↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの日、君が祈っていたこと』  作者: 整備士
さよならは、また逢う日まで
7/37

EP7 風吹けば恋

目が覚めた時には、もう朝日はカーテンの隙間から差し込んでいた。


 陽一はしばらく布団の中で天井を眺めていた。


 今日は休みだった。


 洗濯は昨日やった。


 買い物も済ませた。


 冷蔵庫には食べ物がある。洗剤もある。トイレットペーパーも、昨日神崎に抱えさせて持って帰ったばかりだ。


 つまり。


「……暇だな」


 やることがない。


 起き上がって顔を洗い、いつものように十字架を手に取る。


 短く祈ってから首に掛けた。


 飯を食べる。


 それでもまだ朝だった。


 テレビをつけてみたが、特に見たいものもない。


 本でも読もうかと思ったが、なんとなくそんな気分でもなかった。


 窓の外を見る。


 晴れている。


 夏らしい、雲の少ない青空だった。


「…………」


 視線を下へ向ける。


 部屋の前にはCBが停まっている。


 直してから通勤には使っていた。


 買い物にも使った。


 昨日は神崎まで後ろに乗せた。


 けれど、考えてみれば。


 こいつに乗ること自体を目的に出掛けたことは、まだ一度もない。


「……行ってみるか」


 どこへ。


 そこまでは考えていなかった。


     *


 行き先は決めなかった。


 とりあえず大きな道へ出て、その時の気分で曲がる。


 最初はそれだけだった。


 街中は信号が多い。


 止まるたびに夏の日差しが容赦なく照りつけ、エンジンから上がってくる熱まで加わる。


「暑っ……」


 走り出せば風が当たる。


 止まれば暑い。


 また走る。


 それを何度か繰り返しているうちに、建物が少なくなってきた。


 信号も減る。


 車も少なくなる。


 そこで初めて、陽一は少し楽しくなってきた。


 急ぐ必要がない。


 何時までに着かなければならない場所もない。


 曲がりたいところで曲がればいい。


 知らない道へ入っても、戻ればいいだけだ。


 しばらく走っていると、風の匂いが変わった。


 少し湿っている。


 潮の匂い。


「……海か」


 そのまま進んでみることにした。


     *


 海沿いの道へ出てから、しばらく走った。


 左手には海が広がっている。


 雲の少ない空の下、陽の光を反射した水面が眩しい。潮の匂いを含んだ風が、暑さごと身体の横を抜けていく。


 悪くない。


 行き先なんて決めていなかったが、今日はそれでよかった。


 信号を一つ越えたところで、道路の向こうに海水浴場が見えてきた。


 駐車場には車が並び、砂浜には色とりどりのパラソルが立っている。


 浮き輪を抱えた子供が、親を置いて先に海へ走っていった。


 その姿を横目に見た瞬間。


 ふと、昔のことを思い出した。


     *


「陽一」


「何?」


「……何かないの?」


 砂浜へ降りたところで、加奈が急に立ち止まった。


「何が?」


「何か」


「だから何がだよ」


 加奈は少しむっとした顔で、自分の水着を指差した。


「これ」


「水着?」


「うん」


「着てるな」


「そうじゃなくて!」


「じゃあ何だよ」


「見て何かないの?」


 言われた通り、陽一は加奈を見る。


 今日のために選んできたらしい水着。


 それから、いつもと違う髪。


 普段は後ろで編み込んでまとめている淡い金色の髪が、今日はほどかれていた。


 思っていたより、ずっと長い。


 風が吹くたび、細い髪が肩から背中へ流れていく。


「…………」


「…………」


「何?」


「いや」


「だから、何かないの?」


 青銀の瞳が、じっとこちらを見ている。


 いつもの加奈なのに。


 なんだか今日は、いつもと違って見えた。


「……似合ってる?」


「なんで聞くの!」


「何か言えって言ったの加奈だろ!」


「そこは自分から言うものでしょ!」


「言わなきゃ分かんねえよ!」


「普通分かるよ!」


「分かんねえって!」


「もういい!」


 加奈がぷいと顔を背け、そのまま砂浜を歩いていく。


「何なんだよ……」


「知らない!」


「そっちが聞いてきたんだろ!」


「もう聞いてない!」


 振り返りもしない。


 陽一はその背中を見送った。


 風に揺れる長い金髪を、もう一度見る。


「…………」


 聞こえないくらい離れたところで、ぼそっと呟いた。


「……ちゃんと可愛いと思ってるけど」


「陽一! 早く!」


「今行く!」


 どうやら聞こえてはいなかった。


 少しだけ安心して、加奈の後を追う。


「遅い!」


「砂が熱いんだよ!」


「私の方が先に来てるじゃん!」


「お前が勝手に行ったんだろ!」


「陽一が何も言わないからでしょ!」


「俺何もしてねえだろ!」


「だからそれが嫌なの!」


「意味分かんねえ!」


 十二歳の陽一には、やっぱり意味が分からなかった。


 足の裏が焼けそうに熱い。


 止まっている方が余計に熱いから、そのまま波打ち際まで一気に走る。


「熱っ、熱っ……!」


 後ろから加奈も追いかけてきた。


 陽一が先に濡れた砂まで辿り着き、ようやく足を止める。


「ほら、早く来いよ!」


「陽一が速すぎるの!」


「加奈が遅いんだろ」


「荷物持ってるからでしょ!」


「荷物?」


 そこでようやく気づいた。


 加奈は浮き輪と水筒、それに二人分のタオルまで抱えている。


「……俺のも持ってたの?」


「今気づいたの!?」


「あ、ごめん」


「もう!」


 陽一は砂浜を戻り、自分の荷物を受け取った。


「言えばいいのに」


「言ったよ! 陽一が勝手に走ってったんでしょ!」


「聞こえなかった」


「じゃあ今度から聞いて!」


「分かったって」


「絶対分かってない」


「分かってる」


「その言い方が分かってない」


「めんどくせえなあ」


「何か言った?」


「何も」


 二人で波打ち際まで歩いた。


 濡れた砂は冷たく、さっきまでの熱さが嘘みたいだった。


 荷物を置くと、陽一はそのまま海へ向かう。


「陽一、準備運動」


「いらねえよ」


「いるよ」


「学校じゃないんだから」


「足つったらどうするの?」


「つらねえよ」


「つったら助けないからね」


「じゃあ加奈がつっても助けねえ」


「私はちゃんと準備運動するからつらないもん」


「絶対?」


「絶対」


「じゃあ俺もしない」


「なんでそうなるの!?」


 結局捕まった。


 二人並んで腕を回す。


 屈伸。


 伸脚。


 最初こそ合わせていた陽一だったが、途中からどんどん適当になる。


「ちゃんとして」


「してるって」


「してない」


「してる」


「速すぎ」


「終われば一緒だろ」


「一緒じゃない」


「誰が決めたんだよ」


「私」


「じゃあ無視する」


「もう!」


 最後までやる前に、陽一は海へ走った。


「あっ! まだ終わってない!」


「先行ってるぞ!」


「陽一!」


 波を蹴って進む。


 膝。


 腰。


 腹。


 そこまで浸かったところで、一気に身体を沈めた。


「つめたっ!」


 思っていたより冷たい。


 それでも泳いで、少しだけ沖へ出る。


 振り返った。


 加奈はまだ波打ち際にいた。


「何してんだよ!」


「……冷たい」


「海なんだから当たり前だろ!」


「思ってたより冷たい!」


「入れば慣れるって!」


「じゃあ陽一だけ泳いでればいいじゃん!」


「何しに来たんだよ!」


「海を見に!」


「年寄りかよ!」


 次の瞬間。


 ばしゃっ。


「うわっ!」


 顔面に海水を浴びた。


 目を開ける。


 波打ち際で、加奈が両手を水につけたまま笑っていた。


「……お前」


「何?」


「今やっただろ」


「知らない」


「知らないじゃねえ!」


 陽一も両手で海水をすくった。


「ちょっと待って!」


「待つか!」


「きゃっ!」


 水を掛ける。


「冷たい!」


「先にやったのそっちだろ!」


「顔に掛けることないじゃん!」


「俺も顔だっただろ!」


「私はちょっとだけ!」


「嘘つけ!」


 もう一度。


 今度は加奈もやり返した。


 気づけば、海へ入るのを嫌がっていたはずの加奈も腰近くまで水に浸かっている。


「もういい!」


「降参?」


「しない!」


「じゃあまだやるぞ!」


「やってみれば!」


 そこからは、どちらが先に始めたかなんて関係なかった。


 ただ水を掛けて、逃げて、追いかけて。


 波に足を取られて陽一が転べば加奈が笑い、笑った加奈も次の波で尻餅をついた。


 今度は陽一が笑った。


「人のこと笑ったからだ!」


「陽一が先に転んだんでしょ!」


「関係ねえ!」


「あるよ!」


 しばらく騒いだ頃には、二人ともすっかり疲れていた。


 浅瀬に並んで座る。


「……疲れた」


「陽一がやりすぎるからでしょ」


「加奈が始めたんだろ」


「先に年寄りって言った」


「そこから?」


「そこから」


「根に持ちすぎだろ」


「陽一が悪い」


「はいはい」


「適当」


「はいはい」


「二回言った」


「はいはい」


「三回!」


 肩を叩かれた。


「痛っ」


「知らない」


「暴力女」


「もう一回叩くよ」


「すいませんでした」


「よろしい」


 加奈が得意そうに笑った。


 海水を吸った淡い金髪が、肩から背中へ濡れて張りついている。


 加奈は頬に掛かった髪を指で払うと、鬱陶しそうに耳へ掛けた。


 陽の光を受けた青銀の瞳が、海を映したように透き通って見える。


「…………」


 陽一はしばらく、加奈に見とれていた。


「何?」


「……いや」


「何?」


「何でもない」


「変なの」


 加奈は何も気づかず立ち上がった。


「もう一回泳ご」


「さっき冷たいって言ってただろ」


「もう慣れた」


「じゃああそこまで競争な」


「また?」


「負けるの怖いんだろ」


「…………」


 加奈の眉が動いた。


「今なんて言った?」


「負けるの怖いんだろ」


「言ったね?」


「言った」


「じゃあやる」


「よし」


「絶対負けないから」


「こっちの台詞だ」


 二人で並んだ。


 合図と同時に海へ駆けていった。


 結局、どちらが勝ったのか。


 それはもう覚えていない。


 海から上がる頃には二人ともへとへとで、帰りのバスでは隣同士で眠ってしまった。


 ただ、それだけの一日だった。


     *


 海水浴場が、後ろへ流れていく。


 陽一は少しだけ速度を落とした。


「……懐かしいな」


 何を食べたのか。


 帰りに何を話したのか。


 競争でどちらが勝ったのか。


 細かいことは、もうほとんど覚えていない。


 それなのに。


 加奈が怒った顔や、笑った顔だけは妙にはっきり残っている。


 陽一は前を向いた。


 海沿いの道は、まだ先まで続いていた。


 もう少し走ろう。


 そう思ってアクセルを開ける。


 エンジンの音が少し高くなった。


 潮風が身体を抜けていく。


 さっきの海水浴場がミラーの中でも小さくなっていった。


 そのまま数分。


 ボッ。


「……ん?」


 一瞬だけ、エンジンが息をついた。


 気のせいかと思った。


 ボッ、ボボッ――。


「おい」


 明らかにおかしい。


 アクセルを開けても、回転がついてこない。


「ちょ、待て」


 ボボッ――ボッ。


 失速していく。


 陽一は慌てて路肩へ寄せた。


 クラッチを切る。


 そのまま――


 プスン。


「…………」


 止まった。


 波の音だけが聞こえる。


「……嘘だろ」


 さっきまで絶好調だった。


 陽一はCBを降りた。


 スタンドを立てる。


「何だ?」


 もう一度エンジンを掛けてみる。


 セルは回る。


 だが掛からない。


「点火か……?」


 いや。


 突然止まった。


 その前には息継ぎ。


 燃料?


 タンクを揺らしてみる。


 ちゃぷん。


 音がした。


「入ってるよな……」


 陽一はしゃがみ込んだ。


 何年も掛けて直した。


 山本にも散々教わった。


 それなのに、出先でいきなり止まると話が違う。


「プラグ……いや、工具……」


 シート下を確認しようとした、その時だった。


 遠くから低い排気音が聞こえてきた。


 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――。


 一定なのに、どこか荒っぽい音。


 陽一は顔を上げた。


 一台のバイクがこちらへ向かってくる。


「……ハーレー?」


 古い。


 それも、かなり古い。


 丸みを帯びたロッカーカバーを持つパンヘッド。


 後ろにサスペンションを持たないリジッドフレーム。余計な外装を削ぎ落とし、必要なものだけを残したようなチョッパーだった。


 フロントフォークも極端には伸ばされていない。


 低く、短くまとまった車体。


 古い機械をそのまま剥き出しにして走らせているような姿だった。


「……格好いいな」


 陽一は思わず目で追った。


 ハーレーはそのまま通り過ぎる。


 ――はずだった。


 少し先でブレーキランプが点いた。


「……?」


 止まった。


 乗っていた男がこちらを振り返る。


 そしてUターン。


「…………」


 戻ってくる。


 近づいてきて、ようやく乗っている男の姿がはっきり見えた。


 大柄。


 白髪混じりの髭。


 色の濃いサングラス。


 半袖から伸びる両腕には、ほとんど隙間がないほど刺青が入っている。


 首元にも見えた。


「…………」


 陽一はCBの横で固まった。


 目が合った。


 ような気がした。


 サングラスなので、本当に合ったのかは分からない。


 ただ一つ分かることがある。


 こっちへ来ている。


 低い排気音が近づいてくる。


 そして、CBの少し前で止まった。


 男がエンジンを切る。


 急に静かになった。


「…………」


 終わった。


 何がどう終わるのかは分からないが、とりあえず終わった気がした。


 男が陽一を見る。


「兄ちゃん」


「……はい」


「困ってんのか?」


「…………はい?」


 男がCBを指差した。


「止まったんだろ?」


「あ……はい」


「見てもいいか?」


「どうぞ」


 思っていた声より、ずっと穏やかだった。


 男はパンヘッドを停めると、CBの横へしゃがんだ。


「走ってて止まった?」


「はい。急に息継ぎし始めて」


「ガソリンは?」


「あります」


「見た?」


「タンク揺らしたら音したんで」


「なるほど」


 男もタンクを軽く揺らす。


 次に車体の横へ視線を落とした。


「…………」


 手を伸ばす。


 カチッ。


「兄ちゃん」


「はい」


「掛けてみ」


「え?」


「エンジン」


「あ、はい」


 陽一はCBへ跨った。


 セルを回す。


 数回クランキングしたところで――


 エンジンが掛かった。


「…………」


 何事もなかったかのようにアイドリングしている。


 陽一は男を見る。


 男は立ち上がった。


「ガス欠だな」


「いや、ガソリン入ってますよ」


「入ってる」


「じゃあガス欠じゃないでしょう」


「兄ちゃん」


「はい」


「リザーブ知らねえのか?」


「…………」


 リザーブ。


 聞いたことはある。


 ような気もする。


「……何ですか、それ」


 男が一瞬黙った。


 それから小さく笑った。


「なるほどな。乗り始めたばっかか」


「そんなに経ってないです」


「なら覚えとけ」


 男が燃料コックを指差す。


「普段はここ。ON」


「はい」


「燃料が減ってここから吸えなくなったら、RESに切り替える。タンクの底に残ってる分を使えるようになる」


「ああ……」


 ようやく理解した。


「じゃあ、本当にガス欠だったんですね」


「そういうこと」


 故障ではなかった。


 安心した。


 同時に、少し恥ずかしい。


 あれだけ真剣に原因を考えていた時間は何だったのか。


「給油所までなら走れると思うぞ。ただし」


 男がコックを指差した。


「ガソリン入れたらONに戻せ」


「なんでです?」


「RESのまま走ってたら、次に止まった時は予備がねえ」


「ああ」


「そん時は押して歩け」


「嫌ですね」


「だろ?」


 男が笑った。


 見た目だけなら絶対に近づきたくない。


 だが、話してみると妙に親切だった。


「ありがとうございます」


「いいよ。俺も昔やったから」


「やったんですか?」


「何十年も前にな」


 男はパンヘッドへ戻った。


 陽一はそこで、ふと思った。


「あの」


「ん?」


「名前――」


 男はサングラスを少し上げた。


「給油所、ここから真っ直ぐ行けばあるから」


「あ、はい」


「気ぃつけてな」


 そのままエンジンを掛ける。


 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ――。


「あ――」


 呼び止める間もなく、低い排気音が遠ざかっていった。


 男は片手を上げる。


 陽一はその背中を見送った。


「…………」


 やがてパンヘッドは、海沿いの道の向こうへ小さくなっていった。


「……名前、聞けなかったな」


 まあいいか。


 もう会うこともないだろう。


 陽一はCBへ跨った。


     *


 教えられた通り、しばらく走ると給油所があった。


 満タンまで入れる。


 そして。


「ONに戻す……」


 忘れないよう、声に出して確認した。


 エンジンを掛ける。


 時刻を見る。


 まだ昼を少し過ぎたくらいだった。


「…………」


 帰ろうと思えば帰れる。


 元々、目的地なんてなかった。


 陽一は道路を見る。


 右へ行けば来た道。


 左へ行けば、まだ知らない道。


「……もうちょっと行くか」


 左へ曲がった。


     *


 それからは、本当に何もなかった。


 海沿いを走った。


 知らない港へ入った。


 自販機を見つけて飲み物を買い、防波堤の近くで少し休んだ。


 また走った。


 道を一本間違えた。


 戻った。


 知らない町を抜けた。


 腹が減ったので、たまたま見つけた店で飯を食べた。


 また走った。


 それだけだった。


 誰かと約束しているわけでもない。


 どこかへ辿り着く必要もない。


 疲れたら止まる。


 気になる道があれば曲がる。


 飽きたら帰ればいい。


 陽一は、そんな遊び方を今まで知らなかった。


 気がつけば、陽が傾き始めていた。


「そろそろ帰るか」


 今度はちゃんと、家を目的地にした。


     *


 アパートへ着いた頃には、空は薄暗くなっていた。


 CBをいつもの場所へ停める。


 エンジンを切る。


 急に静かになった。


「…………」


 思っていたより走った。


 身体にも疲れが残っている。


 けれど、仕事の後の疲れとは少し違った。


 部屋へ戻る。


 風呂に入り、飯を食べた。


 それから布団へ転がった。


 天井を見る。


 今日は何をしただろう。


 海を見た。


 加奈のことを思い出した。


 ガス欠した。


 刺青だらけの知らない男に助けてもらった。


 その後は、適当に走った。


 何かを見に行ったわけでもない。


 何かを成し遂げたわけでもない。


 目的地すらなかった。


 それでも。


「……楽しかったな」


 口に出してから、自分で少しだけ驚いた。


 CBを直した時とは、また違う。


 直すことが楽しかったんじゃない。


 今日はただ、乗ることが楽しかった。


 どこへ行ってもいい。


 何もなくてもいい。


 それだけで一日が終わった。


 陽一は目を閉じる。


 次は、どこへ行こう。


 そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠っていた。

やっと微妙に隠していたヒロイン?を出せました

男むさい小説なんでたまには風が欲しいところでした


今回のタイトルはチャットモンチーの「風吹けば恋」から

いい曲なんで知らない人は調べて聞いてみてね笑


ぼちぼちやっていきますのでよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。