【8】愛とあったかごはんを手に入れます
目が覚めたら、悪者たちはもう捕えられていた。呪いが解けた国王が宰相や騎士団長に命じたらしい。
私はまたアトラスに姫抱っこされて塔に連れ戻されたんだって。
「毎度毎度、すみません」
「毎度毎度、魔力枯渇寸前になるまで父と俺を助けてくれてありがとう」
ソファーに座ったアトラスに抱えられていたまま頭を下げ合ったものだから、ふたりの頭がぶつかった。
おかしくて吹き出して笑っていると、アトラスが真面目な顔をする。
「ちゃんとプロポーズさせてもらえないだろうか。前回はなんというか、万全ではなかったので」
「あ、そうでしたね。私の勘違いで、プロポーズだったことになってしまいましたもんね」
ハハハ、恥ずかしい。穴に入りたい。
「マリエラ、君は奇想天外な方法で俺の世界を照らしてくれた。君の優しさは果てしがなく、魔導士や父上まで癒してくれた。君となら、暗闇に覆われかけた国を明るくできるだろう。マリエラ、どうか俺の妻になってくれないか。ふたりで明るく笑いの絶えない家庭と王国を築きたい」
「はい、喜んでお受けします」
『条件プロポーズが達成されました。推しからのプロポーズで、チャージが爆速になります。これ以上チャージが貯められません。おすそ分けしますか?』
「はい、おすそ分けします。この国と前世のあの国の、真面目に働いているのに報われない人々に」
届け届け、いいねよ届け。みんなに、社畜に、ワンオペ民に。
うっすらと、色んな人の喜びの声が聞こえてきたように思う。
「クソ上司がつかまったー」
「有休消化して英気を養えだって、マジか」
「オレたち昇給するってよ」
「労基が入ったー、うぇーい」
「サビ残が全部振り込まれることになった、奇跡」
「パワハラ上司がクビになった」
「新しい上司がまともな人。普通に会話できるだけでも神なのに、指示が的確。これは夢か」
みんなの顔が思い浮かんで、つられて笑顔になる。
体中に力がみなぎった。
「さあ、女神様をお清めにいかなければ」
「え、今?」
「はい、約束しましたから」
止めるアトラスを押し切り、どこでも扉で神殿の女神像の場所に入った。
「俺も手伝う」
「いいんですか? では、まずハタキでホコリを払ってください」
ハタキをかけていたアトラスの手が止まる。
「母上」
アトラスが女神像を見てつぶやいた。
「母上にそっくりだ」
「そうなんですね。お母さまは聖女だったのですよね? 神様が、お母さまの魂を少しここに残してくださったのかもしれません」
この世界の神様、割とノリがよくて話が分かるような気がするもの。
アトラスのお母さんに似た女神像。今まで心を込めて清めてきて、本当によかった。適当にやってたら、きっと今アトラスをまっすぐ見れなかった。
「母上に似た女神様。さきほどマリエラが俺のプロポーズを受けてくれました。これからも、見守ってください」
女神像から、心なしか優しいオーラが出ている気がする。アトラスのお母さんが、私を認めてくれたのかもしれない。
どこでも扉で塔に戻った私は、やっとアトラスの食環境改善プロジェクトに手をつけることができた。手動エレベーターを改良することにした。
「王宮のキッチンと扉をつなげればいいと思うのです」
キッチン側にも扉を作る。手動エレベーターについていたこちら側の扉と、キッチン側の扉は、同時に開くことはない仕様にする。ここから侵入されたら困るからね。
扉の間にはフードウォーマーを設置。
王宮の料理人が作ってくれたおいしい料理を、キッチン側の扉を開けてフードウォーマーに置いてもらう。
こちら側の扉を開ければ、できたてホカホカのごはんが食べられるというわけ。
「早速、料理人たちに説明しにいきましょう」
おいしいごはんは最優先事項だもの。そこは譲れない。
どこでも扉を作り、王宮のキッチンに行く。料理人たちは突然現れた私を見て包丁を向けたけど、後ろに立っているアトラスを見てすぐに跪いた。
「仕事中にすまない。俺の最愛のマリエラが、どうしても温かい食事を俺に食べさせたいらしくてな」
「便利扉の使い方をお伝えしに来ました。この小さな扉を開けて、中においしいごはんを入れてください。私たちが空のお皿などを中に入れたら、この扉にごちそうさまでしたと文字が出ます」
アトラスの前で緊張しまくっている料理人たちに、きっちりと使い方を覚えてもらい、ついでに私たちの好きな食べ物も伝えた。
「私は具だくさんのスープ、卵料理、野菜たっぷり料理が好きです。お菓子も好きです。アトラス様は?」
「マリエラが好きな物が、俺の好きな物だ」
「まあ、アトラス様ってば。それでは、料理人の皆さんがお困りですよ。そうですねえ」
考えたけど、アトラスの好きな食べ物が思いつかない。
「では、こうしましょう。毎回、料理の感想を書いてお皿の上に置いておきますね。それを参考にメニューを考えてください」
そう言うと、料理人たちがホッとしている。
「近いうちに、皆さんの職場環境を改善しに来ます」
そう約束し、ついでに色んな料理をお盆に載せてもらい、どこでも扉を通って塔に戻った。
「マリエラはすごいな」
「だって、ここは私たちの愛の巣ではありませんか。居心地よくするにはごはんは大事です」
「そうだな。マリエラと食べればなんでもおいしいが、おいしいものならより美味になるな」
「さあ、早速食べましょう。おなかペコペコです」
こうして、私たちのQOLは改善していった。




