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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第5話 二周目の俺、白毒耐性を持って生まれる

濃い流れに呑まれてなお、俺はまだその光を抱えていた。腕なんてものはない。それでも意識のすべてを、この小さな光を薄い方へ押し出すことに使い続けている。周りでは同族が音もなく沈んでいく。輪郭が霞み、震えもせずに落ちていく――喰われる恐怖には慣れたつもりだったが、これは違う種類の恐怖だった。それでも今は、自分のことより先に確かめたいことがあった。その光は、まだ消えていない。


「……まだだ。まだ消えるな」


視界のどこを向いても白い。乳白色の濁りが、水そのものの色を塗り替えていた。少し前まで恵みのようにも見えたその色が、今は同族を静かに呑み込む色にしか見えない。祝福だと思っていた自分を、殴ってやりたい気分だった。


もう一つの俺の気配は、遠くでかすかに震えているだけだった。届く距離じゃない。助けを待つ余裕もない。俺はその場で、残った動きのすべてをその光へ注いだ。


体の表面が、じくじくと重い。触れているだけで削られていくような感覚が、さっきから続いている。白毒はもう周りの水だけの話じゃない。俺自身の輪郭に、直接染み込み始めていた。前に喰われて死んだときとは、感触がまるで違う。あれは一瞬で引きちぎられる痛みだった。今度のは違う。境目がじわじわと白く塗り替えられ、自分の形そのものが濁っていく。どこまでが自分で、どこからが毒なのか、分からなくなっていく感覚だった。


押し出すのは、もう何度も試した。濃い流れに阻まれて、そのたび引き戻された。同じ失敗をなぞっている時間はない。それでも濁りは、こちらの都合など待たずに濃さを増していく。


【外部負荷:白毒濃度上昇】


見飽きた表示が、今更のように重かった。薄い場所そのものが、どんどん遠くなっていく。じっとしていても、状況は悪くなる一方だ。


なら、次だ。逃がせないなら、せめて包む。俺は体――膜と呼ぶには頼りない輪郭――をその光の周りに寄せ、盾のつもりで覆った。庇う、ということが自分にできる最後の手段のように思えた。


結果は、前回と同じくらい呆気なかった。白毒は膜を素通りする。防げない。むしろ濁りを巻き込む形になり、その光がさらに弱く明滅した。守ったつもりが、かえって濃い水を呼び寄せただけだったのかもしれない。覆う面積が広がったぶん、俺自身が浴びる濁りの量も増えていた。同時に、自分の体の内側にも、これまでにない違和感が走った。


【個体反応:異常値検出】


「守るための体すら、俺にはなかったのか」


笑いたくなるくらい、何もできない。それでも離れる気にはならなかった。視界の端では古い命たちが、まだ白毒の濃い場所へ自ら群がっている。あれを祝福だと信じたまま沈んでいく。声を上げる器官さえあれば、違うと叫びたかった。だが今の俺には、目の前の光より優先すべきものなんてない。


三度目は、もう体全体を使うつもりで動いた。自分がどうなろうと構わない、あの光だけでも流れの外へ――そう決めて、残っている力の全部を注ぎ込んだ。


その光が、視界の端でわずかに離れていくのを感じた。届いたのか、それとも流れが偶然そちらへ向いただけなのか、確かめる術はない。分かったのは、自分の体が、もう言うことを聞かないという事実だけだった。白毒が内側まで入り込んでくる。冷たいとも熱いとも違う、ただ確実に何かを壊していく感覚。輪郭が薄れていくのが、他人事のように分かった。


守れなかった、という悔しさが、遅れて追いついてきた。膜一枚、力一つ足りないだけで、こんなにもあっさり手放すことになるのか。文句を言う相手もいない。それでも、その光を諦めたわけじゃない。押し出した先に、まだ光が残っていることだけが救いだった。


意識が薄れていく中で、言葉が勝手に形になった。


「次の俺へ」


途切れさせなかった。迷いも、掠れもなく。初めて、言葉として言い切った。それだけを最後の意志として残し、意識が途切れた。


【死亡原因を記録しました】


【継承する記録:生存意志/抵抗意志/回避行動・試行と失敗/流れ利用・試行と失敗/逃走不能による死亡/分裂による再起/庇護行動・試行と失敗/死亡原因:白毒不適応】


【次世代生存率:0.0004% → 0.0012%】


数字を、二度見た。前に死んだときは0.0003%が0.0004%になっただけだった。今回は、その比じゃない。守ろうとした負けは、高くつくのか。それとも、高く買われたのか。理由は分からない。ただ、生き延びるために失敗した死と、誰かのために失敗した死は、記録のされ方まで違うらしい――そのことだけは分かった。継承する記録の並びをなぞれば、逃走不能、分裂、庇護行動と失敗ばかりが並んでいるのに、数字はそのたびに上がっている。負けを積み重ねることが、どこかで力になっているのかもしれない。


 


意識が浮かび上がる。次の個体として、目覚めた。


【死亡原因:白毒不適応】


曖昧な候補ではない。確定表示だった。続けて、解析が始まる感覚がある。白毒に触れた個体がどう壊れたか、その傾向をなぞるように何かが動いていく。壊れ方が分かれば、壊れない形も探せる――代替戦略の検索が走り、いくつかの候補が浮かんでは消えていくのが分かった。


逃げる。避ける。耐える。三つの案が並んで、二つが弾かれていく。今の体では逃げる速さがなく、避ける感覚器もない。残った一つに絞られていく感覚は、選ばされたというより、選ぶしかなかったという感触に近かった。


【死亡原因:白毒不適応を解析/代替戦略を検索/一致スキル候補を検出】


【新規スキル:白毒耐性 Lv.1を獲得】


初めて、環境そのものに抗う手段を得た。逃げるでもなく、増えるでもなく、耐える力。これまでとは違う種類の報酬だった。表示が消えたあとも、体の芯に何かが馴染んでいく感覚が残っていた。薄い場所でなら、この体はもう白毒に触れただけで壊れたりしない。


一度目の目覚めのときは、体の欠けた感覚だけが先に立った。腕がない、力がない、それだけを確かめて終わった。今度は違う。真っ先に浮かんだのは、自分の欠けた部分より、あの光の行方だった。同じ「次」でも、優先されるものが入れ替わっている。それだけは、はっきり分かった。


「……死に損、じゃなかったってことか」


長くは考えなかった。それより先に、確かめたいことがあった。あの光は、どうなった。意識を広げても、それらしき光は見つからない。輪郭も、瞬きも、どこにもない。失われた――そう思うには、まだ何かが引っかかった。確認できるものが、何一つないだけだ。


 


新しい体は、まだ白毒に慣れていない。薄い場所でさえ軋むような負荷を感じながら、俺は前の個体が死んだ場所へ向かった。何を探しているのか、自分でもはっきりしない。ただ、あの場所を確かめないと前に進めない気がした。


道中、もう一つの俺の気配は感じられなかった。遠ざかったまま、生きているのか、それとも同じように沈んでいったのか、今の俺には分からない。それでも、進むのをやめる理由にはならなかった。足なんて、もとからないのだから。


耐性Lv.1の体でも、濃い場所に踏み込めば長くは保たないだろう。分かっていながら、薄い場所の縁を辿るようにして進んだ。周りにはまだ、沈んだままの同族の輪郭がいくつも漂っている。声をかけたところで、届く相手はもういない。


濁りの底、記憶とも違う何かに導かれるように辿り着いたそこに――弱く光る何かが、揺れていた。あの光と、よく似ていた。


「……お前、なのか」


答えは返らない。俺の体には、まだそれを確かめる力もない。それでも、その光から目を離せなかった。あの光が失われたと決めつけるには早すぎる。だが、確かめようとするたびに、また同じ失敗を繰り返すかもしれない――そんな不安も、消えずに残っていた。


耐性はまだLv.1に過ぎない。薄い場所でようやく動ける程度の力で、この光にどこまで近づけるのか、今の俺には分からなかった。それでも、体は勝手にその光の方へ向いていた。希望と呼ぶには頼りなく、無視するには眩しすぎる光だった。

第5話では、主人公が初めて「自分の生存以外の理由」で死ぬ回でした。さらに、「白毒耐性 Lv.1」という初めての対抗手段を得ます。あの光は失われたように見えたまま――けれど、前回死んだ場所に似た光が揺れています。

次話、続きをご期待ください。

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