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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第11話 俺の中に、俺じゃない力が住みついた

体の奥で始まった律動は、目覚めても止まらなかった。


震えでも脈でもない。俺の意志とは関係なく、内側で何かが伸び上がろうとしている。共生深化を選んだ代償が、これらしい。取り込んだはずのものが、逆に俺を内側から押し広げようとしていた。


【共生反応:急速進行】


「……落ち着け。暴れるな」


言い聞かせても届かない。相手は言葉で動くものではなかった。膜の内側で、俺じゃない何かが確かに膨らんでいく。まるで、借りたはずの部屋に勝手に住みつかれて、家主の俺が隅へ追いやられていくようだった。


 


抑えようとした。律動を押さえ込み、暴れる反応を鎮めにかかる。だが力を込めるほど、白毒を活動力に変える働きが鈍っていくのが分かった。


【白毒変換:出力低下】


まずい。今の俺から変換を取り上げられたら、動く力そのものが細る。すぐ隣では、小さな光がまだそこに留まっている。その周りの濁りは、さっきよりもさらに濃い。押さえ込みに気を取られている間にも、白い層はじりじりと光へ迫っていた。


排除すれば、この暴れは止まる。止まるが、変換も一緒に失う。取り込めば、変換は残る。残るが、この制御不能の何かに体の主導権を明け渡すことになる。


「……どっちも詰みかよ」


短く舌打ちが出た。いつもの手だ。都合のいい二択を並べて、どちらを選んでも俺が損をする。だが今回だけは、天秤が最初から傾いていた。押さえ込んだところで、光を守る力が細るなら意味がない。守れないなら、生き延びても何も残らない。


答えは、考えるより先に決まっていた。


「食われるくらいなら――取り込んでやる」


抑える手を、逆にした。締めつけるのをやめて、暴れる律動をまるごと内側へ抱え込む。拒むのではなく、迎える。黒い枝を選んだときと同じ、見栄えより先を選ぶ手だ。


【共生反応あり】


表示が変わった瞬間、内側で何かが、ぴくりと動いた。


 


――ちっ。


そんな音が、聞こえた気がした。


俺の声じゃない。震えの質でもない。膜の奥の、俺が一度も踏み込んだことのない場所で、知らない誰かが確かに舌打ちをした。呆れたような、値踏みするような、それでいてどこか諦めたような。まるで「世話の焼ける宿主だ」とでも言いたげな響きだった。


「……今、舌打ちしたか? お前」


答えは、言葉では返らない。代わりに、ステータスがそれに名前を与えた。


【共生体:欠片】


「欠片……?」


思わず声が漏れた。俺が名付けたわけじゃない。相談されたわけでもない。いつの間にか取り込んだ何かに、いつの間にか名前がついている。しかも欠片ときた。何の欠片だ。誰の。説明は、例によってどこにもない。


【共生体:欠片】

【分類:該当項目なし】


ご丁寧に名前をつけておいて、その正体は分類できないと言う。名付けた本人が中身を知らないような表示だった。相変わらず親切なんだか不親切なんだか分からない。だが、ひとつだけはっきりしたことがある。俺の中には今、俺じゃないものが住みついた。名前を持った、はっきりした他者として。


 


住人は、静かに黙り込んだわけではなかった。


光へ意識を戻した、そのときだ。膜の奥で、欠片がぞわりと波打った。舌打ちとは違う。もっと鋭い、逃げろとでも言うような引き攣りだった。反応が向いている方向を、俺はとっさに避けた。


直後、さっきまで俺の輪郭があった位置を、ひときわ濃い白毒の筋が通り過ぎた。


「……教えて、くれたのか」


欠片は答えない。だが、次に濃い層が来る前に、また同じ引き攣りが走った。今度は逆側。俺はその通りに身を寄せる。濃い筋が、また逸れていく。


――こいつ、濁りの濃さを読んでいる。


俺自身の感覚では、白い層はどこも同じ乳白色にしか見えない。濃いも薄いも、迫られて初めて気づく。だが欠片は、来る前に反応する。濃い方向へこわばり、薄い方向へ緩む。そのうねりを追いかけるだけで、俺には見えない濁りの地図が、うっすらと浮かび上がってきた。


【共生同調:白毒濃度の傾きを検出】


避けるための耐性でも、耐えるための変換でもない。読むための目だ。俺がずっと持っていなかった感覚器を、住みついたばかりの他人が肩代わりしている。


 


だったら、やることは決まっている。


小さな光は、まだ濃い層に追い詰められかけていた。守る場所を探す余裕はないと、ずっと思っていた。だが今は、探すための目がある。俺は欠片の反応に神経を集めた。濃い、濃い、そこは駄目だ――こわばる先を避け、緩む方向だけを拾っていく。


あった。ほんのわずかだが、濁りが途切れて薄く流れる筋がある。今までの俺なら、迫られるまで気づけなかった隙間だ。


俺は輪郭を伸ばし、光をその薄い流れへ押しやった。突き飛ばすのではない。濃い層から引き剥がし、切れ目のある方へそっと乗せる。光は逆らわず、細い流れに沿って、濃い白の壁から離れていった。


【庇護行動:成立】


守ろうとして、初めて守れた。


これまでは違った。押し出しても届かず、庇っても濃さに追いつかれ、守ろうとするたびに死んできた。何度も失敗してきたその行動が、今ようやく、失敗以外の結果を返した。舌打ちする住人ひとりで、こんなにも変わるものか。


「……悪くないな、お前」


欠片は、ふんと鼻を鳴らすように、ひとつ短く波打っただけだった。礼を言われるのは柄じゃない、とでも言いたげに。


 


光が薄い流れに乗ったのを見届けて、俺は自分の内側をあらためて探った。


妙だった。これほど得体の知れないものを、なぜ体は拒まなかったのか。ふつうなら、異物は弾かれる。取り込むどころか、内側から壊されてもおかしくなかった。


そこで、思い当たった。黒い枝だ。


あの選択肢を選んでからずっと、内側にわだかまっていた異物感。何のためにあるのか分からず、ただ気味の悪い感触としてやり過ごしてきたもの。あれが今、欠片を受け止める下地になっている。外から来たものを弾かず、根を張らせ、居場所を作る――黒い枝は、そういう体に俺を作り変えていたらしい。


【黒い枝:外部要素の受容基盤として機能】


得体が知れないのは変わらない。何のための力なのか、正体も相変わらず闇の中だ。だが少なくとも、無駄な異物感ではなかった。土台だったのだ。欠片という住人を迎えるための、地ならしだった。


 


安堵しかけた、そのときだった。


遠く、濃い白の奥から、こちらを見る気配がした。姿は見えない。だが、あの見下すような圧には覚えがある。古き王だ。


気配は、俺を長くは見なかった。ただ一瞬、値踏みして、興味を失うように逸れていった。強くもなく、清くもなく、あろうことか得体の知れないものまで抱え込んだ半端者――そう切り捨てられた気がした。汚れたもの、の次は、異物扱いか。


「……上等だ」


見下されるのは慣れている。だが、今の俺は一人じゃない。膜の奥で、欠片も同じ方向へ、剣呑にこわばっていた。俺の代わりに睨んでくれているような、そんな身構え方だった。


 


古き王の気配が去ると、内側の解析が、また新しい表示を並べ始めた。


【共生の定着を確認/進化条件を再解析】

【次の分岐点に到達】

【進化選択肢を提示】


来た。欠片を得て、俺の体はまた次の形を選べるところまで来たらしい。並んだ選択肢は、二つ。


【安定】

【化け物】


素っ気ない二択だった。安定は、字面からして安全そうだ。化け物は――字面からして、ろくなものじゃない。


だが、選択肢を見た瞬間、膜の奥で欠片が動いた。安定の方へは、冷めた沈黙。化け物の方へは、ぴくりと、興味を示すような引き攣り。


「……お前、まさか、そっちがいいって言うのか」


住みついたばかりの他人が、もう俺の選択に口を出してくる。しかも、よりによって物騒な方へ。舌打ちする相棒との付き合いは、どうやら思ったより手がかかりそうだった。


答えを出す前に、俺は薄い流れの先で揺れる小さな光を、もう一度だけ確かめた。安定か、化け物か。どちらがこの光を、次まで運べるのか。

第11話は、主人公がついに「一人ではなくなる」回でした。暴れる共生候補を排除ではなく取り込むと決めた瞬間、ステータスが勝手に名前をつけます――欠片、と。まだ言葉は話しませんが、舌打ちと危険への反応で存在を主張し、その反応を「濁りを読む目」として使うことで、主人公は初めて小さな光を守り切ります。何度も死んできた「守る」が、初めて成功する回です。黒い枝の異物感が、この住人を受け入れる土台だった――という気づきも。

次話、進化選択肢は「安定」と「化け物」。欠片が物騒な方へ反応する中、主人公は何を選ぶのか。ご期待ください。

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