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【第2章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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209. それからの話

申し訳ありません。突然トラブルがありまして、3月いっぱい忙しくなってしまいそうです。

遅れてもきちんと更新はする予定ですので、ご安心ください。

 次の日の朝。


 ツムギはジンと並んで、ノアの家へ向かっていた。


 昨夜の賑やかな打ち上げとは違い、朝のカムニア町は静かだ。

 パン屋の煙突からは湯気が上がり、通りには焼きたての匂いが流れている。


 その匂いを感じながら、ツムギは胸の奥で小さく息をついた。


 ――怒られるかな。


 いや、きっと怒られる。


 むしろ怒られない方が怖い。


 隣を歩くジンも、どこか落ち着かない様子で頭を掻いている。


 「……まあ、その」


 言い訳のように呟く。


 「父さんも昨日はびっくりしてな」


 ツムギは苦笑する。


 「うん。わかる」


 むしろ一番驚いていたのは、自分かもしれない。


 まさか、あんなふうに自然に言葉が出るとは思っていなかったのだから。


 


 ノアの家の扉を叩くと、しばらくして中から足音がした。


 扉が開く。


 ノアは腕を組んだまま、じっとこちらを見た。


 「……遅い」


 その一言で、空気がぴしりと張りつめる。


 ツムギとジンは、思わず背筋を伸ばした。


 「どういうことかしら?」


 静かな声だったが、十分すぎる圧がある。


 ツムギはぺこりと頭を下げた。


 「ごめんなさい」


 ジンも慌てて続く。


 「いや、その、俺も昨日初めて聞いて――」


 「あなたは黙ってて」


 「はい」


 ジンは一瞬で沈黙した。


 


 それからしばらくの間、ツムギはゆっくりと話した。


 自分の中にあるもうひとつの星の記憶のこと。

 それを長い間、どう言葉にしていいかわからなかったこと。


 ノアは途中で口を挟まず、黙って聞いていた。


 


 そして――


 話し終わると、ノアはふいっと顔をそらした。


 「……拗ねるわよ、そりゃ」


 ぽつりと言う。


 ツムギは思わず苦笑した。


 「うん。だよね」


 「娘の大事な話を、一番に聞けないなんて」


 ノアは少し頬を膨らませる。


 「母親としては、面白くないわ」


 


 しばらくの沈黙のあと。


 ノアはふっとため息をついた。


 そして、ツムギの顔をじっと見る。


 「……でも、まあ」


 口元が少し緩む。


 「確かにね」


 肩をすくめる。


 「私たちの子にしては、出来すぎだと思ってたのよ」


 ジンが横で小さく吹き出す。


 「だろ?」


 「あなたは黙ってて」


 「はい」


 


 ノアはツムギを見ながら続けた。


 「でもね」


 少し優しくなる声。


 「夢中になって何か作り出すところは、ジンにそっくりだし」


 ジンが少し照れた顔になる。


 「ちょっと抜けてるところは――」


 ノアが、にやっと笑う。


 「私譲りね」


 ツムギは思わず笑った。


 怒られて、拗ねられて、それでも最後はこうして笑ってくれる。


 胸の奥に、ほっとした温かさが広がっていった。



 それからの日々は――


 驚くほど、何も変わらなかった。


 みんなは、あの日ツムギが打ち明けた話を、必要以上に気にすることもなく、いつも通りの時間を過ごしている。


 ナギは相変わらず新しい布を見つけてははしゃぎ、

 バルドは素材を前にすると少年のように目を輝かせ、

 リナとイリアは商売の話になると一瞬で空気を切り替える。


 エリアスは相変わらず冷静に状況を整理し、

 ジンは工房の奥で黙々と手を動かしている。


 そしてハルは、今日もどこかで素材を拾ってきては「これ何かに使える?」と目を輝かせる。


 POTEN創舎の日常は、変わらず賑やかだった。

 

 変わったことがあるとすれば――


 ほんの少しだけ。


 ツムギが、研究や実験の途中で、地球での知識を遠回しに言わなくなったことくらいだ。


 以前は「昔どこかで聞いた話なんだけど」とか「誰かの手帳で見た気がするんだけど」と、言葉を選びながら説明していた。


 けれど今は、


 「前にいた世界では、こういう仕組みがあってね」


 そう、自然に言える。


 それだけで、胸の奥の引っかかりが、少し軽くなった気がしていた。



 ある日の工房でのこと。


 そんな話をしていたとき、エドがふと面白そうに笑った。


 「実はね」


 木箱の上に腰を掛けながら言う。


 「ここ、エヴェリア王国は――公にはされていないけど、もともと“別の星から来た人間”が作った国らしいんだ」


 ツムギは思わず目を瞬いた。


 「え?」


 「僕も詳しい記録を見たわけじゃないけど、古い資料にはそういう話が残っていたよ」


 エドは肩をすくめる。


 「だから、僕の祖先も、もしかしたらどこか別の星から来た人だったのかもしれないよね」


 そう言って、くすっと笑った。


 


 「……だからなのかな」


 エドは続ける。


 「ツムギみたいな人の存在が、もし周囲に知られても、そこまで大騒ぎにはならないらしい」


 ツムギは少し驚く。


 「そうなの?」


 「うん。珍しいのは確かだけど、前例がないわけでもない」


 エドは指先で机を軽く叩いた。


 「ただし――」


 少し声を落とす。


 「目立ちすぎると、王族の耳に入る可能性はある」


 その言葉に、ツムギは少し背筋を伸ばす。


 「別に怖い話じゃないよ」


 エドは慌てて笑った。


 「基本的には“把握しておく”ためだ。国にとって危険がないか、どんな知識を持っているのか」


 少し考えてから付け足す。


 「よほどの国難でもない限り、利用されたりすることはほとんどないらしい」


 ツムギは、ほっと息をつく。


 エドは少し遠くを見るようにして言った。


 「……まあ、いつかは王族に話さなきゃいけない時が来るかもしれない」


 そして、すぐに肩をすくめる。


 「でも、それは“今”じゃない」


 いたずらっぽく笑う。


 「そういう面倒な話は、できるだけ先延ばしにするに限る」


 ツムギも、つられて笑った。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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