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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第16話 古き王、沈む

呼ばれている。


弱りきった体のまま、俺は濃い底の奥に目を向けた。あの大きな気配――古き王だ。いつもの、見下すような圧はもう無い。傾いだ巨体が、白毒のうねりの中で、ゆっくりと沈もうとしていた。それでも、こちらへ向いた気配だけは、はっきりと俺を呼んでいる。


光は薄い流れの側で無事だ。守り切った分、俺は削れたまま六代目のこの体で、その呼び声から目を逸らせずにいる。


近づくと、輪郭の震え方で分かった。もう長くない。周りに散っていた古い命たちも、今日は近づいてこない。誰も、この王の最期を見届けようとしない。


「……何の用だ」


答えの代わりに、重い圧が返ってきた。言葉ではない。だが、初めてはっきりと伝わってくる意思があった。――化け物が。


見下しではなかった。もっと剥き出しの、拒絶に近い響きだった。今まで幾度となく浴びせられてきた「異物」「汚れたもの」とも、少し違う。負けを認めたくない者の、最後の意地みたいなものが混じっていた。


【上位個体:機能停止傾向を検出】


 


助けを求めているわけではない。それでも俺は、硬い縁を伸ばしかけた。喰って稼いだ力の残りなんて、もう僅かしかない。それでも、何もせずに見ているだけというのも、据わりが悪かった。


だが、届かなかった。古き王の巨体そのものが、白毒に耐えきれなくなっている。大きいということは、それだけ濃さに触れる面が広いということだ。今までその大きさで押し返してきた圧が、今度は真っ先に飲み込まれる理由になっていた。


【警告:上位個体の崩壊が進行】


伸ばしかけた縁が、空を切る。俺が触れるより先に、古き王の輪郭が、内側からひび割れるように崩れ始めていた。


でかいことが、こんなに脆い理由になるとはな。


 


古き王は、それでも変わろうとしなかった。


抗う圧を、いつもの形のまま押し返し続けている。大きさで凌ぐ、力で黙らせる――濃度が上がるほどそのやり方は仇になっていくのに、他を試そうとする気配は微塵もなかった。もう一度、俺はわずかに残った力を集め、輪郭の隙間から縁を差し込もうとした。二度目の試みだ。


結果は同じだった。触れる前に、巨体の一部がまた崩れ落ちる。助けるには、俺はあまりに弱すぎたし、古き王はあまりに大きすぎた。


俺は、化け物と呼ばれた自分の体を見た。硬い縁、白毒変換、共生。ぜんぶ、元は最弱だった俺が、死んで、負けて、拾い集めてきたものだ。綺麗じゃない。安定でもない。それでも、この形だから、俺はここまで沈まずに来られた。


古き王は、その道を最初から選ばなかった。選べなかった、が近いのかもしれない。今さらそれを教えてやる義理も、時間も、もう残っていない。


 


俺は、手を止めた。


倒すつもりは、最初からなかった。今の俺に、そんな力は残っていない。それに――これは、殺し合いの続きじゃない。


見届ける。ただ、それだけでいい。


古き王の輪郭が、大きく揺れた。押し返す力を失った巨体が、白毒の濃い流れに、まるごと呑まれていく。抵抗の圧が、少しずつ弱くなっていく。最後まで、俺を化け物と呼んだまま――いや、見下すことしか、他に知らなかっただけかもしれない。


やがて、輪郭は完全に沈んだ。


反応が、消えた。


【上位個体:機能停止を確認】


 


海が、静かに揺れた。


崩れた巨体から、大量の何かが解き放たれていく。栄養、記憶、行動の癖――言葉にできない量の情報が、白毒の中に溶け出していくのが分かった。


【外部要素:大量検出】


【継承候補に追加】


膜の奥で、欠片が動いた。今度は「見捨てろ」でも、沈黙でもなかった。流れ出す栄養とログの気配に、真っ先に食いつくような震え方をしている。効率で動くこいつにとって、これは無視できるはずのないご馳走だ。


――抽出、開始。


そんな意思が、初めてはっきり伝わってきた気がした。


 


強者は、変わらないまま消えた。俺は、変わり続けて、まだここにいる。


最強であることは、結局、こういう結末を用意する。あの大きさも、力も、変化の前ではただの的でしかなかった。


弱った体に、古き王が残していったものの気配が、じわりと沁みてくる。栄養だけじゃない。行動の癖、敗北の記録、この海を支配した長い時間の重み――それが今、俺の継承候補に加わろうとしていた。


ステータスの表示が、揺れる。


【継承進化:発動条件を確認】


【進化条件:大幅充足】


見たこともない速さで、数字が動いていく。


支配者が消えた場所で、俺は今、何になろうとしているんだろう。

第16話は、古き王の退場回でした。倒すのではなく、見届ける。変われなかった強者は、その強さそのものが仇となって沈み、変わり続けた主人公がその場に残ります。崩壊した古き王からは大量の栄養とログが解き放たれ、欠片がそれを抽出し始める。そして、主人公のステータスに「進化条件、大幅充足」の表示が――。支配者の死体の上で、主人公は何を得るのか。次話にご期待ください。

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