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処刑台のワンオペ聖女〜神ペンで推しとブラック職場を改善します〜  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック①②発売)


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【2】推しの作画が良すぎて辛い

 豪華だけれど、寒々とした雰囲気の部屋。薄暗いのは、窓がないからだ。部屋全体を見ようとすると、目の前に剣を突きつけられた。

 

「動くと殺す。どうやって中に入ってきた。魔物か、刺客か、何者だ」


 どす黒いモヤモヤに包まれた、超絶イケメンが目の前に!


「アトラス様!」


 マンガに出てきたキャラ。きっとヒーローになるんだろうなって期待してたキャラ。


 母を亡くした不遇な第二王子。魔王討伐に行って、魔王を倒したらその膨大な魔力を吸収しちゃって、魔力暴走しないように塔に閉じ込められてるの。


 アトラスが、動いてしゃべってるううううう。か、かっこいいいいい。イケボーボ・ボーボボ。美しい。尊い。もう、思い残すことはない。くっ殺せ。


「いや、答えるまでは殺さぬが。イケボーボ・ボーボボとはなんのことだ」


「はうっ、なんとした失態。心の声を垂れ流してしまった。わ、私は魔物でも刺客でもありません。マリエラです。ちょっと前まで聖女としてエリオット王子の婚約者もやっていました。新聖女にはめられて、魔女にしたてあげられ、すわ処刑というそのときに、神さまからスキルを授かり、逃げて来ました」


 キリッと答えると、アトラスが眉をひそめている。はわー、困惑顔の推し、最高か。


「お前、俺の魔力を前にして、なぜそうも余裕でいられる?」


 あら、そういえば。なんででしょう。アトラスを包む黒いモヤモヤが羽根ペンに吸い込まれているような。もしや、充電? きっとそう。さっきは体に力が入らなかったのに、今は平気。


「私の神ペンが、アトラス様の魔力を吸い込んでいるようです。魔力切れを起こしかけていたので、助かります。ありがとうございます」


 ペコリと日本式に頭を下げる。見上げると、アトラスは口を少し開けている。推しのポカン顔、愛しい。イケメンは正義。どんな表情でも美。


「信じられない。俺の魔力を勝手に吸い取れるだと。いや、信じがたいが確かに体が楽だ。大量の魔石に力を注いだ後のように、体が軽い。本当なのか」


「本当みたいです。アトラス様の周りにある黒いモヤモヤ、ほとんどなくなりましたよ。あら、目の下にクマが。なんてこと、ちょっと失礼」


 羽根ペンでささっとクマを撫でる。あっという間にクマは消え、黒モヤのなくなったアトラスは、まぶしいくらいにキラキラしている。


「こ、これがイケメンの天然キラキラオーラ。す、すごい。トーンいらずね」

「先ほどから何を言っているのかさっぱり分からぬが」


 アトラスが頭を抱えている。ああ、ロダンがここにいれば、悩める美青年シリーズを作ってくれるのに。


 それにしても、美しい。そこにいるだけで絵になる美青年。ゆるくウェーブした柔らかそうな黒髪。奇跡のような青色の目。完璧に整ったお顔。背が高く、引き締まった筋肉。ありがとうございます。眼福です。


 あら、またクマがご尊顔に忍び寄ってる。どういうこと。


 羽根ペンでクマの元をたどっていくと、アトラスの体の色んな箇所に流れがよくない場所がある。なんだか詰まっているような。


 これは、あれでは。


「キャッシュフロー改善の四原則。資金の流れを良くするには、入金を早く、支払を遅く、在庫を減らし、経費を削減する。アトラス様は、魔力の在庫がたまりすぎている。つまり、過剰在庫が資金の、もとい魔力の流れを妨げている」


 私の経理脳が速く速くと叫ぶ。


「アトラス様、その過剰魔力、適切に循環させていただきます」


 私の経理脳に国内の魔力循環パイプが浮かんでくる。


 聖女として魔力を込め、国内の主要部分に結界石を届けてきた。国の結界石と、アトラスを閉じ込めているこの塔の結界石をつなげ、網の目のように送電網をはりめぐらせていく。


『ワールド・エディター、送電網、いや、送魔網』


 描いた送魔網に、アトラスの体から魔力がスムーズに流れていく。


「やった、送魔網を整え、詰まり箇所を削り、魔力を国全体に回す。できた、できましたよ。自動送金システム構築による魔力の減損処理。全て、整いました」


 ワンオペ経理喪女の本領発揮。ありがとう、前世で私を支えてくれた経理知識。異世界転生しても役に立ってる。



 カラン、音がした。アトラスの手から剣が落ちている。


 アトラスが跪いた。


「聖女マリエラ、俺の救いの女神。あなたに一生の忠誠を誓います」


 きゃっ、これはもしやプロポーズ! あわわ、リンゴーンけっこーんしんこーん、幸せの鐘が鳴るー。どうしよう、どうしよう、どうしよう。私みたいな平凡なモブが、こんな美形と結婚? 無理無理無理。美人は三日で飽きるとか言うけど、あれ絶対ウソだから。モブは三秒も見たくないけど、美人は三年ぐらい平気でしょうよ。ねえ。


 あれ、ちょっとまった。ちょっとまったー。私って今、マリエラ。情熱的な赤い髪に、雌ヒョウのような金色の瞳、絵に描いたような美少女のはず。


 ということは、並び立っても大丈夫なのでは? 中身は残念だけど、外見だけなら釣り合うわけで。勇気を出すのよ、マリ。ここでひよったら、なんのための異世界転生なの。


 神様がくれた、一世一代のチャンスじゃない。言うのよ、マリ。言っておしまいー。


「はい。喜んでプロポーズをお受けします」


 絞り出すように声を出した。小さな声しか出なかった。


「プロポーズ?」

 アトラスが戸惑ったような顔をしている。


「プロポーズ、ですよね? え、もしかして違いました? ウソ、やだ、そんな。恥ずかしいいいい、ごめんなさい」


 穴が合ったら入りたい。床に穴を描こうと神ペンを動かしたら、アトラスに手をつかまれた。


「プロポーズで間違いない。ああ、そうだ。一生の忠誠を誓うということは、プロポーズとなんら変わりはない。まさか、こんな呪いの王子と結婚したい女性がいるとは思わなかった。俺と結婚してくれますか、マリエラ」


 うっ、強引にプロポーズさせちゃったみたいじゃん、これって。なんてこと。私のバカバカ。でも、アトラスは嬉しそうだ。


「あの、なんだかごめんなさい。私がひとりで盛り上がっちゃって。アトラス様と結婚できるなら嬉しいです。アトラス様が本当に私と結婚したくなるまで待ってます」


「分かった、次はきちんとプロポーズする。待っていてくれ」

「はい」


 安心したような笑顔のアトラス。び、美。美の極致。神様、ありがとうございます。


 感謝していたら、鼻の下に温かいものを感じた。指でぬぐうと、なんと鼻血。

 流れ出る鼻血を、私は羽根ペンで消しまくった。なんてこった。



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