208. 暴露大会
少し間を置いて、エリアスが軽く喉を鳴らす。
「……ところで」
皆の視線がそちらに向く。
エリアスは、どこか困ったような笑みを浮かべて言った。
「ツムギ。ひとつ聞いてもいいか?」
「うん?」
「なぜ急に、その前の星の記憶の話をしてくれたんだ?」
腕を組み、少し首を傾げる。
「いや、信頼してもらえているのは純粋に嬉しいんだが……正直、少し急でね。心の準備が追いついていない」
その言い方に、テーブルから小さな笑いがこぼれた。
ツムギは、少し考えるように視線を落とす。
「……うーん」
言葉を探しながら、ゆっくりと話し始めた。
「実はね、言うぞ!って思って言ったわけじゃないの」
皆が静かに耳を傾ける。
「もちろん、ずっと胸のどこかに引っかかってはいたんだ。いつか話した方がいいのかなって、何度も思ってた」
指先で、おにぎりの包みを軽く折る。
「でも、今日この梅を食べたときにね……ふっと、懐かしいなって思ったの」
顔を上げて、少し照れたように笑う。
「それで、その懐かしいっていう気持ちを、みんなに話したくなったんだと思う。知っておいてほしいなって」
そのとき。
「はい!」
元気な声とともに、ハルが勢いよく手を挙げた。
「僕、それわかる!」
皆がくすっと笑いハルの方を向く。
ハルは少し身を乗り出しながら、言葉を選ぶように続けた。
「ツムギお姉ちゃんってさ、何か話すときに、ちゃんと考えてから言うっていうより……思ったことを、そのまま言葉にしたいタイプでしょ?」
ツムギが少し驚いた顔をする。
「でも、その話をするためには、先に知っておいてもらわないと伝わらないことがあったりする」
ハルは指で空中に線を描くようにしながら言う。
「それが、あんまり人に話さないほうがいいことだったりすると、言っていいのかなって迷っちゃうんだよね」
少し考えてから、にこっと笑った。
「でも、別に何かしてほしいわけじゃないんだよね?」
ツムギを見て、首をかしげる。
「ただ、そうなんだよって知っておいてほしいだけ、みたいな」
ツムギは、一瞬ぽかんとしたあと――
ふっと笑った。
「……うん。たぶん、それ」
ハルは満足そうに頷く。
「だよね!」
そのやり取りを聞いていたリナが、腕を組みながらふむふむと頷いた。
「なるほどなぁ」
少し感心したような声だった。
「確かに、その人が何に喜んで、何に悲しんで、何を面白いと思うのか。そういうの知っといた方が、何気ない一言でも、その人の気持ちをちゃんと理解できたりするもんな」
ツムギの方を見て、やわらかく笑う。
「自分の中の一番柔らかいところを見せるのって、結構勇気いるやろ?」
「……うん」
ツムギが小さく頷く。
「でも、それを知らんままやと、悪気なくても、何気ない一言で相手を傷つけてしまうこともある」
リナは肩をすくめた。
「そう思うと、ツムギが話してくれたの、ありがたいわ」
にっと笑う。
「また一つ、ツムギマスターになれた気分や」
その言い方に、テーブルから笑いがこぼれる。
「確かに!」
ナギが手を叩く。
「ツムギの理解度、また一段階アップだね!」
エドも笑いながら頷く。
「人の背景を知るのって、大事ですよね」
エリアスも静かに同意する。
「人は、今見えている部分だけで出来ているわけではないからな」
わいわいとした空気が広がる中――
バルドが、ぐいっと果実水を飲み干した。
そして、どんと胸を叩く。
「よし!」
突然の宣言に、皆がそちらを見る。
バルドは、にやりと笑った。
「では次は、わしの秘密でも話すとするかのう」
「え?」
「なになに?」
興味津々の視線が集まる。
バルドは、ゆっくりと顎ひげを撫でながら言った。
「実はな――」
少し間を置いて、
「わしは昔……」
ぐっと身を乗り出す。
「甘い菓子が、まったく食えん男だったのじゃ」
一瞬の沈黙のあと――
「えぇぇぇぇぇ!?」
部屋が、どっと笑いに包まれた。
それをきっかけに――
なぜかその夜は、自然と暴露大会のような流れになった。
ナギが子どもの頃に失敗した大事件の話。
エドが昔、貴族学校でやらかした恥ずかしい失敗。
リナの商売修行時代のとんでもない値切り交渉。
バルドの若い頃の研究暴走事件。
誰かがひとつ話すたびに、別の誰かが「それなら私も」と続ける。
笑い声が絶えない。
皿の上の料理は少しずつ減り、果実酒のグラスは何度も満たされる。
POTEN創舎の夜は、にぎやかで、あたたかく、そしてどこか安心できる時間になっていた。
そんな中。
ふと、イリアがツムギに視線を向けた。
「ツムギ」
いつもの落ち着いた声だった。
「安心しなさい」
ツムギが顔を上げる。
「ここにいるメンバーに、あなたの秘密を軽々しく外で話すような人間はいないわ」
穏やかな言葉だったが、その響きには確信があった。
ツムギは一瞬きょとんとして――
それから、にこっと笑った。
「ありがとうございます」
そして、少し首を振る。
「でも、大丈夫です」
皆の顔を見渡す。
「私は、このメンバーを信頼してますから」
言葉は、静かだった。
「もしみんなが、誰かに話した方がいいなって思うことがあったら、話してくれていいと思ってます」
少しだけ照れたように続ける。
「きっと、そういう状況になった時は……話すべき場面なんだと思うから」
イリアは、ふっと口元を緩めた。
「なるほどね」
腕を組む。
「それぞれの判断に任せる、ということね」
少しだけ肩をすくめる。
「それなら、私もその信頼に足る人間でいないといけないわね」
ほんの少し、冗談めかした調子だった。
「もー!イリアさん!」
ツムギが思わず笑う。
その横で、ジンは頭を抱えている。
「いや、俺はノアには話すからな!」
突然の宣言に、皆が吹き出す。
ジンは真剣な顔で続ける。
「家に帰ったらすぐ話す! むしろこれを黙ってたことを知られたら……その方が後が恐ろしい」
「それは確かに」
リナが苦笑する。
ツムギも、けらけら笑った。
「だよね!」
肩をすくめる。
「私もきっと、“なんでもっと早く言わないの!”って怒られる気がする」
テーブルの上には、まだ笑い声が続いている。
新しい秘密も、昔の思い出も、
全部ひっくるめて。
この場所は、今日もあたたかかった。
こうして――
POTEN創舎、初めてのバザールの打ち上げの夜は、ゆっくりと更けていった。
ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
https://ncode.syosetu.com/N0693KH/
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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