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【第2章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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207. ツムギのひとりごと

 その静けさを、破ったのはナギだった。


 「あーーーー!」


 思いきり声をあげる。


 「そういえば!!」


 みんながびくっとする。


 「ツムギ、小さい頃から意味わからんひとりごと、めちゃくちゃ言ってたよね!? あれ、他の星の知識なら、全部つじつま合うんだけど!」


 勢いのままに身を乗り出す。


 「なんか、聞いたことない単語とか、料理の名前とか、変な道具の話とか……うん、あったあった!」


 

 バルドも、腕を組みながら、ふむ、と深くうなずいた。


 「おお……確かによく分からん造語を口走っておったな。『でんき』じゃの『いたりあん』じゃの」


 「『ぼかろ』とかも言ってた!」


 エドが思い出したように指を立てる。


 「最初なんの呪文かと思ったもん」


 


 ツムギは目をぱちぱちさせる。


 そんなふうに見られていたとは思っていなかった。


 


 ジンは、しばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。


 「……確かになぁ」


 腕を組み、遠くを見るような顔になる。


 「俺たちの子だとしたら……うん。出来過ぎてたかもしれんな」


 口元が、少しだけ緩む。


 「変な言葉も多かったし、急に知らん理屈を説明し出すし。正直、どうやって覚えたんだって思ったことは、何度もあった」


 

 「私も!」


 ナギが指をさす。


 「変な言葉使うなーって思ってたけど、なんかツムギっぽいから深く突っ込めなかった!」



 「当たり前みたいな顔で説明するんだよね」


 エドがくすくす笑う。


 「だから逆に、こっちが知らないのが恥ずかしくなるというか」



 リナも、静かに微笑む。


 「せやけどな、違和感っていうより……ツムギらしいなって思ってたわ。知らん言葉でも、なんかしっくりきてたし」


 

 口々に思い出話があふれはじめる。


 「あの時のあれ、そういうことか」

 「なるほどなぁ」

 「じゃあ、あの料理も……?」


 


 重苦しい空気には、ならなかった。


 むしろ――


 「ああ、やっぱりか」


 そんな空気だった。



 ツムギは、ぽかんとしながら皆の顔を見る。


 責める声はない。

 怖がる目もない。


 ただ、面白がりながら、受け入れている。


 胸の奥で、何かがじわりと溶けた。


 けれど、同時に、別の不安も浮かんでくる。


 ツムギは、包み紙を指先でいじりながら、ぽつりと口を開いた。


 「それでね……あの……」


 みんなの視線が、静かに集まる。


 「私の今までのアイデアって、実は……ほとんど、元の星にあったものとかで……」


 言葉を探しながら続ける。


 「みんな、すごいって言ってくれたけど……なんていうか……何も、すごくないっていうか」


 少し笑おうとしたが、うまく笑えなかった。


 「ただ、思い出してるだけなんじゃないかなって」


 

 そのとき。


 イリアが、静かにグラスを置いた。


 「それは違うわね」


 はっきりとした口調だった。


 部屋の空気が、すっと引き締まる。


 イリアはまっすぐにツムギを見る。


 「前にも言ったと思うけれど、それを言い出したら――ほとんどの人のアイデアが自分のものではなくなってしまうわ」


 ゆっくりと言葉を重ねる。


 「人は皆、どこかで見たもの、聞いたもの、経験したものを組み合わせて考えるの。完全に何もないところから生まれる発想なんて、ほとんどないわ」


 ツムギの指先が、ぴたりと止まる。


 「あなたが持っている記憶も、経験も、今ここで積み重ねてきた時間も――全部、あなたの一部よ」


 イリアの声は、穏やかだが揺るがない。


 「確かに、この世界にすでに存在するものを、自分の発明だと言い張るのは良くないわ。でもあなたは、そう思ってないでしょう?」


 「……うん」


 小さく頷く。


 「あなたは、記憶の中のものを、この世界の素材で、この世界の人たちのために、作り直してきた」


 イリアは微笑んだ。


 「それは借り物ではないわ。あなたが、この世界に合わせて考え、選び、形にした。だからそれは、ツムギ、あなたの商品なのよ」


 静かに、言葉が染みていく。


 エリアスも、静かに口を開いた。


 「同じ理論を知っていても、同じ形に仕上がるとは限らない。発想はきっかけにすぎない。実装した人間の意図と選択が、価値を決める」


 

 バルドは豪快に笑う。


 「そもそもじゃ。その理論だとわしが手帳から拾った知識は、どうなるんじゃ?」


 ナギも身を乗り出す。


 「ツムギのアレンジ力、舐めないでよ? 同じ材料渡しても、私あんなふうに仕上げられないもん」


 ジンは、腕を組みながら、少し照れたように言う。


 「……俺はな。おまえが思い出してるだけなら、あんなに悩んだり迷ったりしないと思うぞ」


 テーブルの上に、あたたかな空気が満ちる。

 ツムギは、ゆっくりと息を吸った。


 梅の酸味は、もう残っていない。


 代わりに、胸の奥に、じんわりとした熱が広がっていた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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