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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第15話 それでも俺は、次の俺を残したい

喰えば、強くなる。


初めての捕食が残したのは、恐れだけじゃなかった。答えの手触りも、確かに残っていた。この海で生き延びる道が、ようやく一本、はっきり見えた気がした。避けるでも、耐えるでもなく、喰って、奪って、その分だけ強くなる。効率だけを考えれば、やることは単純だ。


濃い底には、まだ弱った気配がいくつも漂っている。喰える。喰えば喰うほど、俺は濃さに強くなる。生存率も上がる。次の俺に、もっと確かなものを残せる。


だったら、迷う理由はない。――はずだった。


 


硬い縁の内側で、小さな光が揺れている。


こいつを庇いながらでは、動きが鈍る。濃い底へ喰いに行くにも、光を抱えたままでは深くまで潜れない。守るというのは、要するに、余計な重りを抱えて泳ぐことだ。効率だけを言うなら、答えははっきりしている。


置いていけばいい。


思ってしまってから、俺は自分の冷たさに、少しだけぞっとした。だが、否定しきれなかった。喰う側に回ってから、俺の中の何かの目盛りが、確かに一つ、ずれている。損か得か。強くなるか、ならないか。世界が、その二つだけで見えるようになりかけていた。


膜の奥で、欠片が動いた。


――見捨てろ。


短い、けれどはっきりした意思だった。喰った力を、守りなんかに使うのは無駄だ。そう言っている。効率だけを計算すれば、こいつの言うことは正しい。誰よりも冷静に、こいつは俺の生存だけを見ている。


「……お前もそう言うのかよ」


責める資格は、俺にはなかった。だって、俺自身が今、同じことを考えていたんだから。相棒が、俺のいちばん薄暗い計算を、代わりに口に出しただけだ。


俺は、光から意識を逸らした。濃い底の、次の獲物の方へ。守る余裕を、切り捨てるために。


 


そのときだった。


海の流れが、ぐらりと傾いた。


濃い白の層が、うねりを上げて動き出す。古き王の領域が近い。ここは、白毒の流れそのものが気まぐれに荒れる場所だった。そして、そのうねりの先に――小さな光が、いた。


硬い縁の、内側にいたはずの光が、流れに巻かれて、外へ引き出されていく。濃い白の奔流が、光を呑み込もうと、渦を巻いて迫っていた。


【周囲環境:急激な変動】


一瞬で、状況が見えた。同時に、頭の冷たい部分が、答えを弾き出す。


追えば、俺もあの奔流に巻かれる。せっかく上げた生存率が、一気に削れる。喰って稼いだものが、全部、無駄になる。光一つのために。割に合わない。徹底的に、割に合わない。


――見捨てろ。


欠片が、もう一度弾けた。今度は警告じゃない。計算の結論だ。行くな。お前が損をする。喰った意味がなくなる。


正しい。何もかも、正しかった。


 


俺は、奔流へ突っ込んでいた。


理屈は、一つもなかった。古き王がどうとか、次の俺がどうとか、そんなことは何も考えていなかった。ただ、あの光が呑まれる、それだけで、体が勝手に動いていた。考えるより先に、硬い縁を伸ばして、渦の中へ潜り込んでいた。


濃い、濃い、耐えられる限界の、そのさらに向こう。硬い縁が軋み、悲鳴のような震えが走る。喰って得たばかりの力が、この一瞬で、ごっそりと削れていくのが分かった。


【警告:生存率が急激に低下】


数字が、崩れ落ちるように減っていく。喰って積み上げたものが、片っ端から溶けていく。それでも、俺は手を止めなかった。渦の芯で、光に硬い縁を巻きつけ、渾身の力で、流れの外へ押し出す。


光が、奔流を抜けた。


薄い流れの、安全な側へ。小さな光は、ほどけずに、ちゃんとそこにいた。


俺の方は、そうもいかなかった。押し出した反動で、俺自身が濃い芯へ引きずり込まれる。抜け出すだけの力は、もう残っていない。喰って稼いだ分を、たった今、全部、光一つに注ぎ込んでしまった。


【非効率行動を記録しました】


 


流れがようやく緩んで、俺は濃い層のふちに、力尽きるように留まった。


弱っていた。ひどく。喰う前より、ずっと。せっかく積み上げた強さが、根こそぎ持っていかれた。効率だけで言えば、これ以上ないほどの、大失敗だ。


ステータスが、その行動を記録している。だが、そこには、良いとも悪いとも書いていなかった。【非効率行動を記録しました】――ただ、それだけ。いつもなら生存率の増減で親切に採点してくるくせに、今度ばかりは、この選択をどう評価していいのか、決めかねているみたいだった。損得の物差しからはみ出した行動を、こいつは、測る目盛りを持っていない。


欠片も、静かだった。見捨てろと二度も言った相棒は、俺が正反対のことをした今、責めもしなければ、慰めもしなかった。ただ、じっと、俺のこの馬鹿げた選択を、内側で見つめている。理解は、していない。効率で動くこいつには、今の俺が、まるで意味不明だろう。


それでも、こいつは、記録していた。


意味の分からない行動を、消しもせず、無かったことにもせず、確かに一つ、刻んでいる。いつか、この記録が何かの意味を持つ日が来るとでも言うように。


 


薄い流れの側で、小さな光が、揺れている。


助かった。俺が弱った分だけ、こいつは生き延びた。


自分だけ残っても、意味がないのかもしれない。ふと、そう思った。強くなって、喰って、生き延びて――その果てに、守るものを一つも残せないなら、それは、いちばん濃い底で君臨するあいつと、何が違う。


俺は、継承する記録の一覧を、ぼんやりと眺めた。逃走不能。白毒不適応。適応過負荷。積み上がった敗北の数々。そこに今、新しい一行が加わっていた。


【次世代継承項目:行動傾向を追加】


生き方の癖まで、次に渡る。喰う癖も、守る癖も、ぜんぶ。


その一覧を見ていて、ふいに、妙な感じがした。これは、ただのデータの寄せ集めなんだろうか。死んだ回数の、無味乾燥な記録。そのはずなのに――並んだ一行一行が、何か、もっと重いもののように思えてならなかった。誰かが、誰かのために書き残した、そんな。うまく言葉にできない。ただの気のせいかもしれない。それでも、その感触は、消えなかった。


 


強くなるために、喰った。その力を、守るために、全部捨てた。差し引きは、大赤字だ。効率で言えば、俺は今日、いちばん愚かなことをした。


だが、不思議と、恐れは薄れていた。喰う側に回って、古き王に近づいたんじゃないかと怯えていた、あの感覚が。喰う力が消えたわけじゃない。飢えは、まだ内側にある。ただ、その飢えに、今日、行き先が一つできた。奪ってでも、割に合わない何かに、注ぐ。何が変わったのかは、うまく言えない。言うつもりもなかった。ただ、体が勝手に動いた、それがすべてだった。


次の俺に、強さを残せなかったとしても。この癖だけは、残ればいい。


 


濃い底の奥で、大きな気配が、ぐらりと揺れた。


古き王だ。だが、いつもの、見下すような圧じゃなかった。重く、大きなその輪郭が、白毒のうねりの中で、ゆっくりと傾いでいく。あの、変わらないことを誇っていた強者が――沈みかけている。


そして、その気配が、こちらへ向いた。沈みながら、あいつは、俺を呼んでいた。弱りきって濃い底に留まる、この半端な化け物を。


なんで、今さら。そう思いながらも、俺は、その呼び声から目を逸らせなかった。変わらなかった強者と、変わることを選んだ俺。その二つが、今、白い海の底で、初めて正面から向き合おうとしていた。

喰う側に回った主人公は、いっそ効率だけで生きようとします。相棒の欠片さえ「見捨てろ」と言う。それが正しいと、主人公自身も分かっている。それでも――光が呑まれかけた瞬間、理屈をぜんぶ置き去りにして、体が動いてしまう。喰って稼いだ力を、割に合わない一つの光のために、全部注いで。ステータスはその行動を「記録」はしても、良いとも悪いとも評価できません。損得の物差しからはみ出た選択を、測る目盛りを持っていないから。強さは失いましたが、恐れは薄れました。奪った力を、割に合わない何かに注ぐ――それが、変わらなかった強者と、変わった主人公を分けるものなのかもしれません。次話にもご期待ください。

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