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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第8話 逃げ場がないなら、毒を喰うしかない

【警告:逃走不能】【提案:毒性物質の利用】


表示は消えずに残っていた。意味を測りかねたまま、俺は薄い場所を探して縁をなぞり続けた。赤層の「引かれる」感覚も、黒い枝の異物感も、まだ何も答えを出していない。今はそれより、この提案だ。


「……毒を、利用しろってことか」


口にしてみても、実感が湧かない。避ける。耐える。その次に来る言葉が「喰う」だとは、今まで一度も思いつかなかった。ステータスがここまで踏み込んだ提案をしてきたことすら、初めてだった。


薄い場所を探した。だが、どこにもない。赤層と白毒が絡み合った濁りは、もう海のどこにでも染み込んでいる。逃げ場を探すという発想そのものが、通用しなくなっていた。耐性Lv.3の体でも、長く保てる場所はどこにも見当たらない。光を庇いながら縁を辿るだけで、体力もといえるものがじわじわと削られていくのが分かった。


「……ほんとに、どこにもないのな」


呟いても状況は変わらない。それでも呟かずにはいられなかった。同族の輪郭はもう数えるまでもないほど減っていて、声をかける相手すらいなかった。


光を挟むようにして進みながら、俺は前に見たあの気配を思い出していた。赤い層の中を、怯えもせず、引かれもせず、平然と漂っていたあの命だ。


近づいてみると、まだそこにいた。


【外部要素との接触反応】


振り払われることもなく、逃げることもなく、その気配はただそこにあった。白毒にも赤層にも侵されず、むしろその中で妙に安定している――そう見えた。周りの命がことごとく蝕まれて減っていく中で、こいつだけがまったく違う法則の上に立っているようだった。


「……お前、なんでそんなに落ち着いてるんだよ」


答えは返らない。だが、初めて分かったことがある。こいつは、白毒を怖がっていない。避けているんじゃない。取り込んで、飼い慣らしているみたいに見えた。輪郭の際で、白毒が渦を巻きながら吸い込まれては、何か別のものに変わって出ていくのが、よく目を凝らせば分かった。


【共生候補:取り込み可能】


頭の奥に、見慣れない言葉が浮かんだ。今までのステータスは、起きたことを記録するだけだった。これは違う。行動を促すような響きがあった。


 


避けるか、取り込むか。二択だった。避ければ、これまでと同じだ。薄い場所を探し続け、いずれ追いつかれる。取り込めば、どうなるか分からない。制御を失う可能性だってある。この気配がそもそも味方だという保証もどこにもない。


それでも、これまでの延長線上に勝ち筋がないことだけは、はっきりしていた。耐性を積んでも追いつかれた。逃げ場を探しても見つからなかった。同じことを繰り返す余裕は、もう残っていない。


だが、もう選べる余地は少なかった。


「……食われるくらいなら、こっちが先に喰ってやる」


俺は残った動きのすべてを使い、その気配に体を寄せた。触れた瞬間、頭の奥で文字が跳ねた。


【外部要素を取り込み中】

【ステータス:解析エラー】


一瞬、表示が意味のない記号の羅列になった。ステータスが誤作動を起こすところなど、今まで見たことがない。名付けることに執着してきたあいつが、名付けようがないものにぶつかっている――そう思うと、少しだけ愉快だった。


「……お前、俺のことも戸惑わせてどうする」


体の内側で、何かが急速に馴染んでいく感覚があった。異物感は黒い枝と似ているようで、質が違う。黒い枝は根を張るように居座るだけだった。これは違う。もっと能動的に、体の仕組みそのものに手を伸ばしてくる感触だ。


苦痛はあった。だが、その苦痛の向こうで、白毒への感じ方が変わっていくのが分かった。これまでは、ただ蝕まれるだけの敵だった。今は違う。触れた白毒の一部が、体の奥で何かに変換されていく手応えがある。壊されているのに、同時に何かを受け取っている――そんな矛盾した感覚だった。


【白毒変換 Lv.1 を獲得】


「……これが、喰うってことか」


初めて、白毒を取り込んで得るものがあった。避けるでも耐えるでもない、まったく違う戦い方だった。耐性を積み上げてきた日々が、遠回りだったとまでは思わない。だが、この一歩は今までの延長線上にはなかった。


 


だが、代償はすぐにやってきた。取り込んだばかりの力が、体の中で暴れ始める。制御しきれない奔流のようなものが、輪郭の内側を駆け巡る。


「……っ、落ち着け」


言い聞かせても止まらない。力が勝手に噴き出し、周りの濁りを激しくかき乱す。すぐそばにいた光が、その余波に巻き込まれて激しく揺れた。


「……まずい」


このままでは、守るはずの光ごと飲み込みかねない。俺は残った意識のすべてを、暴れる力を抑え込むことに使った。


【外部要素:定着進行中】


表示だけが、他人事のように流れていく。抑え込もうとする感覚と、まだ名前もない何かが体の中で動く感覚がせめぎ合う。取り込んだつもりが、逆に振り回されているだけなんじゃないか――そんな不安がよぎった。


それでも、少しずつ奔流が収まっていった。暴れていた何かが、輪郭の内側で落ち着き先を見つけていくような感触だった。光は、すんでのところでまだそこにいた。


「……お前を巻き込むところだった」


守ると決めたはずなのに、守るための力が守るべきものを一番脅かす――そんな皮肉に、笑う余裕もなかった。


安堵する間もなく、頭の奥にもう一つ、小さな表示が浮かんだ。


【火種タグ:微弱反応】


一瞬だけ光り、また沈黙した。相変わらず、何も説明しない。だが今までの「未解析」の一点張りとは、わずかに違う手触りがあった。反応した、ということ自体が、初めての進展だった。


 


体を動かしてみる。白毒の薄い場所へ、いつもの調子で進もうとした――はずが、想像より遥かに速く前へ出た。


「……は?」


もう一度、確かめるように動く。同じだった。これまでとは明らかに違う速さで、体が水を切っている。極小のはずの移動能力が、まるで別物になったみたいだった。周りに漂う古い命たちの、緩慢な動きが目に見えて分かる。自分だけが、違う速度で動いている。


これまでは、白毒に追いつかれないように必死で逃げるだけだった。今は違う。白毒そのものを推進力に変えて、前に出ている。


光を見た。まだそこにいる。この速さがあれば、次こそ安全な場所まで運びきれるかもしれない。根拠のない自信だとは分かっていた。それでも、今までとは違う手応えが確かにあった。


白毒を避けて生きてきたこの海で、白毒を喰った俺だけが、誰よりも速く動けるようになっていた。


第8話は、白毒を避ける・耐えるから「利用する」への転換回でした。得体の知れないものを取り込むというリスクを取った先に、「白毒変換 Lv.1」という新しい力が生まれます。

次話、この速さと引き換えに何が起きるのか、ご期待ください。

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