときに肩を上げすぎないようにしてみて」


「なるほど……」


 ガレスは真剣な表情で頷いた。


 その隣では、サザリーがノートへ簡単な記録を書いていた。


「最初よりも、腕の位置が安定しているように見えるね」


 エミリアも静かに頷いた。


「力を抜いた方が、動き始めが少し滑らかになった気がします」


 ガレスは嬉しそうに笑った。


「本当か? じゃあ、もう一回やってみる!」


 俺は頷き、少し離れた場所へ下がった。


 ガレスはゆっくりと構えを取り、足を動かしながら木剣を振った。


 先ほどよりも動きは自然になっている。


 ただ、途中で少しだけ肩が上がった。


「今のところ、少し力が入ったかもしれない」


 俺が伝えると、ガレスは苦笑した。


「やっぱり、気づくと力んじまうな」


「でも、最初よりよくなってると思うよ。急に全部直そうとしなくても大丈夫」


 俺がそう言うと、ガレスは嬉しそうに頷いた。


 そのとき、リビアが少し離れた場所から声をかけてきた。


「セス、少しいい?」


「うん。どうしたの?」


 俺が近づくと、彼女は穏やかに微笑んだ。


「ガレスの構えを見ていて思ったんだけど、セスも少しだけ力が入っているように見えたよ」


 俺は思わず目を丸くした。


「……俺も?」


「うん。教えることに集中しているとき、肩が少し上がっていたの」


 俺は自分の肩へ手を当てた。


 確かに、少しだけ力が入っている。


 ガレスの動きを確認しようとするあまり、無意識に身体を緊張させていたらしい。


「……本当だ」


 俺がそう呟くと、リビアは少しだけ得意そうに微笑んだ。


「ふふっ。セスにも、そういうことがあるんだね」


 俺は少し照れくさくなった。


「あるよ。俺だって、いつも完璧なわけじゃないから」


「うん。知ってる」


 リビアは優しく笑った。


「でも、そういうところも好きだよ」


 俺は思わず言葉に詰まった。


 周囲にはガレスたちもいる。


 彼女はそれを分かっているのか、少しだけ頬を染めながらも、嬉しそうに微笑んでいた。


「……リビア」


 俺が小さく名前を呼ぶと、彼女は首を傾げた。


「なあに?」


「……ありがとう」


 それだけ答えるのが精いっぱいだった。


 少し離れた場所では、ガレスが何とも言えない表情を浮かべている。


 サザリーは静かに視線を逸らし、エミリアは口元へ手を当てて笑っていた。


 俺は顔が熱くなるのを感じながら、再びガレスのところへ戻った。


     ◇


 練習を終える頃には、ガレスの構えは最初よりも少し安定していた。


 もちろん、一度の練習ですべてが改善するわけではない。


 それでも、本人は何かをつかめたようで、満足そうな顔をしていた。


「助かったよ、クルセス。ありがとう!」


「どういたしまして。でも、無理に力を抜こうとしすぎないでね。先生や家の指導者にも確認してもらうといいと思う」


「分かった。今日のこと、父上にも話してみる!」


 ガレスは嬉しそうに頷いた。


 そのあと、俺たちは訓練場を片づけ、担当の先生へ礼を伝えてから外へ出た。


 廊下には夕方の光が差し込み、窓の向こうでは校庭の木々が風に揺れている。


 ガレスたちはそれぞれ帰宅の準備があるため、途中で別れることになった。


「じゃあな、クルセス! また明日!」


「うん。また明日」


 俺が手を振ると、ガレスは元気よく歩いていった。


 サザリーとエミリアも軽く会釈し、それぞれの方向へ向かった。


 残された俺とリビアは、並んで図書室へ向かった。


 歩きながら、リビアが少し楽しそうに笑っている。


「……リビア?」


「ふふっ。ごめんね。さっきのセス、ちょっと可愛かったなって思って」


 俺は思わず足を止めた。


「可愛いって……」


「だって、私が肩のことを言ったら、すごく驚いていたでしょう?」


 彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「セスって、何でもできるように見えるけど、ちゃんと失敗することもあるんだなって思ったの」


 俺は少しだけ苦笑した。


「そりゃあ、失敗することもあるよ」


「うん。だから、安心した」


 その言葉に、俺は首を傾げた。


「安心?」


 リビアは少し考えたあと、穏やかに答えた。


「セスが何でも一人でできちゃうと、私が手伝えることがなくなっちゃう気がするから」


 俺は彼女の顔を見つめた。


 リビアは少しだけ頬を染めた。


「もちろん、セスがすごいのは嬉しいよ。でも、私だってセスの力になりたいんだもの」


 俺は静かに頷いた。


 昨日も、彼女は同じようなことを言ってくれた。


 けれど、今日の言葉は少し違って聞こえた。


 俺が失敗したり、気づかなかったことを教えてもらったりするのも、彼女にとっては嬉しいことなのかもしれない。


「……そっか」


 俺がそう呟くと、リビアは少しだけ首を傾げた。


「どうしたの?」


「いや、俺ももっとリビアに頼っていいんだなって、改めて思っただけ」


 彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「うん。何でも相談してね」


 俺は頷き、彼女と一緒に図書室へ向かった。


     ◇


 図書室では、予定していた資料の確認を短い時間で済ませることができた。


 リビアは地域ごとの暮らしについて書かれた本を一冊選び、俺は古い街道の記録に関する本を借りた。


 どちらも、今すぐ答えを出すためのものではない。


 これから少しずつ学ぶための資料だ。


 屋敷へ戻る馬車の中で、リビアは借りた本を膝の上に置き、嬉しそうに表紙を眺めていた。


「セス、今日は楽しかったね」


「うん。ガレスの練習も見られたし、図書室にも寄れたから」


「それに、セスの新しい一面も見られたし」


 彼女は少しだけ悪戯っぽく笑った。


 俺は苦笑した。


「まだその話?」


「だって、嬉しかったんだもの」


 リビアはそう言って、俺の手をそっと握った。


「セスが失敗しても、私は嫌いになったりしないよ」


 俺は彼女の顔を見つめた。


 リビアは真剣な表情で続けた。


「むしろ、そういうところも全部知りたいなって思うの」


 その言葉に、胸の奥が温かくなった。


 俺は少しだけ照れくさくなりながら、彼女の手を握り返した。


「……ありがとう、リビア」


 彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ふふっ。どういたしまして」


 馬車の窓の外では、夕暮れの街並みがゆっくりと流れていく。


 今日も、特別に大きな出来事があったわけではない。


 けれど、俺にとっては大切な一日だった。


 人に教えること。


 人から教わること。


 そして、自分の失敗を受け入れること。


 どれも、これから先の俺にとって必要なことなのだと思う。


 俺は隣に座るリビアへ目を向けた。


「リビア」


「なあに、セス?」


「これからも、俺が気づいていないことがあったら教えてくれる?」


 リビアは少し驚いたように目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。


「もちろん。セスも、私に教えてね」


「うん。約束する」


 俺たちは顔を見合わせ、小さく笑った。


 馬車は静かに進み、やがてパウリー公爵邸の門が見えてきた。


 これからも、俺はきっと失敗することがあるだろう。


 でも、そのたびに一人で抱え込む必要はない。


 リビアが隣にいてくれる。


 そして、俺も彼女の隣にいる。


 そう思うだけで、これから先の毎日が少し楽しみになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。