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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第4話 光を喰う連中が、海を白く汚し始めた

光は、まだ降ってきていた。


見上げることもできないはずの俺が、それでも「上」を感じている。膜の表面が、これまでにない温かさでじわりと炙られる。隣の気配――もう一つの俺――も、同じ方向にわずかに震えていた。示し合わせたわけじゃない。なのに、揃っている。


「……お前も、感じてるのか」


答えは返らない。声もない。ただ、震えの向きだけが、俺と重なっていた。分裂したばかりのこいつが、俺の生き写しなのか、それとも別の何かなのか。その混乱はまだ答えが出ていない。


頭の奥に、文字が浮かぶ。


【外部環境に変化を検出】

【上層域:未知の反応体を多数検出】


連中。敵、とは書いていない。上のほうから伝わってくる感覚は、圧でも殺意でもなく、ただ温かい。降り注ぐ光そのものが、ぼんやりと発光しながら、数を増やし続けている――そんな気配だった。


「……祝福、みたいだな」


そう呟いた瞬間、ちょっと引っかかった。祝福なんて言葉、前世の俺の記憶にしかない。それでも、他に呼びようがなかった。悪意のない光が、ただ増えて、ただ降ってくる。喰われる恐怖にへばりつかれてきた俺にとって、敵じゃないものが上から差し込んでくるというだけで、少しだけ息がしやすくなった気がした。


上を見た。見えるわけじゃない。感じるだけだ。光の向こう側に、何かがひしめいている気配がはっきりしてきた。無数の、粒より小さい何かが、光を吸い込んでは自分の輪郭を増やしている。喰う、というより、増える。


「……光を、喰ってるのか。なら勝手に呼ばせてもらう。光を喰う連中、だ」


そいつらの気配に敵意はない。こっちを見てすらいない。ただひたすら光を浴び、膨らみ、割れるように数を増やす。祝福のように見えるのは、たぶん、そいつらにこっちを害する気がまったくないからだ。


意識を少し広げてみて、初めて気づいた。この暗い海に漂っているのは、俺と、もう一つの俺だけじゃない。前からそこにいたのだろう、似た形の弱い気配が、数えたこともないほど遠くまで散らばっている。どれも俺の分裂じゃない。ただ、同じ海で同じように弱いだけの、名も知らない命だ。喰われる恐怖にへばりつかれている間は、自分のことだけで手一杯で、そんなものを気に留める余裕すらなかった。


 


しばらくして、光の帯の中に、うっすらとした揺らぎが混じり始めた。光を喰う連中が、光を喰った代わりに何かを吐き出している。透けた白い筋が、細かい粒になって、ゆっくりとこちらへ沈んでくる。


すぐ近くには、俺たちよりさらに弱く、頼りなく光る小さな気配もあった。名前も分からない、ただそこに漂っているだけの命。気になったが、深追いはしなかった。


白い粒は、少しずつ広がりながら降りてくる。もともと透明だった水が、じわりと乳白色に濁り始めていた。


【未知成分:白毒】


「……白毒?」


意味は分からない。ステータスが、勝手に名前をつけている。誰に確認したわけでもないのに、当然の顔で表示された。


【火種タグ:未解析】


一瞬だけ表示され、すぐに消えた。


「解析できないなら、せめて危険とだけ言ってくれ」


文句を言った直後だった。さっき気づいたばかりの、名前もない命の一つが、揺らめく白い筋にそっと触れた。


膜が、ぴたりと止まった。震えも、脈も、何もかもが。


この海に前からいた命が多いぶんだけ、あの白いものに触れて止まるものも増えるということだ。隣で震えていたもう一つの俺も、例外じゃない。背筋のあたりに、冷たいものが走った気がした。


祝福だと思っていたものが、確実に何かを奪っていく。反応が返ってこないその輪郭が、白く濁った水の中でゆっくりと薄れていく。


 


――止まる、で終わりじゃなかった。


輪郭が一段と薄れた。震えも脈もない膜が、白く濁った水の中でゆっくりと沈んでいく。


「……止まったんじゃない。沈んでいってるのか」


見れば、一体だけじゃない。似たような輪郭たちが、少し離れた場所でもふらりと傾いで、そのまま落ちていく。二つ、三つ。数えるうちにも増えていく。水そのものが乳白色の膜を張ったみたいに濃くなっていた。


「祝福、みたいだな」――さっき自分がそう呟いたことを思い出す。悪意のない光。敵じゃない連中。そう思って、少しだけ息がしやすくなった気がしていた。だが今目の前にあるのは、同族が次々と沈んでいく光景だった。祝福なんて言葉、二度と使いたくない。あれは毒だ。


沈んでいく同族たちは、抵抗した様子がなかった。ただ触れて、止まって、そのまま重さに従うように沈む。声もなく、争いもなく消えていく恐怖は、今日初めて知った種類のものだった。


まずは、この場から離れることを試した。極小の移動能力を振り絞り、白い濁りの薄い方へ体を押し出す。もう一つの俺も、遅れて同じ方向へ動こうとしていた。


結果は、呆気なかった。距離はほとんど詰まらない。濁りの広がる速さのほうが明らかに勝っていて、じわじわと追いつかれているのが分かった。


「逃げる速さすらないのに、逃げろというのか」


 


そのとき、近くで弱い光がひとつ、揺れているのに気づいた。さっき視界の端をよぎった、あの頼りなく光る小さな命だ。瞬く間隔が、少しずつ間延びしていた。


膜の中で、何かが跳ねた気がした。生きるとか、逃げるとか、そういう自分の勘定とは別の場所で。周りの同族が沈んでいくのを見ても動けなかったのに、この小さな光にだけは、体が勝手に反応した。


「……消えるな」


言葉にしてから、自分でも驚いた。誰かに向けてそんな言葉を使ったのは、初めてだった。


俺はその小さな光へ体を寄せた。守る、なんて上等な言葉が使える体じゃない。ただ覆うように、間に割り込むように動いただけだ。だが膜越しに触れても、白毒は防げない。むしろ濁りを巻き込む形になり、光はさらに弱々しく明滅した。


「守るって、こんなに何もできないことだったのか」


覆えないなら、逃がすまでだ。濁りの薄い方向へ、この小さな光を押し流す。


視線を上げると、少し離れた場所で異様な光景が広がっていた。古い命たち――俺よりずっと年経た輪郭をしたものたちが、白い濁りの一番濃い場所へ、自ら群がるように寄っていく。まるでそこに恵みでもあるかのように、争うように濃い方へと身を寄せていた。


かつての俺と同じだ。あれを祝福だと思っている。誤解したまま、群れごと沈んでいく。


「……お前らもか」


止める手段なんてない。声も届かない。ただ見ているしかなかった。


 


俺は目の前の小さな光に意識を戻した。残った動きのすべてを、この光を押し出すことに使う。


体が軋むような感覚と共に、光がわずかに動いた。薄い方へ、ほんの少し。だが、それだけだった。濁りの流れのほうが強く、押し出したそばから引き戻されていく。


【移動能力:極小】【外部負荷:白毒濃度上昇】


「非力のくせに、往生際だけはいっちょ前だ」


もう一つの俺の震えが、はっきりと大きくなった。答えの出ない問いはまだ抱えたままだが、今はそれを考えている余裕もなかった。


それでも、腕なんてないくせに、伸ばすつもりで動いた。


流れが変わった。


濁りの濃い帯が、俺ごと小さな光を呑み込むように押し寄せてくる。逃げようとした方向とは逆――一番白く、一番深く沈んでいく方向へ。


【周囲に同族反応:多数】

【個体反応:停止傾向を検出】


体が、濃い流れに引き込まれていく。もう一つの俺の気配は、遠ざかっていく。ついてこない。あいつは薄い方へ――生き残る方へ、向かっている。ここまで同じ動きをなぞってきた俺たちの向きが、初めて分かれた。責める気にはならなかった。正しいのは、たぶんあっちだ。それでも、小さな光を離すまいとした自分の意志だけは、最後まで残っていた。


海は、もう白く汚れきっていた。

第4話は、「敵ではなさそう」という安心が、じわじわと違和感に変わっていく話でした。上層の光を喰う連中は、悪意なく増え続けているだけ。それでも吐き出したものが、海を白く汚し、同族の動きを止める――

次話もご期待ください。

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