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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第12話 選べ。安定か、化け物か

【安定】

【化け物】


二つの文字が、内側に並んでいる。


薄い流れに乗せた小さな光は、まだ濃い層の壁から離れたところで揺れている。守れたのは、ほんの一時だ。この流れがいつまで薄いままでいてくれるかも分からない。次の手を決めなければ、せっかく稼いだ猶予も、じきに濃さに呑まれて消える。


安定か、化け物か。名前だけ見れば、迷う余地もなさそうだった。


「……そりゃ、安定だろ」


口をついて出たのは、そっちだった。化け物なんて、字面からしてろくなものじゃない。安定は、読んで字のごとく安全そうだ。試しに意識を安定の方へ寄せると、ステータスが素直に応えた。


【安定:短期生存率 上昇】


数字が、はっきり出た。稼げる猶予が延びる。守れる時間が延びる。今の俺が一番欲しいものが、そこにちゃんと書いてある。


 


だが、化け物の方へ意識を向けたとき、違和感があった。


【化け物:白毒変換 強化見込み/共生 強化見込み】

【長期生存率:―――】


短期の数字が、ない。長期に至っては、線を引いたきり空欄だ。強くなる見込みだけは並べておいて、肝心の「その先どうなるか」は、何も書いていない。


「……出さないのかよ。都合の悪いとこだけ」


いつもの手だ。見せたい数字は太字で出して、見せたくないものは黙る。安定にはちゃんと生存率をつけて、化け物には空欄を返す。まるで「こっちを選べ」と誘導されているようだった。


それなら、答えは決まっている。ステータスが安定を勧めるなら、安定を選べばいい。素直にそう思いかけて――ふと、手が止まった。


膜の奥で、欠片が黙り込んでいた。安定の数字を眺めている間、あれほど反応していた住人が、水を打ったように静かだった。


「……お前、乗り気じゃないのか。安定に」


答えは返らない。だが、試しに意識を化け物へ戻した瞬間、欠片がぴくりと引き攣った。行けと言わんばかりの、あの逃げ道を教えるときの揺れだ。物騒な方にだけ、こいつは反応する。


 


迷っている間にも、海は待ってくれなかった。


欠片が、鋭くこわばった。逃げろの合図とは違う、もっと外へ向いた警告だ。反応の先を追うと、薄い流れの縁に、濃い白の筋が一本、じわりと差し込んできていた。光のいる場所へ、ゆっくりと。


「――っ、まだ動くな」


とっさに輪郭を伸ばし、光を筋とは逆の側へ押しやる。細い流れの中で、光がわずかに位置を変えた。濃い筋は、光のいた場所をかすめて逸れていく。間に合った。だが、心臓の代わりのどこかが、ひやりと縮んだ。


守れる時間は、こうしている今も削られている。この薄い流れは、いつまでも安全な揺りかごではない。選ぶのが遅れれば遅れるほど、光ごと呑まれる。


 


安定を選んで、その先はどうなる。


考えかけて、答えはもう知っていることに気づいた。耐えるだけでは詰む。散々、身をもって思い知ったはずだ。耐性を積んでも濃さの伸びに追いつけず、最強にすがれば体が裂けた。安定というのは、要するに「今の強さで踏みとどまる」ことだ。踏みとどまったところで、この海はどんどん濃くなっていく。


濃い白の奥に、あの気配があった。古き王だ。姿は見えない。だが、こちらの迷いを見透かすように、悠然とそこに在る。強く、安定して、変わらずにいられる者。安定を選ぶというのは、あいつの側に一歩近づくということだ。


そして俺は、あいつの配下が濃さに呑まれて次々沈んでいくのを、この目で見てきた。安定した強さは、環境が変わった瞬間、いちばん脆い。


気配が、ふっと嗤った気がした。半端者が、また分不相応な方へ手を伸ばそうとしている――そう見下されたのが、はっきり伝わってきた。


「……せいぜい見てろよ」


 


薄い流れの先で、小さな光がまだ揺れている。


安定を選べば、この光をもう少し長く守れる。だが「もう少し」でしかない。濃さが伸び切れば、安定した俺ごと、この光も呑まれて終わる。守れる時間が延びるだけで、守り切れるわけじゃない。


守り切るには、この海そのものに追いつく強さがいる。安定の外にしか、それはない。


見栄えのいい強さより、次に渡せる強さ。何度も繰り返してきた言葉が、また胸の奥で立ち上がってきた。安定は、今の俺には見栄えがいい。安全で、数字もついていて、住人以外のすべてが勧めてくる。だからこそ、違う。


「――決めた」


化け物ルートへ、意識を定める。空欄の長期生存率が、俺を見返してくる。その先に何があるのか、ステータスさえ知らないらしい。誰も保証してくれない。それでも。


膜の奥で、欠片が強く波打った。ようやくかと言いたげな、けれど少しだけ心配そうな、そんな揺れだった。


「俺は――化け物ルートを選ぶ」


言い切った瞬間、内側で何かが、静かに動き出す気配がした。安定を蹴った代償が、これから始まるのだろう。楽な道は、たった今、自分の手で消した。残ったのは、名前からして化け物になる道だけだ。


薄い流れの光を、もう一度だけ確かめる。次に目を開けたとき、俺はまだ「俺」でいられるのか。それとも、名前のとおりの何かになっているのか。今の俺には、まだ分からなかった

第12話は、主人公が「楽な道を自分で消す」回でした。安定にはちゃんと生存率の数字が出るのに、化け物ルートの長期生存率は空欄――ステータスは都合の悪い数字を見せません。それでも、耐えるだけでは詰むと身をもって知った主人公は、安全な安定=古き王の側ではなく、海そのものに追いつくための異形を選びます。守り切るために、自分が化け物になる道を。次話、宣言した化け物ルートの実行と、その代償が始まります。ご期待ください。

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