第9話 3の月7日(1) 採取
第9話 3の月7日(1) 採取
「おい 気をつけて行けよ」
ライトが出発する準備をしていると、ゴートはそう声を掛けてきた。
隣にいるアイも心配そうだ。
リン率いる行商人の一団が町に来て2日後、ライトはポーションの材料のうちの1つ ―サイ草― を採取しに行くのである。
仕入れの翌日、手始めにポーションを調合するべく、レシピに載っていた材料を集めようとしたが、行商人はあいにく素材を持ち合わせてはいなかった。
旅立つリン一行を見送り、町中で素材を探した。
レシピ:ポーション
材料
サイ草
カロの実
カロの実は元冒険者のバクじいさんが少量持っており、3Gで譲ってもらった。
また長い話を聞かされはしたが。
サイ草はゴートによると町の外の安全なエリアの少し外側に自生しているらしい。
安全エリアの外側といっても魔獣が少し出てくる程度で、子供数人であれば平気で歩けるぐらいである。
「帰ってきたらすぐに取り掛かれるよう準備しておきますね」
アイはまだ心配そうだが、そう送り出してくれた。
町を出てしばらく歩くと、膝ほどの丈の草の生えた一帯が見えてきた。
生えている草を『鑑定』しながら、必要量を刈っていく。
やっぱり状態が優のものは圧倒的に少ない。
(っん?)
優のものを選び出して刈っていると、サイ草と見た目まったく変わらないが別のものを発見した。
マイ草 薬・素材 状態:可 効果:MP微回復
(MP微回復か サイ草の突然変異か何かだろう)
辺り一帯を隈なく探してみたが、ごく少量しか発見できなかった、しかも可のみ。
夢中で草刈をしていると、ふと背後から気配を感じる。
振り返ると、大きいウサギみたいなものが突っ込んできた。
突然の襲撃に体が硬直し、なす術もなく体当たりをくらう。
「・・・っが」
さすがに魔獣だけあって力は相当なもので、かるく飛ばされる。
見慣れている魔獣だが『鑑定』してみた。
ファーラビット 種族 魔獣
HP 15/15
MP 8/ 8
(大丈夫 落ち着いてやればできる)
ロコの町周辺に生息する魔獣で、動き自体は素早いが、動きは単純で、所詮子供たちの冒険ごっこの遊び相手である。
その毛皮は素材として活用可能であり、恐らくゴートは買取ってくれるだろうと思い、短剣を抜く。
ファーラビットが再び突っ込んでくる
動きは直線的で、不意さえ突かれなければ容易に交わすことが出来る。
体当たりをかわしざまにその胴を切り付ける。
攻撃を受けたファーラビットは一瞬怯んだように見えたが、また突っ込んでくる。
再び切り付けると、もう動くことはなかった。
「そういえば・・・自分のステータスって確認できるのか?」
最初に体当たりを食らったので、HPの確認をしようとして、気付く。
どうすればいいかわからないので、とりあえず指輪を触り、自分自身を見てみると情報は思い浮かんだ。
マース=ライト ♂ 種族 人
HP 17/25
MP 9/ 9
能力
短剣 1
商人1
鍛冶2
調合2
ユニーク能力
会計学 ☆
鑑定
自身がすごい人間だとは思った事はないがあまりの能力の低さに肩を落とす。
いやいやこれからの成長の伸びしろが大きいはず、と自分を励まし、もう少し自身の能力を分析してみる。
『鑑定』は指輪の能力、『会計学』は次郎としての能力だろう。
この世界ではまだ経験していない『鍛冶』は恐らく次郎の少年時代の修行によるものか?
すると調合は、大学時代の実験か何かだろう。
数字は大きいほうが優れているのは、ゴートと比べればわかる。
数字の上昇はどうすれば?
経験値なのか、何かのイベント的なフラグなのか?
載っていない能力は発現するのか?
それとも載っていないのは習得不可なのか?
考えれば考えるほど疑問点は沸いてくる。
この場で疑問が解けることはないので、おいおい検証していくことにしよう。
そう決めると倒したファーラビットから毛皮を剥ぎ取り、肉は食用にもなるので血抜きをし内蔵を処理しながら、また思いを巡らす。
次郎であった前世ではもちろん、動物などを殺めた事は一度もなかった。
ましてや皮を剥いだり食肉処理するなんて、もってのほかだ。
だが、何の抵抗もなく出来てしまった。
だがライトは子供の時から経験してきたのだった。
この世界では当たり前のことであった。
言語に続きまた2つの記憶があることに助けられたようだ。
処理が終わると、毛皮に肉、サイ草とマイ草をレザーバックに入れ、町に戻ることにした。
ちなみに減ったHPを回復するためサイ草(可)をかじると、HPは満タンに回復した。
HP微回復の能力は少なくともHP8は回復することがわかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『素材:カロの実』・・・多年草であるカロから取れる実 主にユング大陸北部に自生 他の素材の効果を高める 単品では効果なし