210. 第二章エピローグ
もし――
これが、日本だったらどうだっただろう。
ふと、そんなことを思う。
ツムギがいたあの時代、日本ではいろいろな国から人がやって来るようになっていた。
働くために来る人。
学ぶために来る人。
新しい人生を始めるために来る人。
文化も、言葉も、価値観も違う人たちが、少しずつ増えていった時代だった。
それを歓迎する声もあれば、強く拒む声もあった。
ニュースでも、学校でも、街の会話の中でも。
いろいろな意見がぶつかり合っていたのを、なんとなく覚えている。
正しい答えなんて、きっと誰にもわからなかったのだろう。
でも――
ツムギが見てきた世界の中では、
行った先の国の文化を尊重しようとする人。
その場所に馴染もうと努力する人。
そういう人たちは、いつだって自然と受け入れられていた気がする。
完璧でなくてもいい。
言葉がたどたどしくてもいい。
それでも「ここで一緒に生きよう」としている人は、
時間が経つほど、周りの人たちと笑い合うようになっていった。
ツムギにも、外国から来た友達が何人かいた。
最初は少しだけ言葉が違って、
お弁当の中身も、好きな味も、ちょっとずつ違っていた。
でも。
一緒に笑って、
一緒にご飯を食べて、
一緒に帰り道を歩いて。
気がつけば、違いなんてほとんど気にならなくなっていた。
むしろ、その違いを教えてもらうことが、
楽しくて、面白くて、少し誇らしいことのようにも思えた。
結局、人と人との距離を決めるのは――
国籍でも、文化でもなくて。
その人自身なのかもしれない。
他人の思想や考え方を変えることは、きっと簡単ではない。
むしろ、ほとんど不可能なのかもしれない。
どれだけ言葉を尽くしても、
どれだけ理屈を並べても、
人の心はそう簡単には動かない。
だから――
まずは、自分から。
自分がどう生きるか。
自分がどんなふうに人と関わるか。
その積み重ねが、少しずつ周りの空気を変えていく。
ゆっくりと。
ほんの少しずつ。
けれど確かに。
この世界でも、きっと同じなのだろう。
ツムギは、工房の窓の外を眺めた。
通りには人の声があり、
遠くからは市場のにぎやかな音が聞こえてくる。
この街にも、いろいろな人がいる。
生まれも、立場も、考え方も違う人たち。
でもその中で――
ツムギは、ちゃんと居場所を見つけることができた。
自分がこの秘密を打ち明けたことで、
何かが大きく変わるわけではないかもしれない。
明日になれば、またいつものように、
工房で笑いながらものづくりをしているだろう。
でも――
ほんの少しだけ、世界の見え方は変わった。
心の奥にあった重たい石が、
ひとつ転がり落ちたみたいに。
この変化が、これから何をもたらすのか。
それは、まだわからない。
でも。
不思議と、不安よりも楽しみの方が大きかった。
ツムギは、ふと机の上に置かれた素材に目をやる。
昨日のバザールで手に入れたものだ。
見たことのない繊維。
少し歪んだ金属のパーツ。
誰かの研究メモが残る古い手帳。
まだ誰も知らない使い方が、
きっとこの中に眠っている。
ツムギは、小さく笑った。
――次は、何を作ろうかな。
胸の奥で、わくわくが静かに広がっていく。
そしてまた、
新しい物語が、ゆっくりと動き出す。
第二章 完
ここまでご覧頂きありがとうございました。
後ほど第二章のあとがきとお知らせを更新します
ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
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