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最弱生命に転生した俺、死ぬたび進化スキルを継承して46億年後の最強種を目指す  作者: 真々


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第10話 最強ルートが、なぜか選択肢から消えた

【選択可能ルート:最強適応】


その文字を見ているだけで、胸の奥が疼くような感覚があった。避けて、耐えて、喰って、ここまで来た。それでも根っこのところで、俺はずっと弱いままだ。最強、という言葉には抗いがたい引力があった。


古き王のような余裕を、俺も手に入れられるのか。汚れたものと呼ばれずに済むのか。そんな考えが、次から次へと浮かんでは消えた。


「……選んで、みるか」


迷いはあった。だが、選べるものが目の前にあるのに選ばない理由が見当たらなかった。これまでの選択肢は、いつも情報がないか、生存率が低いか、どちらかだった。今度は違う。ちゃんと名前がついていて、堂々とそこにある。疑う理由より、飛びつく理由の方が多かった。


俺は最強適応ルートを選んだ。


【適応進行中】

【身体強度:上昇】

【活動効率:大幅上昇】


見たことのない勢いで、数値が伸びていく。輪郭に力がみなぎる感覚があった。今までのどの強化とも違う、根本から作り替えられていくような手応え。


「……これが、最強か」


笑いが漏れそうになった。速さも、耐性も、変換も、これまで積み上げてきたものが、まとめて底上げされていくようだった。古き王と並んでも見劣りしない――そんな錯覚すら覚えた。喰われるだけだったあの頃を思えば、笑ってしまうくらいの変わりようだ。


もっとだ。もっと伸びろ。そう念じるように、俺は適応の流れに身を任せた。止める理由が、どこにも見当たらなかった。数値は面白いように上がり続け、まるでこの海のすべてを見下ろせる場所まで、一足飛びに駆け上がっていくような気分にさせられた。


 


だが、その高揚は長くは続かなかった。


輪郭の内側で、何かが軋み始めた。上昇し続ける数値に、体そのものが追いついていない。最弱として生まれ、極小のまま積み上げてきたこの体は、「最強」という器を受け止めるようにはできていなかった。


【警告:構造限界を超過】


見た瞬間には、もう遅かった。


「……は? おい、待て」


止めようとしても、止まらない。適応は勝手に進み続け、輪郭が内側から圧し潰されていく。あれほど好調に見えていた数値が、まるで最初から嘘だったかのように、次々と赤く点滅していった。


【身体強度:崩壊】


「……騙し、やがったな」


都合の良い数字だけを先に見せて、限界だけを黙っている。今までもそうだったが、これほど分かりやすく裏切られたのは初めてだった。喜ばせるだけ喜ばせて、落とすところまで落とす。まるで最初からそういう仕組みだったかのように。


意識が薄れていく中で、最後にもう一度、古き王の姿がよぎった。あの余裕も、いつか同じように内側から裂けるのだろうか。そんなことを考える余裕があったのが、自分でも可笑しかった。喰われて死ぬのとも、白毒に蝕まれて死ぬのとも違う。今度は、自分で選んだ強さに、自分の体が耐えられなかっただけだ。皮肉にも、一番情けない死に方をしている自覚だけは、最後まではっきりしていた。


【死亡原因を記録しました】


【継承する記録:生存意志/抵抗意志/逃走不能による死亡/分裂による再起/庇護行動・試行と失敗/白毒不適応による死亡/白毒耐性の獲得/適応過負荷による死亡】


【次世代生存率:再計算中】


数字の動きを、最後まで見届けることはできなかった。


 


意識が浮かび上がる。次の個体として、目覚めた。


【死亡原因:適応過負荷】


確定表示だった。曖昧な候補ではない。「選べば強くなる」はずの道が、選んだ瞬間に終わりへ変わった――その事実だけが、揺るぎなく記録されている。


六代目か。数える気も失せていた。死ぬたびに一つ賢くなっている実感はある。それでも、賢くなった分だけ死に方の種類が増えていくだけなら、これは進歩と呼んでいいものなのか、自分でも分からなくなってきた。


【死亡原因:適応過負荷を解析/代替戦略を検索】


解析が進む感覚があった。壊れ方を辿れば、壊れない形も見えてくる。だが今回は、様子が違った。


【一致スキル候補:該当なし】

【残存選択肢を確認】

【選択可能ルート:共生深化】


「……最強の道は、もう残ってすらいないのか」


最強適応ルートは、選んだ瞬間に潰えた。潰えた道は、二度と選択肢に戻ってこない。あれほど魅力的に見えた文字が、今はもう跡形もない。選ぶ前から消えていた前回とは違う。今度は、選んだ結果として消えた。同じ「消える」でも、重さがまるで違った。


残っているのは、黒い枝の先に伸びた、あの素っ気ない名前だけだった。


「……また、これかよ」


情報のないものを選ばされる。一度目は黒い枝。今度は、その先の共生深化。名前だけ与えられて、中身は自分で確かめろということらしい。だが今回は、選ばされているというより、選ぶしかない場所まで追い詰められたという方が近かった。


 


体の中で、共生候補がわずかに反応した。今までの短い警告とは違う。もっと確かな、意思のようなものを感じる揺らぎだった。まるで、死んで戻ってきた俺を待っていたかのようなタイミングだった。


「……お前も、これがいいって言うのか」


答えは返らない。それでも、震え方の質が変わったことだけは分かった。まるで「強いは長くない」とでも言いたげな、静かな揺れだった。


迷っている暇はなかった。光の周囲、白毒の濃さがまた一段と増している。守れる場所を探す余裕は、もう長くは残っていない。耐性を積んでも、速さを得ても、そして最強にすがってみても、この濃さの伸びには結局追いつけなかった。今までの延長線上に、答えはなかった。それだけは、身をもって思い知った。


「……最強にはなれない。なれないどころか、死んだ。だったら」


言葉にする前に、答えは決まっていた気がした。見栄えのいい強さより、次に渡せる強さ。黒い枝を選んだときと、同じ理由だ。今度は身をもって、その理由が正しいと証明してしまった。


俺は共生深化を選んだ。


選択が確定した瞬間、体の内側で、これまでにない反応が跳ねた。


【共生反応:急速進行】


外から来た何かが根を張るのとも、内から積み上げるのとも違う。まるで、初めから居たはずの何かが、ようやく目を覚ましたような感触だった。


「……お前、まさか」


問いかけへの答えは、まだない。ただ、体の奥で何かが、確かに動き始めていた。震えとも脈とも違う、初めて感じる種類の律動だった。光はまだそこにいる。それだけを確かめながら、俺はその律動に身を委ねるしかなかった。最強を求めて死んだ体が、今度は何になろうとしているのか、今の俺にはまだ見当もつかなかった。


第10話は、「最強ではなく適応」というテーマを、実際に選んで死ぬという形で体感する回でした。好調に見せた数値が土壇場で裏切り、最強への道は選んだ瞬間に潰えます。残ったのは、情報のない共生深化だけ。光を守るため、主人公は今度こそ分からないものに賭けました。次話、体の中で目を覚ましたものの正体にご期待ください。

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